今回短めです。
肝試しが苦手でも得意でもないというのは、少し語弊があるかもしれない。
より正確に言うと、ぼくは幽霊に対して大きな恐怖を抱いていない、ということだ。
なんというか自分も似たようなもんだと思うと若干親しみがある。あーだいぶ前までぼくもこんな感じだったわ、みたいな。ひとに危害を加えるタイプの悪霊は怖いけどさ。そっちはなんというか、うーん……犯罪者に対する現実的な恐怖、みたいな。普通幽霊に対して感じる言わば「わけのわからないもの」への恐怖というのは特に無いんだよね。だから、苦手じゃない。
一方、肝試しという趣旨からは完全に外れてしまうので得意と言うのはなんか違う。だから得意でもない。そんな感じ。
なので、森の中の整えられた道に入っても、ぼくもミークもぼんやり歩くだけだった。
「静か……」
「静かだねぇ」
サイレンススズカ先輩が今にも走り出しそうな静けさである。
もっともこの肝試し、かなり厳密にコース分けされているし、そうしないとかなりの数いる参加者全員をさばくことができない。迂闊にコースから外れて走り出したりなんかしたら遭難するそうなんだ(会長が実際に言っていた)。
だからそうそう衝動的に動きはしないだろうけど……。
(……いや、ターボはどうかな)
そこへ行くとターボはどうだろう。あれ。急に心配になってきた。
いつもどおりターボエンジン全開にして森を脱出するまでありうる。
……森に入っちゃった今のぼくにはどうしようもないので生徒会には頑張ってほしい。
森の奥へ進んでいくと、不意にミークがうまぴょい伝説を口ずさみ始めた。
何でいきなり? とは特に思わない。ミークだし。部屋でも時々何の前触れもなく突飛なことをしたりする。この前はぼくが持ってきた工芸品をフル装備してグレートハッピーミークになっていた。だだっだだー。
こういう時はノるに限る。二人分の小さなうまぴょいが森の中に響いていった。
……と、そんな時のこと。
「――――う……ー……しょ……び……」
「……?」
これまた唐突に声がした。ミークの声じゃない、けどか細い声だ。
すっと耳が前後左右に動き回る。やがて発生元を特定すると、その内容が明らかになった。
「…………皐月賞……ダービー……皐月賞……ダービー……一冠足りなぁいぃ……!」
「恨み言が高度過ぎるわ」
思わずツッコんでしまった。
多分その辺に仕込んであるスピーカーか何かだろうからこっちのツッコみは聞こえないだろうけど、世を儚んだ設定にしても二冠達成者は強すぎるわい。
G1自体出走できるウマ娘は限られるし、勝者は更に限られる。生涯に一度しか出走できないクラシックなんてそれはもう。
この皿屋敷ならぬ冠屋敷なんて趣向を考えたのは一体誰だ。いや怖いは怖いけども。三冠にリーチかけて取れなかったとか、重圧で胃も痛くなるだろうし……。
……いや、何で現実的な方向で怖くなってるんだよ。この方向性は違うんじゃないかな。
ともかく、この場はげんなりしながらも、とっとと離れることにした。
しばらく歩いていくと、道々になにやらおどろおどろしい飾り付けをされたマネキンなどが置いてあることが分かる。
学生主催とはいえ手が込んでるなぁ……あっちなんか日本人形風だ。誰がこういうの作ってるんだろ。
「……あ」
「おー」
ミークが声を上げたと思ったら、その先に何やら上半身だけが飛び出て蠢いている人影があった。
落ち武者風かぁ。こんなのもあるのか。でも動くって何? スピーカーとかモーター駆動とかそういう何かじゃなくって何コレ?
