グランエプレの面々は移動しながら特型ヒュージとの戦闘を行う、が攻撃が当たらない
ヒュージの知能の高さと素早さに翻弄される形だ
「(なんだ…どうしてここにもリリィやマディック、それに防衛軍の人達が居ないんだ…?)」
移動しながら感じた事
他の面々は気づいているだろうか
東京で戦っているのは自分達だけではない
都内のガーデンのリリィやマディック、防衛構想会議の為に外征してきたリリィ、そして防衛軍の方々
いろんな所で戦闘が行われているのだから当然、道中で出会えなければおかしい
それなのにここに来るまでの間、誰にも出会えなかった
ここが鎌倉や他の地域ならばよくある事だが、東京という地域での戦闘のやり方を考えれば明らかにおかしい
「(死体どころか、人間の血の痕も戦闘した形跡も全く無い…早い段階で避難が終わってた?)」
対ヒュージとの戦闘だ
起きて欲しくはないが、そういう事も起こってしまう
今、この瞬間も他の場所ではそうなっているかもしれない
しかし、この場ではその光景がない
戦闘を行った痕跡や人間の血痕が何も残っていない
掃除などできるはずがないのだから理由は一つしかない。
「(戦闘になる前に避難が完了した?
だからってこの場に誰も居ない理由にはならないよな…)」
ここでは戦闘が起きなかった可能性
エリアディフェンス崩壊からヒュージの出現には時間差があってもおかしくはない。
この辺りではヒュージが全く出なかった為避難が簡単だった…という事もあるだろう。可能性は限りなく0に近いが
しかしこの場に誰も居ない理由にはならない
新たに表れたヒュージの対処、他で戦っているリリィの支援、やる事は沢山ある
リリィも防衛軍も非常時の対処法は学んでいる筈
このレベルで誰も居ないとなるとそれこそ現場の判断ではなく上からの命令
ガーデンの上層部や都の司令部クラスの命令が必要である
リリィの判断だけで発生する状況ではない
これは後で確認する必要がある、と彼女は思う
戦闘と無関係な事を考えているが、今は戦闘中
今この瞬間も特型ヒュージとの戦闘は続いている
当たり前の事だが、本当なら余計な事など考えずに特型ヒュージの対処に全力を注ぐべきなのだろうが、ここまでおかしいと嫌でも目につく
「(熱くならず、空気に呑まれず状況を正しく把握する…)」
中等部時代からの教えを忘れず戦闘に挑む
一つの見落としが命取り
だからこそ気がついた事がある
「(あのヒュージ、確かに私達の動きを学習はしてるけど、その動きを基に次の動きを予測したするほどの知能はまだ無い
私達を舐めてるのか、そこまでの知能が無いのかカウンターしたりする気配もなし
幸いな事に私含め誰もレアスキルを使ってない…頭脳戦になるかな、これ、タイミングさえミスらなきゃ勝てる)」
確かに目の前の個体はこちらの動きを学習している
同じ手は二度通じない、それは分かる
しかし、それだけ
攻撃を予測しカウンターを仕掛けたり仕掛けられる前に攻撃するという事が今までない
学習に専念しているのか、何か別な目的があるのか、までは海漓には分からない
しかし、幸運な事にコチラは誰もレアスキルを使っていない
海漓を筆頭に全員のレアスキル、戦法を適切に運用しすれば間違いなく勝てる
他のメンバーは知能を持ち学習するヒュージという未知の相手に動揺している
そうしていると叶星は
「今、あのヒュージに対抗出来るのは私と高嶺ちゃんしか居ないと思うの」
「(いや、もうやるって分かりきってたけど、ここに来てまだソレやります?)」
叶星のその言葉に海漓は呆れる
よく言うのだ
強敵が来たら対抗出来るのは私達だけ、と
それで仕留めてるならともかく必ずボロを出し取り逃がす
自分達が弱いから、と姫歌達は言うしだから強くなりたいと言っているがそうではないと海漓は常に思っている
