Assault Lily〜御使いの妹   作:ラッファ

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第81話

 

海漓が調査を終え、ガーデンに戻った時には日が沈んでしまっていた。ガーデンへの報告を纏める為に彼女は直ぐにでも自室へと帰りたいがその前にやる事がある

 

「ごめん、こんな時間に‥」

 

「おっそーい!!」

 

それは戦闘で使用した自身の機体を担当のアーセナルの元へと持っていく事。細かい整備は専門家に任せるに限るが彼女達だって人間。食事に睡眠、年頃の女の子なのだから入浴だって行う必用が有り日が沈んだ後に持って来るなど暗に徹夜で直せと告げるような行為だ。

だが、そんな事は彼女とて良く分かっている

 

「これ、やるの明日以降でいいし、出来上がりも急がなくて良いから‥遅れた私が悪いんだし」

 

自身の機体だけではない。他の面々の整備だって残っているのだ。遅れて渡した以上、完成だって遅くなるのは覚悟の上だ

無論、彼女一人で全ての作業を行っているわけではない辺りには数人のリリィが作業を分担しながら執り行っている。

 

「‥昼間あんな事があって事後処理で遅くなるのも分かるしユグドラシル社のCHARMだから整備も他に比べたら簡単だからまだ良いけど‥それでも数日は貰うからね」

 

「それで良いよ、お願いね。」

 

「トリグラフは準備万端だからいつでも使えるよ」

 

言いながらマギクリスタルコアの換装を手早く終えると彼女にトリグラフを手渡す。

 

「ありがとう。整備も頼むね」

 

かつての愛機を受け取り、自室へと向かうがその途中で悠夏と出会う

多くの書類を抱えており、帰還後すぐに生徒会業務を行っているということになる

 

「あっ‥海漓‥今戻ってきたんだ」

 

「まぁね。」

 

悠夏は何処か部の悪そうな表情。助っ人として派遣された生徒会役員でありながら事後処理を彼女一人に押し付けた形になったのを気にしているのだろう。海漓にしてみればあの状態の面々など居ても邪魔にしかならなかった事も有り、特に気にはしていない

 

「倒れたのは疲労の蓄積が原因だって」

 

「ふーん」

 

海漓の予想通りだ。数日休養を取れば問題ないだろう。

市販の栄養剤を飲んでも良し、美味しいものを食べしっかり眠り心と体を休めるだけでいい

 

「(離脱中は陣形変えなきゃいけないけど叶星さん出来るのかな?)」

 

倒れた者を即座に復帰させるなど言語道断。数日は高嶺抜きの戦いを想定しなければならない。陣形の変更や必要ならば生徒会含めた他レギオンからの増援も考えなければならない

 

「さっきも思ったけど冷たくない?」

 

「別に。いつもこんな感じ。で、そっちは仕事?」

 

「サラッと話題を変えてきたわね‥。まだ仕事中心。展示会絡みの打ち合わせとか色々あって」

 

運営に携わっている以上、単に作品を作り、ヒュージが出れば戦うだけが役目の自分達(グランエプレ)とは段違いの忙しさなのは十分に想像できる

 

「高嶺さんの所には行かなくていいの?」

 

只のレギオンの一員でしかない海漓が言う事では無いのは十分に分かっている。だが親戚の悠夏は行けるならば行ったほうが良いというのが彼女の思い。無論、生徒会の仕事もあり時間的に余裕が無い事や既に行っている可能性がある事は頭に入れつつの発言となる

 

「叶星様がいるから大丈夫かなって。お二人でお話もしたいと思うし」

 

「身内なんだから遠慮する必要ないと思うけど‥」

 

2人(叶星と高嶺)が深い仲で常に一緒なのは皆が分かっている。が悠夏と高嶺は親戚同士。こういう時ぐらいは過ごしても良いし叶星に遠慮する必要もないのではと思ってしまう。ましてや悠夏とだって面識があり、仲も良好。一緒に過ごさせて欲しいと頼む事や悠夏に気を遣う位の事はしたっていい筈だ。

 

「秋日さんやガーデンから行くなって言われてる訳じゃないんでしょう?生徒会の仕事が終わったら顔ぐらい出したら?」

 

「もぅ!我慢してたのに海漓がそんな事言うから無性に会いたくなってきたじゃない!!

