「えーっと‥藤乃さん、どうしてここに?」
戦いが始まるまさにその瞬間、何故か藤乃がいた事に驚く海漓
「何か面白い事が起きそうだったので後をついて来ちゃいました」
「えぇ?」
「おい、どうする!?グンタイアリ迫ってるぞ!!」
聞きたいことは山程有るが、今は指揮を執るのが最優先。
「防衛隊、相模女子は魔弾の射手を拡散弾幕モードで起動。後続の射撃隊もグンタイアリに狙いを定めて!!」
その言葉で予め建物の屋上や電柱の上に陣取らせたリリィ達は一斉に銃口を迫りくるグンタイアリに向け、狙いを定める
「(ドローンは‥ヨシ、飛ばしてくれてる)鷹の目持ちは射撃後に発動です」
戦場を監視するドローンは既に飛ばされている
操作するのは操縦を担当するリリィの他に軍やヒヒイロカネの私設レギオン。この規模の戦闘では必要と判断しそれぞれ用意していたようだ。
鷹の目が力を発揮するのはこの後だ
「藤乃さんは‥」
「海漓ちゃんの指示にしたがいますよ」
「分かりました。ならちょっと待っててくださいね」
迫りくる
しかし海漓は普通では無いためそんな事はしない。
先ずは魔弾の射手を使用できる2レギオンに使用を指示しつつ、集まった射撃隊にも狙いをつけるように指示
「(そろそろだな)‥総員、攻撃開始!!」
射程は他でもない、海漓がよく知っている。彼女の掛け声と共に先ずは防衛隊と相模女子、続いて射撃隊のリリィが攻撃を行う
その中でも異彩を放つのは魔弾の射手のもう一つの機能。拡散弾幕モードを使用する
銃口が一つならば弾丸であれマギのレーザーであれ放たれる攻撃は一つのみ。
しかし拡散弾幕モードは異なる。銃口一つから無数のレーザーが放たれるのだ
海漓や玲菜、相模女子では遊糸といったポジショニングの関係で一部のリリィは行っていないが、行わなくても十分である
拡散弾幕とそれに合わせて射撃隊の放った一撃は攻撃は分厚い弾幕となり迫りくるヒュージを一掃するには十分すぎる
「残ったヒュージ、逃れたヒュージを掃討します!鷹の目を発動!
近接隊、攻撃開始!藤乃さん、加勢お願いします」
だが攻撃から逃れた ヒュージというのも当然発生してしまう。その中でも狭い路地裏等死角になっている場所には注意が必要だ
そこは近接戦による掃討が必要であり
ここでドローンの他に鷹の目持ちの力が必要になってくる
「分かりました」
藤乃も屋上から地面におり、二本のCHARMを手に駆け抜けていく。
「防衛隊、体とCHARMに違和感は有りませんか?」
「問題無し!!」
「同じく!!」
拡散弾幕モードも今回が初使用。自身の体、使用するCHARMに違和感がない事も確認。相模女子では平然と使用している為何も無いとは思っているが、念の為。ここで何かトラブルが起きたのならば直ぐに修正する必要もあった
「なら防衛隊、相模女子も続いて下さい
射撃隊及び各レギオンのTZ.BZはAZの援護です」
掛け声と共に射撃による支援開始
基本射撃隊は屋上などに陣取らせ高い所からの火力支援が主体だ
「鷹の目とドローンで形成した監視網からは出ないように。あっという間に囲まれますよ!!」
通常ならばひたすら突撃、前へ前へとなるが今回は行動範囲に一定の制限を設ける。ヒュージを迎え撃つという観点に加え、相手はグンタイアリ。ヒュージサーチャーによる索敵が使えない以上はレアスキルやドローン等を用いての索敵が求められる
ここは更地ではなく住宅地。索敵も無しに闇雲に進めばあっという間にグンタイアリに包囲され飲み込まれてしまう
故にAZの行動範囲は監視網の中に限定され、単独ではなく射撃隊による支援も手厚く行う形だ
