【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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新兵器を導入します

 

 

 宝塚記念の激戦を制し、ライアン先輩が悲願のG1ウマ娘になってから少し。今年も夏合宿の時期が訪れた。

 ぼくはこの合宿をもってトレーニングに完全復帰。今年も例年通り、(各所に許可をもらいに行った上で)偵察に移ることとなったのだが……。

 

「今年からはこの新兵器を導入します」

 

 と、示して見せたのは複数枚のプロペラが揚力を生む最新鋭マシン(マッスィーン)……。

 

「ドローンってお前」

「ついに行き着くところまで行き着いたって感じだな……」

 

 空中から俯瞰的にトレーニング風景を記録できるということで、当初から考慮はしていたが金銭的な問題で断念していた。

 去年の時点でも他に投資すべきものが色々あったので購入にまで踏み切る事ができなかったのだけど、今年になって経営の安定もあってようやく導入したというところだ。

 そこそこモーター音が大きいのが難点だけど、それを補って余りある利便性を誇る。

 シャカール先輩はかなり興味が向いているらしく、一台手に取ってしげしげと眺めていた。

 

「な、なあ……行き着くところまで行き着いたとは何なんだ? ストライプ君は去年までいったい何を……?」

「Ah……そういえば、知りまセン、でしたね……」

「一年目はコイツ自身が偵察行って、二年目はストライプが行くって見せかけてアタシたちに任せたりして」

「去年は外部スタッフを雇い入れていました」

 

 ハヤヒデ先輩が無言でドン引きしている。

 

「へへっ」

「何を得意げな顔をしとるんだお前は」

「ストライプさんが用意したものにしては、台数が少ないですね」

「あ、言われてみれば」

「もう何台かは動かしてるので」

 

 チームの集まりの場に持ってきたのは3台程度だが、本当はもっと買っている。

 既によそのチームのトレーニングが始まっているので、この場に持ってきているもの以外はだいたい稼働中だ。よそに貸し出しているものもあるけど。

 

「しかしなストライプ、確かドローンの操縦は専用の資格が必要*1じゃなかったか?」

「大丈夫です、持ってます」

「お前いつの間に……」

 

 脚折ってから忙しかったのは確かだが、その理由の一つが資格の取得だ。

 趣味……ってことはないけど、今後の仕事のためになるだろうと考えて色々と欲しい資格はあったんだよね。いきなり活用できたようで何よりだ。

 

「まあ仮に資格無くても、資格持ってるヤツ雇ってンだろうけどな。じゃなきゃ今外で動いてねェだろうし」

「一人で全部動かせるわけじゃないですし、そですね」

 

 何でも自分だけでやろうとするとパンクするだけだ。任せられるところは他人に任せるくらいでちょうどいい。

 今回は個人的にも資格欲しかったから自分でやってるんだけど。ドローン配送とかビジネス的にも発展の余地があるし……。

 

 ともかく、こうしてドローンが導入された夏合宿が始まった。

 流れそのものは例年と同じだ。午前中に密度の高いトレーニングをして、午後からは別のことをする。

 今回は、午後からの時間はブランクを埋めるためのリハビリが主軸になった。出店の方は人を雇っているので問題ない。

 

 ……で、そういう具合で数日ほど。そろそろ体のサビつきも取れてきたかなという頃合いのことだった。

 

「トゥインクルシリーズ現役ウマ娘砂浜リレー大会……?」

「うん!」

 

 またなんとも、ある意味夏らしいお祭り企画の情報がテイオーから寄せられた。

 ウマ娘の体質上、トゥインクルシリーズの走者とそれ以外で区分けするのはある程度仕方がないことだ。やりようはあるんだけど、面倒を避けるなら単純にこういう形式が望ましい。

 で、砂浜でレースとなるとほぼダート……ぼくにとっては得意分野だ。誘ってくるのも自然と言えば自然かもしれない。

 

「なるほど、で、ぼくをチームに誘いに来たと」

「そーゆーこと! リハビリにもちょうどいいでしょ?」

「そうだね。で、他の枠何人? 出場者決まってる?」

「んーん、でも勝ちに行くならまずストライプかなーって。参加人数は4人だったかな?」

 

 こういうふうに評価してくれるのは非常に嬉しいところではある。

 が、しかし勝ちに行くか……単純なリレーだとぼくの場合勝てるかどうかは微妙なんだよね。ひとりが走る距離も1000mほどだろうし。この海岸線全部がトレセン管轄ってわけでもないし……となると……? いけるか……?

