【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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 でかすぎるので初投稿です。



そりゃでけぇでしょ

 

 

 ぼくがアルバイト先に選択したのは、これまでにトレセン学園生徒の受け入れ実績がある牛乳の宅配サービスだった。

 さすがにこの年齢で、しかも外国人がアルバイトがしたいと言うと受け入れ先からたいそう驚かれたものだが、それはそれとしてウマ娘の働き手というのはありがたいものであるらしく、とりあえず歓迎をもって受け入れられた。

 新聞配達じゃないのか……と当初は少し首を傾げたものの、新聞という媒体自体が最近はあまり読まれなくなっている。時代というやつなのかなぁ――なんて、ぼくは中学生にあるまじきことを考えてしまった。こんなだから副会長にこいつ本当に12歳かという目で見られるというのに。いや、まあ実情はアレだけど。

 

 業務についてはそれほど難しいものではなかった。ぼくは運搬を得意とするロバ娘である。

 正確にはその仲間のシマウマだけど。

 実際には背中が弱いので重い荷物が運搬できないのがシマウマだそうだけど。

 ……どっちにしても幸い、パワーはあるし、考える頭もある。走る練習ついでにと思えばこれも有益だ。少量ずつしか運べないとしても、スタミナはあるので往復すればどうとでもなる。これもスタミナのトレーニングだ。

 

 で、それやこれやとあってチームに所属してから最初の一ヶ月が過ぎた。

 一週間が経つ頃まではトレーニングを終えたら立ち上がれないほどに消耗していたが、三週間目に入る頃にはだいぶ慣れてきて、走行技術のトレーニングにも入れるようになった。

 改めてちゃんとした指導のもとフォームチェックなどをしてみるとこれがまあズタズタというかボロボロで、独学というのがいかに難しいかということを思い知らされたものだった。

 ……専門家を招いたりしてスポーツ医学にも精通してるらしいマックイーンはともかく、テイオーって家が裕福らしいけど実質的にはこれまで独学だよね。それであの走りだ。天才はいる以下略。

 

 

 ――さて。それやこれやあって6月はじめ。チームベテルギウスはリムジン先輩が参加する安田記念の日を迎えることとなった。

 梅雨時に特有の曇天ではあるものの、バ場状態の発表は「良」。じっとり蒸すためあまり良い気候とは言えないが、走りやすくはあるだろう。

 ……ぼくを含め、チームメンバーの数人や会場にやってきている人の多くはうちわでぱたぱた体を扇いでるけど。

 

「帰ってテレビで見るんじゃダメなのかよ~」

 

 体が小さいせいか、やや体温高めのドーナッツ先輩がそんなことをぼやいた。それに対して明確に「No」を突きつけるのは、データ主義のシャカール先輩たちだ。

 

「肌で感じられる湿度や温度、空気ってのは現場にいないと分からねェだろ」

「熱狂というものもね。観客の声援というものがリムジン君にどういった効果を与えるのか、それとも与えないのか、はたまた彼女はそういったケースに該当しないのか。会場に来るだけで無数のデータが得られるんだよ。部屋に籠もる理由がないね」

「へーへー…………お前らも汗ダラッダラじゃねーか」

「「それは仕方ない(ねェ)だろう」」

 

 来たいから来た。とは言っても気温に対処できるわけでもない。現実の辛さである。

 

「ストライプも汗すごいけどあっちって気温高いんじゃないの? 赤道近いし」

「ケニアって標高が高いので30度超えることも少ないですよ……」

 

 むしろ気候は温暖というか、常に20度前後で安定している。雨季乾季があるので、そっちの方向ではかなりムラがあるけど。

 魂が日本人のそれとはいえ、肉体がアジャストしきれていないのでキツいのは割とキツいというのが正直なところ。

 ……そして、そう言うスカイ先輩は、やっぱり溶けていた。

 ドーナッツ先輩よりひどい。猫舌だということは知っているけど暑さにも弱いのか……。

 

「スカイ先輩も辛そうですね」

「いやぁ、こっちの方がもっと辛そうかなぁ……」

「アバッ……アババ……」

「Oh……」

 

 ロシア出身のスナイパー=サンは完全に爆発四散寸前であった。

 比較的涼しい6月はじめでコレだ。7月、8月になるといったいどうなってしまうのだろう……。

 幸い、規模の大きなG1とそのためのステップアップレースは9月以降に集中している。まあ、なんとか、なる……といいなあ……。

 

「ここにいたか」

「あ、トレーナーさん」

 

 いっそアイスでも買いに行こうか……と思ってきたところで、リムジン先輩の激励に行っていたトレーナーさんたちが戻ってきた。それに同行していたサブトレさんとフラッシュ先輩の手には、ジュースやアイスが入っているらしいビニール袋が握られていた。

