Assault Lily〜御使いの妹   作:ラッファ

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第25話

梅をヒュージに見立てた模擬戦

彼女を相手にノインヴェルト戦術を成功させる事がこの訓練の目的である

 

そもそもノインヴェルト戦術とはいくつか例外はあるが9人で行う集団戦術の事を指す

CHARMを世界と位置づけ、それを特殊弾により生み出されたマギスフィアで繋ぎ、成長させヒュージに放つリリィの必殺技とも言える攻撃である

これが5人だとフンフベルト、6人だとゼクスベルトとよばれる事も有るが総じてノインヴェルトと呼ばれるのが一般的である

 

全くの余談であるが似たような集団戦術に片神明封神術式や魔弾の射手等があったりする

 

このノインヴェルト戦術の教育において百合ヶ丘は世界的な名門校でもある

勿論神庭でもカリキュラムは組まれているのだが百合ヶ丘と比べると劣ってしまうのもまた事実

 

グランエプレで特殊弾を持つのは姫歌であり彼女は弾を装填、マギスフィアを生み出す…のだが

 

「いくら百合ヶ丘のお姉様と言えど一人じゃ…!」

 

「定盛ちゃん早くショットする!

来るよ!!」

 

姫歌の油断に気づき海漓はマギスフィアを放つ様に言うが少し遅かった

 

「一人じゃ、どうした?」

 

「えっ!?」

 

梅はすぐさま移動し姫歌のパスを妨害する位置に立つ

 

「あっ、詰んだわ、これ。

お疲れっした、かいさーん」

 

「こら、諦めないの」

 

「でっすよねー

まぁ、よくよく考えたら仕方ないか…」

 

回した段階で妨害が入るのであればフォローも出来るが流石にパスを回す前に潰されてしまっては普通ならどうしようもない

 

海漓もそれをわかっていたから一度諦め泣きのもう一回を頼むのも有りと思っていたが流石にこれは叶星に静止される

 

こればかりは姫歌のミス

勿論数が多い方が有利なのは事実だが相手は百合ヶ丘かつ実力は当然としてノインヴェルトに関しても向こうがプロフェッショナル

この手の対処は手慣れているのだ

ましてや自分達は百合ヶ丘から見たら格下だし百合ヶ丘のとある技術は習得していない。

そんな状況で油断してしまえば、このような事態を招くのは当然とも言える

 

海漓からしてみれば技術面の他に一柳隊には楓がいるのだから、()()()()()()()()()が一人は確実にいると判断する

仮に姫歌が油断してなくても詰んでいた可能性がある為、彼女一人を責めるのも酷な話になってしまうのも事実

 

総合的に考えるとこの試合は一度捨てても良いのだが本番だとここから建て直さないと行けない

余り下手な事をしてこれ以上自分達を甘く見られるのも腹が立つ

 

少しばかりやる気を出しておいたほうが良いかもしれない

 

「おわっ、はやーい☆」

 

「あれは…梅様のレアスキル縮地…ですね

空気抵抗のベクトルを操作して高速移動するレアスキル」

 

「縮地…それって確か海漓の…」

 

彼女のレアスキルを用いた移動を見たメンバーが各々感想を漏らす

百合ヶ丘の縮地使い…ましてやかつてのトップレギオン候補のメンバーならばこの位の速度は当然なのだが実際に目にしてその凄さを実感する

 

「梅と同じ縮地使いがいるのかー?」

 

「さぁ?どうでしょう?」

 

「うおっ!?」

 

彼女がそう話した瞬間、背後から強い気配

すぐさま振り向きCHARMで迎撃

模擬戦なのだ、多少の接触は認められる

海漓もトリグラフをパルチザンモードへと変形させており拮抗状態となる

 

「時間は稼ぐからパスよろしく!」

 

「分かったわ!!皆、パス回し行くわよ!」

 

海漓は姫歌にそう告げるとすぐさま梅を抑え込みにかかる

真正面から打ちあえば海漓に勝ち目などないのは明白

 

「(距離があったのにいつの間にか詰められた…梅と同等…なのか?)」

 

「(定盛ちゃんの言葉…使わせてもらうよ!)」

 

普通ならどうしようもないが、海漓は普通では無いし、真っ向からやって勝てないなら裏技を使ってでも勝てばいい。

仮に海漓が勝てなくても最終的にノインヴェルトが決まればこちらの勝ちなのだ

それに先の姫歌の発言

海漓にしてみれば援護にも等しい

 

 

「灯莉、パス!!」

 

「まっかせて〜☆」

 

姫歌もすぐに切り替えて灯莉へとパスを回す

のだが

 

「そうは行かないぞ」

 

「速いッ…!でも…!」

 

梅も海漓を振り切り灯莉のパスカットに入る

移動速度もさる事ながらこちらのパスコースを尽く予想したかのような動き

 

「(…技術か居るであろうあのスキル所有者がテレパス飛ばして援護してるのか…どっちだ!?