今いるメンツをフルに活用し、勝つための最善を尽くすのが隊長であり司令塔の役目では無いのか、と
弱いから切り捨てるのでは無く弱いリリィだからこそ、どう運用するのかが隊長の腕の見せ所ではないのか
「(まぁ、あの人の運用が化け物レベルってのを考慮しても、流石に酷すぎるんだよな叶星さん…秋日会長が決断するレベル、流石に庇いきない)」
古巣で今もなおトップレギオンの隊長を務めるリリィと叶星を比較したくはないがここまでの扱いをされると流石に文句の一つも言いたくなる
1年生が本当に弱すぎるなら叶星や高嶺が切り捨てる前にガーデンや生徒会が個別に声を掛け脱退の指示や1年生から別なリリィを配属させるように動く
ガーデンが主導で編成するトップレギオン制とはそういう物
秋日も海漓に仕事を依頼をする事はあるが個別にリリィを呼び出せと言われた事は一度もないし、個人を名出しし脱退させろなどと言われた事もない
つまり表向きは問題無いという事だ
表向きは、だが
しかし今回の件も生徒会の耳には入る
そうなってしまえばもう止めになるだろう
文化祭の時を筆頭にグランエプレの様々なやらかしは海漓が生徒会の仕事を手伝ったり、叶星達の知らない所で各所にフォローを入れて来たが合宿から始まり今現在に至るこの状況は海漓でもフォローしきれない
「さて、作戦だけど…
貴方達には陽動を行ってもらうわ
攻撃は当てなくていい、とにかくヒュージの気を引いてほしいの」
「(…は?)」
考えているうちに叶星は作戦を言う…のだがとんでもない事を言い出したのである
「えっと、定盛ちゃん達も陽動に使うんですか?」
「そうよ。」
「海漓、話聞いてなかったの?」
高嶺は同意に姫歌は海漓にそう尋ねる
話を聞いていなかったのか、とさえ言われる始末
「いや、聞いてたよ
私はともかくこの三人、陽動作戦やるの春先の幼稚園の時以来なんですけど…大丈夫ですかね?」
「あの時よりも私達は強くなってる。
確かに久しぶりの事をお願いするけれどあの時と違って今回は一体だけ
私達の攻撃がメインになるし問題は無いわ」
「問題は無い…ですか
…分かりました(言い争うの時間の無駄だし)」
普段から陽動を行う海漓はともかく姫歌達が陽動を行うのは春先以来。しかも付け焼き刃。
それ以降、陽動を行う訓練もほぼしていない
大丈夫かと聞くのは当然だ
自分達の攻撃がメインだから問題無いと自信満々にいうが…どうなのだろう
隊長の言う事だしこの非常時に言い争いになっても問題なので受け入れる、がはっきり言って納得出来る説明ではない
姫歌達は叶星と高嶺の役に立つと意気込んでいるが、訓練もほぼ無しで知能を持つ特型相手に陽動をするなどはっきり言って無理である
紅巴や灯莉は前に出て陽動を仕掛けるような戦法を取らない
後ろから支援を行うタイプだ
レアスキルを考えてもそれは明らか
姫歌も司令塔を希望しているため基本的には前に出ない
彼女の場合レアスキルや本人の性格を考えると司令塔ではなく前に出るタイプかもしれないと海漓は考えているし一度提案した事もあるが受け入れては貰えない
叶星と高嶺もポジションのコンバートを指示する事には否定的だったりする
「海漓が普段やるような事をみんなでやるだけでしょ
簡単…じゃないんだろうけど目立つのはひめかにだって出来るんだから」
「…そんな簡単な事じゃないんだけど
まぁ、いいや
あの説明じゃ誤解してそうだし一つだけ忠告してあげる」
そう言い海漓は姫歌達の方を見る
準備も兼ねて少し離れた所にいるのでこの話は叶星達に聞かれることは無いだろう
本音で話すとトラブルになるのでオブラートに包むことも忘れずに
「やるなら本気で仕留めるつもりで撃ちな
結果として外れたなら問題はないけどはじめから手抜きは絶対にやるなよ」
「どういう事です?」
「あのヒュージ、学習するんでしょ?
