翌日の早朝、ルドビコ女学院の外には舞弓と魅夢
そして見送るために海漓が来ていた
「寝てても良かったのに律儀やねぇ」
「全くッス」
戦闘後ということもあり付近には彼女達と迎えに来た車両以外誰もいない
大半のリリィはまだ眠っているか早朝のパトロールだ
「そういう訳にはいかないって」
同期の見送りを寝坊で逃すような事はしない
流石にそんな事をやる者は居ないだろう
「海ちゃんが指揮するグランエプレは見れなさそうッスかね?」
自身の現状の事だ
離れても気にかけてくれているらしい
確かに今からでも姫歌や叶星から強引に奪い取れば可能だがそんな事するタイプでは無い
戦果と同じ位チームの輪、トップレギオンの看板を背負う意味を理解していれば出来るはずもないことだ
「多分無理。ウチは我が強いの多くて指揮するのが難しい…絶対に揉める」
彼女が得意とするのは陣形を固定し各々のポジション事に与えた役割を確実にこなしつつも、状況に合わせ臨機応変に対応するやり方。物凄く簡単に言い表すならば
「黙って私の言う事を聞きなさい」をやるだけだ。それこそ遊糸はそれを究極に突き詰めた形
メンバーを自身の駒と考え、各々の能力を最大限に発揮させるように動かして勝つ
仮にこれをグランエプレでやると想定した場合、言う事を聞かずに暴走の連発でまともな作戦にならない光景が目に浮かぶ
積極的に奪い取りに行かない理由の一つでもある
グランエプレは物凄く乱暴に言い表すと自由のレギオン
そこから海漓のやり方に変更など抵抗と反発を生むだけだ
相模も我は強いが普段からの教育のおかげで統率の取れた行動は出来る
隊長や司令塔の指示通りに動いてくれるという意味では凄まじくやりやすい
…その分求められる能力や責任は凄まじいが、それぐらい背負えなくて何が隊長かと言う位の責任と覚悟は担う物は皆持っている
「リリィの戦いとは自由で華麗で美しくが近年のトレンドになるつつあるからのぉ」
「統率の取れた動きも美さだと私は思うんだけどなぁ…」
規律、規則を重視し統率の取れた動きで戦う
規則的な動きにも美しさはあるが…世間とリリィが求めるのはそういうものでは無い
ヒュージとの戦いにおいては非常に不謹慎な説明かも知れないが分かりやすく説明すると海漓が求めるのは統率の取れたマーチングバンドのよう戦い
逆に近年のトレンドになりつつあるのはリリィそれぞれが動きの一つ一つが舞踊やダンスのように見るものを魅了するような動きをしながら戦う
束縛、拘束を嫌い自由を求め、個の力と美しさをとにかく追求し、その先にレギオンの戦いにも美しさを求めるのだ
冗談でも例えでもなくリリィとは自由を求め、華麗で美しく戦うべき…そんな風潮が出て来ている
儚くも美しいのがリリィ…海漓からしたら馬鹿げた思考だ
ヒュージが人類の感性を理解しているならばともかくそんな感性が無いのに戦いに美しさなんて求める場合かと相模時代は言っていたし舞弓や魅夢も同意していた
話を戻し、彼女の専門は絵画、美術だが戦闘で求める形は教官の受け売りを彼女なりに解釈した形でもある、音楽分野を学ぶ姫歌や紅巴ならば言わなくとも辿り着くはずなのだが、あの有様だ
音楽は兵器では無く、学んだ事も戦いに取り入れたくないのかもしれないが、それならばリリィなどやらずに芸能事務所でレッスンを受け、その道のプロとして活動すれば?とも思ってしまう
そんなこと言ったら喧嘩になるため口には出さないが
話したい事はまだまだあるが、出発の時間が来てしまう
「暫くは町田にいると思うから何かあったら連絡するッス」
「ほな!」
車両に乗り込み彼女達はガーデンを後にする
解散後は自室に戻り、暫くゆっくりした後に朝食
その後は自由時間となる
駐在している3レギオンを含め大勢のリリィが話をしている
「そういえば海漓の友達みかけなかったけどどうしたの?」
「朝早くに帰ったよ」
その事を告げると姫歌が真っ先に驚く
自分達が寝ている間に帰っていたとは思っていなかったのだろう
「ガンシップじゃなくて車両で相模まで?」
「相模じゃなくて町田ですね
あの言い方だとそれなりの人数を配置してると思いますよ」
瑤の問にも淡々と返す
ガンシップではなく車両で移動することに疑問を感じたのかも知れないが、同じ都内ならばその必要はない
これは勝手な予感だが別れ際の言葉を聞く限りそれなりの人員を配置している事が伺える
「防衛構想会議ではそんな話は無かったけれど…勝手にやって大丈夫なの?
