【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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勝負服を考えよう

 

 

 ジュニア級OP戦、芙蓉ステークス。この時期に行われるのは珍しい2000mの中距離戦だが、それ故にこのレースには三冠路線を目指すウマ娘が多く集う。

 中山レース場、右回り2000m――この条件は皐月賞のそれと同じだ。叩き台としてはもってこいで、直前に行われる弥生賞ほどではないにしても、ウマ娘にとって2000という距離が「長い」か「短い」か、はたまたピッタリと合うかを判断する試金石になりうる。

 

(まあ全員崩したから指標にはできないだろうけど)

『3人なだれこむようにゴォォール!! 1着は半バ身差でサバンナストライプ!』

 

 今日のぼくは、追い込みに近い位置から前に出たり出なかったりあえて姿を見せたり見せなかったりしてつつき回し、後方のペースを徹底的に乱す作戦を取った。

 2000mは一般的に中距離だが、未だジュニア級のウマ娘にとっては紛れもなく最長距離のレース。本番でのペース配分を掴みきれず、レース展開そのものがスロー気味になってしまうというのは割とある。ただでさえこの時期無理するわけにはいかないというのもあるし。そして今回のレースもそういった傾向があった。

 今日、先行してペースを作っていたのは慎重なウマ娘だった。そのため2000mにしてはやや展開が遅くなる……はずだった。

 そこで、ぼくは差しウマ娘の子を後ろからつつき回して前に押し出すことにした。そうすると、中盤に入る前に先行策を取っていたウマ娘に追いついてしまうという珍事が起きる。

 溜めて溜めて切れ味を発揮するタイプのウマ娘がこうも前に出てしまうと、どうしても消耗が激しくなる。対して先行していたウマ娘からすると、ここで本来中団以降にいるはずの子の姿が見えてしまって「あれ!? もしかしてペース遅かった!?」と一瞬なりとも焦りを感じてしまう。

 そのあたりでマークする相手を先行していた子に移し替え、これもまたつつき回す。更にここからロングスパートをかけ始めると、自然とつられて全体のペースが早まる。こうなってしまうと最終直線での「競り合い」ではなく、誰が一番最初に脱落するかというスタミナ勝負の潰し合いに持ち込める。

 あとは全員バテバテになったところに高低差2.2mの急坂をぶつけて仕上げだ。

 差がまるでついてないのは仕様だ。

 

『白熱したレースでしたね。今日一着のサバンナストライプはメイクデビューに続けて二連勝となりましたが、いかがでしょう?』

『危うい勝ち方でしたねぇ。もう少し走りにも安定感があると良いのですが』

『今後に期待というところですね』

 

 知ってた。

 実況の評価を適当に聞き流すが納得しか無い。危なげしかないからね、実際。

 見たまえこの上がり3ハロン36秒8の末脚を。なまくら通り越してただの鈍器だ。

 中団につけてとか先頭目指してとかそういうセオリーからも外れてるので、一見フラフラした安定しない走りなのもわかる。

 ある意味これはこれで目論見通りの評価なので構わないとしておこう。

 

 なお、本日のウイニングライブでも相変わらず耳は動いていた。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 さて、芙蓉ステークスとウイニングライブを終えて、その日の打ち上げでのことだ。

 本日の参加者は芙蓉ステークス参加者当の本人であるところのぼく、トレーナーさん、サブトレさん、あと寿司と聞いて迷わず駆けつけたスナイパー=サンとサブトレさんと何やら実験していたらしいタキオン先輩だ。サブトレさんの肌が銀色に光っている。

 そしてまたしても都内の回転寿司屋に訪れて注文待ちをしていたところ、まずトレーナーさんから一言が告げられた。

 

「煽り運転のような走り方だな……」

「スゴイナラズモノ」

「ひどない?」

 

 そして寸評がコレである。脚質「煽り」が爆誕した瞬間だった。

 せめて差しとか追い込みとか既存の概念に納めてほしかった。

 

「目的がどうあれ相手を速く走らせようとするのはたしかに『煽っている』と言われても仕方がないね、くくっ」

「ううっ、単純に人聞きが悪い……」

 

 煽り。

 もちろん運転としては良くない、というか犯罪だし、そうじゃない界隈でも良いイメージを持たれる言葉じゃない。およそマナーの悪い行動の代名詞と言っていい。

 ぼく個人は変人であってもレースや対戦相手には紳士的(今の性別的には淑女的?)に接したいと思っているというのに……字面一つでまるでぼくが人が苦しんでるのを喜ぶ系の悪党のようじゃないか。せめて「翻弄」とか「揺さぶり」とかにならないかな……。

 

「呼び方は今は置いておきなさい。それよりも先に今後の話をしなければならん」

 