 なんというかベストタイミングだ。もうだいぶ耐えられなくなっていたぼくたちはずるずるとビニール袋に引き寄せられていった。

 

「タキオンさん、デジタルさんはどちらへ?」

「デジタル君は最高の撮影スポットを探しに行ったよ」

 

 止める間も無かったとはこのことだ。デジタル先輩はパドックでのウマ娘紹介とレース、そのどちらもを最適、最高のアングルで撮れるスポットを探しにいつの間にか消えていた。

 彼女の撮るレースの動画は、テレビでは分からない微妙なアングルを重点的に撮っていることが多く、後で反省会をするのに非常に役立つのだとか。

 マナー上、三脚は使用しない。デジたんハンドは固定力。デジたんレッグは安定感。彼女はオタクの名にかけて一切の手抜きを自分に許さない。

 

 ほどなくして、皆がアイスをしゃくしゃく食べ始めたあたりで、パドックで出走ウマ娘の紹介が始まった。

 

『1枠1番、ヴィクトリア。5番人気です』

 

 例の実況の人*1じゃん!!

 ちょっとした驚きだった。ぼくらが出走するとあの人が実況になるのだろうか。いや、まさかそんな因果律が固定されるみたいな……。

 ……これ以上これについて考えるのはよそう。別の機会だと女性実況だったり解説が細江さんだったりするかもしれないし。

 

 ともあれだ。

 リムジン先輩は5枠10番。それまでに紹介されたウマ娘は、いずれも錚々たる顔ぶれで、仕上がりも素晴らしい。さすがは上半期のマイル王を決定するG1レース、実力者ばかりだ。

 やがてリムジン先輩の番になる頃、パドックの裏から一度ゴツンという鈍い音と小さな悲鳴が上がった。

 あんまり想定されてないもんね、その大きさ……。

 

『5枠10番、ハリウッドリムジン。1番人気です』

 

 それからすぐにリムジン先輩がパドックに上がってくると、まず一度どよめきが起こった。

 でけぇ。でけぇ。そんな声が客席から響いてくる。そりゃでけぇでしょ。

 2m近くある上に、ウマ耳もあるから更に大きく見える。内心で同意していると、続いてリムジン先輩は羽織っていた上着を思い切り放り投げた!

 

「「「うおおおおおおっ!」」」

 

 でけぇ! でけぇ! そんな声が客席から響いてくる。

 そりゃでけぇでしょ!

 何とは言わない。

 

「毎日見てっけどあいつのプロポーションおかしいな」

 

 遠い目をしながらドーナッツ先輩がそんなことをぽつりと呟いた。直接的な表現避けましょうよとも思うけど、そうだねとも思う。

 一見細いんだけど、出るところは出ててなんというかモデル体型通り越して女優体型っていうか……名前負けしない、まさにハリウッド! って感じだ。

 勝負服はやはりハリウッド女優めいたパーティドレス風。色合いは、青をメインに外に行くごとに赤のグラデーションがかかっている。星を思わせるクリスタルの刺繍が眩しく、ゴージャスな雰囲気を漂わせている。普段の大人しげな印象とはまるで別物だ。

 しばらくすると、リムジン先輩は恥ずかしげにはにかんで脱ぎ捨てた上着を取って外に駆けていった。

 ……いつも思うけど、あれ脱ぎ捨てる必要あるのかな?

 疑問に思いつつも紹介は続く。と――。

 

『7枠15番ヒシアケボノ。3番人気です』

「「「おおお……!」」」

 

 再び会場にどよめきが起きた。先程のリムジン先輩とはまた違うでっかいウマ娘が現れたのだ。

 ヒシアケボノ先輩。リムジン先輩のそれとは異なり、彼女はややがっしりしたスプリンター向きの体格をしている。

 でかい。こちらもやはりでっかい。迫力がある。どことは言わないが。身長差と体格差を考えると、両者の重量はおおむねどっこいどっこいと言ったところだろうか。

 

「大相撲東京場所開幕ってなもんだな」

「何失礼なこと言ってるんですドーナッツ先輩」

「いやこれはボノの奴が実際に言ってたことで……」

 

 言ってたんかい。

 Umatterを見せてもらうと、確かにそのようなことを呟いているのが確認できた。

 律儀にもリムジン先輩もそれに反応している。公認かよ。そういえばヒシアケボノ先輩は相撲マニアだったっけ……。

 

 パドックでの顔見せが終わると、参加者はレース場へ移動する。ここで皆もゲート入りする……のだけど。

 