「背後に異常は?」
「無いぞ‥ガーデンは?」
「良くも悪くも何もないそうですよ‥」
「そうか‥」
自分達の背後に陣取っている軍や放水車、護衛のリリィ達。彼女達もこの作戦と陣形の要
自分達の弱点は背後から奇襲。その対策及び自分達が正面からの突破された際の最終防衛ライン。異常が無いという事はグンタイアリやケイブの類が背後には現れて無いという事。これで正面及び側面の戦闘に集中する事ができる
ガーデンにも大きな動きがない事は校舎内に残っている絵画科の委員長からの通信で把握
彼女は先の戦闘で右腕骨折の大怪我をしてしまい戦闘への参加が出来ない変わりに他の事で協力すると言ってくれた
動きが無いという事は増援への動きや士気の高揚が無く文字通り冷めた目で見られているということである
『おーい、新手のグンタイアリ来たよ‥お、おおっと?』
『新手ですよね?どうしました?規模と方角は』
鷹の目による監視を行なっていたリリィからの通信
ここまでは予想の範囲内。これで終わりではない‥が驚愕よりも戸惑いが含まれている反応に違和感を覚える
『東‥なんだけど規模は小さいしこれ迂回する‥んん?』
先よりも小規模の群れが現れたが自分達のいる方角ではなく東方面に向かったようだ。そこから神庭を目指すとなれば自分達を迂回する形を取る事になる。陣形を組み直すことを海漓は考えていたのだが
『どうしました?』
『一瞬グランエプレのリリィが見えた気がして‥直ぐに網の外に出ていったけど』
『えっ?』
追加で告げられたのは一瞬ではあるがグランエプレのリリィが監視網の外に出る姿を捉えたのだ。彼女達は再編性に伴い、青を基調とした新たな制服を身に纏っております誰が見てもグランエプレだと断定する事は簡単だが果たして誰が出たのだろうか
『藤乃じゃないのー?』
『違いますよ、監視網の中にいます』
『本当だ‥じゃあ誰?』
祥枝は素行と性格を考え真っ先に藤乃を疑うが、鷹の目持ちは現時点で前線に出ている全員を捉えており、寧ろ出たものが居るのかと聞いてくる始末
「(どういう事?一体誰?)」
この状況で何故グランエプレが単独で出るのか、意味が分からない。伝令の類にしても通信を入れ、場所を確認してから向かわせれば良いだけ
都内で青い制服を着るリリィと言えば御台場だがグランエプレの制服とはデザインが異なっており何より御三家を見間違える事もないのでその線も薄い。ガーデンに確認を入れようかと考えた時だ
『画像を見る限り出ているのは白銀の髪が特徴のブリューナク使いだ』
「(白銀でブリューナクって‥鈴夢ちゃん?何で??)」
彼女の前に現れる1台のロボット
地面を走り、自らの前に現れたかと思えば別地点で警戒に当たっている佐奈の声が聞こえるではないか
彼女から伝えられた特徴から海漓は出ているのは鈴夢だと断定する‥がその前に聞きたいことがある
「教官?なんですかそれ?」
『これか?警備ロボットだ』
自身の膝丈ほどの大きさのロボット
警備ロボットの何ふさわしく頭上にはランプ、施されている塗装もどこか警備員を彷彿とさせる色合いになっている
「警備ロボット?」
『グランギニョルが出資しているレジャー施設で導入されている物をヒヒイロカネでも数機購入してな、その内の1台だ
「グランギニョルのレジャー施設‥あー、聞いたこと有ります。確か都内の‥」
場所までは覚えていないが、聞いた事はある。グランギニョル社が都内のレジャー施設に出資、その結果かなり豪勢な物が出来上がったと
最大の特徴は屋外プール施設に設置された巨大なウォータースライダーなのだとか
