指定された地域に向かうグランエプレを含めたリリィ達
ヒュージの数は多く、既にあちこちから火の手が上がっている
「(敵の数が多い。ペース配分考えないと…)」
ヒュージの数はこちらよりも圧倒的に上、海漓の場合、マギ保有量を考えながらの戦闘になる…マギ保有量が一番少ないのは彼女、後先考えずに戦い途中でガス欠なんて事にならない為にも慎重に戦わなくてはならない。房総半島での戦い以上にペース配分が大切。トリグラフから放たれる弾丸は一発も外れる事なく、確実にヒュージを撃ち抜き絶命、近接戦でも無駄な動作なく確実に切り伏せ敵を蹴散らしながらひたすらに前に進む
「…いた!!」
ヒュージを蹴散らしながら進んでいくと、ヘルヴォルの面々を発見、各レギオンの隊長陣は一葉を助けに来た事を告げる…が海漓には一つ気になる事があった
「海漓も来てくれたんだね!」
「呼び出したのそっちだろ…
で、どうしたの、それ?」
来てくれたも何も自分達に来て欲しいと頼んだのはエレンスゲ側だ。そうじゃ無ければ来ていない。それよりも気になるのは一葉、恋花、瑤が身にまとっている服だ。恐らくは対ヒュージ用スーツの一種ではあるが念の為の確認だ。エレンスゲの新しい制服、なんてふざけたものでは無いだろう。制服として見るにはデザインが、微妙だと思ってしまった。ダサいのはネーミングセンスだけにして欲しいと思ったのはココだけの話
「これ?西村教頭先生が渡したくれた新スーツなんだ。CHARMとリリィのマギシンクロを高めて、それを防御と機動力に回したって言ってたよ」
「全く…そんなのが有るなら勿体ぶらずに駐留の時から使えばよかったじゃん」
以前の話を思い出すにルドビコ女学院駐留時には既に就任していたはず。CHARMに限らず使える物は使うべき。戦闘時に着用するスーツならば持ち込んだって何もおかしくはない。
「いや、これ貰ったの今日なんだけど」
「はぁ!?」
驚くのも無理はない。例えばこの戦場が普段の襲撃で被害も抑えられる単純な戦闘ならば動作テストを兼ねた出撃をしてもおかしくはない。だがこの戦場は違う。大規模な襲撃とそれによって生じている被害。
「ど、どうしたの?そんなに驚いて」
「ぶっつけ本番の新装備を使っていい戦場じゃないだろ…しかも三人って…」
少なくともレギオンの隊長ならばその位の判断は出来て当たり前、と考えていた。自分一人ならまだしも瑤と恋花まで身に着けさせている。何らかのアクシデントが発生し戦えなくなった場合、千香瑠と藍が三人をフォローしなければならない事を考えると、かなり不味いというのが彼女の考えだ
「いつまで話してますの!?」
言いたい事は山程あるがこうしている間も他の面々は戦っている。話すよりも手を動かさなければならない。楓が呼ぶのも無理はない
一葉と別れ、戦線に復帰。スモール級を蹴散らしていく。その後暫くした後ヘルヴォルは戦線を離脱。戦闘中に防衛対象だった研究施設が襲撃を受け彼女達は取り残された研究員を救助しに向かった。
「(ラボの事を考えなくていいなら楽かな)」
襲撃を受けたラボに勤める者やエレンスゲのリリィからすれば気の毒かもしれないが現時点で与えられた情報ではやる気の無かったラボの防衛やその手伝いを行わなくていいと考えると少しは気が楽になる。現れたヒュージを蹴散らせばいいだけだ
戦っている途中、近くで大きな爆発音。そして近づいてくる一際大きな影。見覚えのある者も多い
「あれは…もしかして…」
紅巴だけではない。新宿事変で実際に遭遇したことのある一柳隊とグランエプレの面々ならば見覚えのある個体、エヴォルヴと名付けられたヒュージだ。
マギリフレクターを使用することが出来る個体だ
「(一柳隊で9人、御台場とルドビコの二年生組と叶星さんと高嶺さん合わせて10人。
こりゃ私の出番は無いかな…足引っ張らないように引っ込んでよっと)」
強力なギガント級、決して油断できる相手ではない。だがこの場にはそれ以上に強力なリリィが揃っている。余計な事をして足を引っ張らない限り負ける事は無い。
海漓は頭の中でシュミレーションを行う。ノインヴェルト戦術の波状攻撃を軸に人員を割り振ってみるがどう考えても自分達に出番はない。周りのスモール級を倒し他の仕事で彼女達を支援するのが最適だと言う結論になる。
「(まぁ、私の力不足が招いてる事でもあるから納得はするけど)」
出番に関しては仕方の無い事だ、彼女自身の力不足でこうなってしまっている。あそこに強引に割って入りたいならば冗談抜きで姉と同等の力と才能が必須条件だ。新宿事変で有志連合に参加し長時間戦ったり防衛構想会議後の模擬戦や戦闘で力を示したり直近の舞弓や魅夢、残存戦力と合同でルドビコ女学院防衛と結果は残してると思っていたがそれでも無理なのだからやはり中等部からリリィだった海漓に求められたのは姉やセインツ、ロネスネスの1年生クラスの才能と実力がなのだろう
梨璃のレアスキル、ラプラスの使用に関しては考えなかった。発動と出力の安定性への懸念は当然としてここはエレンスゲの守備範囲内、つまりゲヘナのお膝元だ。誰かがドサクサに紛れて梨璃とラプラスのデータを取り、それを元に今後良からぬことを企まれても困る
エヴォルヴとの戦闘が開始され、各々攻撃を叩き込んでいく…が海漓だけは少々違っていた
「(退路…問題無し)」
