【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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きっとそのうち本題に入る

 

 

 BCターフの後、リムジン先輩が精密検査を受けたところ、大腿骨の関節部付近にヒビが入っていることが判明した。

 強すぎる力が悪影響を及ぼし、骨折にまで至る……というのは、例として分かりやすいものはテイオーのそれだろうか。「トウカイテイオー」はストライドを広く取る走法と力強い踏みつけのせいで、軽微な骨折が頻発した。ウマ娘としてのテイオーも同じような展開を辿る可能性が低くない。

 事情を知っているだけに、報せを受け取った時にはぞっとしたものだけど、意外なことに先輩たちはむしろホッとしている様子だった。

 どういうこっちゃと思って話を聞くと、ケンタッキーダービーの時はヒビとかそんな軽微なレベルではなく、完全骨折だったそうな。

 圧倒的に軽い症状に抑えた秘訣は、タキオン先輩が提唱し計画したプランCだ。曰く、自分の脚の脆さを改善するためのプランAと、他者を鍛えるためのプランBの折衷案なのだとか。

 

 ……とはいえ、骨にヒビが入ったことに変わりはないので、今シーズンいっぱいは休養。URAから出走の招待を受けていた有記念には(距離的不安があるから元から出るつもりは無いようだけど)出られないことにもなった。多分ドーナッツ先輩が思う存分かき乱してくれるだろう。

 さて、ともかく11月中旬。この日は選抜レースが行われることになっていた。

 今回はリギルのおハナさんが誰かチームに迎え入れるらしい、という噂で持ちきりだった。レースそのものにはあまり関係無いぼくの耳にも頻繁に聞こえてくるほどだ。多分、スズカ先輩の一件が影響しているんだろう……というのは、ぼくの中だけの秘密である。

 

「うーん、まあまあ売れたかな」

 

 さて、今日の商売は、肌寒くなってきたこともあって温かいものと冷たいもの両方のドリンクを用意してきた。

 売れ線は抹茶系。あと生徒からは、最近メニューに追加したタピオカを追加したドリンク。聖蹄祭の時のツテが早速活きたような形だ。

 しかし同時に、そろそろ見た目の物珍しさや安さだけでは売り切れないことも増えてきつつある。苦戦とまでは行かないけど……そろそろ大幅なクオリティアップも視野に入れるべきかもしれない。

 ただ、そうなると値段が上がることになるし……そもそも安い方の商品をオミットすればそれ目当ての客離れも進むし……うーん、やっぱり商売は奥が深い。そう思って店じまいをしようとしたそんな時のことだった。

 

「ハムッ、ハフハフッ、ハグッ!」

「…………」

 

 屋台の前に、持参した椅子に座って何やら麻婆豆腐をかっこんでいる芦毛のウマ娘がいる。

 何で今? どうしてここで? いやそもそもあんたぼくと知り合いでもないよね?

 そういう諸々の疑問を解消する理由は一つ。

 ――彼女がゴールドシップだからである。

 ぼくは頭に湧いた色んな考えをそのまま投げ捨てた。

 商品の余りをシェイクしてコップに移してシュッと滑らせ渡す。

 

「あちらのお客様からです」

「おう、気が利くじゃねえか!」

 

 ちなみにあちらと言って示した先にお客様はいない。実際にいるのは知らない黒鹿毛のウマ娘だった。突然何とも形容し難い小芝居に巻き込まれたおかげで相当ビックリしたようで、明らかに顔がひきつっていた。

 

「……なあスカーレット、何でストライプのやつあんな普通に対応できてんだ?」

「アタシに聞かないでよ……」

 

 ふと見ると、視界の隅で木に隠れた状態でウオッカとスカーレットがこちらを観察していた。

 ははーん。スピカ絡みの何かだな?

 

「ところで大将、ここにスシは置いてねえのかい?」

「あるよ」

「「あるんだ……」」

「はい芽ネギ寿司」

「おうコレコレ!」

「「それでいいんだ……」」

 

 なぜこんなところに寿司があるのか?

 そもそもぼくはこんなものを持ってきていたのか?

 いったい何を目的にこんなことを?

