【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

100 / 134
何か弁明は?

 

 

「恐らく骨折です」

「でしょうね」

「『でしょうね』じゃねーよおバカ」

「あだっ」

 

 着順確定後の医務室。ぼくに下された診断はある意味想像していた通りのものだった。

 原因は……まあ、わかりきったことだが、ひとつは最高速の限界を超えた上で無減速クロスステップを使ったこと。もうひとつは、クロスステップの習得を急ぐために練習を繰り返して足首に疲労を蓄積させすぎたこと。そして最後に、体幹が急に強くなり()()()こと。

 体幹が強くなれば無理な姿勢からの復帰もできるようになるが、そもそも体に悪いので無理な姿勢になどならない方がいい。今回は無理に勝ちに行った結果、そのあたりの理屈を考慮し忘れて「できる」からと無理な体勢になってしまった。結果、関節に負担がかかって……という流れだ。

 医務室だから簡単な診断しかできてないけど、病院に行って実際にレントゲンを撮ったりしても診断は同じだろう。

 

「怪我人に対してなんて乱暴な」

「オメーが自分で言わなきゃ説得力もあるがな?」

 

 そりゃそうだ。少しでも場の雰囲気暗くしないために言ってるんだから。

 例えばフラッシュ先輩。差しウマ娘相手にした時の練習に付き合ってもらうことが多く、疲労骨折の可能性を察することができなかったことを多少なりとも悔いている。例えばリムジン先輩。こちらは同じく骨折を経験したこともあるし、内面がやや大人しめなので同情で気分が落ち込んでる。

 こういう雰囲気は良くない。息が詰まる。

 

「で、何か弁明は?」

「何か悪いことしましたかぼく?」

「こいつ……!」

「悪いことと思ってなければ弁解する必要も無いということですか……」

「えへっ」

 

 ……いや、まあ確かにトレーナーさんとの約束を破ったことは悪いなとは思ってるけど。

 それと、勝ちにいくためにリスクを飲み込んだことは別だ。結果的に勝てなかっただけで、その選択を悔いてはいない。勝てなかったことは悔しいけど、今はそこは重要じゃな……いや重要ではあるが……思い出したらまたむかっ腹立ってきたな……何だよ引き分けって。

 

「つーかよぉ、同着自体はまあいいんだけど」

「よくない」

「ウイニングライブどうするんだ? コイツ動かすわけにいかねーだろ」

 

 そこは確かにそうだ。

 仮にも、分け合ったとはいえ一着には変わりない。興行である以上ウイニングライブで主役不在という事態はURAとしても避けたいところだろうが、同時に骨折したと既に分かっている選手の脚に負担をかけるような真似はするまい。

 

「……正直なところ……いずれやるとは思っていましたから……」

「教え子が犯罪者になった教師みたいな発言やめてくれません?」

「そのいずれやるってどっちの話?」

「どっちもです。この性格ならいずれ何かしらの要因でリスクを飲み込む可能性があるだろうと思ってましたし、あの戦法なら同着になることもありうると思ってました」

 

 あれ……? ぼくの性質読まれすぎなのでは……?

 

「ちなみに同着になる可能性って……?」

「あなたは実力が拮抗している相手を差す時、相手が『必ず』差し返してくるものと考えてゴール入線間際で頭だけ出して勝とうとする手段を取りますね?」

「同着になる可能性高くて当然じゃねェか」

「うぐぅ」

 

 それは……そうなんですが……。

 でも差し返してくるじゃんきっと皆。そういうある種のスゴ味があるからこそG1で勝ててきてるのであって、考慮しないのも違う気がする。

 なにぶん色々知ってるからな実例……加えて、差し返すことができるウマ娘のまさしく実例そのものなスカーレットを近いところで見てきたのもある。アイネス先輩とかも絶対やるじゃんと思うし……。

 

「G1を走るお姉さんたちは、やっぱり差し返してくるひとたちが多いんですか?」

「いやコイツの周りに異様にそういう傾向があるだけだ。フラワーはここまで臆病になる必要はねェよ」

「臆病て」

「臆病でしょう」

「臆病だろう」

「やーいビビり」

「ぐぅ」

「ぐうの音が出たな……」

「案外余裕だな」

 

 シマウマは獰猛な生き物だが、それは臆病さの裏返しだ。未知の事物や害を正しく恐れているからこそ、近付けまいと必死になる。臆病さというものは動物の生存戦略だ。

 ……という自己正当化のための理論武装を一瞬思い浮かべたが、そもそも焦点は臆病さの正当性じゃなくてそれが同着になる原因になったかどうかだ。そこに関して否定はできないので口をつぐむことにした。

 

「話は逸れましたが、こうなると予測していたので用意はあります。まさか同着と骨折を同時にやらかすとまでは思いませんでしたが……まあ、過去の事例から対応は可能でしょう」

「URAも歴史が長いからな。同着の事例もあるし、骨折しながら勝った事例もあるということか」

 

 それこそ一昨年のダービーがまさしくそうだ。

 骨折して勝った……というのはなかなか無いかもしれないが、それでも勝ってから痛みを訴えるケースは枚挙にいとまがない。その後、検査したら結局骨折だったというケースも数多くあるだろう。

 幸いというか、「NEXT FRONTIER」は動くことは動くけど大きく脚を動かすようなことはあまり無い。演出も派手な方だし、多少のごまかしはきく。お客さんには悪いけども。

