Assault Lily〜御使いの妹   作:ラッファ

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第36話

唐突に始まった中等部生の指導

先ずは久瑠美の実力を知る必要がある

資料を見ているとはいえ実際に見てみないと分からない部分もある

 

「とりあえず何回か模擬ヒュージと戦ってもらおうかな

とりあえず普段どおりにお願い」

 

「はい!」

 

彼女がどんな戦い方をするのか

それを知るためにも模擬ヒュージ相手の戦闘を行ってもらう事にする

 

「じゃあ行くよー」

 

そう言うと共に戦闘が始まる

 

「(近接向きだね…レアスキルがないからやれる事は限られてるけど、油断せずに立ち回れてる…まぁちょっと気になるところもあるけど)」

 

レアスキルは未覚醒と言う事でやれる事は限られているものの、その中で自分の出来る事を最大限行っているという印象を持つ

中等部で3年間過ごしているという事もあり、自分の型が出来つつあるのも大きい

後は覚醒したレアスキルに合わせて発展させていけばいいというところだろうか

とはいえ気になるところもいくつか見られる、本人が気づいているのかどうか、はこの後に聞くとしよう

 

そうしている内に模擬戦が終わり、反省会となる

久瑠美としては高等部のリリィとの反省会と言う事で緊張してるようにも見える

 

 

「反省会、まぁこの後の指導にも関わることだし始めに聞いておきたいんだけどさ…久瑠美ちゃん、射撃苦手でしょ?

しかもそれずっと放置してきてない?」

 

そう、先の模擬戦、確かに彼女は近接戦が得意であるというのは分かったがそれともう一つ、射撃の精度が悪いというのもすぐに判明した

はっきり言って射撃は素人同然とも言える酷さだ

牽制で行っているつもりなのだろうが明後日の方向に弾丸が向かう事が多く、海漓から言わせてみれば無駄な行動とも取れる

彼女程の能力が有れば苦手分野の改善も並行して出来たはず、中等部のこの時期にあの酷さでははっきり言って改善する努力をしていないと言われても仕方がない。

すると、彼女は

 

「えっと、苦手な事を克服するよりも得意な近接を伸ばしたほうが強くなれるって思って…」

 

そう言う

本人も自覚はしているのだろう。

しかし、それでも苦手の克服を捨て、近接に特化したからこそ、ここまでの成績を残せたと考えているのだ

 

彼女の気持ちは分かる

そういう風に考え特化するリリィもいない訳ではない

だがあえて海漓は言う

 

「まぁ近接特化、良いと思うよ

それで、今まで上手く行ってるわけだし

でもさ、今後の戦闘で射撃が必要になったらどうするの?

あんな素人レベルの射撃なんて実戦じゃ使えないよ

後方に狙撃手を配置するって言っても出来る事に限りあるし、近くに来たら誰かに撃ってもらうの?

近接だけで乗り切れる程高等部のヒュージ戦は甘くないよ」

 

少し厳しいかもしれないが、海漓はあえていう

ここで甘やかしても彼女の為にならない

さらに続ける

 

「一芸特化のリリィが許されるのはそれこそ百合ヶ丘レベルの層があるガーデンだけ

一人二人そんなのがいても他でカバーしきれるから問題ないんだ

私は今年からココに来たからあんまり大きな事は言えないけど…そういうリリィ好まれないと思うんだよね」

 

これもまた事実

百合ヶ丘レベルであれば一芸特化、他はダメダメなんてリリィがいた所で何ら問題は無い

それこそアールヴヘイムのような超強豪レギオンならば話は違うだろうが普通のレギオンならば一人二人そんなリリィがいた所で残りのメンバーで全てカバーして問題なく運用出来るからだ

 

しかし、神庭は違う

実力者も多いが一芸特化型のリリィをカバーできる程の技量を持っているリリィは限られている

ましてや、彼女は中等部からの進学を控えている身

高等部になれば中等部経験者は高等部からリリィなった俗に言う初心者のフォローも任される事が多くなる

そんな時に一芸特化リリィのカバーもしなければならないのは相当な負担であるし下手をすれば全滅にも繋がりかねない

これは海漓が感じている事であり、もしかしたら余計なお世話になるかも知れないという不安があったりするのだが…

 

