自身の回復とCHARMの応急処置
戦況の把握など休憩中にも関わらずやる事は沢山あった
さらに近隣にヒュージが現れたら動ける者が対処する
そんな事をしていると時間はあっと言う間に経過した
夜もすでに明けている
合同レギオンが来る気配は未だに無い
作戦会議が長引いているのか、本当に信じてくれていないのか
そんな時だった
この付近に再びケイブが発生したとの報告が入る
しかも大量に、だ
「このタイミングで…本当に嫌なタイミングで嫌な事をしてくれる」
海漓はそんなふうに言う
休憩しているとはいえ万全とは言えず、なおかつ主力の一人であった葵はいない
ここを突破されると街の奥深くまで侵入を許す事になるし、何より前線で戦っているルドビコのリリィ達が挟まれてしまう
それだけは避けなければならない
防衛軍、リリィ共に対応に当たる
そんな時だった
「皆さん、私から提案があるのですが」
そんな風に話したのは藤乃だった
海漓に舞弓、神庭から増援に来たリリィ
そして夜明け前から共に戦っている都内のレギオンの2名に語りかける
「ここからはフォーメーションを組んで戦いましょう
何もなしだと流石に厳しいと想います」
確かに彼女の言うとおりだ
藤乃達が来る前までフォーメーション無しでも何とかなったのはあの時は全員が万全の状態だったからだ
だが今は違う
CHARMやマギの消耗、軽い怪我を全員がしており、何もなしだと危険すぎる
しかし
「藤乃、フォーメーションを組むって言ってもどうするの?
私達はついさっき来たばっかりだし神庭の天野さんや都内の子はともかく相模のリリィがどんな動きするかなんて分からないよ
その天野さんだって普段とは違ったCHARM使ってるし…藤乃がなんとかするの?」
その言葉に神庭のリリィの一人が疑問をぶつける
すると藤乃は
「フォーメーションと作戦は…海漓ちゃんに決めてもらおうと思います
…いかがでしょう?」
そう言い海漓を指差す
先程のお願いとは次の戦闘からは司令塔をやれと言うことだったのだろう
神庭のリリィはそれに驚く
それもそのはず彼女がグランエプレで司令塔を努めて居ない事は周知の事実
ぶっつけ本番で即席レギオンの司令塔を任せるなど自殺行為に等しいからだ
百合ヶ丘や御台場、メルクリウスなどリリィの層が厚く実力者が揃っているならば任務にもよるが司令塔が未熟でも他のリリィのスペックのゴリ押しで何とか出来る
しかし、この場は違う
実力も百合ヶ丘レベルとは言えずこの中だと藤乃が上位者だがこの場にいる他の神庭のリリィは中堅クラスだ
海漓もスキラー数値が高く神庭だと上位だが他所と比べるとせいぜい中の上が良い所だ
都内の二人だって中堅
舞弓もガーデンでは上位だが全体的に見たら中の上
そんな中で即席レギオンを努め司令塔も即席は厳しい
そうなるのは当たり前…なのだが
「海ちゃん、司令塔出来るッスよ
中等部の時は次期司令塔や非常時の代理司令塔としての期待もされてたッス
ただ特戦に司令塔として選ぶのはまだ難しいから、取りあえずAZととして選んで訓練はAZとTZ両方やらすっていう方針だったッス
…まぁ色々あって神庭行ったからそのプランぶち壊れッスけど」
「え!?そうなの!?」
「そうッス
高レベルの戦術を要求され、必然とやることも複雑になるから、海ちゃん本人は戦術理解苦手とか言ってたッス
でも名門以外だと普通に通用するレベルには育てられたッスよ」
この友人、余計な事を話すものである
まぁ知られても不利益にはならないから構わないが、後々面倒な事にはなるだろう
とは言え不思議なことが一つ
「でも私、藤乃さんにその話した事ないですよ
レギオンも違うし一体どこで?」
「海漓ちゃんの性格や趣味、クラスでの日頃の立ち振る舞い、学業成績、秋日さんとの秘密の逢引や本来の戦闘スタイルに戦場での状況把握の仕方…諸々見て調べて、春先と今日一緒に戦って、海漓ちゃんになって、そう感じました
よく言われる前に出過ぎるのだって恐らくは相模の時にAZはそうやれと教育されて来たからでしょう?」
よく観察する人物だと海漓は感心する
確か藤乃はリリィの良い所を引き出すのが上手いと秋日が言っていたのを思い出す
