さて、出撃拒否をした上でのパトロール
何もグランエプレや一柳隊との行動が嫌だったというだけが理由では無い
「(念には念を…ってね)」
それは今までのヒュージの行動
ここ最近は特にその傾向が強いのだが主力となるリリィの不在をついたかのようなヒュージの大規模な攻勢
新宿事変の際は御三家
先の外征では羽衣女学園、主力部隊が不在だった
ヒュージがこちらの行動を完全に把握したかのような襲撃を何度も仕掛けているのだ
状況は違えど防衛構想会議の際はリリィが一箇所に集まっている最中の襲撃
程度に差こそあれ知能があるヒュージは今まで戦ってきた
陽動を仕掛けたなんて例は多くある
今回も形だけ見ればヒュージの大群を対処する為に多くのリリィが出払った形になる
万が一の可能性は考えるべきだ
学習するのはヒュージに与えられた特権ではない
人間だって学習する
何度も同じ手に引っかかる訳には行かないと考えるのは普通…の筈だ
そして、この手の悪い予感というのはわりかし当たる
「…ヒュージ出現…場所は…近いな」
案の定と言うか何というか、ヒュージが出現
場所はルドビコ女学院近郊の住宅地だ
海漓は手早く準備を整えすぐに出撃、ルドビコ女学院のリリィも同様…なのだが
「(怪我やら疲労で万全には程遠い…こりゃ苦戦するぞ)」
ルドビコ女学院のトップレギオンや選出経験のある実力者は軒並み別地域に現れたヒュージへの対応で不在
この場にいるのは万全ではない者ばかり
御三家のリリィだ。万全ならばスモール級相手に遅れなど取る訳無いが今回ばかりは厳しい
戦闘だけでなく市民の避難も同時に行わなければならない以上、当然だ
市民の避難が最優先なのは当り前
だがその市民めがけてヒュージが接近しているのならば倒すしかない
「私達が市民を避難させるから…貴方達はヒュージを!」
「分かりました」
あくまでもルドビコ女学院のサポートに徹する
ここは彼女達の庭だ、避難場所や通じる道は全て頭に叩き込まれているに違いない
下手に出しゃばらず与えられた任務を確実にこなすだけ
だが、彼女は一つ気をつけなければならないことがあった
「(流石に派手にぶっ壊すわけに行かないか)」
このような状況だ。
本来ならば人命最優先、状況見て建造物等は最悪破壊してでも市民を守れの相模方式で行きたいが…やると後で面倒くさくなるので自重する事にする
ヒュージと戦いつつも市民の避難を滞りなく行わせ建物の被害を出さない。
その為にもルドビコ女学院のリリィとの共闘は必要不可欠
指示を聞きながら住宅街を移動し、ヒュージを見かけたら連携し撃破する
付近のヒュージからの反撃を許さず速やかに、だ
今回は全員が近接戦で戦っている
それは海漓も例外ではない
彼女は本来射撃を得意とするリリィ
態々近づかなくとも撃てばいい、と思うかもしれないが
海漓程の腕ならば外す事はほぼ無い。
しかし、万が一外れた弾丸によって住宅の壁や塀を破壊した場合
『リリィが人々の営みを破壊して良いのか!?』
『ルドビコ女学院は無傷なのに!』
なんてクレームが入りかねない
「待って!なんで人がいるの!?逃げ遅れた!?」
「保護してきます!」
ヒュージを倒しながら住宅地を進んでいると、逃げ遅れた住民らしき人物を発見
しかしこの辺りはもう避難が完了したと伝えられていた場所
にも関わらず逃げ遅れた市民がいたら同様する
ルドビコ女学院といえど例外ではない
「(やっぱり居たか…この手の馬鹿市民)」
しかし海漓は少し違っていた
本当に逃げ遅れたのならば焦りと助かった事への安堵、走って逃げたのならば疲労があって然るべき…だがこの市民にはそれらが見受けられない
疑われる事はただ一つ
戦場で戦うリリィ見たさによる避難の遅れ
そんな事あるのか?と思うかもしれないが実際に有る
神庭では幸運な事に遭遇していないが鎌倉では近著だった
百合ヶ丘やメルクリウス、桜ノ杜といった強豪ガーデンのリリィはリリィで有ると同時にお嬢様
そんな彼女達は戦場でも華麗で美しい立ち振る舞いを行い、戦闘外でも芸能人のような活動を行っているリリィも多数存在する
最も身近な所だと姉や郭神琳が該当する
そんな事を繰り返していれば市民はリリィを芸能人か何かと勘違いし、戦場で戦う姿見たさで避難が遅れたなんて事例が多数報告されている
勿論、市民も貴方達見たくて避難が遅れましたなんて言う訳がないし、リリィもそんな事考えるわけがない
まぁ、お嬢様が善良な一般市民を疑う訳もないし当たり前だ
ゲヘナさえ絡まなければ、の話だが
だが相模女子のようなガーデンに所属するリリィは違う
仕草とか諸々で分かるのだ
本当に逃げ遅れたのか、リリィ見たさに故意に逃げ遅れたのか、が
