【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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 全身全霊あげません!されたので初投稿です。



シマウマタイプのサラブレッド

 

 

 それからしばらく、ぼくはサブトレさんとタキオン先輩と一緒に色んなテストを行った。

 坂路やコーナーでの所要タイムは勿論のこと、ランニングマシンでどこまでの速度を耐えられるか、ショットガンタッチにシャトルラン、反復横跳びにラダー、幅跳び……果ては瓦割りしたり数トンタイヤを引いてみたり、謎の早押しクイズをしてみたり将棋やチェスをしてみたり……。

 途中からぼくはなにをしているのだろうと思うようなテストもあった――というかこれアプリのアレじゃない?――が、ともかく一通りのテストが終わったところで、サブトレさんから一応の評価が下されることとなる。

 

「加速力とスタミナは共にすぐにデビューしてもいいほどのものを持っていますが、やはり最高速が……平均にもやや届きませんね」

「……そう……ぜぇ、はぁ、なりますよね……」

「おや、流石にここまでやると疲弊するかい」

 

 昼から夕暮れ間近までずっとやり続ければ当然そうもなろう。

 しかし……分かっていたけど、最高速はダメか。

 短距離走の参考記録程度のものだけど、サラブレッドは瞬間最高時速としては84kmを記録したことがあるという。その魂を継ぐウマ娘たちの脚力はそれに準じたものになるだろう。

 それらに対してシマウマは、最高時速70km弱。もっともサバンナストライプ(ぼく)の場合、シマウマタイプのサラブレッドというトンチキながら「シマウマのブリーディングに成功していたら」という、比較的現実的なもしも(if)を内包してもいるだろうから、多少速さは底上げされているかもしれない。

 

「……でも、逆に言えば、今の問題はそこくらいということ……ですよね」

「ふぅン?」

 

 息を吐いて、吸う。

 酸素が回るのが実感できる。肺が全力で稼働し、体力がわずかに戻った。

 ぼくの武器は体力もだけど、肺機能の強さによる回復力もそうだ。一息入れればそこで多少なりとも行動するだけの体力が戻る。

 速度は大したことないかもしれない。けど、それを維持し続けられるのならば……例えば常に時速60kmでコースを走り続けられるのなら、菊花賞3000mだって記録は3分ジャスト。世界レコードが出せる。

 勝てる……勝てるんだ!

 サブトレさんはそんなぼくの自信を目にしてふ、と一つ笑みをこぼした。

 

「いえ、体力の減少に合わせてフォームも崩れてましたし元々のフォームもかなり無駄が多いです。コーナリングも拙いですし坂路もまだ改善点が十……二十……それに勝ちが見えた途端に何も考えなくなって隙だらけになりますよね。半端です。全体的に体力があるという事実を過信しています。体もやや硬いですし、咄嗟に素早い動きをするのも苦手なようですし……あとちょっと滑舌も不安なところが見られるのでトレーニングしましょうね」

「ひゃい」

 

 その笑みは失笑のそれだった。

 タキオン先輩はぼくの身の程知らずな発言に爆笑していた。

 恥知らずでごめんなしゃい。

 顔あっつ。

 

「クックック……彼女はこのあたり遠慮が無いからねぇ。辛辣な言葉に聞こえるかもしれないが、指摘そのものはそう的外れではないと思うよ?」

 

 タキオン先輩も、見てて同じように思いはしたのだろう。

 ……けど、ほら、あれだ。競技者の立場からなんとなく漠然とそう思ってただけで、正確な問題点の洗い出しまではできてなかったかもしれないし。

 一応、ケニアでもトレーナーさんに見てもらってはいたけど、あっちは最低限のことだけやってあとは独学みたいなものだから、トレーナーさんみたいに専門知識を蓄えたひとじゃないとちゃんと言語化できない程度の違和感かもしれないし……。

 

「的外れではないと分かっているなら、タキオンも指摘してあげればよかったんじゃないですか?」

「二度手間じゃあないか。モルモット君から言うだけで十分だろう」

 

 自ら気付くことなく同じ競技者からも即座に見抜かれるほど慢心した、スタミナでゴリ押しするだけの走り方の醜さ。

 生き恥。

 ……いや違う、そうじゃない! こういう時はポジティブに考えるんだ。大舞台で恥を晒さずに済んだと思えばいい。幸い今、調子に乗ったところを見せたのはタキオン先輩とサブトレさんだけだ。

 

「大丈夫です! ここから少しずつ修正していきましょう。そのためのチームであり、トレーナーなんですから」

「ひゃい」

 