お互いにレギオンが違い助っ人として生徒会と共に戦った回数も限られている為助言する機会がなかったがずっと伝えたかったのだろう
…趣味とか日頃の立ち振る舞いとか成績まで調べたとか戦うよりも怖い事をサラッと言っていた気もするが無視する
秋日のお願いを受ける為の逢引とか言っていたかも知れないが忘れることする
「海ちゃん、ストーカーされてないッスか?」
「仮にも生徒会だろう?流石にそれは?」
「いや、藤乃なら…っていうか天野さんになるって何?」
「(…ストーカー手前レベルでじっくり観察すればレギオンが違っても分かるぐらいにはTZ向きっていう仮設が建てられるって事ッス
なら普段から見てる上級生が海ちゃんにTZ薦めない理由は一体…?)」
周りもざわつくが聞こえない
聞こえないったら聞こえないのだ
舞弓も思うところは有るみたいだが口にはしない
「お願いっていうのは、私に司令塔やれって言う事ですよね?」
「はい。その上で結果を求めていきましょう」
「(秋日さんに外征するなら結果を出せって急かされた?
エレンスゲならともかくココは神庭だし、そんな指示を出すとは思えないけど…)」
生憎と海漓は生徒会とのやり取りを知らない為に藤乃が何で結果を求めるのか分からない
とにかくヒュージが来るのだからこうしてはいられない
早急に策を練る…とは言ってもこのメンバーにコンディションだ策と言っても限られる
「取りあえずフォーメーションは固定
私がTZですね
他は…」
その指示の元、配置に付き戦闘となる
「(後は私の次第…仲間を生かすも殺すも私の腕…か、急造でやるには荷が重いけどやるしかないか)」
グランエプレに来てからはずっとAZでやってきてこの立ち位置につくのは数ヶ月ぶりである
それでもやるしないし、何を考えてるのかは分からないが藤乃やこの場にいるリリィを生還させる為にもやるしかない
ここまで来たら出来る、出来無いじゃない
やるか、やらないかだ
フォーメーションを組み、戦闘を開始する
今回は突撃ではなく、全体を見て適切に動き、指示を出さなくてはいけない
そして、大切なのは
分かりやすく、明確な指示を出す事
「AZはとにかく数を減らす!
打ち漏らし?後続が仕留める!!
BZ組はヒュージの打ち漏らしとAZの死角をカバー」
やれる事など限られている
ならばやる事はシンプルだ
派手さ華麗さなど必要ない
すると
「海ちゃん!この付近に接近するレギオン有り!」
「何処!?合同組?」
「いや、クエレブレッス!!」
その言葉に戦闘している全員が驚く
クエレブレとはエレンスゲのトップレギオンの一角を担うレギオン
隊長は一葉と同じく一年生の松村優珂が務める
しかし、彼女達のレギオンはヘルヴォルのようなお行儀の良いレギオンではない
簡単に言うならば結果を求める為には手段を選ばないレギオン
その手の悪評も多い
本来ならば来るな…と言いたいのだが
「ほっとけ!!むしろ好都合だ
戦果求めるならヒュージを削ってくれる筈だしこっちの消耗も少なくて済む」
春先の時は来るなと言っていたがアレは萩窪だから
しかしココは新宿、ルドビコ女学院の守備範囲内
暴れようが何しようが神庭には関係が無いしルドビコとエレンスゲは派閥が同じ
暴れた際の処遇で何らかの裏取引があっても不思議ではないのだ、口を出すことではない
向こうは戦果を求めに来た
ならば十分に利用させて貰う
使えるのならばなんだって使う
下手なプライドで生き残れるほど彼女は優秀ではない
それに、海漓の古巣の相模女子だって必要に応じで暴れるのだ、クエレブレの考えが分からないということは無い
自分達の守備範囲で暴れたらそりゃ文句を言うが他所の守備範囲の事に口を出す理由はない
「各自仕留められなかったり、突破されたヒュージはクエレブレに押し付けていい
向こうは戦果を求めて来たんだ、喜んで討伐してくれる
…だけど、全員クエレブレの攻撃に巻き込まれないのだけ注意して、アイツら戦闘になったら容赦なくぶっ放して来るぞ」
「相模の荒れた先輩方みたいなもんッスからね、クエレブレ。いや、クエレブレの方がまともか?
