ルドビコ女学院に駐在してから3日程たった日の事だった。
自分達は先の戦闘で遭遇した特型ギガント級、メイルストロムと名付けられた個体を御台場女学校のトップレギオンであるヘオロットセインツ、ロネスネスと共同で対処する事が告げられる…のだが
「簡単に御台場女学校を説明するわね」
叶星がそんな風に告げる
共に戦う相手の事、通っているガーデンを知るのは大切である
「東京を守る御三家の一角
幼稚舎からの一貫教育で武道を中心としたカリキュラムを組む
『成功は苦しみからこそ得られる』っていう校訓の通り厳しい訓練を行って優秀なリリィを多く排出しているガーデン
大雑把に言うと御台場女学校ってこんなガーデンなの」
「少し付け足すと御台場女学校ってベオウルフの世界観がガーデンの特色になっているの
厳しい訓練も強い戦士となる為
後は剣への拘りも強いわ」
叶星の説明に高嶺が軽く補足する
凄く大雑把だが御台場女学校を適切に表している…が
「(いや、メルクリウスと提携の話をハブったら駄目でしょ…むしろ一番大事
…それにしても強い戦士、か。
そう言う育成、指導をされたなら私となんて合う筈が無い
今までの行為もある程度説明がつく)」
海漓は少しだけ違和感を持つ。
確かに御台場は強豪だ。
自分達のように世間から落ちこぼれと呼ばれたことなど無いが、今の地位に自分達の力だけでなったかと言われると少しだけ違う。
鎌倉5大ガーデンの1つ聖メルクリウスインターナショナルと姉妹校提携をし育成にも力を入れた事で現在の地位となった。
ここ数年で急激にファンタズム覚醒者が増えたのもメルクリウスのノウハウを手に入れたおかげとも言われている
更に言うなら今の2年生世代…それこそ船田予備隊と言う将来の御台場の主力を担うために集められた面々は相当な恩恵を受けているはずだ
にも関わらずこの言い方
姉妹校提携のおかげで強くなった事をどのように考えているのだろう
後は先程の高嶺の戦士という言葉
この言葉が事実なら自分と合わないのなんて明白だし、今までの行為にも説明がつく…彼女は勘違いをしていたのだ
今まで感じていた叶星の隊長としてあるまじき行動の数々
それらが例えでは無く、正真正銘、本物の強い戦士を育てる為の環境にいたのならば説明がつく
中等部からとはいえ軍隊風の相模女子で過ごした、自分とは育ってきた環境もリリィとしての思考も何もかもが違いすぎる。
海漓が叶星と高嶺の数々の行動に疑問や反発を抱くのも当然である。
「(そりゃ向こうが戦士なら私となんて考えが合う訳無いし、新宿後のミーティングで司令塔やらせないっていう判断するわ。
戦士が例えじゃなくてガッチガチなら尚更)」
能力以前の話
自分達は戦士であるという誇りが心の中に有るならば、軍隊風のガーデンで育ったリリィが立てる作戦など従いたくはない…戦士ならば当たり前だ
自身が戦士の思考を理解できないのと同じだ…否定はしない
叶星と高嶺が戦士ならば海漓は兵士だ
相性は最悪と言っていい
…直近で言うならば新宿事変の際の一度目の撤退拒否など最たるものだ
ヘルヴォルの面々で勘違いされがちだがエレンスゲも軍隊風
一葉は影響を受けていない為、勘違いされがちだがアレは特異だ
まぁヘルヴォルを変えたい、エレンスゲを変えたいと思っているのだから当然かもしれないが
「すっごい格好いいガーデンだね☆」
「全然伝わってない!!」
御台場の話を聞いた灯莉は無邪気にそう言い姫歌は突っ込む
確かに格好いい、それは事実かもしれない。
「(うーん…)」
格好いいでガーデンを判断されても困るのだが…それは言えない
それに気になる事もある
「(駐在してもこれ…本当にお気楽というか…)」
これもいつもの雰囲気だ。変わらないらしい。
そろそろ、緊張感とかそういう言葉を頭の辞書に入れてほしい
海漓としては呆れるしかない
暫く雑談を行った後に
「紅巴が強豪御台場出身って言うのも驚きだけど
でも、言われてみると納得よね」
「何がですか?」
「だって紅巴、努力家じゃない
そんな厳しい訓練を耐えてきたって納得感があるなーって」
「うん!納得、納得!!」
「(少し語弊は有るけど…まぁ、良い)アーセナルとリリィの平行だからね
普通にスゴいよ」
姫歌と灯莉は紅巴を褒める。
海漓も同じだ。他人の成功を否定するような事はしない。少なくとも、自分は
御台場の訓練が厳しいのは有名な話、それを乗り越えてきた事への称賛
「アーセナルからリリィになるなんて並の努力じゃない
誇っていいと思うわ」
叶星もそのように告げる
「あ、ありがとうございます!」
努力は必ず報われる…紅巴はまさにそれを体現した人物と言える
その後、高嶺と叶星はこれから御台場に向かう事を告げる
共同で作戦をやる以上、コミュニケーションは必要との事なのだが…
「(御台場としては叶星さんと高嶺さんが目当てかな?…
特型ギガント級を倒す戦力も十分に揃ってるし、私達とか邪魔にしかならないでしょ)」
海漓としては御台場が自分達と組むメリットが無いと判断する
御台場は御三家の一角を担う強豪ガーデン。
叶星の説明にもあったがリリィの能力、層の厚さは神庭の比ではない
