「ストライプはカレー作らないでね」
「何でさ」
リレー大会のミニライブを終えた後の打ち上げは、そんなご無体な発言から始まった。
料理なら任せろーと意気込んでいたところでコレである。え、もしかしてぼくのカレー嫌われてんの……と不安に駆られかけたところに、ミークチームで抜群のスタートを決めたカレンが補足を入れた。
「ストライプちゃん、ライブも打ち上げも企画や準備ずっとしてくれてたでしょ? お料理くらいはみんなに任せてもいいと思うなっ。お友達が色々やってくれたのに、何もお手伝いしないなんてカワイくないでしょ?」
「あとストライプのカレー美味すぎ」
「美味いのはいいことじゃん!?」
ネイチャこれディスってんの持ち上げてんのどっちなの?
「雰囲気に合わない、ということですよ。私もたまにご相伴にあずからせてもらいますが」
「食べてるんだイクノ」
「マックイーンさんがよく試食を頼まれていますので、その時に」
まあ、うん。高級志向のスイーツとか、舌が肥えてるマックイーンに批評してもらうと参考になるんだよね。なので結果的に同室のイクノにも試食してもらうこともある。
「ストライプさんが得意にしているのは、洋風ホテルカレーや牛すじなどがとろとろになるまで煮込まれたいわゆる『お店のカレー』。しかし、この場で求められているのは――例えるなら、からあげギガ盛りMAXの塩っ辛いカレー……!」
「ジャンク&チープ……!!」
そういうアレかぁ~……!
分かってないわけじゃない。むしろ空気感から言えば納得……!
ただ、そう……カレー作りは一度グレードを上げてしまうと、下げるのが難しい代物だ。*1
洋風やインド風、エスニックにスパイスとレパートリーは増やしたものの、じゃあクオリティを落としたものを出せと言われると……どうしても負けず嫌いな部分が顔を出してくるのでそれができない。クセでつい工夫を加えようとしてしまうのもあるし……。
ぼくは思わず砂浜に膝をついた。
「こ、これで勝ったと思うなよ……」
「何の勝負してたのボクら?」
「かくなる上は大量の唐揚げを揚げてきてくれるぅ……」
「それも愚策ですね。この場の雰囲気に合うようなカレーに合うのは……味の抜けた冷め気味のものです」
「がわっぱ」
「ストライプって何かしてないと死ぬの?」
一回死んで青春の大事さを知ったからか、時間を無駄にするわけにいかない! という気持ちになって何かしてないと落ち着かない性格になったのかもしれないのはある。
ただ、やっぱり一番大きいのは溢れ出る闘争本能を別の形で昇華するためだ。
閑話休題。
ともかく、一定の盛り上がりを見せたイベントが終われば、今度はフォワ賞に向けての本格的なトレーニングだ。
と言っても、他のひとのように海外環境や洋芝に適応するための訓練は主ではない。対応できること自体はほぼ分かっているからだ。
それよりも今はブランクを埋め、基礎能力を向上させることに重点が置かれている。まあ相変わらずスピードの伸びは悪いのだけど。
「一発でこうスパンと最高速が伸びる手段とか無いんですかねー」
「無ェよンな美味い話」
当然手段は無かった。
知ってますぅー言ってみただけですぅーとブーたれながら必死に脚を回す。
とにかく脚の回転だ。回らないと速度は出ない。この加速力の高さはむしろ短距離で輝くのではないか? と一瞬思いかけたこともあるが、あっちはあっちで1000m1分を切るのが当たり前という怪物揃いだ。最初から選択肢に上がるわけも無かった。
「じゃあ任意で
「
「フラッシュよぉ……消耗なんて気にするタマかよこいつが」
「あっ……」
横走りでダブルピースしながらフラッシュ先輩を横切る。
春の天皇賞、ぼくは確かに骨を折ったがスタミナ面では限界というほどではなかった。精神的、肉体的負担が増すことはそこまで大きな問題じゃない。むしろ効率面だと、余ったスタミナを有効活用するための手段とも言える。
スタミナを削る代わりに最高速が上がるスキルとかありゃぼくもなー! ……いや、これ他のひとも同じようにスキル使うだけだから結局そんなに差が生まれないわ。ちくせう。
「そういえばフラッシュ君、ストライプ君の行く……フランスをはじめとする欧州の芝質は彼女と合うのだろうか?」
「
特にフォワ賞とカドラン賞の舞台となるロンシャンレース場では、その傾向が顕著だ。
日本は欧州のレースを参考に発展したと言われるが、日本で主に使用されている芝と洋芝とでは種類が異なる。芝が深いとよく言われているが――実際エル先輩に同じこと言われた――実際のとこ芝の長さは日本より短いそうな。