…にしてもアレ、牧野美岳ッスよね
ルドビコ行ったんじゃ?帰って来たッスか?」
通信を入れつつ舞弓も同意
相模も荒れたガーデンだしクエレブレのやり方よりも過激な事をやるリリィは多い
そんなに嫌悪感は抱かなかったりする
そして、その中の一人牧野美岳だけは違う
確か彼女はエレンスゲからルドビコに転校したと言われていたはず
それにも関わらず再びエレンスゲに復学しているのだ
ルドビコの崩壊で呼び戻されたのか自分から帰ってきたのかは分からない
「さぁ?向こうの事情にまで口を突っ込むつもりはないよ
にしてもクエレブレ、顔見知りが多い…」
「提携先ッスからね」
転校に興味の無い海漓は知ったところで、である
ただクエレブレの面々も顔見知りがかなり多い、特に一年生
普通に会話した事があるレベルだ
まぁエレンスゲと相模女子は姉妹校提携しているから当たり前なのだが
舞弓と話をし、戦闘続行
無駄話をしすぎて陣形が崩れたなど笑い話にすらならない
そして到着したクエレブレはというと
「海漓ったら無視!?久しぶりの再会だし挨拶の1つぐらいあってもいいと思わない!?」
そんな事を言ったのはクエレブレ所属の
海漓とは顔見知りの一人だ
戦場とは言え挨拶の一つもないことに憤慨する
「しかし、意外だな
彼女はヘルヴォルとも交友があると聞く
私達は追い返されると思っていたが」
冷静に自分達の扱いに感心したのは
彼女の交友を聞く限り自分達は歓迎してこないと思っていた
無視とはいえ何も言ってこない事自体に多少の驚きはある
「仮にも相模出身です。私達のやり方は熟知していますし、来たことに対して非難する理由もないんでしょう
今だと
味方への誤射さえなければ…ですが」
そう話すリリィこそクエレブレで隊長を務める
特段仲が良いとかそんな事はないが自分達のやり方というのは理解しているし、相模だって似たような事をやるリリィは多い、自分達を非難する理由が無い事も分かっている
神庭にも相模にも影響は無いのだから好きにしろということだろう
ただリリィへの誤射には気を付けた方が良い。どこもそうだが相模は特に誤射やそれに近い紛らわしい行為をしたときには直ぐ様報復が来る
訓練で厳しくされるなど序の口
戦場で撃ち返して来るなど平然と行う
許されるのはヒュージの横取りぐらいだろう
「ふむ。臨機応変な思考という所か
こちらとしては有り難いが」
美岳もそれには納得
どうやらヘルヴォルに比べて話の分かる人物という印象を持つ
「クエレブレはいつも通りやるわよ」
優珂の声と共にクエレブレも戦闘開始
彼女達のやり方でヒュージを倒していく
海漓の司令塔としての初戦闘にまさかの増援となるがリリィの数が増えるのは良い事
当然向こうはお構いなしに暴れるのだ
被害は想定以上になるのが普通…なのだが
「(暴れるのは想定済み
やり方は熟知してる…ならそうしても良いように味方を配置し動かせば良いだけ)」
彼女はクエレブレが暴れるのを想定した指示を出す
クエレブレに向かわせるヒュージの数を計算し、破壊するであろう障害物を確認し事前に味方を退避させる
自分達にとって邪魔な物やヒュージをクエレブレに対処させる
力を合わせる、共に戦うというより相手を利用する形に近い
「(問題はクエレブレがいるこの場所を合同レギオンが通るかどうかだけだな
私はともかく他はクエレブレのやり方なんて認めないだろうし…到着してトラブルは避けたいぞ)」
とはいえ不安な事もある
それは合同レギオンとクエレブレが鉢合わせた際の反応だ
仕方無しと割り切り素通りするようなリリィではない
間違いなく揉めるし、矛先は咎める事をせず好き勝手やらしてるこちらにも向くだろう
増援に来たクエレブレのおかげかもしれないが戦闘が早く終わり後は合同レギオンを待つだけそんな時だった
都庁の方からヒュージの方向が聞こえると同時に爆発音がかすかに響く
「始まった!?
