CHARMのテストを引き受けた翌日、ユグドラシル社の担当者やグランエプレ、生徒会から合流した悠夏と共に訓練場に来た海漓は担当者から機体を手渡される
「これが…グラーシーザ?」
「はい。量産型を目的としたタイプの機体です」
手渡されたCHARMにマギクリスタルコアを装着。起動させる
「感触は違う…それで使いにくいとかは無いですけど…」
「ヒヒイロカネと当社の違いの一つとなります」
それはメーカーによって生じる差の一つなのだろう。ユグドラシル社を愛用しているリリィがヒヒイロカネ社の機体を初めて使えばそう言う感想を持つだろう
個人向けに調整された俗に言うワンオフの機体は手にあったものを一から作るので何処の会社であっても自分の手と感覚にあったものが与えられる為そのような違和感を感じる事は無いが、これは量産を目的とした機体。そのような贅沢は出来る訳がない
親機、子機ともに軽く振る。多少の違和感はあるがこの程度ならば想定内。すぐに馴染むだろう
「射撃は…おっ、いい感じで早撃ちと連射が出来る。マギと実弾の切り替えが可能!?これ、標準装備なんですか?」
「はい。子機の射撃は連射による弾幕生成による制圧射撃を重視していますので。切り替えにも対応させてもらっています…早撃ちは重視して無いのですが…やってみてどうしでした?」
「引くときに少し重さがありましたね…このあたりは部品と調整で可能なんじゃないかと思います」
射撃モードが登載されている子機側で試し打ち。海漓の得意とする早撃ちと連射にも対応。更にはマギと実弾の切り替えも標準装備となっている。彼女の場合、戦闘で頻繁に使用するため重要視しているが、恐らく槿はノインヴェルト弾の射出でしか実弾を使わず基本的にはマギの射出だろう。
「むー」
「どうしたの、定盛?」
「納得いかないわ!!どうして海漓には槿様が使っているとの同じ新型が与えられるのよ!!」
「全く同じ、という訳では無いと思いますよ?」
後ろではそんなやり取りが行われている。この機体、実は以前共闘した御台場の槿が使うCHARMと同型。量産を目的に再調整した機体が今回彼女に与えられた機体
たが詳しい事情を把握しないと一人だけ特別扱いされた、と思ってしまうのかもしれない
「つまり、この機体は先行量産型でもある…と言うことでしょうか?」
「そうですね…貴方達が用いるような一般的な先行量産型ではありません」
叶星の問を担当者は否定する
自身や高嶺も俗に言う先行量産型の機体を使用している。それと同じだと思っていたようだ
「ガーデンで用いられる先行量産型のような調整は施しておらず…この機体に関しては親機側に搭載されていたサイズモードの他に分離させた刀身を子機側に装備可能な機能をオミットしています
後は御台場の藤田槿さんの使う機体よりも多少大き目に作っているのが特徴です。」
親機側の刃は射出が可能。機体内部に搭載されたワイヤーの長さの範囲内で飛ばした刃を自在に操り攻撃する事ができる他に、ワイヤーを取り外した状態で刃を子機側に搭載する事が出来たようだが、その部分を取り外した形となる。子機も射撃と近接格闘モードで切り替えが可能なので態々刃をつける必要もないと言えないこともない
後は親機側は機体が鎌のように変形する事もできたようだがそれも取り外したようだ
「えっ!?弱くしたって事!?大きさも違う!?」
「性能に問題が生じるのでは?」
悠夏や高嶺は聞いて驚く。今聞かされた話だけ聞くと弱体化した機体を渡してきた。そうとしか捉えられかねない内容だからだ
「どういう事?」
「槿様の機体に搭載されている機能の一部を取り外した…ということですね。部品諸々も一般的な物を使用し、本当に量産化する事を前提に作り上げた機体…ということでしょうね」