少し揺さぶってみるか)」

 

彼女の個人の技量は当然としてその他+αの要因にも目を向けなければ行けない

 

「ふったりともはやーい♪」

 

「灯莉ー!感心してないでマギスフィアを確保しなさいよ!!」

 

「あっ、忘れてた」

 

灯莉、梅と海漓のスピードに感心してまさかのマギスフィアを見失う

 

梅もこれを予測しマギスフィアに近づいていた海漓の元へと向かう

 

「と、カットだぞ」

 

「そう来ると思ってましたよ」

 

「何?」

 

梅も当然海漓の元へと駆けつけ睨み合いとなる

これでは海漓はマギスフィアを取りに行けない

彼女の移動速度と自力では梅を出し抜く事など不可能である

 

そう、海漓、一人でなら、不可能な事だ

 

「か、確保しました!!」

 

「…!?」

 

マギスフィアの回収に向かったのは海漓ではなく紅巴

海漓はあくまでもこの為の囮なのだ

 

「(い、いつの間に…確かに全員マークしてたはず)」

 

梅は背筋が凍るだろう

全員マークをしていた…にもかかわらず海漓に背後を取られ、今度はマークしていた筈の紅巴が突然マギスフィアを確保し始めたのだ

 

「ステルス使いがもう一人居たのか…!」

 

勿論これで取り乱す梅では無い

冷静に状況を分析する。

姿を消すならサブスキル、ステルスを用いればいいだけの話

紅巴がステルスを持っていたとしたら何もおかしくは無いが、ならば始めから姿を消しそれこそ梅が灯莉のカットに入る前に自身が取ればいいだけの話

確保した時に喜ぶ必要は無い

 

紅巴がマギスフィアを確保している事を考えると次にパスを受けるのは海漓

その後に上級生なのは明白

そして当の海漓は梅に張り付いているのだ

パスの成功率は更に低くなる

 

「(スキルじゃないな…となると技術の応用か)」

 

海漓の揺さぶりに対する梅の反応

レアスキル所有者援護や自身のサブスキルを使っていない事が分かる

スキルを使われたら紅巴の方に向っていたのだから

 

トリックが分かればこっちにも機会は有る

技術を使っているからこその欠点であり海漓のようなリリィが避けられる理由でもあるのだなら

 

「…紅巴ちゃん、こっち!!」

 

「動いた…!」

 

先に仕掛けたのは海漓

声と共に海漓が移動する瞬間、梅も移動し海漓を追い抜くとすぐさまパスコースに割り込む…と思われたのだが

 

「…あ、あれ?」

 

「何してるんです?」

 

コースにいつまで立っても海漓が現れないし、到着する気配すらない

梅は付近を見渡すと、先程いた場所に海漓いる、しかもマギスフィアを受け取った状態で、だ。

海漓はその場を一切動いていなかったのだ

そしてマークが外れてしまえばパスは簡単に通る

 

「今…確かに動いただろ…戻った…?」

 

「何を言ってるんです?私は始めからここにいましたよ?

梅さんが勝手に動いたんじゃないですか」

 

 

あくまでも悟られぬよう、海漓は何事も無く告げる

グランエプレのメンバーは驚きもなく次の手に備えているが一柳隊からしたらこの光景は異様でしかない

 

そんな事はさておき、この方法も連打しすぎるとすぐにトリックがバレる

手を変えるのが妥当だ

 

マギスフィアを確保したのだから後は高嶺にパスを回せば海漓の役目は終わり…だがそう簡単に事は進まないのは明白

 

「悪いな、少し手荒に抑え込ませてもらうぞ…!」

 

「上等!!」

 

梅もトップスピードで海漓まで切り込むとそのままパスコースのブロックに入る

 