 普通に立ち直りきれなかった。

 ぼくの口は気の抜けた返事を出力するだけだった。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 もしかして自分が強いのではないかという妄想に駆られたイキりロバ娘が誕生直後に恥ずか死して一時間と少しして、全体練習を終えたベテルギウスメンバーが戻ってきた。

 彼女らは入学したてのぼくよりはるかに練習に慣れているはずなのだが、疲労の度合いはやや濃いように思える。なるほど。効率的だから疲れない、なんてことは無いようだ。むしろ効率を突き詰めるからこそ、短時間に高密度のトレーニングを行っているということなのだろう。

 約一名明らかに疲労の質が違うニンジャがいるがあれはどういうことなのだろうか。

 

「スナイパーさんは何であんな燃え尽きているんですか?」

「ドーナッツと並走したせいですかね……」

「なぜ併走したくらいであんな魂が抜けたような顔に……?」

 

 確かにメンポを奪い取られるというのはニンジャ的には屈辱的だろうが、しかしだからと言って並走したくらいでそんなことになるものだろうか?

 サブトレさんは頬を軽く掻いた。

 

「併走が終わるまでメンポを返してくれぬのだ……許すまじピーナッツ……」

「うわぁ!?」

「気配を消して背後にやってくるのをやめなさいスナイパー」

 

 ……ピーナッツじゃなくてドーナッツじゃないの?

 そう思ったんだけど、どうも彼女は意図的にやっているらしい。わずかに声が聞こえたらしいドーナッツ先輩がギロリとスナイパー=サンを睨みつけたが、ぼくの背後に隠れたせいでその視線はこちらが一身に受けるかたちになってしまった。

 コワイ!

 

「そうやって微妙に煽るようなことを言うから、ドーナッツも余計に酷くなるんですよ……」

「初対面でメンポを剥ぎ取ってきたあの悪夢は忘れぬ……」

 

 実際、人と挨拶する時に顔隠すって普通に失礼なことでは?

 ぼくは訝しんだ。

 

「おかげでいっつも逃げちゃうから、追いかけるのが大変なんだよね~」

「むっ。スカイ……」

「どもどもー」

 

 そこで横から注釈を入れるようにして、どこかふわふわした雰囲気を漂わせた――ように見える――緑がかった芦毛のウマ娘が姿を見せる。

 セイウンスカイ先輩。一見するとマイペースなひとであるように見せて、強い闘争心のもと計算と策謀を働かせ勝利を狙うウマ娘だ。ポテンシャルは非常に高く、あの菊花賞でレコードを叩き出せるほど。

 もっとも、今は本当にゆるい穏やかな雰囲気なようだ。同期の、例えばグラスワンダー先輩やエルコンドルパサー先輩のような、同じレースで競い合うことになるライバルがいるわけじゃないからだろうか。

 頭を下げて挨拶をすると、スカイ先輩は手をひらひらと振って涼やかにそれに返した。

 

「先行策や差しの訓練になりませんか?」

「追いかけるだけならいいけど、隠れるからねー……トレーニングにはなりそうにないよ、残念だけど」

「でしょうね」

 

 それこそ時と場合によっては変わり身の術とか身代わりの術とか使ってくるのではないだろうか。

 

「そういえば挨拶、まだだったよね。セイウンスカイ。よろしくねー」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「スカイはスナイパーと同じく、今季ジュニア級でデビュー予定の子です。スカイ、ストライプは歳も近いですから、よく面倒を見てあげてくださいね」

「私? いやぁ……どうかなぁ。スナイパーで手一杯かも」

「分かっていますねスナイパー?」

「ぬっ!? う、ぬぅ……むう、う、うーん……」

 

 すごい微妙そうな顔してる!

 あ、でもサブトレさんの威圧感に押されて頷かざるを得なくなってる。半泣きだ。どんだけ嫌なの……。

 まあ、苦手意識ってなかなか解消できないしね……そういう気持ちは分からなくもないけど。

 

「ま、ほどほどによろしくー」

「ほどほどによろしくお願いします」

「いいんですかあなた方それで」

 

 いいのです。

 ウマ娘によって最適な距離感というのは違うものなのです。

 

 


 

 

○オマケ

 

「ニンポ! とうめいの術~っ!」

(えええ~! なんですかその尊みの術~! 透けて……透けてるーーーーっ!!)

「へっへっへ、昨日スナイパーちゃんに教えてもらったんだ! ねえねえ、見えてる? 見えてる?」

「見えていませんともっっっ!!」

 

 





本作ではニンジャスナイパーはスペちゃんたちの世代と同学年ということにしています。
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