カレンチャンに珍妙なシマシマの踊りを拡散されてしまった。
副題は「ペガサスフォーメーション」。耳がピコピコ羽ばたくように動いているのでそう名付けられた。名付けられてしまった。そして界隈最高峰のインフルエンサーの拡散力は伊達ではなく、その日のうちに万を超えるウマいねがつくことになった。
同時に各SNSに作っていたぼくのアカウントのフォロワーも爆発的に増加し、分不相応な扱いにぼくの精神はしめやかに爆散した。
おおサンコンよ、変なところで起きるのですねあんた。
で。
「ねーねートラちゃん、あんな風に大きく耳ぴこぴこするのってどうやるの?」
「ぼくわかんないよ……」
――後日。
女子中高生が大半を占める上に新しいもの好き祭り好きの多いトレセン学園。特にぼくたちのクラスでは、例の動画が何やら変なブームになってしまっていた。
……いや、時によっては皆自然に耳ぴこぴこさせてるよね? ぼくのは耳が大きい分その振れ幅と可動範囲が大きいだけで……どうやってるもなにも、自然にこうなってしまったとしか言いようがないんだけど。
ぼくは机に伏せていた顔を上げた。
机の上には今度の聖蹄祭に向けての資料が広がっている。対面しているのはマヤノとテイオーとカレンだ。うっカワイイ。
「みんなやろうとすればできるもの……ていうか、勝手になるものじゃない……?」
「あのねストライプちゃん、お耳は前後には動くけどあんな風にぱっさぱっさ翼みたいには動かないの」
「現にできてるんだけど」
「本当にどうやってるの?」
ぱたぱたして見せるのをやめて考えてみる。どうって…………どうやってるんだろう……。
あれ? もしかしてこれぼく理論的にどうやってるか説明できない? マジか……。
「ダンスにその動きが取り入れられたらもーっとカワイくできるかなって思ったんだけど」
「やめたほうがいいよ。制御できない……」
「……結構自由にやってると思うんだけど」
「緊張感とか色んな感情が混じり合って勝手になってる部分の方が強いのコレ」
尻尾のそれと同じだ。いや、ある程度任意に動かせる尻尾と比べるとなお酷いかもしれない。
クラスメイトやチームメイトの前では今までほぼ出てなかったことを考えると、今後どんどん舞台が大きくなるにつれてこのクセも強まるだろう。少なくとも出なくなることはありえない。
「この話はもうやめよう。マネしてできることでもなければコントロールもできないんだから」
「今マヤたち耳の動きの話をしてるよね?」
「そうだよ」
口ぶりは何やら走りに関する高等技術についてのようだが、別にそんなことは全く無い。
しかしぼくの特徴こんなんばっかりか。もうちょっとレース向きの特徴持てない?