『グランギニョルの出資先だ。ゆくゆくは娘が所属するレギオンで実戦配備していく事を想定した上での試験運用だろう
状況判断能力‥特に人の捜索と誘導、追跡に関してはかなりの性能だからな』
対ヒュージの最中にレジャー私設への出資。不謹慎や意味が無いと言われがちだが、そこは考え方。警備ロボを筆頭に使えそうな物のテストや戦場に導入する前に試運転をする場所に利用する事だって出来る
老若男女、大勢の人がいる中で特定個人の捜索や誘導といった状況での運用には一役買える
プールと言う事でプールサイドも滑りやすく、その中で安定した運用となれば悪天候時の想定にも出来る
「確かに便利ですからね‥私達もほしいなこれ」
市民の避難誘導や捜索の手伝いから、戦場ではぐれてしまった仲間の捜索。人を重視した運用に限っても多種多様に渡る
「(もう少し大きく出来れば必用に応じてCHARMやバトルクロスを届ける事も出来るしな‥)」
更に応用と改良をくわえれば必用に応じてCHARMやバトルクロスを使用者に送り届けることなんかも可能になるだろう。
「話しが逸れましたね。それで今何処に?」
だが今はそんな事を話したり余計な事を考える暇は無い。肝心なのは鈴夢が何処に向かったか、だ
『それがな‥こちらが動きを止め姿を撮影した際にに撃ち落とされてしまってな
今何処にいるかはわからん‥ネストに向かった可能性は高いと思うが断定は出来んな』
姿の確認、向かう方向。それらを確認していた最中、ドローンの追跡、姿の撮影に気が付き撃墜した事が伝えられる。ネストに向かった事が分かっただけでもかなりの収穫だ
『(は?鈴夢ちゃん?色んな意味で何してんの?)藤乃さん、ちょっと戻ってきてもらって良いです?』
収穫ではあるが何がしたいのか意味が分からない。ドローンを撃ち落とす時点で何か疚しい事をしていると自ら言っている事になる
『分かりました』
「(本当に意味が分からん‥)」
藤乃を呼び戻し、今起きた事を告げる。ドローンの撃墜は置いておくにしてもこのタイミングでの単独行動はどう考えてもおかしい。昨日の出来事や過去を考えても単独で外に出す意味が分からないのだ
「何か聞いてます?」
「鈴夢ちゃんが?‥はて、何故でしょうか?」
「(藤乃さんすら把握してない‥?)」
自分達が把握していないだけで生徒会として何らかの動きがあった可能性も藤乃が知らないという事により否定されてしまう
「(余計な事を‥隊を前に出す?やった振り位は見せないと皆への当たりがヤバイよな‥)」
鈴夢をどうするか。正直な話をするならば見捨てて構わないがそれをやった場合自分だけでなく協力している者達にまで生徒会からの当たりが強くなる可能性を考え形だけでも助けに行こうとした素振りを見せるのも一つの手
隊を前進させ、助けに行こうとした形だけでも取るべきかと思っている時だった
「私、鈴夢ちゃんの捕獲に向かいましょうか?」
「藤乃さん?」
「生徒会としても勝手な行動は見逃せませんし‥混乱を広げる訳には行きません」
藤乃は鈴夢の回収を行おうかと彼女に尋ねる。流石に今回の鈴夢の行動は度が過ぎており生徒会として、上級生として見逃す訳にはいかない。
そしてこの事がきっかけで戦線を混乱させてはならない事も十分に分かっている
「‥身柄を抑えたら直ぐに撤収してくれますか?」
「恐らく戦闘で怪我をしているでしょうし捕獲したらすぐに撤収するつもりですよ」
身柄を抑えてくれるのならば有り難い話だ。元々藤乃の助っ人は想定外。途中で離脱しても穴は埋められる。
その場にとどまらず直ぐに後退する考えも持っており抑えた後の動きを考えれば良いだけだ
