【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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途中で三人称視点が入ります。



ジャパンカップに向けて

 

 

 秋の天皇賞はマックイーンが勝った。

 

 ――とだけ言うと味気ないが、では実際どうかと言われるとちょっと評価に困るのが今回のレースである。

 圧倒的一番人気に支持されたマックイーンは、序盤で一瞬つまづきかけたものの、持ち前のスタミナを総動員して、2000mで使い切るような配分の超ハイペースを作り出して押し切った。

 これでマックイーンは夢の天皇賞春秋連覇を成し遂げ、メジロ家の悲願を達成した――。

 のだが、なんというか……うん、史実のマックイーンって秋の天皇賞勝ってたっけ……?

 15年以上も経つと記憶がだいぶ曖昧だ。負けてた*1っけ……? 勝ってたような気もする*2ような……。

 ともかく結果そのものはまさしく偉業だ。数バ身差をつけての快勝ということもあって、内容も文句をつけ辛い。これほどの相手とジャパンカップで争わないといけないというのは、今から身震いがしてくる話ではあった。

 

 さて、ともかくジャパンカップまで約ひと月。トレーニングを再開したぼくはまた大きな壁に当たっていた。

 

「2400mキツくないですか?」

「今頃気付いたかぁ」

 

 そう――思ってた以上に2400mという枠組みはキツいのだ。

 スタミナ的な問題ではなく、どちらかと言えばスピードとスタミナの配分の問題だ。当然2000mのように領域(ゾーン)突入しっぱなしというわけにはいかないし、海外勢は情報戦が通じないのもある。

 一度……フォワ賞も含めれば二度も負けた件で、若干の苦手意識が根付いてしまった面もある。とにかく2000ほど振り切った策が取れないせいで、長さが本当に微妙としか言いようが無い。故に「キツい」。

 

 いやまあ全然走れないなんてことはない……んだけどぉ……クラシックの2400とシニアの2400はまた全然別物だ。

 長距離に片足突っ込んでるクラシック期は皆あまり慣れてないから優位を取れたが、フィジカル面が完成してる今はそうもいかない。ダービーウマ娘を筆頭として2400mに適応した能力を持っている者も大勢いる。彼女たちにとって2400mは未知でも長くもなんともないのだ。

 スカイ先輩は過去を振り返るように苦笑し、シャカール先輩は小さく舌打ちをした。

 

「リベンジしなきゃいけない相手も多いですし」

「っつーと、マックイーンとアイネス――」

「と、テイオーも」

「あン? 何でテイオーが……あァ、選抜レースか」

 

 ぼくが一番最初に「負けた」と言っていいのは、入学後すぐの選抜レースでテイオーに負けた時だ。

 記録にも――URAには――残っていないが、あの敗戦があったからこそ策により強く傾倒していったし、テイオーやマックイーンといった策を打ち破れる「個」としての能力に優れた相手への苦手意識が根付いた。今となっては解消されてはいるが、やっぱり負けっぱなしは性に合わない。

 

「全員ぶち抜いてやるー、なんて言えるようなら良かったんですけど」

「おやおや? そのために情報戦の準備してたんじゃないの?」

「アレの情報戦の効果はオマケっす」

「あれでオマケ……」

 

 動画の主目的は、あくまでより詳しい策の巡らせ方や情報戦についての考え方を広めるためだ。

 単にぼくの走り方を上辺だけ真似るのも良くないし、レース中に考慮しないといけないことも多い。特に、正面から競わないってだけでも悪い印象を持たれやすいし、実際謂われない批判を受けることもあるのでルールは厳守した方がいい、とか。

 足技についても、使えば使うほどいいってものじゃなくてあくまで持て余したスタミナを有効活用するための作戦だし、場合によっては足元が不安定になることだってある。乱用は避けるのが無難だ。

 基本的に策も技術もそのウマ娘に合ったものを使うのが一番だ。正攻法が使えるなら正攻法を、策を打つべきなら策を、使い分けこそが最も肝要と言える。

 

疑似等速ストライド(アレ)が技術として使えれば、まだ考える余地少なかったんですけどね」

「ダメだろ」

「いやダメでしょ」

「……ふたりとも、そこで即却下出せるのって」

 

 聞くと、その場で即目を逸らされた。

 試したのかよ。正気か? いや、試さないと分からない部分があるのは分かるけど、だとしてやるか普通……?

