ヒュージの動きが鈍くなり、ここから再度攻撃を仕掛けようとしたその時だった
「叶星先輩、あのヒュージ、何かする気だよ!!」
「全員距離を取って!マギ干渉が強くなる!!」
灯莉の指摘と同時に叶星の指示
「急いで!!」
「はい!」
槿の指示と同時に海漓も下がる
後退と同時に金切り音のような音が大音量で響き渡る
「これは、中々…!!」
マギへの干渉というのもあるが、それ以上に聴覚へのダメージが大きい
距離を取れば影響が薄くなるのは不幸中の幸い
灯莉の目を頼りにすればこちらは影響を受けずにノインヴェルト戦術を行う事が可能
それを全員が理解したからこそ、このタイミングでノインヴェルト戦術を行う事を決める
「灯莉さん、貴方がこのノインヴェルト戦術を成功に導く為のキーマンです」
「なら私は灯莉ちゃんの護衛とバックアップに入ります」
「よろしいのですか?」
「えぇ、どっちにしろもう一人はバックアップ要員になる訳ですし…経験を考えたら私が適切じゃないですか?(本当なら高嶺さんが引っ込めば良いけど絶対に降りないからな!)」
椛への提案
ここには計11人のリリィがいるが、正式なノインヴェルトは9人で行う為二人余る
灯莉はノインヴェルト戦術を行わずメイルストロムを見張り、異変が有れば通達する役割
残りは後一人だが、ここで海漓がノインヴェルト戦術に参加した場合、姫歌か紅巴が外れる事になるのだが初心者二人に灯莉の護衛と非常時のフォローを任せるのは非常に心細い
良くも悪くも第一線の役割しか知らない為、こういう時のバックアップのやり方が分からないし、教えてもいない
経験者がバックアップに回るのが最適解となる
勿論高嶺の事を考えると彼女をバックアップに回し海漓が参加するのが最適だが、そんな事が判断できるならとっくにしているし秋日もグランエプレへの見方を改めている
「(強い戦士っていう教育と名門って言う事もあるんだろうけど…後は叶星さんか)」
戦士という特性を考えても自身の体調を見て後退や他人に出番譲る考えなど有る訳がない
名門のリリィ特有のプライドも有るだろう
他にも叶星が戦ってるのに自分が下がるなど有り得ないという思いも有るだろう
二人は自分達を戦力や仲間として計算していないにしろ、ここまで過ごして来たのだ。ある程度の思考は読める
そんな事もあり彼女がバックアップを務める形になるのは必然だ
御台場のリリィにバックアップをやらせる訳にもいかない、流石にそれは大問題になってしまう
「バックアップはお任せします
万が一の時はこちらの指示に従って下さい」
椛もその提案には同意
バックアップの重要性を理解しているのも大きい
彼女が隊長を務めるセインツは計13人のレギオン
そう言う役割のリリィも抱えているのだから尚更だ
その後、機会を伺った後ノインヴェルト戦術が開始される
そしてそれに合わせるように再度特型のスモール級の群れが出現
「やっぱりバックアップに回って正解だったかな、私」
そんな風に呟きながらも支援を行う
弾薬もマギも十分にある
使うならばここだ
主に姫歌と紅巴を射撃で支援しながらノインヴェルト戦術を観察する
「(御台場組はともかくなんで叶星さんはなんの躊躇いもなく紅巴ちゃんを普段と違うポジションに入れるんだ?)」
ノインヴェルト戦術のフォーメーションも見ながらの支援になるが、気になったのは紅巴の立ち位置
彼女は本来ならばBZ
しかし、今はAZの近くでポジションを取っている
グランエプレも可変フォーメーションを採用している為、リリィのポジションがこまめに変わるが紅巴があの位置につくことは今までなかった
「(本人もそんな性格じゃないしレアスキルと技量を考えたらBZで問題ないと思うけど)」
本人の性格と技量レアスキルであるテスタメントの性質を考慮すればBZは適切だ
勿論、テスタメント持ちでAZや前めにポジションを取るTZも居るがそれがセオリーと言う訳ではない
「(前に出す計画でも有るのかな…いや、特型ギガント相手に慣れない合同ノイヴェルトでのフォーメーションでやる事じゃないけど)」
今後紅巴をあの立ち位置で起用する計画があるのかも知れないがこのような状況でやることでは無い
