グラン・エプレのメンバーはこの日、ミーティングルームに集まっていた
「皆、集まったわね」
そう言ったのはレギオンの隊長である叶星
すると全員に資料を手渡しながら
「実は今回、鎌倉にあるガーデン。
百合ヶ丘女学院からヒュージ討伐の応援要請と合同訓練の誘いが来たの」
その言葉に一年生全員が驚く
百合ヶ丘と言えば世界的な教育を行なっている名門校
そこからの誘いと言う事なのだから驚かない方がおかしい
「ついに姫歌達の実力が百合ヶ丘にも知られたのね!!」
「百合ヶ丘との合同訓練なんて…光栄です…!」
その中でも特に興奮しているのが姫歌と紅巴
姫歌はライバル視しているリリィと会えるから、紅巴は彼女の趣味思考の面が強い
が、海漓だけはある意味で納得と警戒感を強めた
「(そうか…もうそろそろ、そう言う時期だもんな…)」
するとその様子に灯莉が気がつく
「あーちゃん、どうしたの?
マギの色が変だよ??」
学科が同じ事もありいつも一緒にいる姫歌程では無いがお互い気が合う部分もある二人、特に灯莉はマギの色が見えると言う事もありそれを応用して親しい人間の感情であればある程度は読めてしまうのであろう
「叶星さん、その誘いは…私達だけですか?
鎌倉府や東京側から他のガーデンやレギオンは来ないんです??」
ここで嘘をつくメリットなど何もない
何よりこの部分は確認しておかなければならない事だ
すると叶星は
「百合ヶ丘からの要請だから鎌倉府としての増援は無いわ
東京だと…エレンスゲ女学園のトップレギオン、ヘルヴォルが要請を受けているわ」
「そ、そう…ですか…エレンスゲに…
そもそも百合ヶ丘がどうして…?」
それを聞き妙だと思う
鎌倉は東京と比べて激戦区でありヒュージのレベルも高い
なおかつ百合ヶ丘からの増援要請と言う事は百合ヶ丘のレギオン単独での討伐が難しいという事だ
そんな所に百合ヶ丘から見れば格下に扱いになるレギオンを呼んでどうするつもりなのだろう
さらにこの合宿は百合ヶ丘に泊まり込んで数日間に渡って行われるそうだ。
鎌倉の事情を知っている海漓からしてみれば怪しさしか無い
とは言えそこまで深く把握しているのは海漓と上級生位であろう
今の説明で他の一年生はこの不自然さに気がついていない
「百合ヶ丘がエレンスゲに応援要請を出す事の何がおかしいの?
ヘルヴォルだって何回かあった事あるけれど皆良い人達じゃない」
その対応に姫歌が疑問の声を上げる
紅巴はそれを聞き微妙な反応
灯莉も分かってはいなさそうだ
「いや、今のヘルヴォルは良いレギオンだけど何と言うか…」
海漓はこの件、間違いなく裏が有ると確信したがそれをこの場で言う程空気の読めない人間では無いし、知らなくて良いことも有る。
それに百合ヶ丘との共同作戦や合同訓練というのは非常に魅力的な話で有ることも事実
泊まりこむことで百合ヶ丘との交流も持てる。これだけ美味しい話なのだ、彼女一人の個人的な理由でレギオンとして強くなれるチャンスを奪う訳には行かない
すると叶星が
「今回も方針はいつもと同じ。
『リリィの戦いは今日が最期かもしれず。命を賭けるに値するかはリリィ自身が判断すべき』ガーデンのこの方針に基づいて判断してほしいの」
叶星の言葉を聞きつつ改めて資料に目を通す
百合ヶ丘から参加するレギオンは一柳隊と言う今年設立されたレギオンであり主力の大半を一年生が占めている。
学年比でいうならコチラと同じだ。
「(メンバーは百合ヶ丘にしては珍しい控え無しの9人ギリギリ…しかもこの隊って確か…)」
海漓が思い出すのは数カ月前の出来事
こちらには後日、命令系統の手違いと言う報告があったもののレギオンの隊長と隊員に逮捕命令が出た経歴があるレギオンでありあの時は東京にも多少の混乱があったりした。
「(手違いだったとはいえ逮捕命令が出たっていう過去は消せない…消すにはそれを上回る何かを成し遂げればいい
それが、レギオンとして隊長として実績に残る活躍であればある程いい…)」
戦場の汚名は戦場で晴らす…とまでは行かないだろうが失敗を取り戻すには失敗を上回る成功をすればいいだけ。
この隊が今後どうなるか、など知ったことでは無いが時期と人数を考えると裏の目的も見えて来たりする
「(さて、どうしたものか…)」
彼女は悩む
正直言って経験を積めるというメリットがあるとは言えそれを上回るリスクとデメリットがある可能性を考える以上、参加しますとは簡単に言えない
ガーデン側や叶星と高嶺の上級生は恐らくこれを正しく把握しているであろう
そしてそれを踏まえ了承した上でこの話が議題になるのだ。
後はいつも通りリリィの意思を尊重するだけ
「…海漓さん?どうしたの?」
「あーちゃん?」