「し、新型…なのよね?」
「当然です。でもこんな改良は聞いた事が…」
姫歌達にも聞こえているがこちらも混乱する。紅巴の解説からあたえられたのは新型ではあるが内容を聞いてもピンと来ない…彼女達からすれば新型=高級な強い機体と言うイメージをもっているのも有るだろう。
世間一般的…というより叶星や高嶺に限らず先行量産型CHARMと呼ばれる機体は量産型を謳いつつも製作時に想定よりも高価な部品を使い、使用者に特化した調整を行った結果個人にとっては最適でも量産化し、大勢に使用してもらえる機体ではなくなり本来の目的である量産化に剝けたデータが取れないと言う事態が続出。海漓からすればワンオフも先行量産型もどちらも個人専用機という印象だ
だがこの機体の場合はそれまでの反省から個人に特化した特別な調整等は一切行わず一部の変形機構も取り払う徹底ぶり
先の話からするに機体そのものが身長の低い槿向けに合わせ、高価な部品を用いた特注品。しかしこの機体は平均的、もしくは長身なリリィでも違和感なく使えるように再調整をかけたのだろう。
「その代わり量産向けの案として新モードを搭載しました。親機側と子機側を操作して貰ってよろしいですか?」
「あ、はい。…こうか」
言われた通りの操作する。
すると合体モードへと以降、親機側のグリップパーツを外側に開き空いたところに子機側のグリップパーツを接合。すると接合部を通じ親機側から子機側へマギが供給され子機側の銃口からマギの刃が放出
親機側は実体剣、子機側はマギで精製された刃が現れる
トリグラフのパルチザンモードとはまた違った形の双刃剣となる
「ご覧の通り双刃剣モードになります」
「マギの使用量はどの位です?」
「他社との比較ではありますがトリグラフよりは多くなってしまいますね。しかし、出力の調整は後でも出来ますし改良の余地もあります」
確かに便利だが彼女のマギ保有量を考えると余りにも多いと満足に使えない。その確認もあるが、説明を聞く限り使用時間に極端な制限は無さそうだ。後の調整でなんとか出来る
双刃モードを考慮し機体の大きさを変えた形でもあるのだろう
「大きいみたいだけれど…分かる?」
「オリジナルを見てないので何とも…トリグラフより少し大きいかな?って意識してようやく…ですね。」
言われてみて違うかも?となるレベル
オリジナルを見ていないため余計な先入観が無かった事も大きい。大きさなど機種によって差があるのは当然。面倒な連中(リリィオタク)は見た目も中身も違う偽物と言うかもしれないが彼女からすれば眼の前にあるこの機体が本物のグラーシーザだ。
「(それにしてもよく制作に必要な物がメーカーに残ってたな…)」
今の説明、昨日秋日から受けた話を踏まえてなお、その考えが彼女にある
機体サイズの変更や代替となる新モードの搭載など改良点はあるがそもそもグラーシーザを作るための設計図がユグドラシル社に残っていた事に感心する
彼女にその手の専門知識は無く、人聞きやヒヒイロカネの工場を見学した際の話になるが俗に言うワンオフの機体には設計図を筆頭とした機体を作る為に必要な物がメーカーに無くガーデンが管理、保管する…と言う事が基本で先行量産型が一点物になってしまうのもその為だという
生産元はメーカーだが必要な物は全てガーデンや所属するリリィに都度回収されメーカーが独自に改良した機体を作れない事が大半だという
相模女子やエレンスゲのように運営元がCHARMメーカーならばそんな事は無いが百合ヶ丘やメルクリウスではそれが近著らしく、工場でデータや図面の複製などが出来なく、工具諸々も都度ガーデンに回収されるらしい。詳しくは聞いていない。それがワンオフの機体ばかりが生産されそれらの量産化や用いられた技術の流用が進まない理由の一つとも言われている。