「教官、そのロボットでリリィの場所は探れますか?」
そこで直ぐに行けと言わないのが海漓
戦場での単独行動など論外であり住宅街を闇雲に走り回るなど時間と体力をロスしてしまう
鍵となるのは目の前にいるロボットだ
先の話を聞くに人の捜索に優れているならば、その能力を活かすのだ
『探れるが先のデータでは厳しいぞ
画質は荒いし何より今の居場所が分からないな‥どうする?』
居場所は探れるがこのままでは無理
得られた画質は粗く、最初に彼女を発見したドローンは破壊されている。
このままではロボットは一番始めに鈴夢がいた場所に向かってしまう。
どうするかと問いかける
「鈴夢ちゃんの捜索目的で新たにドローンを飛ばしてもらって得られた画像データを元に案内して欲しいなって考えてます」
『改めて得た姿と居場所をコイツに送らせ、最短ルートで向かうという事か?』
ドローンを新たに数機飛ばし鈴夢の捜索に使用。捕捉したのにデータを転送させ、最短ルートで案内させる事を提案
CHARMにも味方の位置を知らせる機能はあるが最短ルートの表示はない
あくまでの反応の有無と大まかな位置だけ、これでは捜索には使えない為、ドローンとロボットの使用を選択する
「はい。」
「しかし、先の話を聞くに飛ばしたドローンが撃墜されては意味がないのではないか?」
話を聞いた玲菜は率直な疑問をぶつける。やりたい事は理解出来たがそれは捜索に向かったドローンが鈴夢を捉え続ける事が前提であり、撃墜されては意味がない。それこそ発見と撃墜、逃走のイタチごっことなる
「多分そんな器用な事できる子じゃないって思います。藤乃さんはどう思います?」
「海漓ちゃんの言うように鈴夢ちゃんはそこまで器用な子ではありません
グンタイアリと遭遇すればそちらへの相手で手一杯になるでしょうね」
海漓は彼女のレアスキルを考慮した上での意見。藤乃は生徒会として鈴夢と過ごしてきた経験から
2人の意見はほぼ一致。ネストに向かったと仮定するならばグンタイアリとの戦闘は避けられない。回避しようと思えば回避出来るが、鈴夢はそんな
「と、言うわけで急いで下さい‥ネストを刺激して妙な事になったら面倒なので 」
「海漓ちゃんは来てくれないのですか?」
「今の私は指揮官です。ここを離れる訳には行きません‥でも‥藤乃さん一人で行かせる訳にも行きませんし、どうしようかな‥」
急がなくてはならない。鈴夢がネストに近づき、戦闘になった事がきっかけとなりネストが活発化、ミドル級やラージ級はともかく複数のギガント級が出現なんて事になれば面倒な事になってしまう
今の海漓は指揮官だ。現場を離れる訳には行かないが藤乃を単独で行かせる事も避けたい。どうするべきかと悩んでいる時だった
「おーい、ふじのんせんぱーい」
「み、みつけました‥っ」
背後から聞き覚えのある声が2つ。海漓達が声が聞こえた方向を向くと
「灯莉ちゃん、紅巴ちゃん。どうしてここに?」
灯莉と紅巴の2人がCHARMを手に持ちやってきたのだ。大方校内でも鈴夢の姿が見えない事が話題になり回収に向かう事になったのだろう。たが何故この場にに来たのか、そう思ったのだが
「はるにゃんが、ふじのん先輩はあーちゃんの所に居るから僕達はふじのん先輩と合流してから向かった方が良いって」
経験を積んでいるとは言え実力の乏しい2人を向かわせるのは危ない。
だからこそ悠夏は先ず藤乃との合流を指示したのだろう。だが気になる事はある。
「叶星さんと高嶺さんは、定盛ちゃんは?」
「秋日様の所に向かいました
なんたってお二人は神庭の中心ですよ。
