【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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水の上を走ってるようなもの

 

 

 ウマ娘の脚質というものは残酷だ。どんなに望んでも芝では一線級の走りができないひともいるし、その逆もまた然り。

 更に洋芝と土ダート、オールウェザーの適性まで含めるとまさに千差万別。生まれた国によっては、そもそも自分に合うバ場すら無いということまでもがありうる。

 で。

 ――天性の芝ウマ娘であるテイオーをダートに引っ張り出したらどうなるか、という実例が今まさに証明されることとなった。

 

「これそのうち怪我するやつだな?」

「えーっ!?」

 

 速いこたぁ速い。けど、高すぎる柔軟性で適応「だけ」してる状態。このままじゃそのうち変な姿勢になるだろうから怪我が避けられそうにない。

 クッション代わりになってくれるダートであっても、全く怪我と無縁というわけではない。ツルちゃん先輩たちにも通じるものだが、現状は能力だけで走っている状態だろう。

 

「しょうがない、気は進まないけどダートの走り方について教えるしかないか」

「やっぱり、ライバルに塩を送ることになるのイヤ?」

「……ってより、走り方変えるとそれだけ負荷の質も変わりますから。ダートトレーニングするのに今まで通りにできなくなるの、トレーナーさんたちに悪いなって」

 

 速くはなるが、負荷が上がった、とかだとダートトレーニングにかける時間を縮めたほうがいいだろうし、負荷が下がったなら、「トレーニング」として適切な負荷に何かしらで調整する必要がある。どっちに転ぶとも分からないんだよね、これが。

 まあ、このイベントひとつなら負荷の増減も特に問題は無いだろう。ぼくはともかく、他の皆はダートに出る予定無いだろうし。

 ぼくは、その場で砂をひとつかみした。

 

「基本的な話だけど、砂はサラッとしてて形を変えやすい。だから、ちょっと極端だけど、水の上を走ってるようなものだとでも思ってみて」

 

 砂はそれ単体で見れば固体だが、地形として成り立つほどの量が集まった総体として考えると、細かな粒子が集まった流体となる。

 普通の人間でも砂の上を走れば足を取られるのに、ウマ娘の脚力ともなればなおのこと。もはや沼に脚を突っ込んでいるのに等しい。

 

「芝の時は主につま先に力を入れて地面を蹴ってただろうけど、砂の時は足裏全体を使うようなイメージで蹴ってみて」

「うぇ~……なんか違和感……」

 

 そりゃそうだ。普段の走り方と全然違うんだから違和感くらいあって当然だ。

 その違和感に対して適応できるかどうか、またはそもそも最初から違和感が無いかどうかが、砂に対する適性を分ける。ツルちゃん先輩とフラワーもやや苦慮しているようだ。

 

「ストライプちゃん、これ色々原理があるけど、要するに砂と接する面が大きい方がいいってことだよね?」

「ですね。接地面が小さいと踏み抜いて脚が埋まりやすいんです」

「…………」

「どうしたのフラワー?」

「あ、いえ。こういう時ストライプさんは『ぼくの菊花賞の時みたいに』って言いそうだなぁって……」

「……い、いや、まあ……言ってるけど、ウケが良くないから」

 

 自虐ネタすると笑いより先に引かれるんだよ。

 気を遣わせないためにネタにしてるのにネタにもならないんじゃ自虐する意味が無い。

 ……確かに菊花賞でのぼくの状態がそのまま当てはまりはするから、言っていいタイミングではあるんだけども。

 

「あー! ダメだ、きっついよコレー!」

 

 一方、コツが掴めないのか、テイオーがその場でジタバタし始めた。

 ぼくの説明、何かまずかったところあったかな。とりあえず一回目の前でやってみてほしい、と言ってみると、テイオーはその場で実演してみせた。

 ……のだが、ああ、これはまずい。なるほど、ぼくの説明が良くなかったわコレ。

 

「テイオー、たしかにぼくは『足裏全体を使うような』とは言ったけど、本当に足裏全体地面にくっつけて走れとは言ってないよ」

「えぇぇ……」

 

 テイオーはぼくの言うことをそのまま鵜呑みにしてしまったらしい。なまじ柔軟性に優れているせいか、本当に足裏全体を砂にくっつけようと試みたようだ。

 当然そんなことは人体の構造上ほとんど不可能だと言っていい。さっき言ったように、足全体でというのはあくまでイメージだ。

 

「ちょっと足先埋めればいいんだよ。地面蹴る時斜め向きになるんだから、それに合うように砂の形の方を変えてさ。力の向きも、普段よりも斜め下方向にして」

「あっ。あー、あー……こういうことか! んもーストライプ、もうちょっとちゃんと説明してよー!」

「えっ、これぼくが悪いの? ……いやまあぼくが悪いけど……」

 

 もうちょっと正確に説明すりゃ良かったなとは思うが。

 

 さて、そんなこんなで皆で軽いトレーニングを経てから、しばらくしてリレー大会が始まった。

 第一走者は脚質先行としてスタートを切るのが上手いテイオー、続いてツルちゃん先輩、フラワー。最終走者がぼくになる。

 最終走者が長めの距離を走るというのもあるが、最後の最後まで垂れないスタミナがあるというのもある。

 ただ、何が問題かって、他のひともだいたい同じこと考えてるから最終走者はほぼダートの強者だということだ。

 右を見ればファル子先輩にマックイーン、左を見ればミークをはじめダート強者がずらり。

 実績で言うとぼくも決して負けるわけじゃない……っていうか、実績だけで言うとG1級3勝してるぼくはミーク、アイネス先輩と並んで世代トップだったりするんだけど、ダート路線のひとたちは全体的にギラギラした印象が強く、威圧感もそれに伴って大きい。

