この日の訓練の目玉とも言える合同訓練
その名もタグ
やる事は鬼ごっこだ
制限時間内にチームメンバーがどれだけ捕まらなかったかで点数を競う
鬼が背中につけたタグを奪えば高得点
味方の位置情報をCHARMのマギクリスタルコアに登録する事で離れていても連携が可能
チームワークが試される訓練である
…有志連合を意識した内容かもしれない
クジ引きでチームを分ける
…のだが
「これ、クジに細工とかされてないよね?」
海漓がそんな風にボヤくのも無理は無い
合同レギオンの縛りで言えば大半がその中でうまい具合に同じチームになっている
そんな中で海漓だけ知り合いが誰も居ないチームになる
高嶺もグランエプレの面々とは別だが御台場やルドビコのリリィのいるチームに振り分けられた
いくつかの組み合わせに分け先ずは予選、その後勝ち上がったチーム同士で決勝戦という流れになる
今は事前のミーティングタイムという事で自己紹介等を軽く済ませる
そして、競技開始
本来ならば連携をする競技…の筈なのだがとあるチームのとある組み合わせはその意図を全く理解していない行動を取り始めたのだ
「いやいや…あれ駄目でしょ」
海漓達のチームは競技開始直後、様子見の為各自建物の中に隠れたのだがそこで暴挙とも言える行動を目撃する
二水、梅を筆頭としたチームなのだが何を血迷ったのか開始早々に二水と梅がレアスキルを使用し文字通り他のグループを殲滅しにかかったのだ
「いいの、あれ?」
「レアスキル禁止とは言ってないけどこんなの訓練にならないよ」
「やられたガーデンの子も戸惑ってるよ…レアスキル使われるの想定してなかったんじゃ…」
そんな事を各々口にする
無理もない
二水はのレアスキルは鷹の目、梅は縮地
鷹の目の効果は空から地上を見下ろす視点が与えられる、状況を把握する
それらの把握した状況を見方に伝えられる力
縮地は簡単に言うならば高速移動だ
鷹の目で探し縮地で接近して終わり
単純な制圧作業
これを百合ヶ丘のリリィがやるのだ
知識も力も劣る他の面々では叶う訳がない…普通ならば
「流石、百合ヶ丘。期待を裏切らないね」
海漓はそう言う
自分達が捕まっていないのは建物の中にいるからだ
「(少しでも上になろうものなら自分達は理不尽を与える側か…本当にムカつく)」
これが本当の戦場なら確かに即死だ
もしかしたら今後、このような特性を持ったヒュージが現れる可能性だって十分にある
市民、リリィ問わず弱者がそのような相手と運悪く鉢合わせたらヒュージは理不尽に命を奪っていく
被害だって凄まじいものになるだろう
それは分かる
海漓だってリリィの端くれだ
だから彼女達の行動は全て正しいのかもしれない
自分達は強者で相手は弱者
弱者を理不尽に狩っていったって問題はない…とでも思っているのだろう
名門には弱いやつはリリィなど辞めろという者もいるぐらいだ。おかしくはない
だけどこんな理不尽な事をされて、優越感に浸っている光景を黙って受け入れ、百合ヶ丘は強いなんて呑気に思うほど、天野海漓はお気楽ではない
やられたらやり返せ、理不尽を与えてくるなら理不尽に倒せ、その位の気概は相模で培った
その為の策を練るなら今しかない
「何とか出来るの?」
「当たり前。あれで二水さんの底も見えた」
そう問われ海漓は堂々と返答する
個人的な感情を抜きにしてもあれを無警戒で堂々と行えるあたりに二水の底も見えた
こちらも遠慮なく行かせてもらおう
「策なんだけどね…」
そう言い海漓は案を伝える
「「ええっ!?」」
「声デカイ」
聞いた面々は動揺する
それはまさか、とも言える策だからだ
「作戦の鍵は貴方達だからね、頼むよ
私が最大脅威の梅さんを抑え込むから貴方達は指示通りに
敵チームに仕掛けるタイミングは貴方達に任せるから
あっそうだ。貴方は残って」
策を説明した後、そう告げる
一人だけ自分の所に残す
この作戦、最大の障害はやはり梅だ
あれをどうにかしなければ作戦も何もない
自分が一番強いから引き受ける…というよりも合宿の時に一度対決しこの場は自身にとって少しだけ有利に働く事
そして何より百合ヶ丘の思考というものをわかっているからこその提案だ
手の内を知っている相手が敵に回ったら驚異になるはずだ
「う、うん!」
「気をつけてね」
返答を確認すると海漓もレアスキルを発動し姿を消し、建物から脱出、梅を探す
狙うリリィの特徴も分かっており見つけるのに時間はかからなかった
「私は…?」
「貴方は…」
残した一人に耳元で策を伝え、配置につかせる
「(欲張っても良いこと無いのに何やってんだが)」
海漓はそんな風に考える
この訓練、自分達以外を全滅させろというルールや全滅させるまでのタイムを競うではない
制限時間内にどれだけ多くのリリィを捕まえ点数を稼いだかを競うもの
既に二水達は参加グループの大半を撃破したのだから勝ちは決まったも同然。
残りは自分達と一葉達のグループ位だろう
もしかしたら何処かに隠れているかもしれないが、それらを自分や一葉達が倒しても二水達の点数には届かない。
本当に勝負がついたのだ
後は適当に逃げ回れば勝ち
これ以上攻めて残りを全滅させにかかった結果、下手にカウンターを仕掛けられ、タグを奪われ、失格となり稼いだ点数を全て失い負けるリスクを犯す必要は全く無い
それでも全滅させに来るというのはまぁ、完璧を目指す百合ヶ丘らしいとも言える
そもそも作戦としても穴がありすぎる
攻めも守りも梅に任せ自分は指示を出すだけで高みの見物など司令塔以前にリリィとして恥ずかしく無いのだろうか?
