あの日から2日が経過しこの日は秋日との約束の日。この間もヒュージとの戦闘と悪天候が続く。天気予報では今日は1日快晴と言われているが、この後どうなるかの予想はつかない
そんな中で海漓は校長室に向かう。流石に怪しまれると思いきやそんな事は無かった
「(テストしてるって事がカモフラージュになった?)」
自身が新型機のテストをしている事があっという間に広まり、教導官や生徒会に呼び出されてもその後の報告やユグドラシル社へ報告する日程の打ち合わせ程度の認識になっているのだろう
校長室に入るとそこには
校長と教導官数名に秋日、そして藤乃がいた。
「秋日さん?この件の取り扱いは慎重に、限られた人数で対応を考える方針と言ったはずですが?」
「彼女は私達が任命したトップレギオンの一員です。資格は十分に満たしています」
どうやらかなりの重要案件。ガーデン内でもごく一部の人物にしか知らない案件のようだ。リリィでは秋日と藤乃が該当した事を海漓は初めて知る。自分は1年生なので該当者していなかったのは十分承知していた。
自分が来たことは大人達としては想定外だったのだろう
「藤乃さんも同意見ですか?」
「えぇ。トップレギオンの中では一番信用の置けるリリィだと思います」
「(いや、本当に何の案件??)」
相当な重要案件だと海漓は身構える。信用されて嬉しくない訳では無いがそこまでの案件を抱えている事に警戒する。
二人の意見を聞いた後に校長が海漓に対し
「ここ最近の異常気象に比例したヒュージ出現頻度の爆発的な増加‥私達はこれをヒュージネストの発生ではないかと疑っています」
その言葉にやはり、といった表情になる。多少の驚きや動揺はあるが想定の範囲無いだ
ヒュージネスト、言わばヒュージの拠点。ボスとなるヒュージが存在しその格付けはギガント級かその上のアルトラ級のみ。ネストの規模もボスとなるヒュージの強さも差があれど何処も桁違いの強さと攻略の難易度を誇る
「驚かないのですか?」
「聞かない話じゃないです。気象データと現地の話をかけ合わせたら兆候があった‥なんてケースも有りますから。」
相模時代に習った事の一つだ。あくまでも一例だがヒュージネスト発生の兆候として季節外れの大雨や降雪といった異常気象、ヒュージ出現頻度の急激な増加が上げられる
「まぁ、
一般的に言われているのはヒュージネストは海や湖、池など水辺に作られるとなっており萩窪ではその条件は満たしてない‥が、無ければ何らかの手段で水辺を作るか水辺でなくてもネストを作れるように自分達が進化、成長すれば良いというのが海漓の考えだ。
「あくまでも可能性の、話ですよ」
「(楽観視してるなぁ‥)」
あくまでも可能性でこの後もデータ集めは継続していくのは分かっている。が随分と楽観視して居るような気配が有るのだ。
「(落ち着け、私)」
言いたいことは沢山ある。だがその言葉使いには気をつけなければならない。相手は大人、リリィとして見たとしてもトップレギオンとはえ末端に過ぎない自分達に対し相手はガーデンよ上層部だ。相応の立ち振舞というのがある
「可能性という事は分かりました。それで神庭としてはどのような対応をするおつもりですか?」
秋日との話は間違いなく生徒会と上層部だけのトップシークレット、知らない振りをしなければならない。知っていると言う立ち振舞は第三者への情報漏洩となり秋日達、生徒会室の信用が落ちてしまう
「引き続き情報収集を行っていきます
‥その上で生徒会と対応を協議していく形となります。天野さんにも本間さん、石塚さんと協力し情報収集を行って貰いますがこの話はトップシークレット。くれぐれも外部に漏れないようにお願いいたします」
日常生活と並行しながら本格的に情報を集めていくのだろう。情報収集の要員と手段は多い事に越した事はない
本当ならばこの後に控えている展示会も来校者の安全を第一に考えるならば今からでも中止するのが最善なのだろうが、急な中止は余計な動揺と憶測を呼び、上級生の進路も考えると簡単に中止する訳にもいかないのだろう。
「‥ネストが発生したとしてどのような方針で戦い勝つもりですが?」
