【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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アイスいかがっすか

 

 

 夏。トレセン学園の生徒の多くは、ここで学習カリキュラムが一段落を迎え夏休みに入る。

 夏休み、とひと口に言ってはみるが、どちらかと言うとトレーニングに集中する期間というのが認識としては正確だろうか。授業がないだけで、トレーニングはむしろ夏休み期間の方が激しいだろう。夏休みに入るに伴って、ほとんどの生徒は学園主催の夏合宿に参加することになる。

 

 ……ここしばらくの間には、いろいろなことがあった。

 ウオッカとスカーレットが何やらやけにナウいポスターに惹かれて「あの」チームに加入したり、ターボが赤点を取ってしまったのでなんとかしてネイチャと一緒に要点を叩き込んで、追試に合格させることに成功したり……ともかく、うちのクラスはちゃんと無事夏合宿の参加に成功したわけだ。

 

 照りつける太陽。繊細で綺麗な砂浜に透き通った海。見事な合宿所と言う他無い。専属トレーナーがついているひとはマンツーマンでひたすらトレーニングに励み、チームに入っているひとはチーム内での指示に従う。そうじゃないひとは生徒会主催の強化メニューをこなしたり、教官の指導の下トレーニングを行っていた。

 そんな中ぼくはと言うと。

 

「安いよーアイス一本50円、ニンジン入りで80円だよー」

「トレーニングするんじゃありませんの!?」

 

 ――アイスを売ることにした。

 ミルクのアイスキャンディとヨーグルトのアイスキャンディ、各50円。ニンジン入りで+30円。バイト先のツテで仕入れたものなので質は悪くない。

 ぼくはクーラーボックスを抱えながら指を二本立てた。

 

「トレーニングはする。商売もする。両立はそう難しいことじゃないんだよ」

 

 そう、ベテルギウスならね。なんつって。

 実際のとこ、この辺りチームベテルギウスはかなり自由がきく方だ。厳格な管理のもとでトレーニングを行っているためやることがそう大きく変わるわけでもないし、普段学園の授業の方に割いている午前中の時間を使えるので、合宿に来たのに時間が余るという逆転現象が起きる。

 もっとも、浮いた時間は完全にフリーかと言うとそうではない。筋肉を無駄に痛めない方法はいくらでもある。例えばフォームチェックや、レース場の研究などはいくらでもできる。トレーニングメニューにも組み込まれている……のだけど、基本的にそうした研究は夕方以降、室内で行うことになっている。午前中にトレーニングをおおよそ終えた今、自由時間であることには変わりない。

 

「両立できているなら私からとやかく言うこともございませんけれど……売れてますの? それ」

「割と。マックイーンもどう?」

「いえ、今は遠慮しておきますわ。減量もありますもの」

「マックイーン普段からやってるでしょ減量。っていうか食事制限。夏なんだし倒れちゃうよ」

「だ、大丈夫ですわ。夏は夏のメニューに変えておりますもの」

「そう?」

 

 そっかあ。

 いやしかし、これが本当意外なことに売れ行きが良い。

 海辺だとはいえ暑いことには変わりないし、いつまでも泳いではいられない。じゃあ海の家に行って何か買うか……となっても、これがまた微妙に遠かったり生徒でごった返したりしてちょっと不便だったりする。

 そこでこう、横からスススッと近付いてささやくのだ。いいものありますよ、と。

 ちょっとした営業努力である。

 海の家でかき氷を買うよりもだいぶ安上がりだし、海ということでちょっと財布の紐と気が緩んじゃってる生徒たちは「そういうことなら」と買ってくれる。

 あっちはアイスが安く買えてWin。ぼくはいい感じに商売ができてWin。商売の基本とは双方が得をしたと感じることなのである。うはは。

 

「分かったよ。明日明後日残ってるか分からないけど」

「え。なぜですの……?」

「オグリ先輩がいるからね」

「……あっ!」

 

 トレセン学園、食のリーサルウエポンことオグリ先輩。

 彼女の手……いや胃袋にかかれば、この2ヶ月程のお給料で仕入れた程度の材料など即座に食べつくされてしまうだろう。

 幸いなのは、普通に支払いはしてくれるだろうから確実に黒字にはなるだろうということか。食べ放題にしない限り、オグリ先輩は飲食店にとっては太客と言える。

 問題があるとするなら、それ以降は食事の提供ができなくなることだろうか。長期的目線で見るとこれが案外痛く、「あそこはいつも売り切ればかりだから、今日も売り切れだろう」と思われて客を逃すことがありうる。

 

「本数が揃ってる今なら特別な商品も用意できるんだけどなぁ」

「と、特別……それはいったい……?」

「んん~……や、でもマックイーン、さっき『今は遠慮しておく』って」

「無くなると聞いたらそうも言っていられませんわ!」

「あ、うん」

 

 マックイーンのスイーツに対する執念はなんというか異次元である。オグリ先輩には流石に及ばないけど、たしかアプリだとアスファルトがミシミシ音を立てるくらい食べてたはずだ。

 調整不足の原因になったりはするけど、アスリートにとってそれだけ食べる能力があるというのは恵まれたことだ。なかなか量を食べられないというひとも少なくないし。

 ……いやステイヤーとしては良くないのか?