軽く手を合わせると、落ち武者は安心したような表情でスッと消滅した。
………………。
「何も見なかったことにしよっか」
「そうですね……」
まあ、中にはいるよねそういうのも。
成仏したなら良かったということにしとこう。
そこからは、何か変なものでも現れたらイヤだなぁと思い、ミークと一緒に持参した仮面を被って先に進んだ。
そうすると不思議なことに……と言うべきかは分からないけど、怪奇現象はぱったりと起きなくなった。
怪奇現象どころか生徒会側のおどろかしも無くなってしまったけど、何故だろう。
「――――ぁぁぁぁぁあああああ」
「んん?」
「?」
と、そんな折のこと。不意に向こうから何やら声が聞こえてきた。
他のコースでも盛大にやってるなぁ。そんな風に思っていると、どんどん声が近付いてくる。
ミークはあまり聞こえてないようだけど、そこはぼくの耳が大きいせいだろう。ロバの耳もシマウマの耳も長いものだ。
周囲によくよく耳を傾けてみると、届いてくる声はどうやらウオッカとスカーレットのもののようだ。しかも近付いてくる。
「うわああああああああああああ!!」
「きゃああああああああああああ!!」
「あ」
「やっぱりウオッカとスカーレットだ」
案の定、あの二人だった。
追ってきてるのは、白い死装束を身に着け作り物の包丁を掲げたマンハッタンカフェ先輩。驚かし役ということで今の今まですごい形相をしていたというのに、ぼくらを目にした途端にぎょっと驚きを顔に出していた。
……ウオッカとスカーレットも含め。
「ウワ――――――ッ!!」
「また出たああああああああああ!!」
「……あれっ」
「あー」
……今度はぼくらの姿を見た途端に驚いて叫びだして逃げてしまった。
一方、ミークは何やら気付いたように小さく声を上げていた。どうしたんだろう、とそちらを見ると、彼女はスッと自分の顔を指差す。
あー、仮面。
そりゃ暗がりの中、突然木彫りのマスク着けた二人組が現れたらビックリするよね。ぼくらは逃げていったウオッカたちを目で追いつつ、マスクを外すことにした。
「……お二人とも、その仮面は何なんでしょうか……?」
「ぼくの持参物です。すみません驚かせて」
「いえ……ただ、お友達が……ああ、外していただけたら問題はないのですが……」
お友達そこにいたのか。
どうやら今のぼくには霊感レベルが足りなくて見えないようだ。
仮面が何か影響を及ぼしたとなると悪いことをしてしまった。お友達も仮面もホンモノという証拠ではあるけど。
「そういえばカフェ先輩、ウオッカとスカーレットって、このコースじゃないですよね?」
「はい……コースを逸れかけていたので軌道修正を、と……」
「逸れてた……?」
「一本道ですよね?」
「ええ……おかしなことですが……たまにあるそうなので……」
「あるんだ……」
生徒会さん? これ本当に大丈夫なイベント? ちょっと開催地再考したほうがよくない?
ぼくらは大丈夫かもだけど、霊障とか起きたりしてない? お祓い行く?
「それでは、私は仕事がありますので、これで……」
「あ、はい。頑張ってください」
「ふぁいとー……」
お互いに軽く手を振り、ぼくらとカフェ先輩はその場で分かれることとなった。
驚かし役に選出されたらこういう仕事の割り振りもあるのか。大変だな……今後ぼくが選ばれるようなことが……ううん……絶対に無いとは言い切れないけど、生徒会から見たぼくってあんまり扱いやすいウマ娘でもないし、そういう役柄が回ってきそうにはない。はず。
その後、ぼくとミークは特に問題なくお札を取って戻ることができた。
戻って話を聞くと、ウオッカとスカーレットはスタート地点に戻ってきたと同時に気を失ったとかで、今は合宿所で寝ている。
一年生同士だったため、引率としてフクキタル先輩が帯同していた……らしいのだけど、そのフクキタル先輩はスタート地点に置き去りにされたのだという話も同時に耳にした。
……誤魔化さずに言葉にすると、これやっぱりフクキタル先輩の見た目をした何かが出たよね。こわ。
あっ、待ってこれ商機にできないかな。仮面レンタルの準備しとこ。