今の戦況を正しく把握する必要があります!‥そもそも海漓ちゃんはどうして何の相談もなく勝手に動いたんですか!?」
「定盛はやる事があるって。
あーちゃんになんて負けないって言ってたよー」
「相談?接触禁止食らってんのに?殴られに行けと?」
相談も何も接触禁止を言い渡され、印象も最悪。行っても塩対応されるのが目に見えている
行く意味なんて無いのだ
「秋日様は‥その‥無理でも、叶星様と高嶺様にですよ!」
「別に、動いた方が良いと思ったから動いただけ(相談してもあの2人まともな答え寄越さないだろ‥)
ほら、行くならさっさと行きなよ。
道案内があるとは言え手遅れになるよ」
そう言い海漓はロボットを指さす
鈴夢を確保するならば時間も限られる。藤乃単独では不安だったが3人いるならば問題は無い。経路もロボットとドローンが案内してくれる。
「そうです。ここで時間を潰して手遅れになる訳には行きません
灯莉ちゃん、紅巴ちゃん。行きましょう」
ここで言い争っても何の得にもならない。藤乃含め3人は鈴夢の回収へと向かう。ロボットの後ろを3人が付いていく形だ
「戦況は?」
「例の新手以外は動きなし」
「今の内に補給諸々済ませましょう
皆さん、必用に応じて休息、補給お願いします!!」
『遊糸さん達も‥タイミング見て』
『分かってる‥もう入れてるわ』
東側の新手は小規模。自分達に向かってくるヒュージの群れはなし
ならば展開している隊に対して必用に応じて休息、弾薬の補給や機体の整備を行わせる
流石に同時にとは行かない為人数を分けてになる。相模女子も遊糸がその辺りは上手く判断し動かしてくれているようだ
「(今の内に報告っと)」
そしてタイミングを見て海漓は鈴夢の件と方角、藤乃達が救出に向かった事を報告する
「休ませてくれるの?」
「ぶっ通しでやらされると思ってた」
「有り難い」
補給に向かうリリィは各々そんな事を言いながら下がっていく。彼女達からすれば終わるまで延々と戦うと思っており途中で休息や補給をする時間を与えてくれるのが意外だったのだ
「私そんなブラック運用しないですよ
いや、どうしてもってなれば話は別ですけど‥」
必要な状況に陥ったならば休息、補給無しでの戦闘を求められるがそうでなければ普通は与える
自分達の背後には駐車場や公園が幾つか存在し、そこを補給等を行う地点に予め決めていたおり、今現在も軍や整備を行う者達がそれぞれ待機しているのだ。
交互に補給を行い、僅かな時間でほんの一息ついている時だった
「ん?おい、何事だ!?」
「どうしました?」
「神庭のリリィが軒並み向かってくるぞ!!」
「は?」
玲菜の動揺、海漓の疑問。それらの理由はすぐに判明する
神庭のリリィが威勢良くネスト方面へと突撃していくのだ
それらの異様な光景はドローンによる監視を行なっていた防衛軍、ヒヒイロカネの私設レギオンからも告げられる
曰くかなりの数のリリィが出撃している、ネストとは反対方向にも向かっている、隊列もバラバラで何が起きているのか分からない。
内容は異なっていても、神庭のリリィが出撃したという事は共通している
「ちょっと、何事!?」
「増援?」
目撃した防衛隊、協力しているリリィ、相模女子も呆気に取られ言葉を失う
『天野さん!天野さん!大変!大変!』
そんな中、ガーデンに残っていた絵画科の委員長から緊急で通信が入る
声色からも焦りが伺え緊急事態が発生した事が伺える
『どうしたの!?』
考えられるのはヒュージの奇襲。だが背後で戦闘音は聞こえず、通信先でも戦闘を行なっている音は聞こえてこない。何が起きているのだろうか
『皆、出て行っちゃった!