 そんなものは分からない。多分ぼくはもう既に聖芦毛領域(ゴルシワールド)とかそんなのに取り込まれているんだと思う。

 きっとそのうち本題に入るだろうから流れに身を任せよう。

 

「ところで大将、二時間後は空いてんのかい?」

「空いてござんす」

「じゃ、その頃にまた来るぜ」

「へえ」

 

 そう言い残すと、ゴルシパイセンは持参した皿を持ってそのままどこかへ行ってしまった。

 後を追うようにしてスカーレットとウオッカもこちらのことを何度か気にしながら去っていく。

 ……………………。

 

「何だったんだろう……」

 

 彼女が立ち去って我に返ったぼくは、結局何をしたかったのか測りかねその場にしばらく立ち尽くすのだった。

 

 それからちょうど二時間後、夕日の差すトレーニングコースに、突如としてその芦毛(ゴルシ)は姿を現した。

 

「あァ?」

「ゴルシさん……?」

 

 まるでターミネーターが溶鉱炉に親指立てながら沈んでいく逆再生を見ているかのような登場だった。アングル的な意味でも筋力的な意味でもどうやってあれを再現したんだろう。

 再現が終わってトゥッ、とばかりに着地した彼女は、当惑する先輩たちをよそに途轍もない速度で迫ってくるや、そのままぼくの体を抱え上げてしまった。

 

「ゴルシさん? と、突然何を?」

「ちょっと借りていくぜー」

「えっ」

「えっ、ちょ、おいゴルシ! おーい!」

 

 一瞬の凶行であった。

 ぼくはシードリングカップに向けて長距離の経験が豊富なフラッシュ先輩とシャカール先輩からコツを教わっているところだったのだけど、トレーナーさんたちはちょうどスナイパー先輩とスカイ先輩のデビューに向けてつきっきりになっている状態だ。サブトレさんたちが何か言う前にぼくはそのまま攫われてしまった。

 ……年齢も近いっぽいので、普段の素行も知っているのだろう。シャカール先輩もフラッシュ先輩も、まあゴルシ(さん)だし、という空気になっていたのが不幸中の幸いか。それはそれとして後でトレーナーさんから苦情が行きそうなのは否めない。

 

「突然酷いじゃないですか」

「悪い悪い、でも二時間後空いてるかって言ったろ?」

 

 あれそういう意味かよ。

 

「はじめましてでいいんですかゴルシ先輩」

「話を聞いてて初対面って感じがしねえからはじめましてじゃなくていいんじゃね?」

 

 なんつー突飛な発想だ。

 いや平常運転か。

 

「ぼくも色んな噂を聞いてたので初対面という気はあんまりしません」

「だろ?」

「それで話を聞いてたというのは?」

「ウオッカとスカーレットに『オマエらの知り合いで一番変なヤツって誰?』って聞いたら」

「だいたいわかりました」

 

 変なやつ……変なやつか……まあ否定できないしいいか……。

 

「で、どういったご用ですか?」

「なんかスピカ(うち)のトレーナーが有望なチーム加入者がいるから連れてきてくれって言ってよ、その手伝い頼めそうなヤツ探してたんだ」

「へー……え」

 

 マジ?

 ……いやいや、ちょっと待とう。スピカだからと言っても、もしかしたらぼくが思ってるのと違うひとかもしれないし。

 ぼくが知ってる範囲で言うと、アニメだとスカイ先輩は個人のトレーナーに指導を受けてたはずだから、チームの構成が違うことだって十分あり得るんだよ。

 

「どんなひとです?」

「こいつ」

 

 と、ゴルシ先輩が差し出してきた写真に映し出されていたのは、黒鹿毛に綺麗な流星を持ったウマ娘……。

 

 ――スペ先輩やんけ。

 

 いやこのひと編入してきたばっかりだよね? 8月の選抜レースは出てないから今日のレースが初めてで……え、マジ?

 

「スペ先輩……?」

「おっ、知ってんのか。なら話は早いな! じゃ、ちょっとついてきてくれ!」

「ついてくも何も抱えられとるんですが」

「へへっ」

 

 ともかく、そんな風に連れてこられたのはチームスピカの部室だった。

 ウオッカとスカーレットもいたのだけど、案の定、ぼくが来たことについては相当動揺しているようだった。いやチームの関係者じゃないよね? という感情がアリアリと見て取れた。

 

「で、このスペシャルウィークってウマ娘を連れてくるわけだが」

「ストライプ無関係よね!?」

「まあいいじゃない」

「何でお前が一番落ち着いてんだよ!?」

「時には流れに身を任せることも大事なんだよー」

 

 激流に身を任せ同化する的なサムシングである。

 二度目の学生を経験することになったから分かるけど、特に学生はこういうノリが大事だ。

 社会人になるとそうも言ってられなくなることが多くなるからね……。

 

「で、どうやって連れてくるんです? ゴルシ先輩」

「こういうマスク着けて……こういうサングラス着けて……こういう麻袋に詰め込んで」

「拉致じゃないですか!!」

「いいのかよそんなことして……」

「そんな不謹慎なこと……やろうぜ!」

「オマエならそう言うと思ってたわ」

 

