【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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勝っても余裕は無し

 

 

 トウカイテイオー、三冠達成。

 この華々しいニュースの裏で、涙を流すことになったウマ娘の数は多い。

 テイオー自身は悲願を果たしたことで喜びの涙を、観客は感動の涙を、そして同じレースを走っていたウマ娘たちは悔し涙を。

 ――競技の世界というものは、華々しくも残酷だ。

 

「負けたーっ!」

 

 菊花賞の激戦から一夜明けて、月曜日の夜。残念会を開こうとしたら「屋台がいい」とせがまれ、ぼくは臨時で寮の敷地内に屋台と椅子、机を並べることになった。(寮長からは許可済み)

 で、いざメンツを募ってみるとこれがまた集まる集まる。「残念会」なのにテイオーまで来ようとしたくらいだ。菊花賞ウマ娘は出禁です! 出禁!

 ぼくはいいんだよ菊花賞勝ってないから。

 

 おでんのタコ足をがじがじかじりながら、ネイチャは目の前で突っ伏した。

 

「完っ全に作戦ハマってたじゃん……ハマってたよね?」

「うん、まあ……」

「なーんで最後あれで加速するのか意味分かんなくって……キラキラ主人公系だからああいうのできるのかなぁ……」

「う、うーん……」

 

 どうしよう。アルコールなんて出してないんだけど、雰囲気で酔ったんだろうか。えっらい絡んでくるんだけどネイチャ。

 お互いに土壇場の覚醒でちぎられたからシンパシー感じてるのは多少あるだろうけど……いや、正直気持ちは滅茶苦茶分かるんだけども、じゃあ安易に同情や共感を向けるべきかというのは別問題だ。ネイチャはそういうのは……求めてる部分があるのは否めないけど、本当に必要なのはもっと建設的な意見だろう。

 

「牛すじ」

「タマゴとウインナー」

「はいはーい」

 

 ネイチャ以外の皆も例外なくなんかもうクダ巻いてる風になってる。

 というか別におでん屋台のつもりじゃないんだけどなんか皆おでん頼んでくる。どういうノリだ。

 ヘルプ頼んで回してるけど、これはそのうちおでんだけを追加で作ってくる必要があるだろうか……。

 注文にひとつひとつ対応し、ネイチャの空いたグラスに琥珀色の液体を注ぐ。もちろんジンジャーエールである。

 

「完璧に作戦がハマったって感覚はぼくも去年の菊花賞で覚えがあるなぁ。負けたけど」

「ストライプが完璧に罠にはめたのに負けたって……」

「ん、あー、違う違う。完璧だって()()()してたんだよ。レース中はこれマジで完璧じゃね? 絶対勝てるわコレって思ってても実は結構穴があるってよくあることでさ」

 

 何せ走ってる最中は主観でしかものが分からないからね。

 我が脚力(パワー)は雨天にて最強……とか調子こいてたら実はそのパワーが過剰で逆にロスを生む原因になってたとか想定もしてなかったし。

 

「じゃあアタシの場合は?」

「テイオーを差すならゴール直前にしとかないと、えげつねえ勝負根性で絶対差し返してくるよねって」

「うにゃ~~~~~~……」

 

 ここらへんは今までのレースじゃ読み取れないから、同級生ならではのメタ読みだけど、逆に同級生なら知ってても自然なくらいのことではある。

 それでもレース中にアツくなってしまえば、容易にポンとそれが頭から抜け落ちる。ぼくもそういうポカをすることはあるし。

 では、それを予防する方法はと言うと――ぶっちゃけ訓練しか無い。

 ぼくも大概長い時間をかけてマルチタスクの訓練をしてきたが、それでも思考との両立がほんとうの意味でできるようになったのは春の天皇賞で領域(ゾーン)に入れるようになってからだ。両立できたらできたで今度はチャンピオンステークスで(使い方が悪かったとはいえ)鼻血を噴くほどの高負荷に見舞われたんだから、ままならないもんである。

 

「反省点が見つかったなら、あとはそこを詰めてって次に活かせばいいんだよ。まだ走る機会はいくらでもあるんだから」

「うん……」

 

 言葉の上では納得しているようだが、ネイチャの表情は未だに暗い。また同じ条件で走れることがあるのか、と考えているのだろう。

 確かに今回の件、出るレースをある程度絞って中距離に専念することを考慮するだけのものはあったが……。

 

「3000m級に出てきてくれるか不安っぽいね」

「そりゃまあ……ねえ?」

「んー……春の天皇賞なら出てきてくれると思うけど」

「そりゃまた何で?」

「テイオーは会長さんを超えたいと思ってるわけで、七冠以上のものとなると、ほら」

「あー、春三冠に秋三冠」

 

 そういうことだ。あとは……会長さんが達成できなかった無傷の四冠*1とか?

 それだってジャパンカップには出走して上位入賞してるから、本当の意味での「皇帝」超えとなるとこの上ジャパンカップで勝ちつつの五冠……とか?