 トレーナーさんが指先で軽く机を叩いたことで現実に引き戻される。

 今後、次……となると、11月の京都ジュニアステークス。この場にいるスナイパー=サンは秋華賞に出るからそっちにも言及することになるかな。

 

「スナイパーはそろそろ絞っていった方がいいでしょうね。食事量は控えた方がいいかもしれません」

「えっ……す、スシ……」

「……まあ祝勝会の間くらいはいいでしょう」

 

 そのままスナイパー=サンはグッとガッツポーズをして見せた。

 そんなに嬉しいのか……いや、ぼくも嬉しくないとは言わないけど。思えばこのチーム、祝勝会毎回寿司だな。

 メイクデビューとOP戦だとその辺の100円回転寿司。G3やG2だとグレードアップして均一じゃない回転寿司。G1だと回らない方のお寿司。

 ……ギンシャリボーイを輩出したチームとして何かしらこう、意地があったりするんだろうか。あとトレーナーさん還暦近いから焼き肉とかの重そうなものダメっぽいし。

 ちなみにこのチーム、スイーツ類はあまり求めない。フラッシュ先輩がたまに趣味で作ったものを持ってくるし、ぼくがしょっちゅう屋台のための試作品を持ってくるせいだ。

 まあそれは置いといて。

 

「ドーナッツは秋の天皇賞があるが……」

「彼女はそこまで制限しなくてもいいだろうねぇ」

「むしろ安定感が欲しいところですからね。ここから秋三冠の過酷なローテーションですから」

 

 ……秋の天皇賞、か。

 いや、なにも必ず「そう」なると限らないんだ。不確定要素も相当多いし……。

 

「ストライプ。ストライプ?」

Ndiyo(はい)

「なんて?」

「すみません」

 

 つい上の空になってしまった。反省。

 

「何か企んどってもいいが話は聞きなさい」

「なんで企んでる前提なんです?」

「日頃の行いだねぇ……」

「この時期に2勝となれば必ず有力ウマ娘のひとりとして数えられることになるはずだ。参加レースへの注目も高まってくる。G1への出走も、既に不可能ではない」

「――なので、そろそろ勝負服を考えないといけませんよ」

「はぁ」

「……気のない返事だな」

 

 勝負服。それはレースに携わるウマ娘にとってはある種の勲章であり、誇りの象徴だ。

 G1に出走できるウマ娘がまず限られているため、「勝負服に袖を通せる」というだけでまずたいへんな栄誉と言える。なので、勝負服を考えよう、なんて言われた日には大喜びする子も少なくないのだけど……。

 一方のぼくは、内心まだ気が早いんじゃないかと感じていた。

 もう2勝と言うが、まだ2勝だ。弥生賞などの前哨戦で勝ったわけでもないし、ここからの勝ち数によっては皐月賞を逃すこともありうる。

 加えて現状、既にホープフルステークスへの出走は見送ることを決定しているので袖を通すことになるのも最速で半年後……それまで気持ちが保てるか、というところだ。

 

「時期尚早だと思うんですよね。ここから調子落とすようなひとも少なくないですよ」

「あなたやることが大胆な割に変なところで慎重ですね……」

「行動に移る前に計画は立ててますから」

 

 時々行きあたりばったりだしイレギュラーも多々あるけど。

 

「半年もあればもうちょっと成長するかもですし」

「いや、残念ながらもう(身長は)止まるよ。春先になっても、まあ、伸びても誤差というところだろうねぇ……」

「はうっ」

 

 なんてこった! よりにもよってウマ娘の体に一番詳しいだろうタキオン先輩にここまで言われてしまった!

 あ、もうちょっと伸びたらマヤノと視線が並びそうだなぁ。もしかするとシマウマ娘の成長限界150cmが見えてくるかなぁなんて淡い期待を抱いていたのに!

 

「というかデザイナーはもう呼んどる」

「うぇっ!?」

「利紗の言う通り、お前はいらんところで変な気を遣って遠慮するからここは強引にやらせてもらう。それでなくとも、勝負服は発注から到着までに時間がかかるものだからな」

「先方も理解はしていらっしゃいますが、それでもデザインと手足の動きが干渉することもありますからね。何か問題があれば作り直しもありえます。分かりますね?」

「了解です」

「オヌシ毎度物分りが良いな」

「悪いことじゃないんですけどもうちょっと自分の意見を通そうとしてもいいんですよ?」

「プロの言葉は全面的に尊重するのがぼくの意見です」

 

 一応、ぼくの考えとしては「素人考えで下手なことはしない」という点で一貫しているつもりだ。

 あ、プロと言えば今の所ぼくがやってることって基本的に素人料理だな。今度時間ができたら調理師免許……は無理だけど、せめてプロの料理人雇ったりしよう。うん。

 