 

「……それと」

「まだ他に何か?」

「次走のことですが……」

「オイオイオイ、今話すことじゃねーだろ」

「治療の方が先だと思いマス……」

「完治させるにもある程度展望を定めておいた方が良いでしょう。勿論、時期は考えますが、精神的に『こう』と定めておけば体にも作用します」

「あァ――プラセボ効果か」

 

 プラセボ効果。日本ではプラシーボ効果と言ったほうが広く伝わりやすいだろう。思い込みの力が体に作用する一例だ。

 期間を定めてその日に向かって治るよう自発的に努力させることで、単純に治療効果を高める意図もあるだろう。いずれにせよ今のうちに決めておくべきなのは間違いない。

 リハビリの問題もあるだろうし……。

 

「そうですね、じゃあ――――」

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 ウイニングライブを終えてしばらく経った頃。今回の宿泊先に指定されている京都市内のホテルの一室。

 ライアン先輩とパーマー先輩、そしてマックイーンの今回の天皇賞に出走したメジロ家三名が集まっている部屋にやってきたぼくは――。

 

「和風カプレーゼです」

「おっ、来た来た」

「……なぜ!? 今このタイミングで食事を!?」

 

 ――夜食を持ってきていた。

 トマトをスライス、モッツァレラチーズと豆腐を薄めにスライスしてこの三種類を適当に組み合わせる。臭み取りの青じそをこれに挟むか、もしくは適当にざく切りにしてふりかける。ここに塩と、京都ということで粉末のお茶をひとつまみ。オリーブオイルにだし、醤油、少なめのお酢を混ぜたドレッシング風の調味料をかけて完成。火を使わないので比較的安全だ。

 

「いえそもそも! あなた怪我したのでしょうになぜ食事を配膳など……!?」

「あ、骨折だったよ」

「ちょっと!!」

 

 ははは。今更どうこうできるわけでもないのにオロオロし始めたのウケる。

 

「おあいこだよおあいこ。菊花賞だとマックイーンが折ったじゃん」

「そういう問題ではなく! 負担がかかりそうなことをやめなさいと言っているのです!」

「そこまで莫大な負担がかかる行為ではないよ配膳は」

 

 心配性だなぁマックイーンは。

 

「となると、復帰はしばらく先かぁ」

「ですね。全治二ヶ月って話だから……まあ宝塚は無理かな」

「元々出る気は無かったでしょうに」

「どうかな? 考えは変わるものだよ」

 

 ……いや万全だとしても実際グランプリレースに出る気は無いが。

 どうせあれじゃん。有に勝るとも劣らない地獄じゃん。加えて夏じゃん。死ぬって。勝ちたいは勝ちたいけどコレに関してはそういう問題じゃない。

 

「まあ、できれば早いうちに決着はつけたいけど」

「……ええ。今度ははっきりと勝ち負けをつけたいところですわ」

「えっと……どこで?」

「今明らかに萎縮しましたわねパーマー……?」

「ふたりがいるレースだと実力発揮しきれそうにないしねぇ……」

 

 それはぶっちゃけその通りだ。ただ、それは長距離での話。中距離であればまだ手立てはあるだろう。

 ここから年末にかけてのG1レースは概ね中長距離、長くとも有の2500mが限度だ。勝ち筋はある。あとはパーマー先輩がそれに気付くかどうかだろうか。

 もっとも――――。

 

「まず秋の天皇賞は無いね」

「距離の問題ですわね?」

「ううん。その頃は海外にいるだろうから」

「は?」

「海外!?」

 

 ぼくは小さくうなずいた。

 海外遠征。これは前からずっと考えていたことだし、トレーナーさんたちともコンセンサスが得られている。

 具体的に言うと、行き先は欧州だ。9月あたりのG2が復帰戦になるよう調整も行っている。

 

「正確にはフランス。フォワ賞に出られたら出ようと思ってる」

「つまり目標は――」

「エルコンドルパサーさんが惜敗した凱旋門しょ」

「カドラン賞に出ようと思って」

「そっちかー」

 

 あ、マックイーン顔赤くなってる。ワハハ。レースの場から外れるとよくよく予想外すな。

 まあ皆フランスと聞くとそっち行かせたがるよねだいたい。

 

「アリかナシかで言うとアリなんだけどね。やっぱりステイヤーとしては最高峰の舞台に挑んでみたいのが本音」

「まあ……ダメとは言いませんけれど……」

「言える権利がない、が正確じゃない? マックイーン……」

「というわけで、世界最強のステイヤーになってからもう一回やり合おうと」

「順序がおかしい」

「おかしいですかね? どこから始めたって別に悪いことは無いと思いますよぼくは」

 

 順序が問題じゃないんだ。結果が問題なんだ。勝てるならそれでよし。勝てないなら……それはその時。

 幸い、ぼくは海外遠征するにあたって実績は十分なくらいある。

 まあ、日本と同じようにはいかないというのが問題なところはあるけど……。

 

「とすると、一番やりやすいのは……有記念……」

「有はダメだ」

「トラウマ強すぎるでしょ」

 

 こればっかりは強く心に刻まれすぎたので仕方ないと思う。うん。

 





 ストライプは現状JWC出場時の「ヨーロッパのG1レースで好成績を残している」状態、能力に至っていません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。