言い方を悪くすればヒュージを舐めた一般市民だ
リリィが来るから逃げ遅れても大丈夫というふざけた考えもあったのだろう
「(流石に罵倒するわけにも行かないしな…)」
ヒュージを舐めたリリィならば腹も立つし怒りたくなるが市民となると話は少しだけ変わる
老若男女問わず罵倒する事も出来ず、かと言って見捨てれば大問題
見つければ保護するのが当たり前だがそれでは結局変わらない
「(スモールなんて大したことないーって言うのが変に伝わってるのが悪いんだよね…)」
根幹にあるのはヒュージの中でもスモールやミドル級は弱い、と言う事が伝わりすぎていることだろ
確かに弱いし油断しても問題は無い。たがそれは武器を持った才能のあるリリィから見た場合の話だ
大半の人間はスモール相手でも普通に命を落とす。軍人もリリィも関係なしに
…そこを理解していない馬鹿が多すぎるのだ
市民もリリィも
逃げ遅れた市民を保護、数名が避難先まで連れていくため離脱
残りは海漓入れて4名だ
「まだいるかも知れないから気をつけていこう」
ルドビコ女学院のリリィに頷くと再び歩みを進める
助けられてよかったと安堵している
どうやらルドビコ女学院も市民は疑わないタイプらしい
暫くするとヒュージはすべて撃破されたと告げられ、残党がいないか再度確認を終えた後ガーデンに帰還せよと言う命令が下される
「手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ」
ルドビコ女学院に帰還後、その場は解散となる
帰還後も時間差で出撃するヒュージの群れの対処となり何度も出撃する、丁度夕方に差し掛かった時だった
「…何だ?」
校舎内が騒がしい
ふと様子を確認すると怪我をした梨璃が医務室に運ばれていき、一柳隊、グランエプレ両者共に命に別状は無いもののボロボロ
通りかかったリリィに確認するとどうやら対処した特型ギガント級、イビルアイに敗れ退却してきたらしい
「(出てない私には関係無いや
首を突っ込むのも野暮)」
心配ではあるが出撃拒否したのも事実
そんな人間が心配した所で余計な反感を集めるだけ
ここは無関係を貫くのが正しい対応だ
その日の夜は臨時のミーティング
治療中の梨璃を除いた一柳隊、グランエプレ合同で行う形だ
どういう訳か海漓まで呼び出された
すると叶星が
「海漓ちゃん、住宅地への襲撃
貴方知ってたの??」
「どうしてです?」
「本当なら貴方はグランエプレとして出撃する義務がある
出撃拒否して待機したと思ったら住宅地への襲撃には対応したなんて襲撃を事前に知ってたとしか思えない対応よ」
夢結がこちらを警戒するように見ながらそう告げる
数名も似た形だ
「何を疑ってんのか知りませんけど、私が襲撃を予知出来るわけ無いでしょう」
恐らくだがゲヘナとの内通を疑ってきたのだろう。相模女子、神庭。派閥は共に中立派。警戒はしていただろう
理由も告げずに拒否したのは悪手だったかもしれない。
だがいきなり失礼極まりない事を聞いて叶星や高嶺が止めないあたり事前に打ち合わせた可能性がある
「じゃあなぜ?」
「ヒュージが陽動を仕掛けたなんて実例は多数あります
2度有ることは3度ある、3度ある事は4度ある。
今回も特型ギガントやスモールの群れが陽動かもって思って待機しただけですよ
ヒュージに何処までの知能が有るかなんて私には分かりませんけど、住宅地狙うなら警備が薄くなったタイミングなんで」
「そこまで考えてたの!?」
「そりゃ考えるって…
ましてや今のルドビコのリリィは度重なる出撃による疲労と損傷でパンク寸前
そっちへのフォローだって必要だろ(椛さんの働き忘れてるぞこれ…)」
何故か姫歌が驚く
戦場に出て大物を狩るだけがリリィの任務ではない
何度もいうが市民を守るのだってリリィの大切な任務だ
その為のフォローも大切な事だ
ルドビコ女学院が完全にパンクしてしまえばそっちの仕事まで自分達がやる事になり益々大変になる
海漓一人で状況が好転するとは思っていないが出る事で普段よりも早く終わればその分消耗だって少なくなるのだ
塵も積もれば山となる、ほんの小さな負担の軽減の積み重ねが立て直しに繋がることだってある
と言うか似たことをこの間の外征で椛が行っているのを見た筈なのにもう忘れたのだろうか?
これでは被害よりも大物を優先した船田純や叶星達と何も変わらないではないか
勿論向こうにも言い分が有るし間違いでは無いのは十分理解できるが、それでも思うところはある
「…分かったわ。その言葉を信じる事にする
疑ってごめんなさい」
「色々と誤解与えちゃったみたいですね
申し訳ないです。」
その後は被害状況の確認や今後の方針を確認しミーティングは終わりとなる