SS+のステータスでも青因子が☆1だったので初投稿です。
流石に何度も同じように訪問して肩透かしを食らうのを避けるためにも、一度訪問するという旨でアポを取って翌日の昼休みにチームの部室へ向かった。
「失礼しまーす」
「はい、どうぞ」
三度ノックして入室すると、まずはサブトレさんが迎えてくれた。
今日の髪の色は虹色だった。うねうねしてる。日替わりかよ。
本人はまるで気にしていないようだが、室内にいてなおハンチング帽を外さないのは……やっぱり他の人の目が気になるというか、他の人が気にするからというのがあるんだろう。実際ぼくの目も釘付けだった。どうやったらこう……ちょっとずつ色が変移していくんだろう、あの髪の色。さっきまで青色だった部分が赤くなってる……。
いけない。気にするべきじゃない。
「先日は不在にしていて申し訳ありませんでした」
「いえ、こちらこそ、予定を把握していなくてすみません」
頭を下げると、サブトレさんは苦笑いをして見せた。そこまで気にすることか、という思いが見て取れる。
とはいえアイサツは実際大事だし、ぼくもチームに入れてくださいとお願いしにきた立場。相手方の行動を把握していなくて手間を取らせたというのは落ち度ではある。
「ストライプか。早いな」
次いで顔を見せたのはチーフトレーナーさん。お弁当を手に持っており、どうやらお昼はこの部屋で済ませるつもりらしいことがうかがえる。
ウマ娘の立場から見ると、両手を合わせた程度のサイズで足りるのかな……などと思ってしまうのだけど、本来普通はあんなものだよね。むしろちょっと多いくらい。トレーナー業は体を動かす機会が多いだろうし、あのくらいが適正なんだろう。
「返事を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「スカウト、お受けします。チームの加入届も書いてきました」
「漏れがないか確認しよう。……日本語上手いな」
ちなみにケニアではスワヒリ語と英語が公用語として使用される。更にカレンジン語などの、地元特有の…… 特に家族間や民族間で用いられる独自言語もあるため、いわゆるトリリンガルが多い。
ぼくはそこに加えてネイティブそのものの日本語を用いることができるマルチリンガルである。こう言うとなんだか頭が良さげに見られるので、ぼくは自己紹介でそのあたりを強調することが多い。
実情? JWCが実在しないことも知らなかった頭ふわふわのポン菓子だよ。
「よし、不備は無いな。サバンナストライプ、今日からよろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします!」
サッと手を差し出すと、トレーナーさんは一瞬怪訝な顔をした。が、すぐに思い直して同じように右手を差し出し握手を返してくれた。
海外と日本と感覚が違うよね、この辺。ぼくもついやっちゃったけど、日本だとお互いにお辞儀をするところ、海外だと握手をすることが多い。リムジンやスナイパーなどの海外文化圏のウマ娘がいるから対応できたんだろう。
「それでは、そうですね。お昼ごはんは食べてきましたか?」
「まだです。何か指示があると思って」
「察しが良いのはいいことだけどなぁ……まだそこまではしなくていい」
え、余計だったかなこれ。
と思っていると、トレーナーさんはこちらに一枚の用紙を手渡してきた。
「先に、今の栄養状態をチェックしておきたい。今日から一週間分、三食何を食べたかを記録して提出してくれ」
「あ、はい。今日からでいいんですか?」
「昨日何を食べたか全部思い出すのは難しいだろう。ただでさえ量を食べるんだから」
それは正直言うとその通りだ。今朝何を食べたかと言われるとギリギリで思い出せる範囲だけど、昨日は……何をどのくらい食べたっけ。
……なるほど、そう思うと、思い出しながらうろ覚えで報告するよりは正確に把握できるこっちの方がいいか。
「管理はそれからだ。現状を知らなければアドバイスもできん」
「わかりました。お昼からのトレーニングには参加していいですか?」
「それも先に色々と見てからですね。私達はまだ、選抜レースで見せていただいた走り方しか知りません。最高速はどれだけ出せるのか、スタミナはどうなのか……今後の方針にも関わってきますので、まずはそちらを優先しましょう」
「はい」
本当に徹底してデータ主義なんだなぁ。
他のチームならとりあえず練習に出してみる、ということもありそうなものなんだけど……そこも好き好きか。細々したことはいいからとにかくトレーニングがしたいっていうウマ娘も少なくないだろうし。結局のところどこまで気質が合うかというところが重要なんだろう。教わる立場のぼくから言えることは特に無い。
「じゃあ、とりあえず食事に行ってきます」
「そうしてくれ。13時……いや14時に4番コースに集合だ」
「わかりました」
ウマ娘の食事は長い。これはもうどうしようもないことだ。中にはオグリ先輩のように諸々の理屈を超えて食べたという結果だけが残ってるようなひともいるが、口の容量とか、食器で持てる限界とかが絡んでくるので本当ならどうしても時間がかかってくる。
あとは慣れもあるのだろうか。単純に早食いができるかどうかもある程度関わってきそうだ。
一時間遅らせたのはそれに加えて、アップの時間や準備の時間も計算に入れたというところだろう。
まずは指示通り、メモを取りながら食事を摂りに向かった。
さて、それやこれやの準備を終えて13時半ごろ。ぼくは普段使っているシューズの蹄鉄がちゃんと装着されているかを確認したあと、ジャージに着替えて諸々の荷物を持ってコースに向かった。
荷物と言ってもそんなに大荷物というわけじゃない。せいぜい着替えと水分、あとはタオルくらいのものだ。元々私物も少ないし。
見た目ぼんやりと、内心は意気揚々とした気持ちと不安とが半々でコースに入場する……と。
「あァ?」
その瞬間、人を射殺しそうなほど鋭い視線に襲われた。
「ひゅ……」
コワイ!