聞こえるのは高嶺と灯莉の声
「…へっ!?あ、もしかして後私だけ?」
色々考え込んでいるうちに参加の有無を海漓以外全員が決定していたようだ
「まぁ、参加…です…ね。はい」
そう告げる
政治的背景など海漓には予想する事しか出来ない
ここで複雑な事を考えても時間の無駄、ならばこちらから百合ヶ丘に行くのもまた手であろう
それ以外にも不安は尽きないが後はその場での対応で何とか乗り切るしか無いのだ
ミーティングを終え各々が自室へと戻る
すると部屋にはルームメイトの二松薫がベッドでくつろいでいた
彼女は必要な事しか話さない性格であり、普段から言葉数は少ない
戦闘面でもそれは顕著で黙々とヒュージを倒す仕事人のようなタイプだ
「聞いたよ。百合ヶ丘、エレンスゲと合宿するんでしょ?」
「どこで聞いたのさ、その話?」
海漓がそう言うと薫は携帯端末を見せる
そこには百合ヶ丘の公式サイトが表示されていた
「ついさっき公表された
エレンスゲのヘルヴォル、神庭のグラン・エプレと合同作戦って」
「公表はやっ!」
「留守の間の神庭は、任せて」
薫はそう告げる
彼女はグランエプレのメンバーでは無いが実力は高い方であり、主に神庭の住宅地付近にヒュージが出現した場合出撃する傾向が有るのだ
「天野さんとしては…どう?
グランエプレと比べて」
「どうも何もまだ見てないもん
見てないのに評価はしないよ私」
「へぇ、」
その言葉に薫は感心する
大体のリリィならば百合ヶ丘と聞いただけで差はあれど格上だと身構えるが海漓はその評価すらしないと言い切ったのだ
「敵は己の中にありってやつ
百合ヶ丘の看板にビビって普段の力を出せずに終わりましたってなったら駄目でしょ
そりゃ向こうは上なんだろうけど私達が無力だとは思わないわよ」
更に続けて言う
百合ヶ丘のリリィは確かに強い
これは紛れも無い事実である。
しかしその看板に此方が萎縮し普段の力を出し切れないなど論外なのもまた事実
グランエプレとてトップレギオン、百合ヶ丘から見れば格下なのは事実であるが全くの無力では無いとグランエプレと過ごしてきた海漓は判断する
ただ、メンバーの個性が強い為それが悪い方向に働かないのを祈っているのだが
「帰ってきたら思い出話聞かせて頂戴」
「思い出の一つは持って帰ってくるから安心して」
そんな風に雑談していると不意に部屋のドアがノックされる
「誰?」
「さぁ?…ちょっと見てくる」
そう言う薫は入口へと向かう
灯莉と姫歌はアイドルリリィの研究で来ないだろうし紅巴も来るとは思えない
教導官辺りであろうか?
そんな風に考えていると
「天野さん、叶星様と高嶺様が来てる」
「…ほえ?」
「海漓ちゃん、ちょっと良い?」
そこに居たのは叶星と高嶺
部屋に来た理由には何となく心当たりがあるがこのタイミングになる事は読めなかった
すると高嶺は
「心当たりは有ると思うけど立ち話も何だし…場所を変えましょう?」
「変えるって…どこです?
外は寒いですし…校舎に忍び込みます?」
どこかの教室、もしくは外で話すのだろうかと考えていると予想外な言葉が返ってくる
すると高嶺は笑いながら
「夜の校舎も魅力的だけど、もっと適切な空間があるじゃない…ねぇ?」
「えぇ。」
叶星も笑みを浮かべながら答える
この反応を見るに二人で提案した作戦なのだろう
「とりあえず行きましょうか
私達の部屋に」
「…はぁ!?」
しれっと言われたがまさかの先輩達の自室に招待である
神庭において聖域中の聖域と言われる叶星と高嶺が過ごす部屋
まさかの招待である
紅巴が聞いたら昇天する事間違い無しの提案
しかし先輩からの誘いを断るほど海漓は無礼な人間ではない
知られたら後が怖いがここは付いていくしかない
暫く歩いた後叶星と高嶺の過ごす部屋へと到着し中へと通される
近くの椅子に座るように伝えられると高嶺はキッチンへと向かう
「海漓さん、飲み物は紅茶で良いかしら?」
「えっ、あ、はい」
椅子に座り暫くすると高嶺が人数分の紅茶を用意してくれる
口をつけないのも失礼なので一口飲む
噂通り、高嶺の入れた紅茶はとても美味しい
自分でやると…味が大惨事になるのは目に見えている…というかやらかした前科がある
すると叶星が
「ミーティングの時から様子がおかしかったけど…やっぱり海漓ちゃんは今回の合宿…嫌だった?」
いきなり本題に入ってくる
まぁ隠す程でもないし叶星の目はごまかせない
海漓としても聞いてきてくれるのは有り難かった
「嫌かどうかと聞かれたら嫌ですよ。そりゃ
色々と思う所もあるんで…」
ここで嘘や建前を言っても話が進まない為本音で答える
「そう…でもどうしてそれをミーティングで言ってくれなかったの?