これは彼女が一番知りたい事。百合ヶ丘やメルクリウスのように持ち前の才能と勢いで都合よく攻略できるほどネストの撃破は甘くない。神庭のリリィの質の格差を考えてもそれは明白。
どういう作戦を立て、どのようにリリィを運用し戦い勝つのかが非常に重要となる。
「それは‥」
「(えっ、何も考えてない?嘘だろ!?)」
勿論現段階で未確定とはいえ万が一に備えた仮の案は練っていなければならない段階だ。
にも関わらず校長や教導官、秋日さえも言葉に詰まってしまっている
方針で戦う‥最終的に攻略し勝つ事が目的ならば、現時点でどのように戦い攻略するのかを決めて置かなければならないのだ
「攻略が容易でない事は十分わかっています。ですがネストを潰す事を前提とした時に、成長仕切る前に潰すとか、他校からの増援である程度の頭数揃えて潰す、ヒュージからの攻勢に対しカウンターで潰す、ネストを包囲してすり潰すとか大雑把で良いんですけど‥」
今のだって彼女が大雑把に思いついた一例に過ぎない。具体的にどうして行くのかは集められた情報を基に詰めていく必要がある‥が、それすらも考えていないと言う事はガーデンとしてはネストが発生しヒュージの攻勢が本格的に始まってようやく方針を決めるつもりだったのだろうか。規模によっては撤退しなければならない事を考えてもある程度の方針は決めていなければならない筈だ
彼女も校風が違う事は分かっているが組織の上層部としてやる事はやって欲しいというのが本音だ
「最低限、どう戦うかの方針は私達で立てて欲しいし‥と」
「はい。勿論協力は惜しみません。ですが私に出来るのはあくまでも手助けです」
当たり前の話だ。生徒会や大人達はその為にいる。自分は末端として正確な情報を集め渡すまでが役目。方針を決め、指示を出すのは生徒会や上層部だ
「方針を立てる為にも、私達の働きは大事ですよ〜」
「分かってます」
起きたことを責めるつもりなど彼女にはない。むしろ知れてよかったと前向きに捉えるだろう。
作戦の他にも備えるべき事、考えなければならない事は多い。
ある程度話しを終えた事も有りこの場は解散、各々校長室をでる
「(ネスト‥か。)」
相模女子出身の彼女としても因縁のある言葉。勝てるかどうかの不安もあるがそれ以上に不安な事が彼女にはある
「(暴走するリリィがどれ位出るのか全く予想出来ない‥)」
上が作戦を練り、指示を出そうとも肝心のリリィがその通りに動いてくれなければ意味がない。そして、神庭に限らずストレスに耐える為の訓練を日頃からしていないガーデンではこの手の有事の際に正義感から指示を聞かずに暴走するリリィが確実に出る。その後始末の為にまともな判断を出来る者が負傷するなんて事もあるぐらいだ
特に最悪なのは方針をガーデンの方針を無視し勝手にネストを刺激するような攻撃を行う事。
「ショックでした?」
「おっと‥藤乃さんですか」
背中を軽く叩かれ、振り向くと藤乃が立っていた。こちらを追いかけてきたのだろう
「都内も物騒ですからね‥まぁ、そう言うことかなと」
「あり得ない話では有りませんね」
今年に入って都内で発生する異変の数々。一つ一つも去ることながら、その全てがヒュージにとって有利に働いてしまっているのは確か。
「こうして二人っきりになった訳なので、海漓ちゃんに一つ聞いてみたいことがありまして」
「?」
廊下で歩くのを二人っきりと言って良いのかは疑問だが、あえて黙り彼女の話を聞く。
「海漓ちゃんって夢とか目標ってあります?」
「夢や目標‥‥そうですねぇ‥」
一呼吸置く、海漓の場合、この質問に関してどう答えるかなど決まりきっている。躊躇うことなど何も無い
「生きる事、死なない事‥ですね」
彼女に限らず10代の少女が武器を持ち戦う以上持っていなければならない夢であり、目標だ。だが自分の常識は他者の非常識となってしまうのも世の中だ。理解して貰おうとは思っていない
名門のエリートはともかく彼女にとってヒュージとの戦いは文字通り命がけだ。生きたいと、死にたくないを掲げるのは当然だろう。悲しい事にこれを言うと大半は臆病者と罵って来るのは分かりきっている為めったに口に出すことは無い