ぼくは思わず物陰に姿を隠してしまった。
何だろう今の。え、ぼく誰かの恨み買うようなことした? ウカツに入ったら殺されるん? やばない?
再び、そっと体を傾けて覗き込んでみる――と。
「ンだあいつ?」
「シャカールの凶悪なツラにビビったんだろ」
「一言多いんだよお前」
すぐに先の視線の大元に行きついた。
エアシャカール。モデルになったウマは、頭の中身を見てみたいと言われてしまうレベルの気性の荒さで有名だ。
ウマ娘としては論理とデータを重んじる頭脳派、なのだけど、見た目すらも戦略の内に入れる思い切りの良さに加え、データをまとめるために寝不足になっているせいか、目の下に深くクマが刻まれていて……有体に言ってしまうと、見た目かなり怖い。
というかドーナッツ先輩がケラケラと笑ってシャカール先輩をからかうたびに眉間に皺が寄っていって余計に怖い……。
一応、事前知識でエアシャカールというウマ娘はむしろ面倒見の良い方だとは知ってるんだけど、同時に気性が荒いということも事実として知っている。今はどっちなんだろうという思いがぐるぐると頭を回って離れない……。
……いや!
こういう色眼鏡をかけて見る自分を恥じたことを思い出そう。そもそもぼくの目的は何だ。お金を稼ぐことだろう?
ちょっと視線が鋭いだとか、怖い顔をされるとか、そういう事態に直面することが無いとは言えない。なら勇気を出して一歩を踏み出すべきだ。
よし、まずはしっかり挨拶をしよう。話はそれから。チームに入ることになりました、それだけでもまずは十分だ。
「
「なんて?」
「なんつった?」
ぼくは思わず熱くなった顔を両手で隠した。
サンコン!!*1
十二年という年月の重みがテンパッた精神に合わせてそのまま言語として出力されてしまっているようだ。聞いてねーぜ困難。
「
「え……」
今すぐ立ち直れるだろうか。そう思っていたところ、上から声が落とされた。
このロシア語……内容はわからないけど、声音は覚えている。スナイパーのそれだ。
顔を覆っていた手を外して見上げると、やはりというか、コース入口の直上にある客席から彼女はぼくを見下ろしていた。ニンジャスナイパーのエントリーだ!
「ベテルギウスには外国出身のウマ娘が多く所属している……ニュービーがウカツにも母国語を喋ってしまうのはよくあることで恥じることは無い」
「ど、どうも。ありがとう……」
あからさまにニンジャのアトモスフィアを漂わせながらだけど、気を使ってくれてるのは分かった。
一つ礼をして…………呼び方どうすればいいんだろう?
「スナイパー……さん? 先輩?」
「好きに呼ぶがよい。では失礼する」
「あっ」
一言だけ添えたニンジャスナイパーは、そこで高速垂直リフト射出めいた速度で垂直跳びをしてコースから逃れ……ることはできなかった。
その前にやはり八艘飛びめいた勢いで跳んできたピーピードーナッツに肩を掴まれ捕獲されたからだ。
「失礼するんじゃねェ」
「あっ」
「バカナー! あっあっやめて」
「やめてじゃねえよ今日も併走だろうがチームから降ろすぞ!」
……そうして、スナイパーはそのままメンポを剥がされ強引に連行された。
連行する時毎回メンポ剥ぐんだ……そして剥がされたらスナイパーは気が弱くなるんだ……。
やっぱニンジャソウルが混ざってるんじゃないかなあのウマ娘……。
「おい」
「えっ……あ、はい……」
「大丈夫か? 緊張してんなら気分落ち着くまで休めよ」
「いえ、大丈夫です」
そうこうしてる間にやってきていたエアシャカール先輩が、こちらの精神状態が気にかかったのかそんな言葉を投げてきた。
いや本当に一見すると少し顔と声音が怖いだけで態度普通だな、なんて少し面食らう。一方でシャカール先輩の方も眉を上げて、内心驚いているようだった。
そうなるよね。スワヒリ語で何か喋ったと思ったら次に話すと普通に流暢な日本語で返答するんだもの。
頭を下げて礼をすると、今度はのしのしと音を立てていそうな重量感を伴い、もうひとり――ハリウッドリムジンがこちらに近づいてきた。
「Hello。新入生の子、デスカ?」
「はい、サバンナストライプです」
「
なるほど。外国出身。すごくわかりやすい。
タイキシャトル先輩やエルコンドルパサー先輩と異なるのは、リムジンは相当大人しめの雰囲気というところだろうか。
JWCでも二人乗りができるほどに安定感があり、それで嫌がらないほど気性も柔らかい風だったし……ウマ娘としてはそういう性格として成立したのだろう。
ぼくやドーナッツ、スナイパーと違って第一回、第二回と連続出場しているから、ウマソウルが成立するのもそう難しくなさそうだし、余計な混ざりものは無さそうだ。二人分の騎手ソウルで代替してる可能性もあるけどそのくらいだろう。
「もう三十分でタイム計測始めんだろ。体温めとけよ」
「はい」
他の四人は……まだ姿が見えないけど、裏で何かしているんだろうか。
どっちにしてももうしばらくトレーナーさんたちも来そうにないっぽいし、シャカール先輩に言われた通りアップしながら待つとしよう。
リムジンはイメージ的には穏やかで笑顔を絶やさない系の文系少女(身長2m弱)です。