【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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フォロワーが増えている

 

 

 怪我の休養期間はやることが無くて困る、と走者の皆は口々に言うものだ。

 本当にやることが無いわけじゃあない。ただ、いつもと比べるとやるべきことは格段に減る。マックイーンなんかも、怪我をしていた最中は暇そうな姿を目にすることがそこそこあった。

 ――が。

 

(やりたいことが……やりたいことが多い……!!)

 

 ぼくの場合は暇になる時間が皆無だった。

 リハビリメニューは当然として、まず仕事。市場調査、メニュー開発と今後の事業拡大に関する計画立案、税理士やコンサルタントとの相談に就職希望者との面接と書類審査他諸々。

 それから趣味。お金を手に入れて以降暇になったらやろうと思って積んでたゲームや漫画、録画していた番組もあるし、食べ歩きとかも行きたい。映画も観に行きたい。マヤノに動画出演してほしいとも言われてる。

 更に、トレーナーさんからはフラワーとハヤヒデ先輩のトレーニングについて助言と協力を求められている。高等部に上がって後輩が増えたせいか、そちらの方面でアドバイスやアルバイトの斡旋なども求められることが多いし、今日なんかチームスピカに呼び出しを受けている。

 まあ、呼び出しと言っても「ちょっと顔貸せや」的なアレではない。やるかどうかで言えばノリノリでやるのがスピカだが、今回はそういうニュアンスでもなかった。

 ――というわけで、ぼくは屋台に新メニュー候補を山と積んで部室前にやってきたのだった。

 

「だから! 脚を折ったのに! 何をまた屋台など引いているのです!?」

 

 めっちゃ叱られた。

 

「安心しろ、引いたのはアタシだぜマックイーン!」

「あなたが協力などするからまた調子に乗るじゃありませんの!」

「この言いぐさよ」

「なー」

「いや普通にストライプも悪いからね?」

 

 じろ、と湿った視線がテイオーから向けられた。

 そりゃ、まあ……そうかもだけどさ。

 

「そう言うなら呼び出しせずにぼくのいる方に来てよ」

「…………」

「忘れてたね?」

「普段のストライプ、フットワークすっごい軽いからつい……」

 

 気持ちはわかる。なにせぼく自身もときどきうっかりケガしてることを忘れて普通に動こうとして悶絶するからだ。

 最近は徐々にその不便さにも慣れてはきたが、それでも日に一度くらいはやらかすほどだ。

 ……まあいいんだ、そこは。お互い様というか皆怪我人という意識が足りないってだけなんだから。

 

「そんで、何で呼び出したはずの俺たちがごちそうになることになってるんだ?」

「別にごちそうするために来たわけじゃないよ。これ試食用だから。食べてもらって好感触を掴めないと商品化できないんだよ」

 

 当然だが、単純にタダで食べてもらうために来たわけじゃない。何事もギブアンドテイク。皆にやってほしいのは、商品として出してもよいかどうかの批評だ。

 ただの食事ならぼくだけが美味しいと感じるだけでいいけど、「商品」にするなら一定水準以上の味は欲しい。なおかつ万人ウケしないといけない。

 というわけで、こういう場面で必要なのは他人の意見だ。複数人に、色んな角度から「美味しい」と言ってもらえれば、商品として提供できる味ということにできる。

 で、本題は? とスペ先輩に料理を提供しながら促すとまずそれに応じたのはマックイーンだった。

 

「あなた、自分のフォロワーが増えているのは存じていますの?」

「ウマスタの話……?」

「いえ、そちらではなく」

「レースの話よ。ストライプの戦法を真似してる子が増えた……って話」

「地方でもそれで勝ってるヤツが結構出てきたとか聞くよな」

「走りにくくってヤになっちゃうんだよね~」

「……その対策ぼくに聞く?」

「答えるでしょう?」

「まあ答えるけど」

「答えるのかよ」

 

 せっかくの頼みだし……。

 何より他の人にアドバイスするのにテイオーたちにアドバイスしないってのも違うし。

 

「助言ひとつでダメになる作戦ならそれまででしょ」

「意外に厳しいこと言うわね……」

「後輩にも言ってるけど、作戦って一つ立てたらハイおしまいじゃないんだよ。状況は常に動き続けてるし、他人は思ったように動いてくれることは少ないし……」

「実感こもってるなぁ」

 

 実際にガチッとハマった作戦なんて皐月賞の時しか無いんじゃないだろうか?

 それだって仕込みが半年以上必要だし。G1ひとつ取れるならそれでも安いと言えるかもしれないけど。

 

「対策は……まず思いつくのは、相手の予想を外すこと。レース中だとそう簡単に修正はできないから、結構効くよ」

「ストライプさんやセイちゃんは予想を外しても対応してくる印象がありますけど……」

「ストライプを基準にしちゃダメだよスペちゃん!」

「ただ、それをするにも少し問題があってね。相手が何を目的にしてるかがわかってないと効果的に対策が打てないんだ」

「目的って?」

一着(ワンチャン)狙いでレース自体をグチャグチャにしに行くか、安定狙いで掲示板入りを目指すか」

 