もっと詳細な話もあるが生憎と彼女はヒュージと戦う事が専門。それ以外の知識は年相応、分野によっては乏しくなってしまう。
これらの話も相模時代にアーセナルの友人がボヤいていたのをふと思い出したに過ぎない。
「先程、疑問に上げられたような性能の変化…特に戦闘面でオリジナルと大差有りません。そこを維持しつつ量産化に向けての改良だったので変形機能をオミットする必要がありましたが…」
スモールすらまともに倒せなくなりました。使ったらすぐ壊れます。では意味がない。神庭クラスのガーデンでも安定して整備、運用し戦える能力を持たせるならばいくつかの機能の取り外しは仕方の無いことだ
代替となる機能もトリグラフの亜種と考えるならば悪くない
「慣れればいけますよ、全然。大丈夫です」
「今後は定期的な報告等色々とお願いする事がありますが…よろしくお願いします」
担当者はその後、書類の手続き等の為訓練場を後にする
「海漓ちゃん。神庭展示会の準備に加え警備の仕事もあるけれど大丈夫?」
「展示会は…作品含めてまぁ、なんとかなるでしょう
警備だって機体に慣れる為の訓練と考えたら負担にはなりませんね」
昨日話をした神庭展示会への出展と警備係の参加。グランエプレとして両方行う事が機体を受け取る前に告げられている
1年生4名はドレスの作成を行う…というより姫歌の計画を自分達が手伝う形だ。
自分と灯莉は絵画。衣装のデザインぐらいは出来るが他はからっきし。作成諸々はアイドル絡みで得意な姫歌の指示通りに動くのが得策だ
「でも今日は感覚を身につけたいんで、このまま少し自主トレしたいんですけど…」
「いいわよ。私達は控室で準備を進めてるわね」
初日位は機体に馴染ませる時間が欲しいのも事実で叶星にお願いし、許可を取る。
その後、面々と分かれ彼女は一人自主トレを行う。体に負荷をかける事よりも機体を体に馴染ませ、感覚を掴むことを優先したトレーニング。簡単な素振りや対ヒュージ戦を想定した攻撃動作シミュレーション、機体に搭載された機能の確認。子機よりも親機の運用は慎重になる。
そんな時だ。ヒュージ出現の連絡が入る。スモール級がメインで現時点でミドルやラージ級の反応は無いということだ
初陣としては丁度良い。そう判断し彼女はグラーシーザで出撃ようとする…が
「雨?さっきまで晴れてたのに?しかも冷え込んできた?」
快晴だったはずなのに小雨がふり始め窓を開けると心なしか少々肌寒い風が入り込んでくる
「(私は大丈夫だけど…)」
この程度ならば相模時代に訓練や実戦で何度も経験して来たが、1年生の3名はこれが初。どうなるか、分からない部分が多い。
そんな事を考えながら出撃準備をしていると
「良かった…まだいた…」
そう言いながらルームメイトの薫がこちらに向かってくる
「どうしたの?」
「これ…必要でしょう?」
彼女は雨衣を手渡す。それは自室にあるはずの物だ
「わざわざ持ってきてくれたの?」
「‥うん。間に合ってよかった」
自分が出撃すると思い玄関口まで来てくれたのだろう。神庭に限らず雨衣を着ずに出撃するリリィも多い中、持ってきた彼女は更に続ける
「‥今まで通りならこの後雨脚が強くなる筈‥雨衣無しは‥危険」
「今まで通り?」
「うん。最近、ヒュージの出現は多いけどそれと同じぐらい雨が降ることも多い‥だから‥必要」
「え?そうなの?」
「‥そう。‥ゲリラ豪雨って奴なのかな‥?」
薫の話す内容に海漓は内心穏やかでは無くなる。継続的なヒュージの出現と異常気象‥とある出来事が頭のなかによぎるのだ