藤乃に話したのは、単に聞かれたのと、性格からして罵倒はして来ないだろうという予想だ。これが百合ヶ丘や叶星達なら絶対に言わなかった
「もっと女の子らしい夢を持てれば良かったんですけどね‥それだって結局生きなきゃ叶えられませんし」
お金持ちになる事やお花屋さんにケーキ屋さん。素敵なお嫁さんになる事や大切な人と一緒に過ごす。そんな誰もが見る当たり前の夢も生きなければ叶える事など出来やしない。苦笑いし、頭を掻きながらそんな風に告げる
「死んでしまったら終わり。海漓ちゃんの言う通りですよ」
「まぁ、色々と矛盾もしてるんですけどね‥」
生きたいと言いながら武器を取って戦い危険な任務や負担の多い仕事を引き受ける。今までの行動も含めて何処かでは矛盾している所があるかもしれないのは十分承知している。死にたくないならリリィを辞めて守って貰う立場になれば良い。程々にこなし危険な任務から遠ざかり。それこそ神庭ならば出撃拒否をして逃げる事だって出来るが彼女はしない。トップレギオンとして前線で戦い続け、それでも尚、生きる事、死なない事を掲げるのだ
「『リリィにとっての強さとは力じゃなくて生きようとする意志』なんていう風に教わって来ましたし」
リリィとして活動する以上、生きたいならば強くならなければならないし戦わなければならないのだから当然といえば当然の事だ。
死ぬ為に戦うよりも生きる為に戦ったほうが良いに決まっている。そして
「『他人に己の意志や夢を委ねるな』なんてのも言われましたね」
これも焼き付いている言葉。意志も夢も自分自身が抱くからこそ意味のある物で誰かに手助けをしてもらう事はあったとしても守ってもらう事や委ねたりしては意味の無いガラクタだと。
「相模時代の先生ですか?」
「えぇ。中々に強烈ですよね?」
言う事も指導も中々に強烈だった。訓練が終われば面倒見の良さもある為、彼女達としては良い恩師なのだが、世間一般のリリィからすれば悪魔や鬼と言われるかもしれない。落ちこぼれの荒くれ者を教えるのだからあの位は必要なのだろう。本人曰く『イルマ時代との違いは訓練時の言葉遣いだけ』だそうだ
「ある意味、今の私を形作ったと言うか‥まぁ、言葉の影響は受けたんだろうなぁってのは‥」
中等部に入学し3年間、揉まれ、しごかれここまで来たのだ。本質は変わらなくとも行動の根本にあるのは相模時代の出来事であり指導だ。これが他のガーデンならばまた違っていたのだろう。生きていたかは別として
「夢には触れないで欲しいって思ってたりします?」
「いや、誰かと協力して叶えたり、叶える為の手助けは全然有りです。守らないでくれってだけです。一人で出来ることなんて限られてますし」
彼女の場合では一人でヒュージと戦い生き抜くなんてまず無理な話。仲間と協力して戦い、知恵を出し合い、指示に従わせながらヒュージを殲滅し生還するしか生きる術は無い。
勝手に戦いから遠ざけて守った気にならないでくれ、と言うことだ
「そもそも自分の描いた夢すら他人に守って貰わなきゃ叶えられない、描け無いなんてダサいですよ」
笑いながら藤乃に語りかける。いつ死ぬか分からないのはリリィに限った話ではない。事故や病などヒュージ以外で命を落す可能性だってあるのだ。
「そんな事を言うのは海漓ちゃんが始めてですよ」
「あっ、引きました?」
「いえ‥驚いただけです。」
藤乃に不快な思いをさせたかもしれないと感じたが、それはなかったようだ。彼女としては本当に驚いただけ。こう言う話をして少しだけ海漓の事をしれたのは収穫という思いもあるだろう。夢を聞いて死にたくないと返された時点で驚かされたが、その後の話にも驚かされっぱなしだ
「あっ、一年生の寮はこっち側なんでここでお開きですね、じゃあまた!」
「はい。」
歩いているうちに分かれ道へと到着
寮も学年別に分かれており、海漓は一年生の寮へと帰っていく
明日から戦いと任務の日々が始まる前のほんの少しの時間はあっという間に過ぎていく
「子供の頃から言ってた花屋になりたいっていう夢すら多人に守ってもらってるなんて‥姉さん、ダサいね」
「何ですって!?」
こんなやり取りが有る‥かも?