時はサッカーが世界で老若男女に大人気のスポーツとなって数十年と時が経った頃。
技術・戦術は各段に進歩し、いつしかそのスポーツは『超次元サッカー』と呼ばれるまでになっていた。
また進歩したのは選手のみならず、今まさに全国中学サッカー大会の決勝は地上から大きく離れた場所――空に浮かぶスタジアムで観客の歓声の中繰り広げられていた。
『フットボールフロンティアも遂に決勝!いよいよ後半戦に突入しましたが…ボールを得たのは雷門中!』
『鬼道君と豪炎寺君の華麗なパス回しでどんどん攻めあがって行きますね。流石は天才ゲームメイカーとストライカーといったところでしょうか。』
『屈強なディフェンスの隙間をスルスルと進んでいく!!』
「そう簡単に抜かせるかよ!」
「鬼道!」
「ああ――イリュージョンボール。」
ゴーグルのようなものを掛ける鬼道と呼ばれた男の前に屈強な男が立ちはだかる。
壁そのものとも思える相手と鬼道の背は一回りも二回りも異なり、その体格差は歴然だ。
サッカーを知る誰しもがその圧倒的なフィジカルの差を前にしては突破は不可能、そう思うだろう。
だがこれは『超次元サッカー』、常識など通用しないのである。
ディフェンスの男が瞼を閉じ、次に開いた瞬間目の前にあったのは鬼道を中心に幾つものボールが渦を巻き宙に浮く光景だった。
目の前の光景に判断が追い付かずどれが本物のボールなのか見定めようとするも時すでに遅く、ボールを持った鬼道はディフェンスの男を抜き去っていた。
「なにィ!?」
『出ましたァァ!鬼道君のイリュージョンボール!体格差もお構いなしに鮮やかに抜き去りました!』
『鬼道君と豪炎寺君がどんどん相手ゴールへと近づいていきます。そしてこの二人がゴールへと向かうということは……』
実況席に座る二人は白熱の試合展開を見せるゴール前からその真反対――雷門ゴールへと目を向ける。
サッカーというスポーツにおいて守っている時ほどフォワード陣の動きは小さく、攻めているときほどディフェンス陣の動きは小さい。
それは必殺技などが横行するこの超次元サッカーにおいても基本同じであるのだが、この雷門中だけは例外中の例外なのだ。
「鬼道!豪炎寺!」
「「円堂!!」」
『ここで雷門中キャプテン円堂守君がゴールを飛び出し攻撃に参加だァ!!』
『彼のこのスタイルは今大会で何度か見ましたがいつ見ても度肝を抜かれますね……』
雷門の守護神、円堂が一目散に相手コートへと突き進み豪炎寺らの居るゴール前まで駆け寄っていく。
その円堂の動きに敵キーパーが強烈なシュートが来ることを察知してかどっしりとその場に身構える。
「いくぞ!」
「「おう!!」」
『鬼道君、ボールを高く蹴り飛ばしたァ!』
『恐らく彼ら三人によるあの強烈なシュートが放たれるのでしょう。』
鬼道の蹴り上げたボールに合わせ、三人が高く飛び上がる。
空中に浮かぶボールを三人の力でゴールへと叩き込む必殺シュート。
完全に同じタイミングで力の大きさも一致した時にのみ成功するその稲妻のごとき一撃。
その一撃が遂に放たれるのだと観衆は唾を呑み、キーパーはニヤリと笑みを浮かべる。
だが宙に飛び上がったボールに足が触れることは無く、3人の力が合わさったその一撃は放たれずボールは空へと昇っていく。
『おおっと!?これは一体どういうことだ!?』
『今大会の中でも相当難易度の高い技であるため失敗してしまったのでしょう。以前よりも高めに蹴り出してしまったことが原因かもしれません。』
「はッ…期待して損したぜ。」
目の間でただ地に落下する3人を見ながら巨体を持つそのキーパーは肩を竦める。
観衆も同じく、熱い展開に沸き立ちその場から立ち上がっていた者もため息をつくとその場に座り込んだ。
実況席も観衆も敵チームもシュートは失敗した――そう思ってしまった、
「まだだ!!」
突如ピッチに響く声に雷門中を除くその場にいる誰もが驚く。
天から聞こえたその声の主は円堂たちよりもずっと天高く飛び上がり、太陽を背に輝きを放っている。
誰よりも天高くボールとともに宙に浮かぶその姿は正に大きな空に羽ばたく翼そのものだった。
『これは……先ほどのはシュートではなかった!パスだったんです!』
『まだ居ましたね……雷門中のもう一人のエースストライカーが。まさしく天才と呼ぶに相応しい男が!』
「これが俺の――シュートだぁぁぁ!!!」
万年弱小の雷門中サッカー部。
彼らが弱小から這い上がっていく。
その伝説は一人熱血キャプテンと二人の天才ストライカーからは始まる。