【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

102 / 134
余計な助言したかな

 

 無敗の皐月賞ウマ娘。それが現在のテイオーを示す言葉だ。

 ちなみにぼくもダービーまでそう呼ばれていた時期があったのだが、ギリギリの勝利が多くテイオーほど「三冠確実か!?」とか大々的に報じられはしなかったと思う。ここで「ぼくも当時無敗の皐月賞ウマ娘だったよ」なんて言うと縁起が悪いので何も言わずにおいた。

 そして言わずにおいたらイギリスの重賞を勝って一時帰国してきてスペ先輩と談笑していたスカイ先輩に言われてしまった。

 ぼくの努力を返してほしい。

 

 さて、そういうわけでダービーの前日。

 ……ぼくはトレーナーさんとだいぶ揉めていた。

 

「東京レース場行くくらいいいじゃないですか! 一ヶ月経ったんですよ!?」

「現地に行くと絶対に高揚してあなた抑えきれないでしょう」

「………………そんなことないっすよ!」

「そんなことあるようですね」

 

 最近のぼくは、欲を抑えなくなったから以前よりも少しワガママだ。

 当然だがダービーなんて現地で見ようもんなら、熱に浮かされて心が揺さぶられることも間違いない。走りたい欲が刺激されるだろうから、それをなんとかして発散するために色々と試行錯誤することになるだろう。

 ……いや試行錯誤で済むだろうか。普通に走りに行くんじゃないか?

 

「だってもうほぼ治りましたよ……!?」

「……まあ、あなたなら癒合していてもおかしくありませんが」

 

 ぼくの骨が変な信頼を受けている……。

 いや、実際痛みはもうほぼ無いんだ。ちょっと違和感があるかも? くらいで。

 

「それでも医師の判断を優先しましょう。あなたはこういう時の判断は専門家に任せられるはずです。そうですね?」

「それは判断が難しい時で」

「そうですね?」

 

 圧がクソ強い。ぼくは頷かざるを得なかった。

 実際専門家の話を出されると弱い。ぼく自身、素人判断は避けて専門家の意見に耳を傾けるべきというスタンスなのでこの話を出されると本当にどうしようもなかった。

 忙しいこともあってか、病院に行って再検査ということも特にはしていない。通常の診療の範囲だけなので、治療期間が短縮されたということも無かった。

 

「先に言っときますけど」

「何です?」

「……テレビの前にいる時のぼかぁ史上稀に見る浮かれポンチですからね!」

「噂には聞いてましたけどあなたそんなにテンション変わるんですか」

「だいぶ」

 

 自覚はあるというか自覚を促されたけど、ぼくが友人を応援する時の姿勢はデジたんのそれに似てしまう。

 東京レース場は学園から目と鼻の先だ。よって通常、ダービーを見るために寮のテレビを使用することはまず無い。

 よって明日、カフェテリアのテレビ前では浮かれきったシマウマが独りでダンサブルすることになるわけだ。

 ハタから見ると軽いホラーである。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 ――というわけで翌日。

 カフェテリアにはマジで誰もいなかった。

 寂しい。

 

「あーあー普通こういう時誰か残ってくれるもんじゃないのかなー!」

 

 と、言ってはみたが当然誰も反応してくれるひとはいなかった。

 しょうがないね。基本中央に所属してるウマ娘は走るのが大好きだし他人が走ってるのを見るのも大好きだ。中央で働いてるひともだいたいそうだ。現地に行けるなら当然行くだろうとも。

 しょうがないついでにフライヤー借りて揚げ物パーティだ。まあパーティと言いつつだーれもいないんだけどな! ワハハ。

 

「寂し」

 

 作り上げた高級(当社比)ポテチは、外はパリパリ中はもっちり。心の寂寥感と裏腹に試作はうまくできていた。

 いいさ。大画面テレビで一人で見るダービーも乙なものよ。ケニア産の仮面まで装着しちゃったりして。イェイイェイ。

 

「うおっ!? 森の精霊!?」

「あ」

 