先ずはグランエプレ単独での訓練で試すのが先だ
ぶっつけ本番でやらせることでは無い
「余計な事考えてる場合じゃないか…!」
とは言え考えてばかりもいられない
彼女には彼女の役割がある
支援射撃と言わんばかりに特型ヒュージを確実に撃ち抜いていく
狙うのは主にノインヴェルトを行っているリリィに向かおうとしているヒュージ
特に姫歌と紅巴に向かおうとするヒュージを最優先で狙う
相手の移動先を予測し攻撃を放つ
「灯莉ちゃん、ヒュージに異変は?」
「ないよー」
時折、灯莉に声を掛けることも忘れずに
流石にこの状況でヒュージに気を取られ自分の仕事を忘れるような事は無いと思うが念には念を…だ
「あっ、とっきーが!!」
「…ありゃ不味い」
ノインヴェルトも終盤、問題の紅巴にパスが回ったのだがヒュージに囲まれてしまいパスを放てない
残るは椛と純
純はメイルストロムの近くに、椛は少し離れた位置に陣取っている
「(どっちへのパスをアシストすれば良い?)」
誰にパスを渡すのか
それが分からないと援護が出来ない
ヒュージの群れを蹴散らしパスコースを作る事は可能だ
後はどちらがパスを要求するか、だ
「海漓さん」
すると、椛がこちらに目配せをする
恐らくは自分へのパスコースを作って欲しいと言うことだろう
「だったら…!」
包囲が薄いのは紅巴の後方
射撃で周辺のヒュージを素早く撃ち抜くと
「紅巴ちゃん!椛さんにパス!」
「えっ!?で、でもせっかく詰めた距離が…」
ここで椛にパスをしてしまえば距離が開いてしまう
そんな風に考えたのだろう
「問題ありません。私を信じてください」
椛は心配いらないと告げる
「で、でも…」
「でもじゃない、良いから早く投げなって!!
椛さんの言う事を信じろ!!」
「わ、分かりました!!」
一分一秒を争う時に素早い切り替えと即座の対応が出来ないなど問題外だ
本来とは違う立ち位置にいるから仕方の無い部分もあるが、味方にパスを放つという基本的な事を躊躇っては駄目だ
紅巴の性格が内気であったとしても強めに言う
そもそも、椛にパスを放てば詰めた距離が開くなど言われなくても分かっている
自分達以上に多くの戦いを生き残ったリリィだ、知識も経験もある
パスを要求したという事は策や何らかの手段があるという事
少ない間とはいえ共闘し、世話になった者の言葉を信じないなど海漓からしたら有り得ない
パスを投げ終え椛が受け取ったのを確認すると
「包囲網を作り直される前に離脱するよ!!
急いで!!」
「は、はい!」
「(なんであの場面で叶星さんと高嶺さんは『椛を信じて』の一言が言えないんだ…)」
紅巴を連れ、ヒュージを蹴散らしながら急いで包囲網を突破
そもそもの話、先の椛を信じろという言葉は自分よりも先に叶星と高嶺が言わなければならない言葉
苦楽を共にした自分達の仲間なら尚更ではないのかとすら思ってしまう
「気を付けて、あのでっかい音が来るよ!!」
灯莉の指摘とほぼ同時に椛は純へとマギスフィアをロングパス
そのまま純がフィニッシュショットをメイルストロムに放ち、勝負が決まる
エヴォルヴのようにマギリフレクターで弾く…と言うことが無かったのは幸いだ
特型スモールの群れもメイルストロムの撃破と同時に消滅する
親玉であるメイルストロムが撃破されると連鎖して消えるタイプだったようだ
各々が勝利の余韻に浸る中、彼女は冷静に振り返る
「(危なっ…後少し紅巴ちゃんのパスが遅れてたらフィニッシュショットよりも妨害が先で詰んでたじゃん)」
やはり鍵はあの場面だった
紅巴のパスが後数秒遅れていたらメイルストロムの妨害が先に決まりノインヴェルト戦術が失敗していた可能性が大いにある
あくまでも可能性だ、パスが遅れていても成功していた可能性だって十分に有る
いや、御台場の二人ならば強引にでも成功に持っていったかもしれない
付近に撃ち漏らしが居ない事を確認した後、臨時の司令部まで歩いて戻る
戦闘は終わるが、多少の後味の悪さが残った形となってしまう
順番を見直したら
叶星→槿→楪→定盛→高嶺→初→紅巴→椛→純
そら突っ込む