「梅様が…消えた!?」

 

今までとは違う速さ

本気で来たと見て間違い無いだろう

海漓も高速移動で一応の対抗をしてみせるが実力の差は明確に出る

そもそも真っ向勝負で海漓が勝てる要素など何もないのだ

 

「(こっち、次は…これもアウト…ハイハイ

保持は…イケるか)」

 

「(安易に攻めて来ないな…

梅の動きを読んでる…このスピードだゾ?)」

 

このトップスピードだ。

安易にパスを出せば簡単に潰される未来しか海漓には見えない

今は梅の妨害を避けつつマギスフィアを保持するしかない

そもそも梅のトップスピードに見失う事無く反応している時点で異常ではあるのだが先の出来事に比べたらマシではある

 

それを見ていた高嶺と叶星は

 

「…リリィを相手にしているわけだしヒュージよりも抑え気味とはいえあの精度

レアスキルは封印させた方が良かったかしら?」

 

「海漓ちゃんの目指すリリィ像を考えたら正解かもしれないけれど…今回は封印させても良かったかも

…さっきはその確認だったのね」

 

 

二人はこの光景を見て苦笑い

確かに状況を見てレアスキルを使っていいとは言ったが、数回の発動でここまで立て直せたのだ

精度の高さに素直に感心すると同時に最初から封印させるべきだったかもしれないとも思う

…が、それをやってしまうとこの合宿中も封印する事になってしまう為判断が難しくなる

 

サブスキルに関しては上手く扱えている

とはいえあくまでもサブ、レアスキルと比べると威力は落ちるしトップリリィのレアスキルとやりあってしまえば押されるのは明白

こうなってしまうのは分かっていたこと

海漓がレアスキルを本気で発動し紅巴のテスタメントと組み合わせれば梅を出し抜く事も可能だがそれをやってしまうとこの訓練の目的から外れてしまう

 

目的を考えると彼女達のやる事は一つだけ

わかっているからこそ二人は改めてCHARMを構える

 

「さて、そろそろ私も行こうかしら

後輩がここまで意地を見せたんだもの、私も少しは先輩らしい所を一柳隊の皆さんに見せておかないとね」

 

高嶺はそう言うといつになく真剣な眼差しになる

いつも真面目だが模擬戦でここまで真剣になるのはいつ以来だろう、御台場以来ではないか

叶星はそう想い返す

 

「高嶺ちゃん、今日は一段と真剣ね

何かあったの?」

 

「久しぶりの外征で気分が良いから…かしらね」

 

そう言うと高嶺は海漓の援護へと向かう

外征で気分が良いと言うのも嘘ではないが、それ以上に高嶺にもどこか思う所があるのだろう

 

「(こっちも駄目、こっちも!?

ヤバいな、詰んでる、

レアスキルを本気で打つか?でもそれやるとなぁ…)」

 

「(強めのプレッシャーかけたらピタリとやんだ

縮地の維持で精一杯でステルスの発動まで持っていけないか)」

 

梅が本気で海漓を抑えにかかったと同時にあの現象が収まったのだ

レアスキルの維持に力を持っていかれサブスキルの発動までは行けないと梅は思う

先程は他のメンバーに注意を向ける必要があったが今は違う

他の一年生は様子見をしており、高嶺と叶星もまだ動かない

動くとしたら海漓がマギスフィアをロストする時と考え相当強くプレッシャーを海漓にかけてきたのだ

 

「(ヤバイ、ヤバイ

…もう切るしか…!)」

 

「そろそろ限界か?」

 

このまま行けばペースを取り戻せる

そう、思ったのだが

 

「強引に行かせてもらうわね」

 

その言葉と同時に梅に対し猛スピードで突撃してくるリリィが現れる

高嶺だ

 

「ここで来るのか!!」

 

「それっ!」

 

その言葉と同時に高嶺は自身の愛機であるリサナウトを振り下ろし梅も回避の為後退する

与えられたチャンスは逃さない

 

「ハイどうぞ」

 

「受け取ったわ」

 

二人はCHARMを接触させる形でマギスフィアをパスする

投げられないなら取りに行けばいい

それだけの事である

 

「後は任せます」

 

「任されたわ」

 