 ぼくはまだ初めてやってみたっていう理由はあるけども……。

 

「そりゃお前よォ」

「試してみて……万が一戦術に加えられるならさ?」

 

 なんたる無茶を。

 いやマジでなんて無茶するんだ。危険性も聞いていただろうに。

 

「んでそのアレって?」

「決まってンだろ、疑似……うおっ!? ゴルシ!?」

「どうしたんですゴルシ先輩」

「デュエルしに来た」*3

 

 ……さては作戦会議するのに茶化すから一旦部室から出されたな?

 もしくは偵察とか。このひとどこに現れても違和感無いし偵察って意味で言うなら適任じゃあるんだよな……報告がテキトーだから残念なことに致命的に向いてないけど……。

 

「んで何なんだよ?」

「擬似的に、技術だけで等速ストライドを再現しようって話ですよ」

「あれ、これ言っていいやつなの?」

「別にいいですよ、知られたって何ができるってワケでもないですし」

「そりゃそうだがよォ」

「ほーん……ほれどういう技か言ってみるがよい」

領域(ゾーン)入って脳機能強化して常時体制御して最適化し続けるっていう」

「狂ってんのかお前」

 

 素で言うやん。

 そういう反応されてもしょうがないとは思うけども。

 

「だから新技をこう……破ァ! ってやったら出ないかとか?」

「フォフォフォ……ならば修行じゃのうストライプや」

「老師……」

「ねえこの茶番どのくらい続くの?」

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 ゴールドシップをサバンナストライプの偵察へと赴かせたその頃、チームスピカの部室ではジャパンカップに向けた対策会議が開かれていた。

 チームスピカの想定する仮想敵の中で、特筆するべき相手は主に三名。ひとりは欧州の英雄デイブレイク、もうひとりは前年のダービーウマ娘、奇跡の復活を代名詞とするアイネスフウジン。そして――。

 

「ストライプを……どう対処すればいいんだ……!?」

 

 カドラン賞ウマ娘にしてチャンピオンステークスウマ娘。合計G1勝利は5勝の現時点における「世代最強」と目されるうちのひとり、サバンナストライプ。

 彼女への対処法がろくに浮かばず、トレーナーは頭を抱えるハメになってしまっていた。

 

「何でボクらよりトレーナーの方が頭抱えてるのさ」

 

 サバンナストライプというウマ娘は、トレーナーの立場から見れば極めて厄介なウマ娘だ。

 例えばサイレンススズカやシンボリルドルフのような「個」としての強さを突き詰めた者たちとは毛色が――文字通り――異なる。断じて最速とはなり得ないが、問題はそのスピード以外全ての能力が桁外れに高いことだ。4000m走ってなお余力が見え隠れするほどのスタミナ、そこから2000mまで距離を短縮しても対応できる驚異の柔軟性、一足の踏み込みでトップスピードに乗せていく瞬発力、どれだけ重いバ場をも文字通り踏み壊していくほどのパワー、誰を相手にしようとも勝ちを拾いに行く勝負根性……何よりも、数々の相手を手玉に取ってきた頭脳。

 性格に関しても、ややファンキーで享楽的なケこそあるし間違いなくクセウマ娘と呼んでいい程度のものは持ち合わせているが、気性難と呼ぶほど荒いかというとそうでもない。むしろ人当たりも良く、素直でトレーナーの言うことをよく聞くあたりそういった面も弱点や難点にはなり得ない。

 最も恐ろしいのは、あの年齢にしては異常なほどに情報戦や心理戦に長けているという点だ。誰にでもある普遍的な感覚について熟知しているためか、人が気にする、気になってしまうツボを突くのが上手く、たとえ警戒していたとしても「警戒されている」ことを逆手に取った策を弄したり、ハタから見れば全てを読んで全てに対策を打っているかのように感じてしまうほどだ。

 速度に劣ることから勝ち筋そのものは意外なほどに多い。連対率はほぼ100%とはいえ敗戦も何度かあるし、他でもないマックイーンが一度は勝っているのだ。

 

「俺の見立てでは、ストライプに勝つには純粋に能力面で上回る必要がある」

「身も蓋もねえ!」

「だから悩んでるんだよ……」

「マックイーンさんは、以前ストライプさんに勝ちましたよね?」

「ええ、ですがあれを勝ちとカウントするのはちょっと……」

 