……さて。
「……でさ、そろそろ本題に戻らない? 本当にやるの? ミニライブ」
「もちろん!」
発端は、次の聖蹄祭に向けて何をするか、という話だった。
去年のぼくたちは一年生だったので、お祭りに参加はしてもお店を出したりは――チームに所属しているなどの例外を除き――していなかった。
今年こそ何か出し物をやろう! とは皆思っていたようなのだけど、流石にいきなり飲食店なんかはどうだろう、ということで展示物の発表という形式になった。そこまでは良かった。しかしそこでふと、何の気無しにレッちゃんがぽつりとこぼした言葉がクラスの皆に火を付けた。
曰く――「ちょっと地味だね」。
……いや、見た目自体は結構華やかなんだよね。お題目は「勝負服の歴史」だから、色んな服を飾れるし、ぼくら自身先輩方にツテを持ってるから、例えばサイズが合わなくなった勝負服などを借りてきたり、服飾に興味のある子が似たようなのを自作してきたりと、展示そのものはきらびやかなものになるだろう。ちょっと多めに警備置く必要はあるけど。
十分展示として見栄えはする。が――これ、完成すると生徒がやることは無くなってしまう。そういう意味で「地味」=やることが無い、と言ってしまったわけだ。
皆はハジけた。
勝負服関係の展示をしてるんだからこれを逃す手はない! とばかりに超速で教室内ミニライブの話が立ち上がり、裏でコソコソ色んなことをやってるシマシマが服飾担当ウマ娘に捕獲された。
ぼくに限った話じゃないが、この時期それなりにメイクデビューに出走している子はいるし、レースなので当然勝ってる子もいる。賞金も出る。奨学金の返済に大半を使ったぼくとは違ってそれなりに懐に余裕のある子もいるため、伝手を最大限に利用されてあちこちの店で勝負服を模したコスを発注させられた。
……しかし、縫製しっかりしてるし、変なことに使いませんよとURAの許諾を取っているだけあって、これが結構なお値段になる。
使い回しがきかないものではないから、来年以降同じような企画をしようというクラスがあるなら、その役には立つだろうけど……皆の金銭感覚が今から心配だ。
「ふわ……」
「あれ、どうしたのストライプ。寝不足?」
「ちょっとね……」
「それとももしかして気乗りしない?」
「んー、いや、そういうわけじゃないけど」
小さくあくびをしたのを見られたせいか、そんなことを口々に聞いてくる。そんなことは無い。これも伝手作りには役立つし、今後のためにはなる。
「でも最近色々なことありすぎてキャパオーバーかも」
ただ、他にも色々とやることがありすぎる。
芙蓉ステークスに向けてのトレーニングもあるし、日々バージョンアップしていかないといけない屋台の品の件もある。個人輸入販売についてもぽつぽつお客さんが増え始めてるし……これに加えて、チームの出店の仕入れ管理とメニュー開発、クラスのミニライブの衣装発注からマネジメント*1までとなるとちょっと忙しすぎた。
まだ聖蹄祭までの準備期間限定でこれだけ忙しくなってるだけだから、時間と共に問題も解決していくだろうけど……本格的に起業したら絶対にこれ以上に忙しくなるんだよなぁ。
人を雇って業務を委託する必要が、こんなにも早く出てくるとは。業務の質を上げるペースがそれだけ早いと喜ぶべきか、これで手一杯になりつつある自分のキャパ不足を嘆くべきか……。
「トラちゃんって色々やってるけど、いつもどれだけ寝てるの?」
「昨日はよ……お……6時間」
「今4時間って言いかけたよね!?」
「言いかけた!」
「ダメだよストライプちゃん、
「そっちの問題?」
アスリートとしてとかではないんだ……いやどっちもだろうな。カレンチャンだし。カワイイの求道者だし。レースで勝つこともカワイイの一環だろう。きっと。たぶん。
「大丈夫。すぐもとに戻るよ。昨日はケニアに電話してたから短くなっただけだし」
「パパとママに?」
「うん。あと知り合いの職人さんとシャーマンに」
「んんん?」
「出た……ストライプの変な人脈……」
日本とケニアの時差はおよそ6時間。深夜に連絡するとちょうど夕方の仕事終わりにあたるので話しやすいし、つい次の輸入雑貨の件で話し込んでしまったというのもある。
……あとこれは単純な種族差の話なんだけど、ショートスリーパーなんだよね。シマウマ娘。
一般的に馬は一日3時間ほどの睡眠を取るというけど、シマウマは1時間*2しか眠らない。被食者ゆえの睡眠時間の短さと言えるだろうけど、そのあたりの特徴がちょっと出ちゃったのかなと思わないでもない。
「そんな調子で次のレース大丈夫~?」
「あうあう」
両手で脇腹をつつかれるが、そういう懸念は抱いて当然だと思う。
勝つ見込みは、勿論ある。無ければそもそも出走しない。勿論こんなこと口にするわけにはいかないので……。
「頑張りまする」
「大丈夫~?」
「あうあうあうあう」
脇腹をつつく指が増えた。