 ――そんな投げやりな感情でダンサブルしていたところ、カフェテリアに入ってくる人がいた。

 元チーフである。

 ふざけて仮面までつけてるせいで外見上のヤバさは倍増だ。オマケに知り合いが来たせいで一気に冷静になった。

 ………………。

 

「元チーフ、いったい何をしてるんですか? びっくりさせないでくださいよ」

「恥ずかしいのを誤魔化そうとしてるのか知らんが、こっちが悪いような言い方をしてくるのはやめんか」

 

 とりあえず責任転嫁してみたが想像より圧倒的に早く見抜かれた。

 残念だが見抜かれた以上どうしようもない。ぼくは仮面を取って向き直った。

 

「それで、ご用件は?」

「レース場に行けないだろうから、寂しがっているだろうと利紗が言っていてな」

「さみっ……寂しがってるというほどではありませんが!」

「しかしな……その有様はどう見ても暇人かよっぽど寂しい人間の……」

「…………」

 

 いや、分かってるけども。

 実際今の今までクッソ暇だったし寂しいし……だから揚げ物やりながら奇行に走っていたとも言えるんだけど……。

 だからって指摘されたら本当にそうだと認識するしかないじゃないですか。やめてよ現実を直視させるの。

 

「まあまあポテチどうぞ」

「どんどん誤魔化し方が雑になってきていないか?」

「そこで追求しないでください」

 

 だから雑になってくるんですよ、とは思っても言わないことにした。そろそろレースが始まるからだ。

 

 今回のダービー、テイオーはまさかの大外枠の8枠18番。客観的に言って運が悪い。前年のぼくもそうだった。縁起が悪いのでぼくは本人には言わなかったけど。

 他のひとは言った。

 

「ストライプ、お前ならどう見る?」

「大本命はやっぱりテイオーです。外枠なのは気にかかりますけど、それほど影響するコースじゃないですし……ただ、リオナタール*1も青葉賞から順調に勝ち上がってきてここまで二連勝なので相当強いですよ。イオンシーズンも、ジュニア期にかなりの場数を踏んできてる巧者です。今までの勝ちレースと比べて距離が長いのが気にかかりますけど」

「他は、そうだな。身体能力で圧倒される範囲とも考えられるか……」

「他にも色々ありますけど……マイラーなら2500まで対応できるでしょうし……」

「お前は何を言っているんだ」

 

 マイラーは有を走れる。これはオグリ先輩から学んだ教訓だ。グラス先輩も朝日杯を勝っていて有を勝ち、とある安田記念覇者も有で半バ身差の二着に入った*2ことからもこれは有意なデータとして数えられるはずだ。*3

 

 ほどなくして、レースが始まる。全体的に見て好スタートを切ったウマ娘が多い中、最も良いスタートを切ったのは間違いなくテイオーだった。 

 それを想定しているかは別として、イニシアチブを取るには間違いなく好スタートを切る方が良い。ぼくがほとんどのレースでロケットスタートしているのもそのためだ。控えた位置に下がるにしろ、前に出るにしろ選択肢が多ければ多いほど良い。

 ただ、問題は……外枠が影響しているせいか、内側に切り込めてない。これではコーナーに差し掛かる時に小さくないロスが生じてしまう。

 

(いや、テイオーならいいのか)

 

 ……もっとも、その辺のロスが問題になるのはぼくのように最高速が劣る場合だ。

 スタミナさえちゃんと確保できていれば、時間と速度を調整すれば多少のロスはすぐに巻き返せる。外から直線で一気に駆け上がるということもできるだろうし。

 レースの流れとしては、想定通りの先行策。全体の能力を考えるとレースが動き出すのは後半、特に4コーナーからになるだろう。

 あとは……それ相応の不確定要素は確実にあるか……。

 

「誰が仕掛けてきますかね?」

「ふむ? お前も最近策を弄するウマ娘が増えたという話は聞いとったか」

「というより直接相談受けたっていうか……」

 

 それも対策される側(テイオー)対策する側(それ以外のひと)の両方から。

 

「……む」

 