 ぼくは背負っていたバックパックから紙のお皿とスプーン、コンパクトかき氷機、それからクーラーボックスからいくつかの容器を取り出した。

 

「400円です」

「ッ……!? ……か、カードで……」

「……お財布ある時でいいよ」

 

 なんということでしょう。マックイーンはお金を持ち歩いていなかったのです。

 そうだね。ご令嬢だものね。カードだけで十分なんだろうね……。

 

「まあ簡単なものだけど」

 

 まず棒を外してあるミルクのアイスキャンディをかき氷機にかけてふわふわの氷を作る。この上に紅茶シロップをかけて……更に酸味のきいたジャム状の冷凍イチゴを添えて。

 

「はい、ロイヤルミルクティー風かき氷」

「くうっ……!? こ、これは都内で買うと倍から三倍のお値段になるものでは……!?」

「そこまで質の良いものじゃないよー」

「ですが……いえ、アレコレ言う前にいただきますわ」

「どぞ」

 

 それから少しマックイーンが食べてる姿を見てたけど、なんだろう。こう……とにかく顔が良いご令嬢が美味しそうにお菓子食べてるだけで絵になるなぁとふと思った。

 良い目の保養だった。

 

 さて、マックイーンはそこからメジロ家の皆さんと合同練習に入ることになったので、ついでにいくつかアイス売ってぼくはまた別の場所に移動することにした。

 移動先は、リギルが揃ってトレーニングをしている区画だ。生徒会メンバーが午前中、トレーナーがついていないウマ娘たちの指導のために奔走していたため、本格的なトレーニングが午後からになった形だ。見物している生徒は数多く、その中にはテイオーの姿もあった。

 

「アイスいかがっすか」

「何してるの!?」

「マックイーンにも同じこと言われたよ。アイス売ってるだけだけど」

「ば、バイト……?」

「残念ながら中学生がこういうバイトはできないよ。自営業だよ」

「そっちの方がよっぽどダメじゃない?」

「えへっ」

「えへっじゃなくて」

 

 まあ困惑するよね普通。普段からそういうことしてるわけでもないんだし。

 周りから受けた注文に従ってそれぞれにアイスを差し出してテイオーの隣に戻る。その視線の先にあるのは会長だ。

 

「はぁー……カッコいいよねカイチョー。ボクもあんな風になれるかなぁ」

「んー」

「何身長測ってるのー!?」

「まだまだかなぁ」

 

 会長の身長がたしか165cmでテイオーが150cm。15cmほどの差がある。

 ぼくはテイオーより更に低いんだけどね。

 

「まったくもう、そういう問題じゃないでしょ!」

「じゃあどういう問題だと思う? テイオーは」

「え? カイチョーみたく無敗の三冠ウマ娘になってー、『やあ、今日も頑張っていこう』……みたいな言葉遣いでー……」

「まだまだかなぁ」

「えぇー!?」

 

 そこは大した問題じゃあないと思う。

 昔誰かが言ってたっけな、憧れはナントカカントカで理解してるわけじゃないとか……なんかちょっと違うな。まあいいや。

 ともかく、今のテイオーは憧れの会長みたいになりたい、近づきたいという気持ちが先行してて、そこから抜け出せていないわけだ。

 

「わけわかんないよストライプ!」

「ふぉっふぉっふぉ……よく考えることじゃよテイオー……憧れは憧れのままでいいのか……校則……じゃなくてえーっとスクールモットーだっけ……を思い出して考えるのじゃよ……」

「もうグダグダだよ!」

 

 ふふふ……ぼくも途中からよくわかんなくなってきた……。

 と、不意に視線を感じた。どうやら会長からのもの……のようだ。

 なんだろう、と思いつつ視線を辿ると、ぼくとテイオーとの間を行ったり来たりしている。

 

(……そういうことかな?)

 

 視線でそれに返すと、会長は目に見えるかどうかという程度に小さく頷いて応えた。

 会長という立場上、言いたいことがあっても言えないこともあるだろう。テイオーに目をかけている会長だけど、目に見える形での贔屓は憚られる。

 応じるように、ぼくはテイオーに呼びかけた。

 

「ねえテイオー」

「何?」

「会長に勝ちたくない?」

「え、えぇっ!?」

「『唯一抜きん出て並ぶ者無し』――それは中央に所属するウマ娘みんなに言えることでしょ? ぼくは会長にだって勝ちたいよ」

 

 勝てるかどうかは別にして。

 会長だって負ける時は負ける。七冠の皇帝でも、無敵ではない。

 例えば菊花賞直後のジャパンカップで会長は体調を崩し3着に終わった。シニア級での秋天も2着だ。

 策を弄し最大限の努力を積み上げ運に恵まれれば……仮に一緒に走ることになったとしても、最初から負けるつもりで走るランナーなんていない。

 

「並ぶんじゃなくて追い越そうよ」

「ストライプ……」

 

 一度テイオーは会長の方を見た。

 そして一瞬困惑した表情を浮かべ、再度こちらを向く。

 

「……もしかしてさっきコレが言いたかったの!?」

「ふぉっふぉっふぉ……そうだね……」

 

 あと正直ちょっと茶化した方が言いやすいかなって……。

 時々無い? こう、真面目なこと言いそうになるけどちょっと恥ずかしくなって茶化そうとしたら、頭の中でこんがらがっちゃうの。

 特に今はアイス売りのおふざけモードだったから余計にさ……。

 あ、ちょっと今更意識して恥ずかしくなってきた。

 

 





・時々感想に出るので少し返答
Q.ピンクフェロモン
A.倫理的ウマ娘的に劇物すぎて落とし込みが思いつかないため登場させられません。今度は嘘じゃないっす。

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