私等の攻撃が手抜きって学習されたらアウトじゃないの?バレた瞬間叶星さん達の攻撃全部回避されるよ
陽動って気づかれないから成立するんであって気付かれたらアウトだよ」
「な、なるほど」
「確かに、ひめか達の行動がバレたらダメよね…」
「んー?当てに行くけど当たらなかったらドンマイ?で撃つの」
「そーゆーこと(攻撃の基本すら分かってない…)」
この有様である
これなら6人でフォーメーションを組んで戦った方が効率が良いと思う
…そのフォーメーションすらろくにやっていないのが問題なのだが
そして、いざ作戦開始
「それそれ〜」
今回は灯莉が先陣だ
その後に姫歌と紅巴も続く
海漓は万が一を考え今回は三人を見守れるように後方に立つ
いざという時のフォローをするためだ
灯莉が射撃を行うが特型ヒュージは速い
当てにいけ、と言われたが全然当たらない
当てに行ってコレだ当てる気がないならば早々に対応されただろう
「は、速いです…!」
「灯莉の攻撃をみきってるわね…
当てに行かなきゃ早々にココを抜かれてたわ
今度はひめか達の番よ」
「は、はい!」
姫歌と紅巴が前に出る
叶星と高嶺はまだ仕掛けてこない
タイミングを伺っているのだろう
確かにヒュージはまだ隙は見せ無い…が不慣れな陽動を行う姫歌達は別
ヒュージも反撃開始と言わんばかりに姫歌達に仕掛けてくる
が、
「させるかってーの!」
その攻撃が当たる事は無い
突然ヒュージが起動を明後日の方向に切り替え、近くの瓦礫に激突する
海漓のレアスキルによる妨害だ
「危なかった…ありがとう海漓。助かったわ」
「今回は私が援護してあげるから、攻撃を叩き込みに行きなよ」
「分かったわ!」
その後、三名は前に出る
海漓は自身のCHARMを構え射撃を開始する
「どう避けるかは視えてる!!」
自身の攻撃とサブスキルの虹の軌跡を組み合わせて使う
本家よりも深く視る事は出来ないが自身の射撃をどう回避するか、位は分かる
ならば予めその回避先として視えた所に先回りして弾丸を放つ
その後、どうなるかなど言うまでも無い
ヒュージが自ら弾丸に当たりに来る形となる
その隙を逃す三人では無い
彼女達の攻撃は確実にヒュージを捉える
そのタイミングで叶星と高嶺が仕掛ける
見るものを魅了する、凄まじい連撃を叩き込む
相変わらずのコンビネーションだ
「す、すごい…あんな連撃…!」
紅巴は称賛を
「定盛…?」
「あたしもいつかあんな風になれるのかしら?」
姫歌は二人の実力を見て自分達もあのような動きが出来るようになるのか、と思う
「(やっぱ価値観、違うよなぁ…ズレてるんだよね、私は)」
100人いれば99人は二人のコンビネーションを称賛するだろう
しかし、海漓は違う、残りの1枠の人間だ
彼女からすればこの光景は二人の自己満足にしか見えない
レギオンとして策を練り、敵を追い詰め、その上で二人の連携で止めを刺すと決めたのならば納得出来る
しかし、実際は違う
策も何も無く、ただ自分達しか対応出来ないからと勝手に決めつけ都合のいいように自分達を使う
プライドが傷付くとかそんな下らない話ではない
レギオンというチームとしてこんなのは断じて認められないし、だからこそ海漓は秋日の依頼に乗ったのだ
そんなふうに考えていると丁度戦闘が終わる
叶星と高嶺の所に皆が駆け寄り、姫歌はまだ息のあるヒュージをなんの警戒も無く止めを刺そうとする
「…油断するな、上!!」
「えっ?」
が、海漓は上からヒュージの気配が迫っている事に気づき姫歌に忠告
後ろに引っ張る
そうして現れたヒュージはリリィに目もくれず、あろう事か倒した個体を捕食しようとするではないか