どうしよう』
『分かってる。何が起きたの?』
出る=出撃ならば考えられるの何らかの命令の発令。だが何の命令が出たのだろうか。自分達には伝わっていないのだ。分かるはずがない
『何だっけあのサブリーダーの子。あの子が今さっき友達助ける為に戦おうって校内放送で煽っちゃって‥皆もグランエプレが動くならって』
『はぁ!?マジで何してんの?藤乃さん達が向かったし場所だって教えたけど!?』
サブリーダー、姫歌だろう。何を言ったのかは分からないが校内のリリィを動かす、動きたいと思わせる事を言い焚き付けたのだろう。
だが鈴夢の居場所は伝えており、なんなら藤乃達が既に確保に向かっている。態々焚き付け総動員する必要が無い‥寧ろリリィの無駄遣いだ
『後、それだけじゃなくて‥攻め落とすって命令が出たの』
『は?ゴメン、もう1回言ってくれる?』
姫歌の言葉の他にもう一つ、リリィが動いた理由がある。
本来ならばあり得ない作戦。聞き間違いを疑いもう一度、言うように頼む
『だ、か、ら。ネスト、攻め落とす為に突撃するって』
『嘘だ‥まさか残ってる戦力全部出したの!?』
聞き間違いではなかったようだ。突然発令されたネスト討伐作戦。
つまり今出て行ったのは神庭に残っていた全てのリリィという事になる
『うん‥残ってるのは私達を除いたら本当に数人‥どうしよう』
現時点で校内に残っているリリィ
得に万全の状態となると海漓の呼びかけに応た者を合わせても数十人程度
他は怪我で万全ではないか、戦わないアーセナル、つまり整備等を専門とする者達だけ
『それ、誰が出したか分かる?』
だが肝心の命令は誰が出したのか
分からないことも十分承知であえて尋ねる。分からなくても責めるつもりはない
『ゴメン、分からない
演説から出撃まで本当に一瞬だったから‥』
感情が高ぶり、あれよあれよと言う形だったのだろう。それだけ強烈な印象を与えたという事だ
『‥』
『ど、どうしよう』
『高圧洗浄機を準備。グンタイアリの侵入を防ぐ為に校門を閉じて
後は屋上からの索敵を強化‥コッチの子達戻すから攻められてももどるまで持ち堪えて』
「余計な事をってあれは!?」
本当に余計な事をしてくれた
この後、自分達はどうするか。頭を悩ませるがそんな余裕は与えてくれない
ネストがあるであろう地点、その付近に巨大なケイブが幾つも現れる
肉眼でも捉えられる程の大きな個体
俗にいうラージ級やギガント級が幾つも現れ、同時にグンタイアリの新手の出現も軍から伝えられる
『作戦を変更します
補給を受けている人達は終わり次第ガーデンへと帰還して下さい
この戦場は防衛隊と相模女子で受け持ちます』
ガーデンがガラ空きとなってしまった現状を放置する訳には行かない。ネストを潰そうが自分達の帰る場所が無くなってしまっては何の意味もない‥その状況で得をする者など、それこそガーデンが滅んでも受け入れてくれる場所がある者達だけだ
『何事?救出間に合わなかった!?』
遊糸は通信越しでも分かるほどに動揺している。藤乃達が到着するよりも早く鈴夢がネストに近づきすぎてしまった‥大型ヒュージや新たなグンタイアリというのは簡単に言うならばネストが抱える迎撃部隊
そうなると鈴夢だけでなく救出に向かった藤乃達も危ない
『救出は分からないですけど、出てった連中はネスト討伐作戦が始まったからですね』
藤乃達の安否はこれから確認しなければならない。何処かに退避しているならば救出も必要だろう
だが出撃したリリィの大半が鈴夢の救出以上にネスト討伐のために出ていったのだ
『はぁ!?討伐は防衛構想会議後の筈でしょう‥どういう事よ、何か聞いてた訳!?』
『知りませんよ‥私だって今知ったんですから』