 いやね。正直あのスピカ特有の悪ノリ、ちょっと混ざりたかったんだよね。

 いや、だってホラ、今後のこと考えたらウオッカとスカーレットだけじゃなくてテイオーとマックイーンもスピカ入りする可能性が高いんだよね? ターボもネイチャもカノープスだし。ぼくチームだと同級生いなくて一人だし。先輩方は皆優しいけどさ。やっぱりちょっと寂しいじゃん。

 

「いや、これいいのか……?」

「トレーナーも『入る』って言ってるし、いいんじゃないかしら」

「多少強引に行った方がいいよ。ぼくはそれでチーム入ったし」

「オマエどんな勧誘受けたの?」

「ニンジャが突然部屋の前に……」

面白(おもしれ)ぇーやつ……」

 

 というわけで、そういうことになった。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 夕焼けに照らされた正門前の道をトボトボと歩くウマ娘の姿がある。スペシャルウィーク先輩その人である。

 今回の選抜レースはチームリギルの入部テストも兼ねられており、成績優秀者には優先しておハナさんから声がかかることになっていた。サイレンススズカ先輩に憧れているスペ先輩は、彼女が所属していると聞くリギルへの加入を熱望していたのだが、結局今回のレースでは出遅れが響いて二着。おハナさんが声をかけたのはエル先輩だった。……ということで項垂れているのだろう。

 ふと、スペ先輩の顔が正面にある看板に向けられた。チームスピカの部員募集看板である。そこには犬神家よろしく三人のウマ娘がダートに埋められている写真が収められていた。即座にドン引きしたのが見て取れる。

 

「あれどう撮ったんです?」

 

 ウマ娘第一主義のトレーナーさんが承諾すると思えないけど。

 

「ナカヤマに頼んだ」

「ああ……」

 

 ナカヤマフェスタ先輩か。あのひとはなんというか、ウマソウルの関係性*1のおかげかゴルシ先輩にある程度まで対応できる稀有な方だ。ドン引きしながらか、それともノリノリになったか……まあ、いずれにしろ撮ったことには変わりないだろう。面倒見は良い方だろうし。

 見ると、再びスペ先輩は項垂れてため息をつきながら歩き始めた。ゴルシ先輩は即座に前に立ちはだかり、胸でスペ先輩を受け止める。直後、誰かにぶつかってしまったと感じ取ったスペ先輩が咄嗟に謝ろうと顔を上げるが、サングラスにマスクという明らかな不審者ルックを目にしてその場で固まった。

 

「………………え?」

「スカーレット! ウオッカ! ストライプ! やぁっておしまい!」

「あ……あの、名前言ったら変装の意……ストライプさん!? っぷえぇ!?」

「はろはろー。スペ先輩確保ー」

「「「えっほ、えっほ、えっほ」」」

 

 ……というわけで、スペ先輩の確保には成功。

 ぼくは元からスカイ先輩経由で知り合いだったので見事に即バレしたがそこはまあ別に構わないというか大した問題ではない。

 皆でえっほえっほと身柄を運び数十秒、チーム部室に放り込んで麻袋を取って挨拶と相成った。

 

「「「「ようこそ、チームスピカへー」」」」

「おい一人部外者がいるぞ」

「へへぇ」

「俺たちの友達だし大目に見てくれよトレーナー」

「いや親爺(おやっ)さんのトコの子だぞ……情報抜かれちゃ敵わないんだが」

「抜かれて困る情報自体無いじゃねーか」

「うぐ……」

 

 うん……まあ、そこなんだよね。そもそも活動実績そのものが無いのでぼくが抜く情報も何もあったものじゃない。利害云々以前の問題だ。

 なので、今回のぼくはただスカーレットとウオッカの友人として、あとぶっちゃけノリで来たんで気にしないでほしい。

 あと、情報と言うならそもそも頭角を現したら勝手に集まってくる。スペ先輩が編入直後でチームに加入するという話題性もあるから、データ収集そのものはむしろ順調になりそうだしね。

 

「と、というか私! 入るとはひとことも言ってませんよ!? 勝手に決めないでくださいよ!」

「勝手に決める。お前は俺が磨く」

「言い方変態っぽくない?」

「だな」

「よね」

「お前らなあ……」

「まずメリットを提示してはいかがですか? あんまり強引なやり方だとウマ娘とトレーナーとしての信頼関係の構築に影響が出ますよ」

「それ強引に連れてきた私達の言っていいセリフ?」

「えへっ」

 

 都合の悪いことは忘れよ。時に人は自分のことを棚に上げてでも他人にものを教えるということが必要なのだ。

 まあ今はそういうタイミングには該当しないけど。

 

 

*1
両者共にステイゴールド産駒

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