『春のマイル王決定戦、安田記念。天気はもちこたえ曇り。レース場は「良」の発表となりましたが……ヒシアケボノとハリウッドリムジン、ゲートに入りません』

『この二人の出走時の名物ですね』

「名物ってなんすか」

「ふたりとも、体でっかすぎてゲートに入るとすっごい窮屈になっちゃうんだよねえ」

「故に、タイミングを合わせてエントリー……できるだけゲートに入っている時間を短くする算段なのだ」

 

 なるほど。他の出走ウマ娘が全員ゲートに入ってもらわないと、自分たちがずっと窮屈なゲートの中で精神すり減らすことになるのか。

 大きすぎても大変なんだなぁ……。

 しみじみそんなことを実感しているうちに、ふたりは窮屈そうにゲートに入っていった。

 

『さあ各ウマ娘ゲートに入りました』

 

 そして準備が整い――スターターが手を挙げた。

 

『スタートを切りました! さあまずはヒシアケボノが好スタートを切り先頭へ飛び出す!』

「逃げ!?」

 

 先行型のイメージがあっただけに驚きだ。たしか、スプリンターズステークスでは先行策で一着を取っているはず……。

 

「悪くない手ではある。データ上、ヒシアケボノは逃げでの勝率が高い」

「はい。ですがそれはG1レース以外での話です。それがどう影響してくるか……」

 

 ヒシアケボノ先輩はパワーでグイグイ加速していくタイプのランナーだ。リムジン先輩もその点は似ているが、その力の出し方というものが双方でやや異なる。

 リムジン先輩は重力や物理学的作用をしっかり用いることで加速していくスタイルだ。筋肉はやや薄いため骨に掛かる負担は非常に大きいが、その分ダイレクトに力が地面に伝わりやすい。

 対してヒシアケボノ先輩は、しっかり筋肉がついた体をしている。骨もやや太く、その上に筋肉が言わば「鎧」として固められているため、負担は全体に分散する。こちらは完全に素のフィジカルで生じるパワーを地面に叩きつけているような形だ。

 安易に優劣はつけづらい。どちらも合う合わないがあるからだ。

 レース展開はヒシアケボノ先輩が先頭に立ち終始リードする形で進む。周囲ににらみをきかせることでペースを作り、牽制する……逃げウマ娘として非常に「上手い」走り方だ。

 そして――。

 

『大ケヤキを抜けて最終コーナーへ! まだ後続は抑えているか! 先頭は依然ヒシアケボノ!』

「……あれ!? リムジン先輩は!?」

「よく見ろ、今『沈んだ』ぜ」

 

 一瞬、そこでぼくはリムジン先輩の姿を見失った。しかしシャカール先輩に言われて、リムジン先輩が外に抜けていることが分かった。

 バ群の向こう側に回ったことと超前傾姿勢、それらが同時に作用したようだ。レースに集中しているヒシアケボノ先輩も、当然これを見失う。

 残り2ハロン。そこでリムジン先輩の足元が弾けるように土を巻き上げた!

 

『――先頭ヒシアケボノ必死に引き離しにかかるが外からハリウッドリムジンが寄せてくる!』

「来た!」

「行けーっ!!」

 

 ドーナッツ先輩の言っていた「爆発するような本気の走り」だ! 凄まじい末脚で一気にヒシアケボノ先輩に追いすがる!

 

「ううああぁぁっ!!」

「やあぁぁぁっ!!」

『伸びる! 伸びる! ボディが伸びて見える! ヒシアケボノ苦しいか!? いやまだか!?』

 

 ここで差し切る、と心に火を灯したリムジン先輩の体が更に沈み込む。

 二段階加速だ! 重力の力を更に受けたその体は、半バ身ほどヒシアケボノ先輩を離してゴール板へ――――。

 

『ハリウッドリムジン、ストレェッチ、アンド、ゴォォール!!』

 

 僅かな、しかし確かな差。掲示板に灯るランプが示しているのは……10番。つまりはリムジン先輩の番号だ。

 わっと一気に会場内に大歓声が上がる。この瞬間、リムジン先輩が安田記念一着……春のマイル王に輝き、BCチャンピオンシップの挑戦権を手にしたのだった。

 

『これがアメリカのレース、これがハリウッド! 「大立者*2」ハリウッドリムジン、見事春のマイル王の座に輝きました!!』

 

 素晴らしいレースに惜しみない拍手を皆で贈る。手を振ってウイニングランをするリムジン先輩の顔は、いつになく晴れやかだった。

 ……ところで実況の人、なんかやっぱりちょっと変なソウル注入されてない?

 ぼく半月後の宝塚記念というかドーナッツ先輩の出走がちょっと不安になってきたんだけど?

 

 

*1
アプリの男性実況及びJAPAN WORLD CUP実況のお方。

*2
一座の中で一番優れた俳優。





 今回は男性の方でしたが、この時空では男性実況でも女性実況でもちょっとずつJWC実況がインストールされる仕様です。
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