 

「賞品とか出る?」

「えーっと、何だったかな……トレセン学園の近くのお店でスイーツがいくつか無料? とかだったと思うけど」

「しょっぱいな……まあいいけど」

「いいんだ」

 

 スイーツなのに。

 トレセン学園周辺ってことは帰ってからじゃないと食べに行けないし何ならぼくは合宿中に抜けてフランス行くからしばらくお預けになるぞ。

 いやそこはいいんだ。考え方を変えよう。近隣店の人気スイーツがどういった理由で人気なのかをリサーチする好機だ。

 

「ファル子先輩呼ぶ?」

「あぁ~……それがね、ダートで強い子は1チームひとりまでなんだって」

「ちぇっ」

 

 となると、ファル子先輩やミークとで固める手はナシか。

 基準は……ダート重賞で好成績を残したひとってところかな? 単純にダートレースに頻繁に出てるってことだとチーム作りようがないってこともあるし。

 ってなると、ジャパンダートダービー1着は間違いなく制限の対象だな……砂浜で走ることを前提にすると芝よりも砂の適性が重要になる。

 

「じゃあ候補は絞られる。ツルちゃん先輩とマックイーン――それから、ターボとネイチャ」

「マックイーンは分かるけど、ターボとネイチャとツルちゃん?」

「うん。ぼくが知る限り、一度はダートのレースで勝ったことがあるはず」

「……ストライプ、もしかして皆のレースの記録だいたい覚えてる……?」

「いつものことじゃん。そんな不思議そうにすること無いでしょ」

「ボクの4戦目は?」

「稍重の若葉ステークス。上がり最速で逃げ気味の先行策」

「こっわ……」

 

 しかしぼくの知識はあくまで競走者としてのものだ。トレーナーさんや元チーフに聞けばもっと具体的に詳しく聞けることだろう。

 さて、いざ決まれば行動は早い。まずマックイーン、次にネイチャ、ターボと参加の可否について聞いていく。

 が。

 

「……ダメだ、こっちは全滅。マックイーンはメジロ家で出るしネイチャとターボはイクノとあともうひとり誘って出るって」

「えー」

「えーっ」

 

 間が悪いというよりは、想定が甘かったと言うべきだろうか。

 冷静に考えると、チームで行動することの多いカノープス組と、メジロ家組でまとまってることの多いマックイーンはそうなることを予測しておくべきだった。

 結果、ぼくは全くの素寒貧。一方、テイオーはツルちゃん先輩を呼んでくるのに成功したので格付けが完了してしまった。

 ……格付けとかするような状況かこれ?

 

「ストライプはいつも詰めが甘いんだから~」

「いつもってほどいつもじゃないでしょ!?」

「どうだろ……ストライプちゃん前の野球の時も結構予測甘かったし」

 

 野球の時ので判断されても困るんだけど……こま……いやツルちゃん先輩の判断材料そこしか無いから言いようも無いか……。

 

「どうしよ。現役ってくくりだとアイネス先輩はメジロ家に取られ……あっ」

「誰か思いついた?」

「……現役、いたなぁ」

 

 ちょっと待ってて、とふたりを置いてぼくは心当たりのもとに向かった。

 そうして連れてきたのは――。

 

「ニシノフラワーです。よろしくお願いしますっ」

「フラワー!?」

「大丈夫なの?」

「安全安全。実際安全」

 

 ――つい先日、夏合宿に入ってすぐにデビュー戦を済ませた我がチームベテルギウスのニューエース、ニシノフラワーである。

 いやぁ……一瞬焦った。でも冷静に考えると「現役」なんだから新人でデビューしたばっかりの新人でもそのカテゴリには入る。

 「現役」という括りに対する認識が、この時期にデビューを果たすような新人がそう多くないこともあって、クラシック級以降にばっかり偏ってたせいだろう。実際、フラワー以外でもデビューを果たせる新人の数はそう多くない。

 ちなみに、年齢のこともあるからちょっと心配で、チームメンバー全員がレース場に向かうことになった。これも夏合宿=夏休み中という状況あってのことだが、何やかんや怪我とか接触とか、危惧したような事態にはならなかった。

 ……むしろ引退したはずのタキオン先輩まで含めてチーム全員が来たせいで威圧感が強く、オマケに食い入るようにレースを見つめるものだから保護者会と揶揄された。フラワーも恥ずかしがって次以降はもうちょっと少人数で来てほしいと言われてしまう有様である。

 閑話休題。

 ともかく、趣旨を考えると実はフラワーは最適な人選だったりする。

 

「フラワーは強いよー。何せメイクデビューはダート1000m、5バ身も離しての一着だからね」

「へぇー! まあ、ボクもメイクデビューは一着だったけどね!」

「私も!」

「ぼくも」

「「…………」」

 

 全員そうだった。

 まあともかく、砂で短距離めのリレーということなら、フラワーは間違いなく相当な戦力になる。本質的なところでは芝向きなんだけど、ダートで一回勝ってるという経験は重要だ。

 さて、こうなると……。

 

「じゃあ……ツルちゃん先輩」

「うん、どうかした?」

「ん?」

「テイオーに砂の走り方教えないと……」

「あ゛ッ」

 

 ……この中でダート競走の実績が無いテイオーに、少しレッスンが必要だろうか。

 

 

*1
2023年1月より。特定の要件を満たした状況でドローンを飛行させる場合、国家資格が必要とされている。16歳以上で取得可能。

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