特に今回組むヘオロットセインツ、ロネスネスなど御台場の中でも上層のリリィの集まり
そして、この2つのレギオンは御三家なので当たり前の話だが9人制のノインヴェルト戦術を導入しており、人数もセインツ13名、ロネスネス9名と発動条件を満たしている
ロネスネスは9名で人数ギリギリ、そして特型が相手だ。
万が一の事を想定するならバックアップは確実に欲しい…そうなると目をつけるのは叶星と高嶺だろうと海漓は予想する
叶星と高嶺がバックアップに入るのか、それともロネスネスの中から二名をバックアップに回し叶星と高嶺を本隊に加えるのか、までは分からない
更に言うなら彼女達は今年、姉達と同様に北閥を経験したメンバーだ。
格下レギオンの力を借りる必要も全く無い
そんな所が自分達と組む理由は何処にもない。
仮に増援を頼むとしても御台場の現トップレギオンの前身である船田予備隊に所属していた叶星と高嶺以外は不要だろう
そんな事を大々的に言ってしまえばいくら御台場と言えど大問題、だからグランエプレ全員に声を掛けた
自分達など御台場からしたらおまけ程度
「(いつもの如くハブられて後方待機が目に見えてる。
…まぁ後方支援も大事だし、やるけど)」
正直自分達が必要な理由が何もない
後方支援が主な目的だろうが、それだって立派な任務
やるからには確実に、だ。
「ガーデンからの通信?」
叶星はそう言うと席を外す
ガーデンから、と言う事は神庭の上層部、もしくは秋日からの連絡だ
このタイミング…神庭に何かあったのだろうか
秋日達が居るとはいえ緊急の何かが起きたのならば自分達は戻る必要がある
「房総半島にヒュージの大群が出現!
その中にメイルストロムの目撃情報も上がったらしいわ!」
「(房総半島…か)」
自分達のターゲットである特型ギガント級、メイルストロムの出現を教えてくれたようだ
自分達も神庭の守りで大変な中での支援…感謝である
出現した場所は房総半島
彼女自身が因縁のある土地では無いが、天野天葉の妹と言う肩書を考えると天野の血と因縁がある…とも言える
妹としたらはた迷惑な話ではあるが
外征が決まり、各々準備に取り掛かる…
「いや、海漓どんだけ弾薬持ってくつもり?」
姫歌はそう言ってくる
CHARMの準備をする…が彼女だけは弾薬をかなり多めに準備している光景を見たからだ
「新宿事変終わりに機体を改良してもらってね
親機、子機両方に実弾とマギのビームの切り替えを可能にして貰ったんだ
後は情報通りなら大規模かつ長時間の戦闘になるし、そうなると補給も怪しいから…」
「大変ねぇ…」
姫歌は同情気味に言う
海漓にとっては補給絡みは死活問題だ
マギ保有量の視点から彼女は実弾兵器を好んで使う
海漓のトリグラフもそれを考慮し、新宿事変終了後に親機、子機共に実弾とマギのビームとの切り替えが可能なように改良してもらった
マギを節約しながら戦うという目的は果たせたがその分弾薬の消費が凄まじくなってしまったのは仕方が無い
実弾兵器を使う、マギの消費を抑えるような部品をつける
本人の努力の他にCHARMそのものにも色々と改造を行っている
今回の外征の場合、補給を簡単に受けられるとも限らない
最近だと新宿事変が最たる例
まさか外征先でトリグラフ使いのリリィを見つけて
『トリグラフ用の弾薬ちょーだい☆』
なんてふざけた事を言える訳がない
弾薬が尽きると相当苦しくなる為、多めに持っていくのは当たり前の事
マギ保有量が少ない海漓ならではの問題だ
それだけは本人の努力ではどうにもならなかった
マギを気にせずに戦えるリリィが羨ましいと常に思っている
今でもそうだ
「(私のマギも不安だけど…
最大の不安要素は)」
彼女はそう思いながら姫歌達の方を見る
言い方は悪いが叶星と高嶺はどうでもいい
御台場に合流しするか、いつもの如く『私と叶星だけ』とか上手いこと言って自分達の事を放置する前提で考えさせてもらう
グランエプレの6人で連携して戦えたらラッキーレベルだ。
「(何時ものノリじゃ駄目なんだけど…言ってもわからないんだろうな)」
この状況でも緊張感のかけらもない面々
外征を行い特型ギガント級を討ちに行くということの重大性を全く持ってわかっていない
海漓も鬼や悪魔ではない
いつもの如く姫歌の指示は聞くし三人のフォローはするが…それでも戦場で気を抜かない、フザケないなど最低限の事はそろそろやって欲しいのが本音だ
現地に向かわないと分からないが状況によっては冗談抜きにフォローにも限界がある
戦場を舐めてると捉えられない事を繰り返してもここまで大きな怪我なくやってこれてるあたり、叶星と高嶺のお陰という事を抜きにしても、才能で言うなら海漓よりも上なのは確実だ
彼女が相模時代に姫歌達みたいな事をしたら教導官や上級生に怒られる…がそれはまだマシ
命を落とすか、生き残っても腕や足が吹っ飛ぶ位の事は確実であろう
才能とは本当に恐ろしく、残酷である
だからこそ、海漓が下手に言っても以前のようにトラブルになるだけ
叶星と高嶺も怒らない
「…御台場に迷惑かけなきゃいいけど…」
そんな事を呟きながらもグランエプレの6名はガンシップに搭乗し、現地へと向かう