風紀委員だって黙ってないと思うわ」
「町田に関しては相模女子も準守備範囲と言う形で関わってますし、2校の話し合いでどうにでもできるかと
自分達の守備範囲でもある訳ですし、状況に応じて増員することに対してそれこそ外部にとやかく言われる筋合いは無いって言うと思います」
先の会議の内容を覚えている高嶺から見てもおかしな所はあるようだ
確かにこの行いだけ見れば相模女子は風紀委員の決定に従わなかった、と捉えられるかもしれない
しかし、忘れてはならないのは町田はルドビコの守備範囲であると同時に相模女子の準守備範囲になっている事
管轄地域の状況が悪化しているならば手を打つのは当たり前だ
「あー、そっか、準と言えど自分達の守備範囲だから外征扱いにはならない。手薄だった守りを固めただけっていう説明が出来るんだ」
「守備範囲内の増員であって無宣言外征じゃないですからね
恐らく、防衛構想会議の決定を遊糸さんが持ち戻った後に上層部で協議して決めたことだと思います
まぁ、体制立て直したらすぐにでも帰ると思いますよ」
恋花も納得する
今回の行動は外征に当たらない、あくまでも守備範囲内での行動
エレンスゲがよくやらかして叩かれる無宣言での外征ではないのだ
後はルドビコと相模女子の2校での話し合いだ
急な決定ではなく防衛構想会議後に相模女子内で話し合いを行い、町田方面の様子を見て行動に移したのと考えている
「守備範囲が密接してる所だと今回みたいな事はよくある事なの?」
「無いと思います。本当に境界線通り
特に相模とシエルリントは他からの当りが強いですしこんな事しようもんならボロカスに言ってきますよ(下手すりゃCHARM向けてくる…)
百合ヶ丘とメルクリウス、桜ノ杜、アルケミラ、城ヶ島だったら多めに見るらしいですけど」
「噂以上に厳格なのね…」
叶星は東京で過ごしてきたリリィ
この辺りの事情に疎くても仕方がない
勿論外征時に宣言が必要な事にも正当な理由がある為、そこへの不満はない
しかし、派閥や校風によって扱いを変えてくるのは違和感しかない
自身も中等部時代には頭も胃も痛くなる思いをしてきた
先の扱いだって要はゲヘナに対し中立や親密なガーデンは叩くが百合ヶ丘のような主義は叩かないのだ
鎌倉は百合ヶ丘とメルクリウスがある為反ゲヘナ主義、もしくは神庭のように中立を掲げつつも反対よりが多い印象がある
相模入学後に知ったのだが横浜近隣は親ゲヘナ主義が多かった
「その分け方って何なの?
近いとかそういう事?」
「姫歌さんは知らなくて良いわ
かなり込み入った話になるから」
やはり高嶺も叶星も姫歌達にはゲヘナに対する説明や教育を避けている節がある
合宿の時もそうであった
汚れの無い、きれいなリリィであって欲しいのだろう
神庭も中立といえスタンス的には反ゲヘナ寄りだ…そこまでの事は教えなくていいと言う判断なのだろう
「(こう言うのが騙されるんだよなぁ…)」
必要な知識を与えず温室のように育てる
今はいいかも知れないが悪意を持って近づいてきた時の耐性が全く無い
相手だって大人だ、あの手この手で付け入ってくる
馬鹿ではない、自身がそういう事をするなど告げる訳が無いのだ
知識が乏しく弱みや正義感に漬け込みリリィを騙す…常套手段の一つだ
正義感が強いなど格好の餌だ
自分達の場合、知識を身に着けた上で使えるなら使いますと、ある種のビジネスのような立ち回りしないと本当に危険
姫歌達への扱いは反ゲヘナ主義のやり方だ
グランエプレ、大丈夫だろうかと心配になる
海漓だって万能ではない、いくら警戒をしても自身が知らない所で他がやらかした結果漬け込まれましたなんて事になったら笑えない
「今日は夕方から簡単な打ち上げがある以外は自由時間、体を休めたり訓練したり自由にしていいわ」
少しした後、叶星はグランエプレの面々にそんな話をする
朝食時にルドビコ側から提案があったらしい
色んな事はあったが3体の特型ギガント級を討伐した事に対する感謝の気持ちを示したいということだった
話を聞くと姫歌は灯莉を連れ何処かに行くし紅巴は二水と何かを話している
「海漓、この後って暇?」
「暇と言えば暇だけど…」
「この後だけど久しぶりに模擬戦しない?」
「いいよ」
一葉からそんな提案が
中等部時代の合同訓練時に行っていたがそれ以来だ
彼女自身この後は時間が来るまで自主練かパトロール位しかやる事が思い浮かばないため、断る理由は無い
とはいえ、だ
「ジュースの奢りでも賭ける?」
「ええっ!?」
単に模擬戦しました、ではエレンスゲ、神庭でも出来る
賞品の一つでも賭けるのも乙だろう
訓練は遊びではない。が、相模の場合賞品や報酬で気合を入れさせるやり方も取られていた
…組み合わせによっては、知らない所で見学者同士で景品の類を賭けていた時もあったのだが
「流石に賭博は…」
「金じゃないからセーフだって」
リリィといえど年頃の女子高生、ジュースやお菓子を賭けたくなっても仕方がない
教導官や上級生もこれだけは目を瞑ってくれた事も多かった
ヘルヴォル対グランエプレ
ジュースを賭けた模擬戦が行われるのだった