あの時も言ったけど出撃拒否だって出来るのよ?」
「個人としてなら間違いなく拒否してましたよ
ただ今回はガーデンを介しての正式な要請です
私一人辞退して迷惑をかけるわけには行きませんし。」
「確かにそうね
…でも、嫌なのは確かなのね…」
「そりゃ嫌っすよ。
私には喜んで行く理由がないですもん」
海漓は素直にそう答える
その答えを聞き叶星も一先ずは納得する、のだがどこか空気が重い
と言うより何かを躊躇っている形だ
すると高嶺が
「叶星、どうしたの?
今日はこの話の為に海漓さんを呼んだんでしょう?」
「そ、そうよね」
高嶺に諭され叶星は決心する
一息吐くと
「その、高嶺ちゃんの…いや、私達の事なんだけれどね」
その言葉に海漓はまさか、と思う
高嶺がどこか故障しているのではないか?
春先の時点で気になっていたがそれはあくまでも海漓の予想でしかない
が、ほぼ正解に近いのであろう
「海漓さん、貴方気づいていたでしょう。
それもかなり早く…春先には」
高嶺はそう告げる
問い詰めると言うより答え合わせをしているような形だ。
「あくまでも予想ですよ予想」
「それでも十分よ。流石は現鎌倉5大ガーデンの中等部出身って所かしら?」
「そっちもちゃっかり調べてるんですね」
「ちゃっかりも何もトリグラフを使いこなしたり、複数のサブスキル覚醒するリリィなんてそうは居ないわよ
私達から言わせれば貴方も十分怪物なの」
高嶺が呆れた様にそう言う
春先から指導して来たからこそ海漓の素質の高さには驚かされているのだ
それにも関わらず注目度が低いのは姉がそれを遥かに上回る怪物だからであろう
「で、海漓ちゃんを呼んだのは答え合わせの為なの
後は…海漓ちゃんから見た百合ヶ丘の話も聞きたくて…ね?」
叶星がそう付け足す
海漓としても高嶺の件は気になっていたが話さないのには何か理由が有るからと考えていたのだが、どうやらそれで上級生にここまで不安を与えてしまったのは内心申し訳なく思う
後者はやはり上級生から見ても今回の合宿は気になる所があったのだろう
百合ヶ丘からの誘いに浮かれることなく裏を考える
リーダーとしては当然であろう
欲を言うならば姫歌達も最低限の警戒をして欲しかったのが本心なのだが
「あくまでも私視点ですからね
御台場卒の叶星さんたちはまた別な見方かもしれませんよ?
で、何を聞きたいです?」
「そうね…」
その後は3人での話し合いになる
答え合わせと事情の説明であるためそんなに時間はかからなかった
もう少し長く話したかったのもあるがこれ以上話し込むと時間的に怪しまれる可能性も出てくる為仕方がないであろう
「部屋で休んでたのにゴメンね?
それとこの事は…」
「分かってますよ。
私、口、硬いんで」
念をいれるがそこは海漓も分かっている
まぁここで言いふらす性格ならばこの話をされてはいないだろうし最後の確認という意味が強い
「じゃあ私、もう部屋戻りますね
明日の準備やら色々あるので」
「えぇ、また明日」
そう言い残し部屋を後にする
この日を堺に神庭は少々忙しい日々を迎える事になる
ちなみに部屋に戻った後は
「どうしたの?
何かやらかした?」
「いや、別に
私、鎌倉上がりだし向こうのヒュージの事とか聞いておきたかったみたい」
「ふぅん」
こんなやり取りがあったとか
この日から数日後に叶星は百合ヶ丘へ合宿の挨拶に向かい
さらに数日後には百合ヶ丘グリーンフェアに参加し海漓以外の面々は一柳隊との顔合わせを終える
「…ん?電話?
ひっさしぶり!そう!合宿で。うん
…え?そりゃ私も使えるなら欲しいけどアレって遊撃隊に配備…はぁ!?作った!?
それを?うん、あー、うん。
百合ヶ丘で会うわけにも行かないし…え?合宿終わりに用あるからコッチ来る、あー、分かった。うん待ってる」
実は合宿直前に海漓が電話でこのような話をしていた事は誰も知らない
電話の相手が分かるのはもう少し先の話
次回からラスバレ編行きます
海漓がグリーンフェア来なかった理由は後々