【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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感覚派の「天才」

 

 慢心から痛い目を見ることになった菊花賞から約一年、今年もクラシック三冠最後のひとつの時期が近づいてきた。

 この時期は日本も世界もG1開催が相次いでおり、ぼくの周りだけ見てもチャンピオンステークスの翌週に菊花賞、更にその翌週に天皇賞(秋)、しかもそれぞれ親しいウマ娘が出走という過密スケジュール*1になっている。

 天皇賞からエリザベス女王杯まで1週空いてはいるものの、そこからはまた毎週のようにG1レース。日本の秋のレーススケジュールは激動だ。なんなら唯一空いてる11月の1週目もアメリカでBC*2の開催がある。

 タキオン先輩は毎週のようにうっひょうと全国を巡っていた。

 

 で、だ。

 今年の菊花賞、特に親しい間柄のウマ娘の出走は、テイオー、ネイチャ、ターボの三名となった。なまじ全員と親しいため、この中の誰が勝っても嬉しいが誰が負けても心苦しいのが友人の辛い所である。

 毎度のことだが、こういう時にぼくはアドバイザーとしての役割を求められるため、よそのチームに顔を出すことが多い。

 帰国から少しの間は完全に休養ということもあって、この日はスピカのチーム練習の方に顔を出すことになった。

 

「うーん……」

 

 あれだな、一緒に走ってると何だこのバケモン共勝てる気が全くしねえ、としか思えなくなるんだけど、俯瞰してみると欠点も見えてくる。

 特に今走ってるテイオーとマックイーン。マックイーンに関しては、とにかく前に出て優位を形成しようという意識が強いためか、視野が狭くなりやすい。無意識のうちにロスが出ない走りを求めてしまうためか、内ラチ沿いに体を寄せようとする癖がある。

 テイオーは単純に、スタミナに欠ける。――と言っても規格外(ぼくとマックイーン)と比較してという話だ。平均的な基準で考えると十分スタミナはある方だろう。2400mを大外枠で勝つという並外れた能力も見せているし。

 ただ、菊花賞で勝とうと思ったら半歩足りない。

 

(まあ足りないのはぼくのせいなんだが……)

 

 急速に広まってるんだよね、スタミナを削って頭回しまくる走り方。

 なまじカドラン賞とチャンピオンステークスでぼくが結果残した分、これまでの流行を更に後押しする結果になっちゃったというか……。

 スピードに多少劣っててもワンチャン*3あると示してしまったわけだから、後追いは出てきて当然くらいに思った方がいいだろう。

 結果、本来「勝てないほどではない」はずが、「勝ちの目が極端に少なくなる」というくらいに状況が悪化している。

 今マックイーンと併せをしているのもその辺を体に覚えさせるためだが……。

 

「ぜぇっ、ひぃ、ひぇぇぇ……」

「2800mを越えようとすると露骨にスタミナ切れを起こしますわね……」

 

 まあ「煽り」は元より、ペースを狂わせたりする走り方は膨大なスタミナを前提にしてることが多いから真似はし辛い方だろうけど……それでも()()()くらいならなんとかなる。

 まして、今回の出走者のひとりはあのターボ。ペース壊れること確定してるじゃんね。自動で。

 その上ネイチャを筆頭にぼくに戦術を教えてくれって頼んできたウマ娘は何人もいる。言い方はどうあれ、ある意味で出走者の全員が打倒・トウカイテイオーを掲げている現状は文字通り「全員」がテイオーのスタミナを削りに来る四面楚歌……。

 

「ぶっちゃけマックイーンにスタミナパクパクされて3000mもたないようなら今回はスタミナもたないよ」

「何ですのその表現!?」

「いや下手するとぼくよりえげつねぇスタミナの食いかたするじゃんマックイーン」

 

 パターンこそ少ないけど、先行押し切りでハイペースを作り出して周りのウマ娘のスタミナを徹底的に食い散らすというのは、シンプルながらも極めて強力な戦法だ。下手をするとそれだけで勝てるくらいには。