 マックイーンは過去に菊花賞で勝利した経験を「勝ち」と認識していない。当時から現在に至るまで、春の天皇賞ですらも本人の気持ちは挑戦者のままだ。

 何せ菊花賞は言わばストライプの自滅――少なくともマックイーンはそう捉えている――であり、春の天皇賞も引き分け。「まだ勝っていない」と認識するのに、彼女にとっては十分だった。

 

「その上、コレだ」

 

 トレーナーが示したのは、先日のチャンピオンステークスの映像だった。

 マックイーンにとっては穴が空くほど見返した映像で、テイオーにとってはレース直後、しばらく間を開けてから見る映像になる。

 以前見た際にテイオーは領域(ゾーン)に入ることができていなかったため、ただ走っている以上の何かを感じ取ることはできなかった。しかし、改めて見ればその異常性は手に取るように分かる。スタート直後に領域(ゾーン)突入など正気の沙汰ではない。 

 極めつけは最終直線、先頭から突然の加速。ハナ差やクビ差で競り勝つことが多い彼女には珍しい着差での勝利だ。

 

「こいつは恐らく等速ストライドか、それと同系統の技術だ」

 

 マックイーンが眉間にギュッとシワを寄せる。ストライプの弱点は速度だ。そこが補われてしまえばいったいどこから突き崩すべきか――負けるつもりは微塵もないとはいえ、勝つための手段を模索するのも相当に難しいことも確かだった。トレーナーが頭を抱えるのも無理からぬ話である。

 

「それともうひとつ」

「まだあるのぉ!?」

 

 続いてトレーナーが示したのは、有名動画サイトウマチューブのとあるチャンネルだった。

 アイコンはデフォルメされたライオンが腕組みをしながら「お前それサバンナでも同じこと言えんの?」と語っているイラストが使用されている。誰がどう見てもストライプのチャンネルだった。

 

「ちょっと前から連続でレース解説動画が上がってるんだ」

「最近何か変なことしてるとは聞いたけど、あの子こんなことを……」

「レース解説動画? これが何か問題なのかよ」

「……これ全部、()()()レース解説ですわね」

「どういうことですか!?」

 

 ストライプが基本的に自分の手札を晒したがらないのはこの場にいる者には周知の事実だ。

 そんな彼女がわざわざ動画にして自分の策を披露するなど、何らかの利権が絡んだかもっと大枠で戦略を組んでいるのだろうとしか思えないところである。

 

「毎回手を変え品を変えってやってるのは知ってるけど、また同じ作戦を使わないとは限らないのよね」

「え、今からこれ全部に対策練らないといけないんですか……?」

 

 トレーナーが頭を抱えているのはこういう点だった。

 いっそ開き直ってレースに集中すればいいランナーはまだマシだろう。しかし、トレーナーはレース全体とそれを取り巻く環境に目を向け、俯瞰する必要がある。適度な量の情報を提示されるだけならまだしも、許容量を一気にオーバーフローするほど情報を投げつけられれば、下手をするとトレーナーとして機能不全に陥ってもおかしくはない。

 この動画、対ウマ娘としてはともかく、対トレーナーとして考えると効果的にしても度が過ぎるほど効果的だった。

 

 ――その後、帰ってきたゴールドシップから等速ストライドが使用不可能と知らされることで、部室にはようやく明るい雰囲気が戻った。

 

 それはそれとして謀略も能力も据え置きであることをマックイーンに指摘されることで、数分後には再度暗い雰囲気が部室に蔓延した。

 

 

*1
史実及びメインストーリー。斜行により降着。

*2
育成ストーリー。史実でも入線自体は一着。

*3
ドン★





 ○メジロマックイーンの秋の天皇賞における結果の違いについて
 当時から色々な議論が行われていますが、1991年当時の府中2000mはスタート直後にコーナーに入るため、外枠に配置された先行・逃げ馬が内に切り込もうとすると斜行になる危険性が極めて高いコースでした。
 2003年の改修にあたってこの問題が多少改善されたため、コースをアプリウマ娘に準拠した場合、マックイーンは秋の天皇賞で斜行しなかったのではないかという考察のもと今回の展開を書いています。
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