高嶺がその言葉を聞くと同時に海漓は後退

現状における最高戦力に繋いだのだ

後は二人次第

援護も可能だが上級生同士、水入らずの訓練も良いであろう

 

「ほぅ、ゼノンパラドキサ使いか

縮地に加えて複数対象の行動ベクトルを把握出来るレアスキルだな」

 

先の出来事に加えれば高嶺の現象は説明しやすい

彼女のレアスキルは百合ヶ丘でも多く所有者がいるためだ

それは高嶺も十分に把握している

 

「梅さんや…百合ヶ丘のゼノンパラドキサ使いに比べたら大した事は有りませんがこの程度ならば」

 

落ち着いて、あくまでも冷静に告げる

すると梅は

 

「第2ラウンドと行くか?

梅はまだまだ行けるゾ

やってみるか、ドッグファイト?」

 

「えぇ、胸をお借り…

いいえ、望む所と言わせてもらいましょう」

 

二人はそう言い目線を合わせると同時にレアスキルを発動

高速戦闘へと入る

 

「皆、見て

あれだけ高速でのマッチアップ…そう見られるものではないわ」

 

叶星も改めてそう告げる

先の戦闘も早かったが海漓と違いレアスキル同士での激突

文字通りハイレベルの戦闘だ

勿論、海漓が弱かった…と言う事ではなく海漓は十分以上の働きをしたのだ

高速移動を行えるレアスキル同士の衝突と言う意味なのは言うまでもない

 

「(尽くパスコースを潰して…流石だわ)」

 

「(また動きについて来られた…

さっきは耐える事に意識を向けて今回は攻めるための動き…)」

 

二人はぶつかりながらも状況を分析

先程と違い実力差は無いがその分、次の動きが肝心となる

順番的に最後は叶星

どう繋ぐか、が非常に鍵となる

 

梅とて馬鹿ではない

先の出来事は頭に残っているだろう

ならばそれを利用するだけである

 

「灯莉さん、行くわよ!!」

 

「バッチコーイ!!」

 

「同じ手には引っかからないぞ!」

 

高嶺は灯莉にパスを回すことを告げるがこれは相手が違えど状況は先と同じ

灯莉もステルス所有者と思うかもしれないが彼女はもう受け止める準備を整え姫歌と紅巴は梅の妨害に備える

海漓はいつの間にか彼女達の背後まで下がっており万全の体制を取る

梅の妨害よりも灯莉のロストの為のバックアップの面が強かったりするのだがそれを知る者は一柳隊にはいない

 

そして高嶺も灯莉にパスを出す素振りを見せる為、梅も灯莉の方に向かう…のだがいつまでたってもパスは来ない

 

「…!?」

 

「バ、バックパス!

叶星様!!」

 

そう彼女はパスを放る瞬間に向きを灯莉のいる方向とは逆にパスを放つ

そこには本来ならば誰も居ない…のだが叶星は来ることが分かっていたかのような完璧なタイミングでマギスフィアを確保

 

「受け取ったわ、高嶺ちゃん

これで…フィニッシュよ!!」

 

そのままフィニッシュショットを何も無い海面に向けて放つ

 

「や、やったぁぁぁ!」

 

それを見て最初に歓喜の声を上げたのは灯莉

 

「す、すごいです

フェイントからのフィニッシュショットがこんなにも鮮やかに」

 

そして二水もこの光景に感激する

訓練終わりに聞こえてくるのはやはり高嶺と叶星の連携の高さを称賛する声

 

一年生と比べると洗練された動きだったのだ

そうなるのも無理はない

 

「(まぁそうなるよなぁ…

ノインヴェルトの連携って考えたらやっぱ叶星さんと高嶺さんがずば抜けてるし)」

 

海漓とてそれは分かっていた

自分がやったのはあくまでも時間稼ぎ

百合ヶ丘なら誰でも出来る事なのだ

時間稼ぎと連携技なら後者が称賛されるのも仕方なし

とはいえ海漓もやりたかった事はやれたので収穫はあった

 

すると楓が

 

「さて、今ので皆さんの課題なども見えてきましたし皆さん向けにメニューを作成いたします

少々お待ちくださいな」

 

そう告げると紙とペンをどこからか取り出し作業を始める

 

合宿は始まったばかりである




もう一話かかるかも…
ここは書きたいことが多すぎて…

海漓のステルス扱いの理由も次回…かな?
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