ここが本当の戦場で対ヒュージと戦い自分が司令塔と仮定したとする。
味方に指示を出すだけで自分は戦わず、フォローも全て先輩や仲間任せなリリィなど情けないではないか
背中に守って貰う事はあっても自分から背中に隠れに行くのは違う。
リリィになって数日ならともかくもう半年は経つのだ。
最低限自分の身は自分で守るか味方が戻ってくるまでの時間を稼いぎ逃げる位の実力を身につける。ぐらいの事は出来ていないと駄目である。
まぁ、これは海漓の価値観であり百合ヶ丘では許されるのかもしれない
それに二人しかいないならばまだしも彼女の所にだって仲間がいる
近くにいないという事は何処か安全な所に隠れてもらっているはず
作戦に参加していないところを見ると…恐らくは何処か一箇所にまとまってもらっている。それも絶対に見つからない所に…それはまぁいい。海漓は既に対処するための指示は出した
話を戻そう。
例えば鷹の目の範囲外の敵を梅に任せ、範囲内はグループの仲間に任せればカウンターも仕掛けられにくい
仮に攻められて厳しくなれば自分と仲間で時間を稼ぎながらタグを守り、その間に戦術の要である梅に戻ってきてもらえばいいのだ
それこそ優先して高速移動系のレアスキル持ちや視覚系のレアスキル持ちを狙えば勝率は格段に上がる
結局の所、強いリリィを扱う事はできても自身の求める基準に満たないリリィを扱う事は出来ないのだろう
名門は何処もそうなのかも知れない。
新宿事変の時の舞弓との会話そのままである
「百合ヶ丘は他所の情報を信じない」
更に言うなら他所、特に弱いガーデンのリリィの事など信じていない
多かれ少なかれ名門ガーデンならば誰もが持っている思考だ
特に生え抜きともなればそれはかなり強い
だが気になる事もある
「(この子、確かリリィになったのは定盛ちゃん達と同じように高等部からだろ?それが半年でこんな思考になるって百合ヶ丘マジで怖すぎる…元々あった思考が百合ヶ丘で開花した?)」
確か二水は自分達と同じ高等部からのリリィそのように姫歌が言っていたはずだ
百合ヶ丘に入学すれば本人の人格に余程の問題がない限りはガーデンから手厚いサポートが受けられる
レギオンの内外問わず恵まれた指導を受けられる
それこそ、海漓では絶対に体験出来ない事ばかりだろう
そりゃそんな所に半年もいて得意な戦術の勉強をすれば強いリリィを己の意図するままに動かせる力を得られる
羨ましい限りだ。
とはいえ入学してまだ1年も経っていない
それにも関わらずここまで見事に百合ヶ丘のリリィになってしまうなど尊敬を通り越して恐怖でしかない
だが、今回はそれが大きな隙となる
梅は強い。自分が真っ向勝負を挑んだ所で瞬殺されるのが目に見えている
人として、リリィとして、出来が違いすぎるのだ
二水は優秀なリリィだ。
百合ヶ丘の門をくぐり今まで生き抜き、その中で経験を、知識を得た
百合ヶ丘に入学できた時点で自分よりも資質は上だ
そして百合ヶ丘内で出来た人脈を活かし、己の力を磨いてきた
それも既に自身を上回っているだろう
もしかしたら彼女の背後には優れた司令塔の上級生がいてエースを活かすための本格的な指導を受けているのかもしれない
同級生とは切磋琢磨し腕を磨いているだろう
だがそんなエリートだからこその隙が出来た
誰が言ったか
【撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ】
この状況そのものだ
レアスキルを発動し相手を殲滅するならば自分達もレアスキルを使われ殲滅させられる覚悟があるからだろう
訓練の意図も理解せずにやるなら尚更だ
【世の中自分の思い通りになると思うな】
これもよく言われるだろう