 と、そこで動きがあった。テレビの画面越しだから上手く把握できないが、どうやら後ろにいる走者が何か仕掛けたようだ。12、13番手にいるウマ娘がペースを上げている。

 ……しかし、このまま行くのは少し危険だろうな。後ろのペースが上がるということは全体のペースが上がるということ。全体のペースが上がればそれに伴ってタイムも縮む。そうなると、身体能力で劣る側のウマ娘の勝ち筋が一つ消える。

 理論上、常時ほぼ等速で走りきれるぼくはそれでもやる理由があるが、普通に考えると……まず避けるべきだろう。

 加えて、オーバーペースを誘発して潰すならもっと速度を上げさせるべきだ。今のままでは半端という印象は拭えない。これでは――。

 

『まもなく4コーナーに差し掛かります。外からトウカイテイオー、トウカイテイオーが来た!』

 

 ――テイオーを抑えきることはできない。

 

 余計な助言したかな。ここまで冷静なレース運びができるようになってると、次やり合う時に絶対面倒くさいことになるよな。

 上がったペースに無理に対応せず、順位が落ちることまで含めて計算に入れて、確実に外からスッと上がっていく。これをやられるとどうしようもない。

 まあいいか、それはそれで。強い相手なら強い相手で競い甲斐がある。

 

『差し切って……ゴールイン! 一バ身差で一着はトウカイテイオー、これで二冠達成っ!!』

「圧巻ですね、やっぱり」

「怖い、と思うようなことは無いか?」

「常々、後からやってくるウマ娘の能力がどんなもんかと戦々恐々はしてますよ」

 

 中でもテイオーは、入学直後から付き合いがあって能力の高さも知っていることから、別格と言っていい。

 それでも最近のぼくの精神状態から考えると、競うことに抵抗感は……そこまで無い。

 

「けどやり合おうという気持ちに変わりはないですし……いざやるなら長距離(ホームグラウンド)を選ぶからそう簡単に負けませんよワハハ」

「戦略的に見ればそれもそうだがな……」

 

 トレーナーさんも元チーフもそうだが、正々堂々やりあう、とか同じ条件で競う……その上で勝つ、ということに対して少なからず理想を持っているように思える。

 当然、指導者としてそういう理想を持っていることは大事だと思うし、指針としては正道だがぼくに合うかどうかは別だ。まあ、その辺も汲んで合わせてくれてはいるのだけど。

 

「……ん?」

 

 そうしたところで不意に、テレビ越しではあるがテイオーの歩き方に僅かな違和感を覚えた。

 まさか、と背筋が粟立つ。いや、でも……しかし。

 必ずそうだというわけじゃないが……だとしてもテレビ越しだ。本当にそうか、と言われると確証は無い。レース直後なんだ。これまで実戦として走ったことが無いだろう2400mという距離もあるし、体の各所が痛みを訴えても不思議じゃない。

 ……しかし。

 

「どうした?」

「テイオーの歩き方、少し違和感ありませんか?」

「……俺には分からんが」

 

 ……普段同じ学年同じ寮で一緒に生活しているからこそ、見抜ける程度の違和感、かもしれない。

 一応、タキオン先輩なんかにも連絡したほうがいいのだろうか。でも、確信できる要素は特に無いし……。

 

 結局、それからしばらく悶々とした思いを抱えながら過ごすことになった。

 ポテチは美味しくできたし、テイオーは二冠達成したし、嬉しいことの方が多いはずなんだけど……悩ましいなぁ。

 

 

 後日聞いてみると、軽度の捻挫だった。

 結論から言うとただの杞憂である。

 すり減った神経を返してほしい。

 

 

*1
アニメ2期登場のモブウマ娘。

*2
史実で秋の天皇賞及び安田記念を制したギャロップダイナ。

*3
当然そんな事実は無い。






○ 支援絵について
 狩猟系ナメクジ様より支援絵(ロゴ)を頂きましたので紹介させていただきます。

【挿絵表示】

 AIを使用して生成した画像を加工して作成されたとのことです。 
 この度は暖かいご支援、本当にありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。