 ちなみにぼくは基本的に前者だ。結果的に後者の目的も果たせるが、やるなら勝つという気でいる以上勝ち以外に目を向ける気はない。

 一方で、後者の安定志向も理解できる。特に、中央では勝ち上がること自体が本来難しく、トレーナー契約に際して用いられる「一定の成果」というのは掲示板入り以上を求められるのが(稀に素質に優れるウマ娘は何が何でも一着! くらいの感覚でいることもあるけど)通例だ。

 掲示板入りすればウイニングライブでも比較的目立つ立ち位置に行ける可能性は高くなるし、注目度も上がる。ファンがつけば宝塚など、グランプリレースのファン投票でそれなりの順位に入れて出走の可能性も生まれる。気の長い話だが、これもひとつの道だ。一発逆転にばっかり賭けようとするとそもそも勝ち上がれないという問題もあるしね。

 ともかく、ウマ娘によってその辺の傾向は異なる。大博打前提で勝ちに来るか、一着は逃してでもなんとかして掲示板入りを目指すか。そこを見極めきれないと、的外れな対策をすることになりかねない。

 

「まあ、そんなとこ。もうひとつの対策は……」

「対策は?」

「……これ言っていいのかな。元も子もない話なんだけど」

「俺たちは言われなきゃわかんねえし」

「まあそれもそうか。えっとね、策を弄されても関係ないくらいフィジカルでねじ伏せるって話なんだけど」

「本当に元も子もありませんわ……」

「でも一番確実だよ。スズカ先輩に策とか通じそうにないでしょ」

「あー……」

 

 やりようはある、と思うけど。強引に先頭に立ちに行って展開の邪魔をするとか。

 まあその辺はね、実戦になってみなきゃわかんないから考えすぎるのは禁物だ。

 

「で、テイオーの場合は……」

「ちょっと待ってよストライプ、何でボクの話だって決めつけてるの!?」

「ぼくのフォロワーが増えつつあるって話ならクラシック世代ってことでしょ。同世代以上でそんな言い方しないし。で、スピカでレースを目前に控えてるウマ娘って言ったら――」

「うぐぅ」

 

 別にいいじゃん、と思うんだけどここで素直に言ってこないあたり、プライドが邪魔したのかぼくを騙せる可能性があると見たのか……。

 まあどっちでもいいや。大した問題でもない。

 

「テイオーはもうとっくに対策ができてるから問題ないと思うよ」

「うぇ?」

「……最初の模擬レースのことですわね?」

「ああ、アレね」

「相手の走りに惑わされずに、自分の走りだけを貫く。それさえできれば、ぼくに勝ったのと同じようにやれるよ。逆に言うと、対策が対策がって言って思考が逸れすぎると、普段通りの走りはできないだろうね」

 

 テイオーの強みはその総合力の高さと、それを余すところなく表出できる体の柔軟性だ。時に柔軟性が高すぎるからこそ、可動域を無視して負荷を与えてしまったりもするが……適切な走り方をする分には強力な武器に違いない。

 あとは、そこにどれだけ不純物を混ぜ込まないかだ。特にテイオーのように高い実力と自信を兼ね備えるウマ娘は、精神の揺らぎがパフォーマンスに影響しやすい。対策という意味で言うなら、ただ個人としてベストを尽くすことが間違いなく最大の対策になるだろう。

 

「ぼくから言えるのはそのくらいかな。じゃあ皆、オープンキャンパスの案内準備頑張って」

「お゛ー……思い出した……」

「お前らも大変だな、これ食って元気出せよ」

「何でゴルシが他人事みたいに言ってんの!?」

「ゴールドシップさんいつの間にストライプさんの隣に……」

 

 言いつつ、(勝手に)ゴルシパイセンが差し出したのは、鮮やかな緑色のペーストを芯にした海苔巻きだった。

 

「涙巻き*1じゃん!?」

「へっ、このゴルシ様がそんな普通のものを出すと思ってんのか……?」

「作ったのはストライプでしょう」

 

 そうだが。

 まあ色んな意味で変化球なのは間違いない。どうぞ、と促すと、まず食に対する興味が強い(穏当な表現)スペ先輩が先んじてひとつを口に運ぶ……と。

 

「あれ、辛くない……これ、もしかしてアボカドですか?」

「そですね」

 

 正確にはアボカドをメインにワサビっぽく見えるよう具材を混ぜたペーストだ。エセ涙巻きということになる。

 へぇ、と納得の声が上がると共に他の面々も手を伸ばし始める。概ね好評だが、唯一「当たった」マックイーンはその場で悶絶していた。

 

「えっ!? ホントのワサビ!?」

「ロシアンたこ焼き、みたいなのがあるといいなと思って、ロシアンお寿司……思ったよりキくみたいだね」

 

 もうちょっと、お寿司そのものの味をブラッシュアップしてもいいかもしれないと思いつつジュースを渡すと、ひったくるように受け取ったマックイーンはすごい勢いで飲み干し始めた。

 甘党だからなマックイーン……こうもなるってものか……。

 その後はぷりぷり怒るマックイーンをなだめて皆に系列店の割引券を渡し、トレーニングに行くのを見送ることになった。

 

 ダービーまであとちょっと。

 一度レースから離れて俯瞰すると、学園の皆が浮足立っているのがよく分かった。

 

*1
わさびだけを具材にした海苔巻き。当然辛い。

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