周囲に現れた特型スモールを撃破しつつ万が一に備え退路を確保する。その為自身は集団から少し離れた所で戦闘を行っている。他の面々は全員がエヴォルヴへの対処及び支援だ
ヒュージが作戦を立てている…と仮定した時、このエヴォルヴで終わらない可能性も十分にある。良くも悪くもギガント級と言うのは目立つ。意識をエヴォルヴに向けている間に増援として現れた他のヒュージに包囲されました…となったらお笑いだ
ノインヴェルト戦術というのはマギとCHARMを大きく消耗する諸刃の剣。マギリフレクター対策の為に波状攻撃を行った場合、多くの主力となるリリィが消耗する。そこをつくように数で包囲し自分達をすり潰しにかかって来るような事も考えなければならない。そうならないように周囲の警戒と退路の確保は必須だ
大物への対処に集中している間や消耗した所でヒュージの増援に包囲され被害が出る…これ自体はよくある事だ。大物との戦闘に意識が向き視野が狭くなった結果いつの間にか…なんてことだって良くある事だ。
相模時代に自校や他校で起こった過去の事例は全て把握している…知識が無ければ自分もあの輪に入っていただろう。
「海漓は何やってる訳?マギ切れで離脱?いつもより早くない?」
「余り休めてなかったのでしょうか?」
本来ならば逃げた臆病者と罵られたり呼ばれたりしてもおかしくはないが、彼女のマギ保有量に関しては周知の事実。離れたのはマギの消耗が激しくギガント級との戦闘についていけないと判断したから…という解釈になる。
「叶星様、海漓さんのマギ保有量、そんなに少ないのですか?」
「マギが少ない分、実弾でカバーしてるからまだ戦えると思っていたけれど…回復が間に合ってなかったのかしら?」
離脱が早い事には驚くがそこも休めてなかったと思い込んでしまえば周りも不思議には思わ無い
「(本当なら手伝えって言いたいけど…)」
それだけの大仕事、本来ならば彼女一人の仕事ではない。だが彼女以外、その必要性を分かっていないのだ、何ならその手の思考は悲観的と言われ否定されるのがオチ。経験者は当然として強者側の思考になりつつある姫歌達も難しいだろう。それは新宿事変でも証明されている
そもそも、万が一の事を考えておかないと実際にコトが起きた時に何も出来ないなんて事になりかねない為、保険を書けるのは当たり前といえば当たり前の話、最悪の事態を考え行動するのはリリィは兵士であると教育されて来た彼女の思考だ
退路の確保に務める裏でノインヴェルト戦術の波状攻撃が行われエヴォルヴが撃破される。他のスモール級に妙な動きはない、片付けるだけとなる
その後は研究所から戻ってきたヘルヴォルと合流、互いに状況を報告し合う
そんな中、海漓は近くにいた瑤に話しかける
「瑤さん、さっき一葉から軽くは聞いたんですけど…そのスーツって何処のメーカー製です?」
「えっ、メーカー?どこだろう…分からないな。…教頭先生に聞いておこうか?」
「いえ。そこまでしなくていいですよ」
自分の興味で他校を振り回すわけにも行かない。ましてやこの後、エレンスゲは事後処理もあるのだ。余計な仕事を増やされるのも嫌だろう
「にしてもぶっつけ本番で新装備使わせるなんてその教頭も無茶な要求しますね」
「相模女子だって似たような事してなかった?私達との訓練の時だって」
「アレは裏で何回も性能テスト重ねた上での投入ですよ。テスト無しぶっつけ本番は流石に…」
エレンスゲとの合同訓練で新装備を突入したことを指しているのかもしれないがアレは相模女子やヒヒイロカネ社で何度もテスト運転を重ねた上での投入だ。テストも行わずいきなり実戦投入なんて事はしていない
「教頭先生やラボのスタッフの方々も私達に協力してくれてるし、そこはお互い様かな」
その教頭が協力してくれるならば自分達も要求には応えなければ、持ちつ持たれつつ、そういう事なのだろう。協力者の依頼を無下には出来ないと言う事だ
「…協力…か…」
「どうしたの?」
「あー、いえ。その教頭エレンスゲ内だと孤立とかしてないんですかね?」
ヘルヴォルをサポートするという事は自然とガーデンの方針に反発するという事だ、教頭とはいえ新任がそんな事をやれば風当たりが強くなって当たり前
「そんな事はないよ…むしろ教頭先生が来てからヘルヴォルへの支援が手厚くなってる」
「えぇ?手厚く?」
「うん。CHARMのカスタムも今まで以上に私達の要求を飲んでくれてるし…装備品とかの予算も増えてるって一葉が言ってた
教導官からの風あたりの強さも弱くなってる感じはあるよ」
「(日が浅いのにエレンスゲ内で自由に動ける力と権力を?)」
何度もいうがその教頭は新任。日が浅いにしては出来ることが多すぎるし権限が強すぎると彼女は感じる
勿論、百合ヶ丘クラスの強豪ガーデンから引き抜かれた優秀なスタッフならば話は別だが、そうでもない限りは与えすぎ、そう思えてしまう。下手な入れ込みはそれこそ他のレギオンからの反発に繋がりかねないからだ。
エレンスゲを変えたは良いがエレンスゲ内に味方が居なくなった…では意味がない。当たり前の話だがエレンスゲ内のヘルヴォルへの信頼を高めていかなければならないし、仲が悪くとも最低限の共闘は可能なレベルの信用の構築は必須と考えている
その後は軽く雑談を行い、自分達はルドビコ女学院、ヘルヴォルはエレンスゲへと戻っていく
それから数日後、一柳隊、ヘルヴォル共に駐留任務を終え百合ヶ丘、神庭へと帰還
それぞれのガーデンでの日々が始まるのだった