実際に異なるのは根張りの良さだ。ロンシャンのコースは根っこの密度が高く、脚を弾き返すような走り味だという。
というか海外コースの多くは、日本と違ってイチから作られたコースではなく、平原に「じゃあここからここまでがコースな」として作られたのが原型だ。水はけも悪いから雨が降るとワカメみたいになるとすらよく言われる。
ぐ、とその場で砂を踏み締める。トレセン学園内でも洋芝のコースを何度も走っているが、この感じともまた違う。実際に現地入りしてからじゃないとどうかは分からないにしても、パワーを十全に発揮できるのはあっちのコースなのかもしれない。
と、そんなことを考えていると不意にふたつの影が差す。
「やはり欧州ですか。いつ出発されるんですか?」
「桐生院」
――同じく海外遠征を表明している桐生院トレーナーとミークのふたりだ。
トレーニング自体は合同でやるわけじゃないけど、ミークとぼくは同室だ。色々と互いにそれらしいことは示唆していた。明言はしていなかったし、マスコミ発表ももうちょっとしてからになるから、実際にどこに行くかは今ここで初めて聞いたことになるのだろうけど。
「私たちも同行します……」
「はい、なので打ち合わせに参りました!」
「そういやあっちに行くって言ってたねー」
「ふふふ」
スイッとミークもダブルピースを返してきた。
「ちなみにどういうローテーションを?」
「フォワ賞から」
「凱旋門賞を……」
おや、エル先輩ローテ。しかも内一戦はぼくと同じフォワ賞だ。……凱旋門賞を狙うなら、ステップレースとしても当然の選択だ。
問題があるとしたら……うむ。
「ミーク、洋芝適応できるかな?」
「Je ne comprends pas」*2
「フランス語もよくできてるじゃーん」
「どや」
「いいのかお前ら今の時期にンな和やかなやり取りしてて」
「これがぼくらのスタンスなので」
「なので」
そういやぼくら全然レース論の話とかしないな。
PCでリクガメの食事シーン垂れ流しにしてるのぼーっと観てたりいい感じに料理できたー、なんて言って食べたり……アスリートの共同生活じゃないなこれ……?
ともかくぼくらは基本そんな空気感でやってるわけなので特に普段と何か変わるというわけでもない。
「ともかく、実際に一度走ってみなければ、適応できるかどうかもわかりませんから」
「ふむ……まあ、そうだな。ストライプのような例は極めて稀か」
「つーかおやっさん、何でこいつその辺分かんの?」
「分からん、が……たまにははぐらかさずに理由を言えたりしませんか?」
「超頑張って適性調べたんですよ。砂走ったり土走ったり原っぱ走ったりじっくり小さい頃から」
「想像より遥かに地道だったな……」
「今も小さいけどな」
「ぼくより小さいのに何言ってんすか」
ともかくその辺は地道にやらないとどうしようもない。マジで。
何事に関しても、物事を証明するためには地道な裏付けが必要になる。幼い内からそれを考慮に入れられた分、ぼくのスタートは早かったと言えるだろう。
対してミークはそういうわけでもない。適性の広さは知っているが、判明したのはデビューのためにトレーニングをこなしていく中でのことだ。
「ストライプ、出発時期ですが、8月の中旬からに変更でよろしいですか? 我々だけなら問題ありませんが……」
「ミークも同行するなら調整期間引っ張らないとですね」
その辺も勘案して、トレーナーさんの方で方針も決まったようだ。
フォワ賞は凱旋門賞のおおむね3週間前に開催される。だいたい9月中頃。一月分あれば調整は……まあ可能だろう。万全とは言い難いかもしれないが。
エル先輩のケースだと調整のために早期にフランスに渡っていた。芝質や気候、時差に慣らすという点でもその方が本来適しているのだろうけど……さて、今年の挑戦はどうなることだろう。
○ハッピーミークについて
グランドマスターズシナリオでハッピーミークが晩成型だと明かされましたが、本作はURAファイナルズの参加条件から「恐らく育成ウマ娘の裏で別路線のレースで好成績をおさめてファイナルズに招待されたのだろう」という連載開始当時(2021年)の推測をもとに戦績を設定しているため、早期に好成績を残してしまっています。
このためゲーム版との齟齬が発生しておりますが、本作はこのまま成績の変更等は行わず続けてまいります。申し訳ありませんが、この世界線はハッピーミークが早熟型だったということにしてください。