 

 ――という話をしたすぐ翌日。呼ばれてチームの部室に行くと、そこには既にデザイナーの方が準備していた。

 

「早すぎやしませんか」

「善は急げと言いますでしょう?」

 

 サブトレさんぼくのことスカウトしに来たときもそんなノリだったなそういえば。

 驚くのはそこそこにしておいて一礼。改めて見ると、デザイナーの方はウマ娘のようだった。

 思えば結構いるな、勝負服デザイナーのウマ娘。引退してもレースの業界に携わりたいという思いのひとが多いのだろうけど。

 

「はじめまして。今日はよろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

「彼女はこのチームのOGなんですよ」

「ほー」

「トレーナーさんや……あ、サブトレさんって言った方が?」

「そうですね、立場のこともありますから」

「うん、じゃあサブトレさんで。二人には前からお世話になっててね」

 

 なるほど、元から伝手があったからこんなに早く話がついたんだな。

 話を聞く限り、どうもドーナッツ先輩やスナイパー=サンの勝負服などは、ベテルギウスに昔所属していたらしいこの先輩にデザインを依頼したようだ。

 デザイン業界も上がつかえてる面がある。いや、まあ……クラシック級年間7000人がデビューするこの業界*1、中央のG1のみならず地方のダートグレードにおけるJpn1*2に出場するウマ娘ののべ人数は結構なものだ。探せば仕事は山のようにあるのだろうけど……。

 いずれにせよ、こうしてトレーナーさんが伝手を辿って仕事を渡せば、それだけ人の目に留まる可能性が高まる。そうすれば名が売れることだってありうるだろう。

 これもトレーナーの仕事……アフターフォローの一環でもあるんだろうな。

 

「早速だけど、少し寸法測らせてねー」

「わかりました」

 

 立ち上がり、トレーナーさんには少し部屋の外に出てもらって体の各部の寸法を測ってもらう。緊張をほぐすためにか、ちょくちょくフランクに話しかけてもらったけど、逆に少し恐縮した。

 見たところそれほど歳のいってない先輩だけど、もう場数は割と踏んでいるのか計測そのものはサッと終わった。メモとかじゃなくてタブレットに入力していくのは、トレーナーさんの影響かな。

 

「はい、オッケー。それじゃあどうしようか、何かデザインの要望とかある?」

「えー、んー……」

 

 デザインの要望か……特に考えたこと無かったな。なんなら汎用服とかいっそジャージでもいいんだけど。

 ……勿論そういうわけにもいかないよね。内心何やらざわついてる部分があるのが感じ取れる。長く着ることになる勝負服なんだから力入れないでどうする、みたいな。心が2つある。出自考えたら細分化すると多分3つはあるけど。

 益体もない思考が一瞬流れたその後で、ふと頭の中にイメージが浮かぶ。思わず、ぼくはそれを言葉として出していた。

 

「狩人」

「かりうど?」

「狩人、ハンター……そんな意匠が入ってるといいな、と思ってます」

「ほうほう。そのこころは?」

「前*3に『最後まで考えて走ることができないなら、野生の獣と変わらない』とトレーナーさんに言われたことがあるんです」

 

 だから常に考えて走ることができるように訓練してきた。

 獣の狩りじゃなくて、人間の狩り。常に考えを巡らせ続け、罠を張り計画を練り戦略を立てて、そして勝つ。それを片時たりとも忘れず自分の頭に刻みつけるために……というのは、ちょっと大仰だろうか。

 あとは、ベテルギウスというチーム名……オリオン座を構成する星からの連想だろうか。オリオンはギリシア一の狩人と呼ばれているし。

 

「狩人ね、なるほどいいじゃない! 色はどうしましょうか……」

「できれば緑色を入れてくれると嬉しいんですけど……」

「緑……うん、インスピレーション湧いてきたかも」

 

 その後もしばらくすり合わせを続け、休憩なども挟みつつほとんど一日を費やしてデザインの方向性を定めていった。

 話を進めていくうちに「あれ、これケニア国旗の色使ってんな」と自分で気付いて思わずサンコンソウルの干渉を疑ったが、まあそれは置いとくとしよう。

 トレーナーさんから勧められるまでは勝負服に対するモチベーションはそこまで高くはなかったけど……なんやかんや、勝負服が届くのは楽しみだ。

 

 

*1
シンデレラグレイ3巻 第26R参考

*2
日本独自のグレード。国際的な格付けからは漏れているが、国内では実質的にG1として扱われている。

*3
19話「マルチタスク」




 ストライプの身長の想定はおおむね142cmですが、シマウマ娘の中ではかなり高い方になります。
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