 というかぼくだってマックイーンがいなきゃその戦法でゴリ押しできるんだよ長距離なら。ぼくより最高速が優れてるマックイーン相手に通じないからやらないだけで。

 普通にやったら最後の最後、ギリギリまで叩き合いした挙げ句、ゴール間際で鼻先だけちょんと出してお先に失礼しますわ! だもんよ。無理て。

 

「問題は、今回は誰が何してくるか全くわからないってことなんだよねぇ」

「ですわね。単に私のようにハイペースを狙う、だけではありませんわ」

 

 結果的にハイペースになる可能性は高いけども。

 それでも何らかの仕込みなり、他の走者の策略なり……トレーナーの指導なりで改善に向かう可能性はある。幻惑逃げを仕掛けてくることも含めて想定して然るべきだ。

 ハイペースになる可能性が極めて高いが、ローペースで進行する可能性もまた十分に存在している。色んな思惑が交錯するというか交錯しすぎて混沌としてきてる。

 ぼくがいたら? 全員まとめて地獄のハイペース走だよ超長距離なんだから。策を弄する必要が無いなら策を使わないことだって選択肢の一つだ。これで同時に他人の策も破壊できる。ただしマックイーンがいない時に限る。

 

「ストライプでも何してくるかわからないってこと、あるのね?」

「んー? むしろ分からないことの方が多いよ。でも全部こっちのペースに巻き込めば分かっていようがいまいが同じでしょ?」

「焦土作戦かよ」

 

 スカーレットとしては、ぼくが競走相手の想定を全部見抜いて策を練っていると考えているようだが、それは違う。他人の考えなんて理解できてることの方が少ないくらいだ。

 虚を突いたり惑わしたりするのは相手の思考を制限して無理やり型にはめるためだ。確かにそうすると結果的に他人の思考を読んでいるようにも見える。

 あくまで見えるだけだ。なので、時によってはそれこそカドラン賞での一件のようにこちらが虚を突かれることもある。

 

「テイオーは作戦に動じない精神力と、相手の作戦を見抜くだけの頭脳はあると思う。ただ――」

「……性格が致命的に向いていませんわね。スペシャルウィークさんと同じように」

「何でさー!?」

「なして今流れ玉を!?」

「細かいこと考えて走るより、思うまま走った方がパフォーマンスが良くなるひとは確実にいるってだけですよスペ先輩」

 

 おそらく、緻密に作戦を組み立てて予測を立てた方が、テイオーの勝率は低くなる。

 いちいち理論を組み立てるよりも、最初から頭の中に流れてくる「結果」のみを頼りに走ったほうがより優れたパフォーマンスを発揮できる。感覚派の天才というのはそういうものだ。

 ――()()()()足りないのだから、問題はなかなか深刻だ。

 

「もう一手が足りないのなら……」

「……それは、考えたけど」

 

 マックイーンからのアイコンタクト。

 あまり意識させたくないからできるだけ領域(ゾーン)という言葉を避けてはいるが、ニュアンスとしては領域(ゾーン)に入ればあるいは、という思いがあるのだろう。

 だが、領域(ゾーン)というものは諸刃の剣。使えば使うほど体力が削られるため、3000m級の距離ではよほど体力に自信が無ければ使用は推奨されない。

 

 ――そもそも、テイオーは()()()()()()()()()()()

 

 これは先日のチャンピオンステークスの放送を見てもらった時に確信したことだ。

 ある程度、推測はしていたんだけどさ。言っちゃなんだけど、テイオーはここまで、皐月賞でも……ダービーですらロクに苦戦したことが無い。それは例えば、スペ先輩にとっての黄金世代、オグリ先輩にとってのタマ先輩、ぼくにとってのマックイーンのような存在がいないことを示している。ここまで文字通り並ぶ相手がいなかった、まさしく、感覚派の「天才」。