遊糸からしてもこれは想定外。100戦練磨、采配においては最高峰を誇る彼女からしても、当初の方針を土壇場でひっくり返すなど考える筈がない
自分達には伏せられていたとしても防衛隊である海漓には伝えなければならないのに、この瞬間に至るまで何の連絡もないのだ。それこそ校内に残っていたリリィからの連絡が無ければ正真正銘、何が起きているか分からず混乱していただろう
『まぁこれが
『言ってしまえばそうなんだけれど‥これは‥』
ここまで露骨になるとは思わなかったがある程度は予想できた。結成間もないレギオンとトップレギオン。どちらの言う事を信じ、ついていくかと言われれば大半が後者だ
第一に煽った姫歌だって、見方を変えれば初心者にしてトップレギオンのNo.2に就任し連戦連勝。秋日達が合流してもなおその地位を譲らず、AZに転向し戦場では目立つように立ち振る舞う。
私生活でも声楽科に所属しアイドルとして多くの人に注目されるよう日々行動しているのだ。歌唱力の高さは誰もが認めるところ。性格も明るく勝ち気。皆に愛されてもいる
そんな者が危機に陥った中で煽ればそれは応えるものが多い筈だ
「(私とは大違い)」
一方海漓はどうか。人望は置いておくにしても他の分野では見方を一つ変えればグランエプレ時は末端で目立つ事は無く移籍。実力不足でトップレギオンを外されたという事になる。
海漓の本領であり強みは今回のような人を動かす采配やユーバーザインによる幻覚を生かした撹乱と言ったリリィとしては地味な立ち廻り
私生活でも目立つかと言われると微妙な所で、海漓自身の実績だって御三家や上級生にくらべたら劣ってしまう。
そんな奴や周りがが力を貸せと言ったってそりゃ拒否られるのが当たり前
だからこそ、応えてくれた者、ついてきてくれる隊の仲間にはとても感謝している
遊糸もそれは分かっている。扱いの差に関してはある程度、受け入れろと言うだろう
だが、これは酷すぎるのだ。姫歌が神庭に来る以前からリリィとして活動し、それこそ御三家や百合ヶ丘出身ならば仕方ないかもしれないが彼女は初心者だ。才能は姫歌の方が上なのかもしれないがそれ以外では海漓の足元にすら及ばない。遊糸だけでなく相模女子のリリィならばほぼ全員同じように言うだろう
確かに目立つかもしれないが初心者の煽りと経験者の頼みで前者を鵜呑みにする事自体信じられないのが本音
『‥こっからは臨機応変に動くしかないわね‥』
『ですね‥こっちから命令出す訳にも行きませんし』
命令を出せず自分達は戦況に合わせ臨機応変に動くしかない。
その理由は先ず海漓には権限が無い事、そしてもう一つはこの戦場では海漓の命令で動いている者と姫歌達の命令で動いている者の2つの集団が存在している事。
なんの権限も持たない海漓からの命令は 現場を混乱させる可能性が非常に高い故に今出て行った者達に対し海漓は指示を出さない。
臨機応変、状況に合わせて動いていくしか無いのだ
そんな状況において通信が生きているのは不幸中の幸いである
「(さーて、どうしよっかな)」
グンタイアリが此方に来るまでには少々時間がある
ラージ級、ギガント級も本格的に動き出すには多少の時間が必要
出て行った連中には申し訳ないが時間稼ぎ要員になってもらう
本当の戦いはこれからなのだから
姫歌と海漓の差
感情を優先する姫歌と理性で感情を抑え込む海漓
人を引きつけ魅了する言葉を投げかけた姫歌
あくまでも現実を見せ、協力を求める言葉を投げかけた海漓
グンタイアリや怪文書で追い詰められ苦しい中で惹きつけられるのは前者だよね?って事
ましてや秋日、藤乃、高嶺差し置いてサブリーダーやってるし、文化祭筆頭にアイドルしてるしそら姫歌に惹きつけられる