リリィの権利がとか言われるかもしれないが別に言われるのはリリィに限った話ではない。リリィでなくても子供も大人も普通に生活してれば一度は聞く言葉だ
世の中全て自分の思い通りに行くなどまず有り得ない
戦場なら尚更だ
この状況そのものだ
このまま百合ヶ丘の思い通りなどさせてたまるか
抵抗…とまではいかなくとも嫌がらせの一つでもしてやらなければ気が済まない。
この策だって作戦というよりも単なる嫌がらせだ。
というか嫌がらせが大事だ
普段の日常生活でこんな事やったらリリィ以前に人として大問題だが戦いでは話が別
相手の嫌がることや恐れる事、致命的な弱点ををついて倒す。戦いとはそれの繰り返し
このような競技もヒュージとの戦いも同じだ
そんな事はせずに正々堂々と華麗で美しく戦えるのは姉を筆頭とした上層のリリィのみ
生憎自分はそちら側でないし相手の土俵に立つつもりとない
自分のやり方で戦うのだ
いや、それしか出来ないのが彼女であり大半のリリィだ
その為の策は練った
後はそれぞれが役目を果たすだけ
海漓は手元に落ちてた小石を拾い上げ梅に投げつける
姿も気配も消えた状態で
「…!?何処だ!?」
「こっちですよ、こっち」
「そこか!!」
声の方向に梅が近づきそこに居た海漓を捕まえる
彼女の速度に海漓は対応出来ずに難なく捕まる…と思われた
「…消えた!?」
梅の手は彼女の体をすり抜ける
虚空を掴んだのと同じだ
「だから」
一人
「こっちですって」
また一人
「ほら、ほら。良いんですかボケっとしてて」
更にもう一人
「!?!?!?」
彼女を囲むように海漓が三人出現
それだけではない
そこにあった建物が姿を消し道ができたかと思えば、何もなかった所には建物が
地面からは大量の水が湧き出で来る
「いやー、助かりました」
「貴方達が考えなしにレアスキルをぶっ放してくれて」
「これで私達もお構いなくレアスキルを使えます(いや、本当に助かった
純粋な身体能力なんて私アレだし…)」
分身した海漓が一言ずつ話す
これはすべて本音だ
煽ってはみたが自身の想定通りに抑え込めばいい方だと思っている
やはり大きいのはこちらにレアスキルを発動する大義名分をくれた二人だ。感謝してもしきれない
純粋な身体能力の勝負に持ち込まれたら海漓は何も出来なかった
鬼ごっこで必要な足の速さなんて海漓にしてみれば最悪の一つ
マギも何も使わない純粋な鬼ごっこなら足の遅い海漓などカモられる…普通の鬼ごっこなら灯莉や姫歌に捕まるし二人を捕まえられないレベルだ
これで自分も思う存分レアスキルを発動出来る
「おいおい。忘れたのか?
こっちには鷹の目を持ってる二水がいるんだぞ」
梅はそう話す
自分達は無敵とまで言っていたのだ
そりゃ、そう言う言葉も出るだろう
当たり前だ
「なら、聞いてみれば良いんじゃないですか?どれが本物か」
「話している間に」
「梅さんが背中のタグを取られても構わないなら…ですけど」
だが海漓はそう忠告する
別に二水に聞かれたって海漓は構わない
自身から意識を一瞬でも外した瞬間に背後を取りタグを取ればいいだけ
これに関しては確信がある
現に最初の投石を梅は避けれなかった し幻覚にあっさりと引っかかった
それを踏まえての発言だ。
海漓としたらやるなら、やれ。である
「タグを取ったほうが早い…
取ったら消してくれるんだろ?」
「えぇ、勿論。」
梅としては自身が戦術の要である以上海漓の相手を諦め二水の所に戻ればそれで良い
しかし、この幻覚だ
道すべてが幻覚で二水とは逆方向に誘導された、なんて事も起こりかねない
ならば海漓のタグを取るのが先決だという判断をする
海漓としてもここまでは想定内
こっから先は未知数だ
意図しない形ではあるが、こうして海漓対梅
合宿以来の直接対決が始まったのである