【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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貧弱な外見の子供

 

 

 12月中旬。多くのひとが有記念や東京大賞典、朝日杯やホープフルステークスなどの年末のG1に注目を向ける中スナイパー=サンのメイクデビューの日が訪れた。

 中山レース場芝1600。天気は晴れ。バ場状態も良好。

 ――結論から言うとこのレース、スナイパー=サンは勝利した。

 

「普通に勝ったな」

「普通に勝ちましたね」

「普通に勝ったか」

 

 ……すごく普通に勝利した。

 なんというか、リムジン先輩やドーナッツ先輩と比べるとあまりにも普通というか特筆すべきところが無いというか……普通に先行型のレース運びして、能力差で押し切るとかそんな感じ。

 ただ、トレーナーさんたちはうんうんと頷いてこの結果に満足しているようだった。

 

「ンだよ、トレーナーたちは満足そうだな。もっと派手にやってビビらせばいいのに」

「余計なデータは取られんに越したことはない。小技に頼る必要が無いならそれが一番だろう」

「普通に勝てるなら普通に勝つことが一番ですよ」

 

 だそうな。

 まあ言っていることは分かる。手の内を無闇に晒す必要は無いというのもあるし、技術に頼る必要が無いほど実力差があったということでもある。ぼくとしてはまさか分身の術とか隠れ身の術とか、何なら変装とか目くらましとかし始めやしないかとちょっと内心ハラハラしてたものだけど。

 そのことについて後日告げると、「ルールに定められていないからと言って何をしてもいいわけでもなかろう」というド正論を言われた。ふだんからサボり癖のあるひとなだけに、こういうまっとうなことを言われるとちょっと悔しいという思いはあるが、やっぱりウマ娘として自分の脚と体一つで使える技術だけで勝ちたいという思いが強いのだろう、と少し見直した。

 この先何か、特殊なことをやるとしたら大舞台で……実力が拮抗している相手を前にした時、ということになるだろう。

 

 さて、そんな風に割合呆気なく終わったスナイパー=サンのメイクデビューだったけど、ぼくの出走するシードリングカップ、そしてスカイ先輩のメイクデビューは間近に迫っている。

 この日からしばらく、トレーニングは更に厳しくなっていった。年末の有記念の後、チームメンバーのほとんどが一度帰省するためぼくは寮に一人残されることになるが、そこはまあ……ぼくも中身の年齢が年齢だけに割り切りはできている。

 ……と、考えていると、突然部屋にキング先輩が乗り込んで来て年末年始を過ごすことになったりしたのだが、それはまた別の話である。

 ぼくは別に実家との折り合いが悪いわけじゃなくて単に里帰りする暇と金が無いだけなのだけど、そこは無理に指摘することは無かった。ひとと一緒に過ごすのは楽しいし、水を差すような真似はできない。

 

 ともかく、適度なトレーニングと適度な息抜きを経て、現状できる範囲で体を絞り込んで迎えた1月上旬。スカイ先輩たちがメイクデビューを迎えているその裏で、ぼくらのレースもまた始まろうとしていた。

 

『――2枠4番サバンナストライプ。9番人気です』

「とーぅ」

 

 やってきたのはパドックの上。ジュニア級未満とはいえレースはレースだ。形式もそれに則ったものになる。選抜レース以外では珍しい、デビュー前のウマ娘を公的に見ることができる数少ない機会だ。観客の数もそれなりのものだった。

 パドックでのウマ娘紹介、先輩方の事例に倣って上着を脱ぎ捨てて体操服姿で前に出る。気の抜けた声が出るのは緊張を紛らわすためだ。特に意味があるわけではない。

 

「貧相」

「ちっちゃ」

「しょぼ」

「ちんちくりん」

 

 なお反応は最悪であった。

 や。まあ分かってたけどね。人気順で見ても下位だし。いくらチームとしてのネームバリューがあるとはいえ、ぼく単体で見たら仰る通りの貧弱な外見の子供だ。観客全体を見た時、関係者の割合は非常に低い。ほとんどは一般客であり、裏事情を知っているのはごくわずかだろう。

 

「ありゃ相当仕上げてんな……」

 