勿論、全てを否定して終わりではないのも事実

ちゃんと、案も考えている、というか先の模擬戦を見たときにすぐに取り組むべきと考えた事だ

 

「だから、今回の交流で、私は射撃を教える

近接戦は強くなるコツを掴んでいるだろうし今後とも今まで通り継続してやりな。

今の久瑠美ちゃんは近接90点、射撃0点

これじゃあだめ

せめて50点にしよう」

 

それに疑問を覚えたのは久瑠美

今話を聞く限り射撃も完璧にやるように命じられると思っていたのかもしれない

 

「50点…?100点じゃなくて?」

 

「うん。基本的な動作、狙って当てる

もしくは牽制する。これをしっかりやる事

得意な近接は完璧に、射撃は今のスタイルの上で足を引っ張らないレベルに先ずは持っていこう」

 

海漓が要求したのは最低限の事を出来るようにする事

いきなり高いハードルを要求しても途中で出来なくて訓練そのものを投げ出される可能性を考慮しての事だ

 

「分かりました!指導、よろしくお願いします!!」

 

その後は本当に基礎的な所から射撃の指導を行う

苦手な事を放置していたとはいえ授業をサボっていた訳ではない

更にいうと海漓は射撃型だ

自身の経験や技術を彼女にあったように伝えれば良い

 

試行錯誤しながらこの日の訓練を終える

 

「今日はこれで終わろうか」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

そうして訓練を終え、久瑠美は寮へと戻る

本来ならば海漓も戻る…のだが時間はまだある

そのため海漓は一人残って自主練を…と考えていたのだが

帰る途中、一人のリリィが目の前に現れる

 

「お疲れ様、どうだったかしら、神庭の中等部は?」

 

「秋日会長?」

 

そう言いながら現れたのは本間秋日(ほんまあけひ)

神庭女子の生徒会長を務めるリリィであり、生徒会防衛隊の隊長でもある

春先のルドビコの件で海漓は生徒会防衛隊の臨時メンバーとして共闘しその後もグランエプレの活動をしながら時折生徒会の手伝いもしており、親交も深い

直近だと文化祭での運営委員の補助役として活動だろうか

 

「久瑠美ちゃんしか会ってませんが優秀ですよね、素直で己の欠点にも向き合える

まぁ、私としては反抗されたり、酷ければ拳を交えてのリアルファイト位は覚悟してましたけど、そうならなくてよかったです」

 

「それは貴方の古巣がそういう校風だったからでしょう…神庭はそんなガーデンじゃないわよ…もぅ」

 

海漓は素直にそう告げる

中等部で3年間過ごしたリリィならば程度に差こそあれプライド持っているはず

その中で海漓は明確に欠点を指摘したのだ

素直に聞き入れてくれたから良かったものの、リリィによっては反抗、度が過ぎれば対立なんて言う事だってある

海漓の古巣の場合だと拳を交えてのリアルファイトや訓練と言うなのぶつかり合いなど日常茶飯事だった

 

 

「少しやる事が多くなるけれど頼むわね

勿論、貴方のリリィとしての活動に支障が出ないようにこちらも配慮はするわ」

 

気を取り直し彼女は海漓に再度頼む

自身の訓練に後輩の指導、そして時折頼まれる生徒会のちょっとした手伝い1年生としては負担が大きいかもしれないが、それでも海漓ならばという信頼があるのかもしれない

勿論、過度な負担にならないよう生徒会としてもサポートをするようだ

 

「予想してなかった合同レギオンが始まってしまったし防衛構想会議も近い

貴方が今回だけでなく今までも生徒会や生徒会防衛隊の活動を手伝ってくれている事も考慮して、生徒会が本格的に動くのはもう少しだけ遅らせてあげる

ただ、貴方も感じているグランエプレの現状の課題に対し改善する傾向が見られない場合、生徒会はすぐに行動を開始出来るよう準備を進めているわ

そうなった時にはもしかしたら貴方にはこちら側として動いてもらうからそのつもりでいて頂戴」

 