「(ヒュージが共食い!?確か同族は攻撃しないはず)…妙な事されたら不味い、速攻!!」
その光景に誰もが動けなくなる
捕食する光景など見たくない気持ちも分かる、がこれを見逃す事など出来ない
誰もが呆気に取られる中、海漓一人だけ個体に攻撃を叩き込む
現れた個体への攻撃、撃破が駄目でも最悪捕食しているヒュージの体を攻撃で削り取る事を目的としたものだ
攻撃を叩き込んでいる間にもヒュージは捕食を続けてそれが終わると突然ヒュージがマギで包まれる
「…黒い…繭?」
灯莉はそう言い切る
海漓も一旦距離を取ると
「高出力砲を搭載したCHARMかフェイズトランセンデンスかA wakingを持ってるリリィさえいれば火力で強引にブチ破れるかも知れないのに…」
海漓はそう呟く
この場にはその条件を満たすリリィは居ない
試しに数発弾丸を叩き込んで見る…が
「ダメージ無し…か」
効果は無さそうだ
その後だった
「皆、気をつけて!!」
叶星の声と同時に繭からヒュージが出現
その姿は先程とは大きく変わっている
更に
「な、なんか怒ってない?
灯莉みたいな事は分からないけど…」
姫歌はそう言う
現れたばかりにして分かり易いほどに殺気を飛ばしている…しかもその矛先は
「あのヒュージ、あーちゃんに怒ってる…食べる時も寝てる時も邪魔しやがってーって」
そう、海漓である
自分の邪魔をされて怒るな…と言う方が無理な話だろう
人もヒュージもそれは同じ
普通ならば恐れるし、逃げるだろう
だが、彼女は違う
「邪魔されたくなかったら自分の住処に餌を持ち帰って食えってんだ馬鹿が
眼の前でヤバイことしてるのを邪魔しない奴なんていないってーの」
そう言いながら海漓はCHARMを構える 機体と体の調子を確かめながら
「私、人であれリリィであれ、ヒュージであれ、売られた喧嘩は買う主義なんです」
「海漓ちゃん、どうするつもり?」
「どうするも何も、戦う以外の選択肢ないじゃないですか
アレが私を狙うってなら好都合、その間に後退して体制立て直すなり作戦練り直すなり応援呼ぶなりしてくださいよ
こっちも見失わない程度の距離で戦いますので」
叶星の問に簡単に答える
逃げても良いが、灯莉の言うとおり怒っているならば猛攻が来る
それに全員を晒すぐらいならば自身が囮になり後退する距離と時間を稼げば良い
何処ぞのエレンスゲの隊長と違い、その為の方法も技術も身に付けている
彼女のレアスキルなど最たる例だ
「というか離れてもらわないと困ります
レアスキルの出力を上げるんで…合宿の時や合同作戦の時とは違います…巻き込まれたくはないですよね?」
「でも、この場に貴女一人を置いていくなんて…」
彼女の提案にも否定的
別に敵をここで食い止めると言っているわけではない
追うと言っているのにも関わらず、だ。
そんなに自分達以外のリリィの力を信じていないのだろうか
「いたいた。探したわよ…こんな事なら代役なんて引き受けるんじゃなかった…ふざけた命令出されるしもう最悪、東京都から特別ボーナスが無きゃやってらんないわよ」
「そんな事言って、結構心配してたじゃないですか
やられて無いかってずーっと言ってましたよね」
「言ってたッス」
「煩いわよ、そこの二人!!」
そんな中、彼女達の前に現れたのは見慣れない制服を着た3人のリリィ
その内二人は海漓と同じトリグラフを手に持ち、一人は黒いモンドラゴンを持っている
「相模女子高等学館
生徒会特戦隊
隊長
後ろが1年の
成り行きだけど助けてあげるわ」
自身の名を堂々と名乗る
現れたのは新たな敵と新たなリリィ
この戦いはまだ終わる気配がない