 そういうライバルとの競い合いという段階を飛び越えて素でできるひともいないではないんだけど……テイオーはそういう感じじゃないんだよね、多分。スズカ先輩のように一人でもバリバリ走るようなタイプじゃないし、タイキ先輩やぼくみたく楽しくなったらギアが()()ようなタイプとも違う。おそらく、本当の意味で本領を発揮できるのはガチガチの叩き合いだ。

 良くも悪くも、高すぎる身体能力のせいで「苦戦」が無い。超集中状態に入るような必要性が無い。――つまり領域(ゾーン)に入ったような経験が無い。入れない。

 あるいは、今回のレースで初めて領域(ゾーン)に入れるようになることも考えられるが……。

 

「不確定要素が大きい。スタミナが足りないのにやるべきことじゃないと思うけど」

「逆ですわ。最後の200m……いえ、100mでスタミナが枯渇するからこそ、抜け出した後で差を広げて前残りを狙う方がまだ可能性があります」

「ちょっとちょっと、ボクのレースの作戦をふたりが考えないでよー!」

「というか、何の話?」

「ふたりだけに通じる話やめてくれよなー」

「わ、私は分かりますよ!?」

「え、ホントっすかスペ先輩……?」

 

 いやそこはマジで分かってると思う。

 あっちのターフの上でドリブル*4始めてるゴルシ先輩も何ならわかってると思う。しかしあのひとどうやってラグビーボールでドリブルしてるんだ。

 

「それにしても、ストライプさんとマックイーンさんの意見が割れるのも珍しいですね。それも、ストライプさんがリスクを避けるっていうのも……」

「そりゃあぼくが個人的にリスクを負うだけならまだしも、他人にリスクを背負わせるのは違いますし」

「もー! だからボクの話なのにボクが分かんないこと話し続けるの何なのさー!?」

 

 自分のことなら自己責任、自業自得で済む。ただ、他人が絡むとどうしてもね……。

 アドバイスをする上でこれをしろ、あれをしろ、は基本的にはご法度。あくまで助言であって相手の自由意志に任せるのが本来のあり方だ。そもそもぼくトレーナーじゃないし……。

 それに、勝率が0のところから1を絞り出すためにリスクを取るならまだしも、例えば既に勝率が1割あるところから、勝率が上がるとも下がるとも言い切れない賭けを提案するのはちょっと……。

 ぼく個人が分の悪い賭けをするのならまだしも、他人を巻き込んだらそれは自爆テロでしょもはや。ヤベ自爆テロって言っちゃった。

 

「ひとりに肩入れしすぎるのもフェアじゃないし、今日はこの辺で失礼するね。テイオー、どういう話か知りたいならマックイーンやスペ先輩と並走してみてね」

「えっ!? ちょっと、ストライプ!? 誰もがあなたのように自由に()()()わけじゃありませんのよ!?」

「す、スズカさんもいないし……どうしましょうマックイーンさん!?」

「じ――実戦形式!!」

 

 菊花賞まで残り数日。その程度の時間でスタミナを補強するのはおよそ現実的ではない。マックイーンの言うことにも道理はあるし、ここから先どうするのかを本当に決めるのはテイオーだ。

 ぼくは手をひらひら振って、次はネイチャたちのところに移動することにした。

 

 ……スタミナどうこうという話を一度しておいてスタミナ削るための策を提案しに行くぼく大概だな?

 

 

*1
2023年の日程ではチャンピオンステークスと菊花賞は同週だが、年毎にスケジュールは異なる。本作では大雑把に被らない日程を採用。

*2
本来はブリーダーズカップだが本作ではハクトウワシ杯(Bald eagle Cup)。34話参照。

*3
どころではない。

*4
サッカーバスケどちらも。






○チャンピオンステークスの日程について
 菊花賞が2000年に10月開催に移って以降、チャンピオンステークスと日程が被った年は、01-02、07、12-13、17-19、23の10年分。
 現在時点だと同週に行わない日程の方が若干多く、他の競馬ゲーム等でも10月3週と10月4週の開催として被らない日程で収録されているため、本作でもそのスケジュールを採用しています。
 また、作中が具体的に何年とは設定しておりませんのでご留意ください。


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