 ともかく、春三冠も秋三冠も、結局会長さんが達成できていない偉業だ。七つ以上の冠を獲るとか、七冠にしても海外冠を勝ち取るとか……方法は無いではないけど、近い目標として挙げられても不思議はないだろう。

 

「ぼくも中距離で勝てたし、出てきたっておかしくはないよね」

「なんかストライプを例として挙げるのは違う気がする……」

「苦手分野を克服したって意味では、ほら……」

「――待ってストライプ。その春天、よく考えたらマックイーンもストライプもいるんじゃない?」

「ウフフ」

「ダメだぁーっ!」

 

 ……いや、まあ、そこはぼくも出るかどうか分かんないというのが正直なとこでもあるけど。海外挑戦してるかもしれないし。

 もっとも、わざわざそれを言う理由も無いので笑って誤魔化しておく。

 どうか心を強く持って臨んでほしい。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

「ジャパンカップでも有記念でも一着取っちゃうもんね!」

「無茶」

「無理」

「無謀」

「なんでぇー!?」

 

 翌日のお昼。食事をしに集まったぼくらの前で行われたテイオーの宣言は、それはもう見事なまでに切って落とされた。

 かつての会長さん(シンボリルドルフ)の果たしたクラシックでのG1レース4勝、これを超えるなら単純な話、G1を5勝すれば明確に「超えた」と表現できるだろう。

 

「ストライプちゃんとマックイーンちゃんはどう思う?」

「「私(ぼく)の方が強い」」

 

 が、当然ながら勝ちを譲る気は全く無いので、カレンからのフリに対してはこう返答せざるを得ない。

 間隔もロクに空いてない*2し相手も世界の強豪がズラリ。エル先輩も大概ではあるんだけど、じゃあ同じことができるかは話が別――というよりも、ぼくがさせない。といいなぁ。

 

「マックイーンは先に秋天勝つ方考えた方がいいんじゃないの?」

「そこを考慮するのは前提ですわ。それに、最初から負ける気で挑むウマ娘などいないでしょう?」

「そう言うトラちゃんは有出ないの?」

「先約があるから年末は東京大賞典予定」

「……有に出たくない、ではありませんの?」

「そうとも言う」

 

 さて。

 テイオーが過去最高に有頂天になっているのはともかくとして、実はこちらも絶対の自信があってぶった切ってるわけじゃない。

 正直、頭の冷静な部分ではややこちらの分が悪いのではないかと考えている部分がある。大きな原因としては、テイオーの中長距離(2400m)に特化した能力もそうだが、アイネス先輩やデイブレイクなどの強豪が多数参加していることも大きい。

 特にアイネス先輩は同じ距離、同じコースで一度負けているから、同じようにやりあえば同じように負けるだけなのは自明の理。どうにかして新しい手をひねり出さないといけないだろう。

 

(勝っても勝っても余裕は無し……なんて)

 

 まあいつものことだ。

 もう中距離で打てる策がほとんど残っていなくて割と焦ってる部分があるけど、そのうちいい考えが来る……はず。多分。きっと。

 頑張れ明日のぼく。過剰な稼働で頭痛を起こさない程度に。

 

 涼しい顔をしながらそんな風に内心で懊悩していると、ふと何やら着信音がするのに気付く。どうやらぼくのようだ。

 

「ごめん、ちょっとメール」

「LANEじゃなくて?」

「海外の子だからLANE使ってないんだよ」

「え、LANE使ってるのって日本だけ?」

「うん」

 

 少なくとも海外のチャットツール系アプリの主流からは外れているだろう。

 開いてみると、やはりと言うかなんというか、ピンクフェロモンからのメールだった。うお……すっげえ長文……オマケにフランス語だから読み辛い……。

 

「どなたですの?」

「こないだの遠征の時に仲良くなった……仲良くなった? っていうか、ファンになってくれた子で……んー……えー……冬から日本に来るのに合わせてジャパンカップ観に来るって」

「一体何がどういうことです!?」

 

 フフフ分かんねえだろ。

 ぼくも分かんない。

 話が早すぎて当事者に近い所にいるのに何も理解できてない……。

 しかしこのまま行くとピンクフェロモンが直接の後輩になるのか……なんとも不思議な気分だが、違和感を乗り越えて改めて考えると……これはこれでやる気が出てくる。それだけ先輩後輩関係というものが特別ということだろうか。

 

「……なんか、カドラン賞で見せた戦法に感銘を受けたみたいで……」

「ストライプの戦法に感銘受けて大丈夫かよ……?」

「言い方よ」

 

 ――ん、あ。今ふとティンと来た。

 情報戦や頭脳戦まで繰り広げる今の流行りのことを考慮し、更にぼくの戦法に感銘を受けた子までいるとなれば、今ぼくが持ってる情報や考え方というのは、自惚れじゃなければ一定の価値がある……はずだ。

 後の世代のためとか考えるような年齢というわけでもないが、シニア級2年目に突入したら流石にもういつ本格化の終わりを迎えるとも知れないタイミングだ。引退を考えるなら、「後に残すもの」を考慮しておくべきでもある。

 

(解説動画みたいなの作ってみようかな)

 

 これまで雑誌の取材などを通して作戦について語ったことはあったが、詳細な考え方などはまだ秘密にしたままだ。

 改めて語っていつでも見返せる場があれば、きっとピンクフェロモンも見返しやすいことだろうし学びになるだろう。

 僕自身も、良くも悪くも色々な所に影響力を持つ身だ。ネットの投稿動画というのは情報戦の媒体としても悪くはない。あとはどれくらい発言を信じてくれるかだが……そこは他のひとに客観的な意見を募りながらやるとしよう。

 

 ここでひとつ、()()()情報を公開してしまうのも悪くはない。

*1
シンボリルドルフはクラシック期のジャパンカップで3着のため無敗ではない。

*2
当然ながらストライプの前走・前々走の間隔の方が酷い。

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