やっぱり葵さん向かわせても信じてはくれなかったか…」
それは都庁での戦闘開始と同時に自分達の事は信じられなかった事を意味する
葵を向かわせても駄目だった事に落胆もあるが、何処かで覚悟はしていた
名門とそうでないガーデンとの差だ
葵一人いてもどうにもならなかった可能性もある
もしかしたら司令部経由で自分達が知らない別ルートの紹介もあったのかもしれない
「頑張ったのに信じてくれないなんてかわいそ〜
どっちが酷いことしてるかわっかんないじゃーん」
「おい!勝手な行動をするな!!」
そんなこと言いながらヒュージを薙ぎ倒しこちらに向かってきたのはクエレブレの蒔菜と追ってきた美岳
「私らを煽りに来た?
それともこうなる事分かってたのか?」
「まっさか〜
私等は余裕があるなら援護に行けって命令をガーデンから下されただけ、ホントだよ?」
海漓の反応に蒔菜は何事も無く言い切る
増援を向かわせる辺りエレンスゲとしても今回の事件は予想外ということだろうか?
「一葉の奴、クエレブレが居るから別ルートを要求したのか?
お互い割り切れよ…非常時だろ
それとも百合ヶ丘側から提案…?」
そうなるとこのルートを使わない選択肢を取ったのは一葉
だが彼女の性格を考えると他者の言う事を信じないと言うのは変な話
そうなると百合ヶ丘側と言うことになる
この非常時にプライドを選ぶなと言いたいが…まぁ、無理な話だろう
「私らに何か言われても困る
どう思うかはそちらの勝手だが少なくともこれに関しては私達は無関係だ」
「終わった後に問いただすか…」
「それが良いと思います
この扱いは流石に神庭としても我慢なりません」
そう言い自分の背後に藤乃が現れる
揉めてると思い様子を見に来てくれたのだろうか
「あ、そうだ。
私らの邪魔しなかったお礼に良い事教えてあげる」
何かを思い出したかのように蒔菜は告げる
「何?」
「連中、博打するつもりだって
発動するかも分からないレアスキルに全てを賭けるんだってさ
確実な作戦も練らず絆とか奇跡とか下らないものに都の命運を賭ける
指名手配と言い今年の百合ヶ丘は本当に笑わせてくれるよねぇ?」
「何言ってんの?
それにどっから仕入れたその情報」
そんな事は無いと信じたい
自分達が戦ったのだってデータを集め、リリィを十分に休ませ確実に特型を倒す為の時間を稼ぐためだ
それなのに博打をするなど自分達…いや現在新宿で事態の収集に動いている全ての者への冒涜でしかない
それが事実だとしてその話をどこから仕入れたのか
この状況で嘘や相手をからかう程空気の読めないリリィではないはず
「司令部を経由して校長から。
多分神庭にも話が行ったんじゃないの?
何なら我らの一位様はしくったらヘルヴォルの隊長やめるなんて担当の教導官に言い切ったってさ」
「気になるならば都庁に向かうといい
…無駄話が過ぎた。私達はこの辺で失礼する」
そう言い蒔菜、美岳は海漓達の元を離れる
その後すぐにクエレブレはその場を後にする
違う所で暴れるつもりなのだろう
この辺りにケイブもヒュージも居ない
「私は都庁に向かおうと思います
何が出来るかは分かりませんが…
藤乃さんはどうしますか?」
「海漓ちゃんについていきます
この場は他の子に任せましょう」
その後は臨時レギオンの面々に自分達は都庁に向かう事を告げその場を後にする
残った面々も一通り現場を確認した後、移動するそうだ。
「さて、突っ走りますよ
間に合うと良いんですけど」
藤乃にそう告げ海漓達は都庁へと向かう
何が起きるのかを見届ける為に
Q そんなに我慢ならない?
A 夜通し戦って時間稼ぎしたのに実行する作戦が発動するかも分からないレアスキルに賭けるとか怒らない方がおかしい