「(雨とヒュージ‥まさか‥東京で?)」
偶然と言い切る事は出来ない
自分達の外征中の状況含め調べる必要がある。そのように判断しながらも受け取った雨衣を制服の上から着て準備を終える
「ありがとう。助かったよ」
「‥ん。私も校舎周辺の警戒で出るから守りは任せて」
彼女も雨天用の装備を身に纏っている
途中まで一緒に行動し、薫は警戒へ海漓は現場へと向かう
途中、グランエプレの面々に追いついたのだが
「あれ?海漓も雨衣なんて着てきたの?」
雨衣を着た海漓に対し姫歌は告げる。他の面々も悠夏以外誰も着ていない。
「そりゃ着るでしょ。雨降ってるんだから」
「神庭に限らず雨衣なんて着ないリリィの方が多いのに‥珍しい」
「悠夏ちゃんだって着てるじゃん」
「悠夏も本当は着たくないけど生徒会のリリィが着ないのは不味いでしょう?って秋日様の指示があるから」
暑い、制服で十分、そんな理由で雨衣を着ないリリィが大半だ。ガーデンによっては義務な所もあるが大半は任意。鎌倉だと相模は義務だが他は任意だ‥制服の機能で賄えるという話も有るようだが実際の所は分からない
生徒会とは生徒の模範となるべき組織でもある。雨衣があるならば着ろという指示が出るのも分かる
「雨脚が強くなる前に終わらせるわ!」
そう言い叶星と高嶺が先陣を切る
先陣を合図とし戦闘開始。
「(また指示も出さずに突っ込む‥)で、定盛ちゃん。どうすんの私?」
悪天候の中での戦闘。誰をどのように配置しどうするのか、それを伝えずに向かう光景に呆れしか出ない
自分で考えろという事かもしれないが普段とは違う状況でも要求する辺り本当に経験豊富な司令塔かと疑いたくなる
「いつも通りよ。海漓が前に出て姫歌達が後方」
「‥海漓は新型機での初陣だけど普段の布陣って奴で良いの?下げたほうが良くない?」
「何‥ケチつけるつもり?」
「いつもと同じ布陣ねオッケーオッケー、ほら行くよ悠夏ちゃん!!」
戦闘中にしょうもない事で揉めるなど馬鹿すぎる。海漓は悠夏を引き連れ早々に二人を引き離す。姫歌は昨日の件もあり悠夏に対しての印象は最悪に等しい。現状、下手な言葉は逆鱗に触れるだけだ。
「戦闘前から揉めるのやめてよね
‥背中から撃たれたいの?」
前に出ながらそう告げる
これに関しては悠夏への苦言だ。相模上がりゆえの性質か言い合いや喧嘩なんて日常茶飯事。やるなら好きにしろというスタンスだ。だがそれは戦闘が絡まない時だけ。
命をかけなければならない状況で下手に揉め判断を鈍らせた結果、戦闘に影響が出るなど以ての外だ
ましてやリリィが手に持つのはCHARMという兵器。戦闘前に喧嘩し怒りに任せそのままの勢いで悠夏を‥なんて事も起こりかねない
「え?そんな事する子なの?」
「しないよ。
でも兵器持った人間がキレたら何するかなんて予想出来ないじゃん‥命かけて戦わなきゃいけないんだから不確定要素は排除しなきゃ」
姫歌がそんな事をする人間では無いのは一緒に過ごしてきた海漓も良く分かっているからこそ断言出来る‥だが現時点で悪印象を持っている悠夏に対しどのような行動に出るのか予想が出来ないのもまた事実だ
前に出て戦わなければならない以上、海漓と悠夏は自然と姫歌達に背中を預ける形を取らざるを得ない。ただでさえ前衛という危険なポジションで戦うのに狙いをつけて背後から撃たれる可能性まで考慮しながら戦うとなると流石に気が散りかねない。
「とりあえず前同様に悠夏ちゃんそのまま切り込みなよ。私後ろからフォローするから」
「分かった」
そのまま並び立つと危ない可能性はあるので自分が悠夏の背中を守る。自分が悠夏と姫歌達の間に入る形だ
懸念や不安点を残しながらも雨天時の戦闘が本格的に始まるのだった。