 ……その裏事情を知っている関係者で、オマケに一目見るだけでほとんどの状態を看破してくるひとがいるのは幸か不幸か。

 いや、やっぱ不幸か。油断してくれやしない。同じチームなら心強いんだろうけど、今は完全に真逆。過小評価はしてくれそうにないか。ブラフを多用するぼくにとっては天敵と言えるかもしれない。

 

「ですね……!」

「いやスペ分かってねぇだろ」

「実際仕上がってるとか仕上がってないってどういう基準で見てんだよトレーナー?」

「総合的な肉の付き具合が……」

「あァ?」

「そういう意味じゃないっての! 睨むなゴルシ!」

 

 仕上がりというのは、どれだけ無駄な肉を落として引き締められたかを示す基準になる。ステイヤーの場合は特にこれが重要で、スタミナを持続させることと体を軽くして瞬発力を確保すること、その両者が高いバランスで整っていないとレースで結果を残すことはできない。

 どれだけ贅肉を落とすかがどれほど重要かと言うと、前世で「スペシャルウィーク」の敗因の多くが太め残り*1だったと言われてたくらい重要だ。ちなみにマックイーンも太りやすい体質なので日々何かしら我慢している姿が見られる。

 

「ふふ、いかがですかうちの期待の新人は」

「げ」

「あんた、ベテルギウスの……」

「サブトレーナーです」

「どもっす、サブトレさん」

「あ、こ、こんにちは。はじめましてですよね?」

「はい、はじめまして。ゴールドシップ。逃げないように」

「ゴールドシップさん!?」

 

 ふと横目で見ると、唯一こっちの様子を見に来ていたサブトレさんがスピカに合流していた。

 あと無敵のゴルシちゃんが押し負けている。珍しいこともあるものである。

 

「期待の新人、ね……」

「私は三冠の素質があると見込んでいますよ」

「それはまた大きく出たもんだ」

 

 本当だよ。

 三冠は流石にちょっと……こう……チョロッと菊花賞あたりを掠め取っていくくらいならまだ考えられなくもないけども……。

 ……もうちょっと話を聞いていたいけど、いつまでも出ずっぱりというのはパドックの性質上良くない。ぼくは上着を取ってそそくさと裏手に戻った。

 

 それからしばらくは他のウマ娘の紹介を裏手で聞きながら対策を考える。

 スカーレットは当然のこと、ここにわざわざ出てきているということは、他のウマ娘も相応の実力を持っている。名前を知っているのは少ないけど――。

 

『6枠11番アイネスフウジン、2番人気です』

 

 ――いや、今まさにいた。

 アイネスフウジン。ぼくの知る中でも相当な実力を持った逃げウマ娘だ。また逃げだよ。もう堪忍して。嫌になりそうな気持ちを抑え込むように、ぼくはジャージの上着をフードのようにして頭に被った。

 ……能力としては、スピードとスタミナその双方を兼ね備えた理想的なタイプ。プライベートでも同じバイト戦士として時折会話をする程度の親交は持っている。

 その上、現在既に高等部なので体の方はほぼ出来上がってると見ていい。現時点で比較すれば、恐らくスカーレットと同等以上……。

 

(勝ち筋が浮かばねえ~……)

 

 以前一度示した通り、ぼくの天敵は逃げだ。前の方で競り合いになったら最高速の差で押し込まれてまず負ける。

 今回はよりにもよって稀代の逃げウマ娘になりうる素質を持った二人が相手だ。半端にロングスパートをかけたところでゴールまで間に合いそうにないし……となると、奇策でも珍策でも何でも使ってくしか無い。

 

「できたらもっと油断してくれるといいんだけど」

 

 無理か。無理だな。

 そんなことをぼやきながら、コースに向かって地下道を進んでいった。

 

 

*1
ベストな体重よりもちょっと重いこと






 アンケートへのご協力ありがとうございました。今回をもって締め切りとさせていただきます。ライアンとアイネスが及びマックイーンがストライプの同期ということになりました。
 今回のお話への絡みになりますが、ライアンはメジロ家ですので「ジュニア級未満で注目度の高いウマ娘が出走できる」という原作設定のスプラウト記念に出走している可能性が高いため、こちらには登場しておりません。いずれ登場はします。

ストライプのデビューと同時期にアイネスフウジンとメジロライアンがデビューして……

  • いる(史実90年クラシックメイン)
  • いない(史実90年を中心に時代混ぜこぜ)
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