 

「本当なら仲間を裏切るなんて絶対にしないんですけど…こればかりは私達に非がありますからね

そんな判断をさせたって言う事自体グランエプレ最大の失態ですし、むしろよくここまで待ってくれました

秋日会長や生徒会の皆だって好きでこんな事やろうってなった訳ではないでしょうし」

 

実をいうと合宿が始まるよりも更に前

それこそ春先のルドビコ女学院崩壊の件で生徒会に合流した後に秋日に頼まれていた事だ

やる事は生徒会の手伝い、グランエプレの観察と定期的な報告、後は気がついたグランエプレの課題に対し過度な干渉をしない事

始めは上手く隊長をやれているか、喧嘩していないかといった簡単な事だったのだが月日の経過とともに現れる課題、改善せず放置するという現状

それに対し生徒会が痺れを切らしたという形だ

秋日は二年生、課題の一つである叶星、高嶺とは同学年

思う所は多々あるのだろう

 

本当ならば仲間を裏切るような事はしたくない

これは事実、しかしそうなる原因をつくってしまったのも自分達

秋日だってグランエプレが憎いわけではないし、海漓だって同じ気持ちだ

しかし、現状のグランエプレはとてもではないがちゃんとしたレギオンとして機能しているとは言えない

戦闘面でもそうだしリリィの精神面でもそうだ

グランエプレはトップレギオン、つまりはガーデンの顔となるレギオン

そんなレギオンがいつまでも問題を抱えているわけにはいかない

いや、課題があったとしても一歩でもいいから改善しようと行動する事が大事なのにそれすらしない事を問題視された結果である

 

 

今のままでも何も問題は無いのかもしれない

実際多くの戦いを経て実力はついてきているし、人間関係も上手くやってきている

だが神庭の今後を考えたらグランエプレをこのままにしておくわけにはいかないのも事実

 

 

「理解してくれて助かるわ

勿論、今後少しでもいい、改善の傾向、もしくは改善しようとする努力が見られるのならばこの話は無しにします

貴方はいつも通り過ごして頂戴

ここは自主性のガーデン、誰かに言われて強制するガーデンではない。

この意味、わかってるわね」

 

暗に余計な事は言うなと言うことだろう

ここは自主性を売りにするガーデン

誰かに強制されたり、言われたから慌ててやるというようなリリィは不要ということだ

 

 

「勿論。

分かってなけりゃ今頃グランエプレと生徒会は対立してますよ」

 

「それもそうね

もし、私達が本格的に行動を開始する時は貴方にも伝わるように合図を出すわ」

 

「合図、ですか?」

 

「えぇ、

生徒会防衛隊のリリィを一名、何らかの形でグランエプレに合流させるわ

それが生徒会が動く合図よ

その時は、さっき言ったとおり

いいわね?」

 

現在の生徒会防衛隊のリリィというと隊長の秋日の他に、二年の石塚藤乃(いしづかふじの)、一年の塩崎鈴夢(しおざきすずめ)が該当する

本来ならば四名+状況に応じて適任者を入れるという形だ

ちなみに春先に海漓が合流したときは先の三名+臨時メンバーの海漓を加えた四名で活動していた

海漓が生徒会の手伝いをする時は四名、海漓不在時は実力者二名を入れた5名という形をとっているそうだ

生徒会長も最低4名は固定したいそうで残り1名は現在選定している最中だという

 

秋日が直接来るとなると怪しまれるのは確実なので来るのは鈴夢か藤乃のどちらかだろうと予測する

 

「分かりました。

まぁ、そんな時が来ない事を祈りますがね」

 

「期待しているわ

そして、これが最後のチャンスと言う事も覚えておいて」

 

 

そうして二人はその場をあとにする

その後はというと久瑠美の指導と自身の訓練に追われる日々

2週間などあっという間、そうして東京都防衛構想会議の日を迎える

 

 

新たな戦いの日々になるなどこの時はまだ知らなかったのである

 




やろうとしてた事を今回のシナリオでやられた為、そっち準拠で
後は補足

次からは東京編です

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