終わったらお見舞いに行くわ!!」

 

心の何処かで叶星に気を浸かっていたのだろう。海漓も急かしたわけではなく気を使っただけ。それにだって理由はある

 

「‥身内なんだし仲が良い事に越した事はないからね‥」

 

その気遣いは他者からみれば余計なお節介なのかもしれない。叶星と高嶺の組み合わせは聖域で誰も触れてはならぬ領域。普段以上に今回のような非常時には叶星以外は側に必要ない居てはいけない‥なんて思う者も多いだろう。海漓からすれば自分達はそれで構わないが悠夏だけは違う。身内なのだからこう言う時こそ側にいるべきだと思っている。仮に2人が今以上の関係になったとしても悠夏が身内な事に変わりはない。側にいて寄り添ったっていいのだ。

 

「身内特権ってやつ。使える時には使わなきゃ。今がその時でしょ?」

 

「よし!終わらせてお見舞にいく」

 

悠夏と違い海漓の場合は寄り添う権利すら無い。血の繋がった姉妹なのだが生憎と世間では姉にはふさわしい妹も姉もおり、仲間もいる。海漓のような人間は側にいられないのだ。血の繋がりよりもリリィ同士の繋がり、リリィとしての素質を重視されてしまっては太刀打ちが出来ない。

当たり前だが叶星と高嶺の仲を裂こうなんて気は全く無い。

身内なんだから遠慮せずに堂々と行け、と言っているだけ

 

「(なーんて、アイツとの関係が冷えてる私が言えたことでもないんだけどね)」

 

人のふり見て我がふり直せ、天葉との異様なまでに冷え込んだ関係を考えると悠夏に偉そうな事など言えないのだ

 

「じゃあね!あっ、そうだ。秋日様から伝言!!」

 

早足でその場を去ろうとするがふと足を止め、海漓の方を向く

 

「何?」

 

「報告書、明日でいいよって」

 

悠夏はガーデンに帰還後、生徒会室に戻った際に海漓を見かけたら伝えるように言われていたのだ。徹夜で仕上げかねないと秋日は思ったのだ

その後は海漓も自室へと戻り報告書を作成。

 

翌日。早朝からヒュージの群が出現、当然自分達にも出撃命令が出され早々に準備に取り掛かる

 

そして、一度校門前に集合。叶星を見かけた為、彼女の下に駆け寄る

 

「叶星さん。私、今日はトリグラフ使います」

 

「それは構わないけど‥グラーシーザは?」

 

「整備に時間かかるので今回はコレ(トリグラフ)です」

 

先ずは叶星に機体が変わった事を報告だ。トリグラフとグラーシーザでは戦法が変わる為事前に報告。

些細な事かもしれないが報告は大切だ。知っているのと知らないのとでは采配にも大きな差がある

 

「(まっ、どうせ2人で突っ込むから無駄なんだろうけど)」

 

どれだけ気を使っても、叶星は高嶺の事しか考えずそんな采配しかしないのだから無駄になってしまう

そうしている間に他のグランエプレと悠夏が到着。その中には昨日倒れた高嶺も何事もなく混ざっている

 

「た、高嶺様!?昨日の今日です。休んでいたほうが」

 

倒れた翌日に何事もなく出撃しようとすれば誰だって心配する。休めと言う紅巴の発言は正しい

 

「もう大丈夫。グランエプレ、そして叶星が戦うならその隣には私が居ないとね」

 

何事もなく、当たり前の告げる高嶺

 

「あの、高嶺さん。何か皆に言わなきゃいけないことありません?」

 

当たり前の様に言うのは自由だが、その前に一言、言わなければならない事がある。海漓はそれを高嶺に指摘する

 

「聞いてなかったの?私はもう平気よ?」

 

「いや‥まぁ、それならそれでいいです(この人マジか‥昨日迷惑かけてるんだぞ?)」

 

ここで秘密をバラせとかそんな鬼な事を言いたかったのではない。昨日、戦闘後に倒れガーデンまで運び込んだ事への感謝や倒れた事で心配かけたのだからそれに対し謝罪の一言が無いのかと言いたかったのだ

運んだ姫歌や紅巴、灯莉に対し一言『昨日はありがとう。心配かけてごめん』が何故言えないのかと言う話だ

 

「あの、叶星様!高嶺姉様は!?」

 

当然、高嶺の出撃に悠夏も思う所はあるのだろう。隊長である叶星がどう考えているのか気になったのだろう

 