 ぼくは見た目からして威圧感の欠片も無い。入学から数年経ったおかげでフラワーの背も徐々に伸びてきて、そろそろぼくが抜かされかねないほどだ。

 チームで取材を受ける時なども、なんというかマスコット枠のように扱われることが多い。まあシャカール先輩たちに「マスコットにしちゃあまりにも人格的に可愛げが無ェだろ」と言われる始末なのだが。

 

「ストライプちゃん、今日は負けないからねっ☆」

 

 そして、ファル子先輩もまたなんだかやけに奮起しているようだった。

 ……あれか? 夏はダートレースが盛んだからダートウマ娘も元気になるのだろうか。

 

「なんだか今日は張り切ってますねファル子先輩……」

「ウマドルはいつでも全力勝負! いつ、どこでファンが見てるか分からないんだもん。だから今日『は』じゃなくって、今日『も』かな?」

 

 さすが、プロ意識の塊。そうだね、少なくともファン1号(トレーナーさん)は見てるもんね。

 さて、じゃあミークはと思って見ると、こっちに向かってブイサインをキメてきた。

 

「リベンジ」

 

 どうやらぼくは標的にされているらしい。なんやかんやミークも敗戦を気にしていたようだ。視線はぼくだけでなく、ファル子先輩の方にも回っていた。

 

「……対照的に、と言いますか、あなたはどことなくぽやっとしていますわね」

「マックイーンこそ」

 

 一方、ぼくらはというと、どこか頭がフワフワしていた。

 熱中症ではない。が、やはり気候は如何ともし難い。

 ぼくはそもそも一年の気温が安定している国の出身だし、マックイーンは芝が主戦場な上に秋の天皇賞を目標にしているのでちょうど今が谷の時期。気が抜けてしまっていても仕方ない。

 ファル子先輩はこういうのも苦笑するだけで済ますけど、もちろんこういう状態を好まないひとも中にはいて――。

 

「ふんっ、砂で走る気が起きないって言うつもり?」

 

 闘争心の強いウマ娘、中にはこうして突っかかってくるひともいたりする。

 日本において、ダート路線というものは低く見られがちだ。賞金額のせいもあるし、ダート=地方という先入観もあるし……とにかく、ひとによっては劣等感を煽られやすい環境だというのは間違いない。

 当然、中には攻撃的になってしまうウマ娘もいたりして……こういう時、マックイーンが対応しようとすると良くも悪くも正論で返しがちだから話がこじれるだろうなぁ……。

 

「いやぁ……先輩、砂で走る気が起きないんじゃなくて、走れないんですよ脚質的に」

「むっ……それはそうだけど……」

 

 しょうがない。ぼくはそのまま先輩に揉み手をしながらにじり寄った。

 

「ダートで走れないってことは本場アメリカのダートレースやあのドバイワールドカップやサウジカップで走れないってことなんですよ。ぼく個人はその方が辛い……耐えられない……!」

「ストライプ出ようと思えば出られますわよね?」

「もし出られなかったらって話だし出られても勝てないよ距離短いんだから」

 

 というかおよそ大半の高額レースに出走できないのがぼくだ。

 マイル戦のサウジ然りドバイ然り短距離戦のジ・エベレスト然り。

 

「走る気があっても走れないひとだっているんです先輩。あんまり強く言わないであげてください。ね?」

「まあ、そこまで言うなら……」

「今日は実力を見せつけるついでに楽しんでやりましょうよ。あ、ファル子先輩、ウイニングミニライブとかでも企画しちゃったりします?」

「え? う、うん、できるなら嬉しいかな?」

「手配しまーす」

「手際良すぎない?」

 

 わずかに釈然としないような様子ながらも、先程よりも敵愾心を削がれた様子で去っていく先輩を見送ると、マックイーンが小さく息を吐いた。

 

「気を遣わせましたわね」

「バチバチにやり合うのはいいけどギスギスしてるの好きじゃないし」

 

 そういう方面で欲張ることだって悪いことじゃないだろう。

 イベント用のウイニングミニライブなんて計画したのも別に言いくるめのためだけじゃないし。現役ランナーのミニライブ。周辺は別に無人というわけでもないし、経済効果が多少なりとも見込めるはずだ。こっちも手配しとこ。

 

 ……ともかく、そんなこんなで。

 うちのチームはテイオーがトップで走り抜けたものの、ツルちゃん先輩が突如突風と砂埃に襲われ気管支に攻撃を受けたため順位を落としてしまった。

 フラワーも好走を見せたがなにぶんジュニア級。クラシック、シニアの強豪がひしめく中では力が足りなかった。最終的にぼくがなんとか差していったけど、総合順位は3位。「悪くない順位」という程度のところに収まる結果となった。

 ちなみに総合1位はミークたちのチームで、2位はファル子先輩たちのチーム。見事にリベンジを決められてしまったのだった。

 

 

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