「高嶺ちゃんが大丈夫って言うなら私は信じるわ」

 

「ありがとう叶星。貴方の期待に全力で答えるわ」

 

2人の息のあった‥息の合いすぎた対応。2人の間で何かの覚悟を決め誓ったかのような雰囲気すら感じられる。そして互いの瞳に映るのはお互いに一人。他は映ってすらいないのだろうとすら思ってしまう

 

「皆、出撃前に聞いてくれる?」

 

叶星が自分達の方を向く

 

「連戦で疲れが溜まってる中での大きな戦い

苦しいし逃げ出したくもなるわよね」

 

「(そりゃ休まないからな)」

 

出撃前に海漓が言ったことだ。だから休みを与えようと言った。でも休ませずに強行した結果高嶺が倒れたのだ。今回も全員出撃。第二第三の高嶺が出てもおかしくはない

 

「でも、そういう中でこそ力を発揮する物もある

これまで積み上げてきた絆や想い

そういうのがきっと私達の力になってくれる」

 

「(運用放棄して根性論するとかマジ??)」

 

美しく、心地良い言葉を並べているが要は気合で乗り切ろうと言っているだけ。適切な運用などする気がないのだろう。

 

「どんな苦しい中でも私達は絶対負けない!

皆!気合を入れていきましょう!沢山の人々の笑顔を守る為にも!!!」

 

「(‥ヤバイ(隊長)の下についてしまった‥)」

 

恐らくこれが御台場のやり方なのだとも思ってしまう。根性論起用。才能有るものはそれで良いのかもしれないが、海漓のような才能無い者に対しそんな運用したら早々に力尽きてしまう

 

「(高嶺さんの件もあったのに‥私等がやってる事、過激派のカス共と何も変わらないじゃん)」

 

そもそも昨日の今日を考えるならば倒れるまで戦い、仮に倒れても薬品で回復させ出撃させるやり方は俗にGEHENA過激派と呼ばれる集団が行う非合法な戦闘訓練や実験と大差がない

リリィが正義感で行うか組織が実験の為に行うかの差だけだ

 

「(これに煽られてペース配分考えないんでしょう?やってらんない‥)」

 

この手の言葉は響く、状況次第ではいつも以上の力を発揮させ勝利に導く強力な劇薬となるが、当然リスクもある。想定されるのは煽られた結果、いつもと違う無茶な突撃や特攻といった無謀な戦い方を進んで行い甚大な被害を招く。そして、無茶な起用や采配によって犠牲になるのは弱い者

乗り越えられるのは才能ある強い者だけだ

 

そして、最大の問題がある

 

「(私達トップレギオンなのに‥真似するやつ出るって‥)」

 

自分達はトップレギオン。神庭を代表する立場の者。勿論生徒会もいるし実力者も揃っているが生徒への影響力を考えるならばここ最近の大きな戦いで名を上げている自分たちの方がおそらくは上。

影響力を持つトップレギオンが根性論をやるとどうなるか?など言うまでもない。他のリリィが真似をするのだ。トップレギオンがやってるのだから正しいという理由で。特に不味いのは自分達を見習い他の同期や中等部生が何も考えずに真似をする事。

 

彼女の考えや思いなど知らぬとばかりに他の面々は気合充分

海漓のような捻くれた人物でなければ叶星の言葉は心に火を付ける素晴らしい演説だ。気合が入らない訳が無い

 

「(心を落ち着かせて‥切り替えろ、私)」

 

不満しかないが、それと戦闘は無関係。今の彼女はグランエプレの下っ端でしか無い。隊長の方針に従うしか道は無いのだ。この状況で異議を唱え団結を乱すような行為を行うほど彼女は愚かではない

 

「(色々有るけど今は眼の前の敵を蹴散らす事だけを考える)」

 

ケイブの有無、大規模ならばギガントやラージの出現する可能性‥想定しなければならない事は多々有るが、結局は眼の前の敵を倒せば良いだけ。

余計な事は考えないようしなければ気を取られ死ぬだけだ

 

その後、出発、現場へと向かうのだ

結局の所ヒュージと戦わなければならないのだから。

 




あの名シーンでデバフがかかる女、それが天野海漓

というかこの辺りのシナリオで謝ってる所や頭下げるシーンがマジでない件‥そう言う事か??
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