【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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玄人好み

 

 

 今回のミニライブのトップバッターはぼくだった。

 この陰険残念ロバ娘が何言ってんだと思う人もいそうだが、こんなんでも一応日本では珍しいシマウマ娘だ。オマケに九月のデビューから現在まで一応二戦二勝。カレンのウマスタやウマッターなどに時々写真が載ることもあるし、相互フォローもしてるので同世代の中では実は割と注目度が高かったりする。

 加えて、チームの出店の方にも早めに合流しないといけない。今年はテイオーがリギルの執事喫茶の助っ人に行くという話もあるようなのだけど、そっちはあくまで別チームの助っ人ということでこっちを優先してもらった。

 クラスの皆には配慮してもらえてありがたい……と一瞬は思ったのだけど、よく考えたらこの状況になったのはクラスの皆のせいだな? と思い直して複雑な気持ちになった。

 ブラック企業から抜け出せない人みたいな心理状態になってない? これ。

 

「耳動いてる」

「耳めっちゃ動いてる」

「曲に合わせて動くんだ……」

「あれがペガサスフォーメーション……」

(ひぃん)

 

 ミニライブの最中、そんなことを観客のひとたちが話しているのが聞こえてくる。

 カレンの拡散能力を侮っていた……わけじゃないんだけど、オープン戦で勝ったことの相乗効果でより知名度が上がってしまっている。

 

「サバンナストライプ、現在2戦2勝。古豪のチームベテルギウスに所属していることも考えると成績そのものは納得の数字だが、レース内容には少し疑問を持たれている」

「どうした急に」

「2戦共に大きく差を離すことができないギリギリの勝利。手に汗握る展開といえば聞こえは良いが、これは同世代の中で抜きん出ているわけではないとも言える」

「タイムやバ身差は一番わかりやすい指標だからな」

 

 強いウマ娘というものは、世代の中でも頭角を現すのが早いと言われている。

 早熟なだけだったというパターンも中にはあるけど、例えば朝日杯を制したウマ娘はその後も活躍していることが多い。例えばマルゼン先輩とかサクラチヨノオー先輩とか。

 その勝ち方も余裕があったりかなりのバ身差をつけていたりと、「強い」ことが視覚的に分かりやすいのだけど……そういう基準に照らし合わせるなら、ぼくはメイクデビューでもオープン戦でも苦戦続きだ。見ている側としては接戦続きで面白くはあっても、強いと感じてくれはしないだろう。

 よって、思うことはこうだ。

 

(重賞で勝ち負けはついても、G1は厳しい……)

「オープン戦で苦戦するなら、それより上の天才たちがいる舞台は難しいかもしれないな。重賞で勝ち負けはついても、G1は厳しいと評さざるを得ない」

「しかしそれも『今のままなら』という話なんですね!」

「アグネスデジタル氏」

 

 どうした急に。

 

「ストライプさんは得意距離3000以上という生粋のステイヤー、本人が言ってましたがまだ今は短すぎるくらいで2000だと強みが発揮できないのです」

「なるほど」

「つまり今の苦戦もなるべくしてなっている状態、というわけか……」

「ウマ娘ちゃんたちは適性という絶対の壁がありますが、それを克服しようと頑張る姿もまた……おっほう……尊いんですよ……!」

「分かる」

「そうだな……」

 

 しみじみと頷く男性二人とデジたん氏。いつの間に仲良くなったのかという問いは野暮なので置いておくとして。

 ……しかしあのひとたち最前列で何やってんだ。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 ミニライブを終えてチームの方に戻ると、そこはもはや戦場の様相を呈していた。

 お歳のせいかしばらく立ち作業続きだったせいかトレーナーさんは腰を押さえながら抹茶のシェイクを作っており、サブトレさんはあっちこっちすごい速度で行き来してパンケーキを作り上げたり冷蔵してたおしるこチンしたり焼いてるお餅の様子を確認したりしている。もう大忙し通り越してるレベルじゃないだろうか。

 ぼくはとりあえずそっとサポートに入ることにした。

 

「何がどうしてこんなに忙しくなったんです?」

「原因があるとすればスカイとスナイパーだ。同一年にティアラとクラシック両方の有力ウマ娘がいるとなればこうもなるだろう」

「あー」

 

 トレーナーさんが放置している食器や調理器具を次々洗っていく。本当は調理の工程の中で済ませると効率的なのだけど、そっちは真っ最中で手を貸すと逆に危ない。

 まずはこちらを済ませてからにするべきだろう。

 

「お前手際が良いな」

「慣れてますから。トレーナーさん普段家事とかされないんです?」

「妻に任せきりだな……」

 

 失礼ながら確かにそんな雰囲気はある。栄養学なんかには普通に詳しいんだろうけど、チームのことで多忙すぎて日常的に料理とかはできそうにないっていうか。

 流れ作業でいくつかパフェを同時に作りながら納得顔でぼくは軽く頷いた。

 

「たまの休日に気まぐれで料理してますけど、片付けをしないので母に毎度怒られていますよ」

「余計なことを言わんでいい」

 

 気持ちは分かる――。

 家族サービスをしたかったんだろう。多分。それはそれとして洗い物が面倒になってしまったり、料理のことにかかりきりになって処理し忘れてしまったり……。

 その点で言うとサブトレさんの手際はとても良い。アレか、普段からタキオン先輩のお弁当とか作り慣れているからか。

 逆にタキオン先輩の方はこの手の仕事は苦手そうだな。ウェイトレスくらいはできそうだけど……いやダメだ、変な薬仕込んでそうで怖い。

 ……もしかしてそれはそれでファンの人は喜ぶかもしれん……。

 

「来年以降は誰か手伝いを呼ぶべきかもしれんな……」

「アルバイトでも雇いますか? 窓口なら作りますよ」

「学生が余計なことを考えんでいい」

「はーい」

 

 聖蹄祭はファン感謝祭の性質も同時に併せ持つ。学園祭であることは確かなんだけど、プロのアスリート兼アイドルがやるファンサービスの場とも言えるわけで、学生がいかに頑張ったか、よりもちゃんとお客さんを満足させられたか、の方が比重が大きいだろうとも思う。

 どうやってもお金のやり取りは発生してしまうし、アルバイトを雇うか外部の手を借りるかしないと手に負えないというなら、これも仕方ないのではないか。

 

「……まあこの多忙さも元を正せばストライプの発案が原因ですが……」

「えへっ」

「『毎年恒例の行事』として求められるのはいいが、こうなることは想定しておくべきだったかもしれんな……」

「流石に『やらない』ことが選択肢から外れるほどとは思いませんでしたわウフフ」

「ウフフじゃありません」

「フハハ」

「言い方を変えろという話でもありません」

 

 ……しかし開場して一、二時間くらいならまだお客さんも少ないんじゃないでしょうか、と割と甘い見積もりをしてウェイトレス役以外のひとを休憩時間にしたのはサブトレさんだったような……。

 いや、よそう。ぼくの勝手な推測で話を混ぜっ返したくない。

 

 一時間ほど手伝うことで注文を捌き切って、次の厨房手伝いにフラッシュ先輩と血の涙を流してミニライブから抜けてきたデジたんパイセンを迎えると、ぼくは去年のそれよりやや華やかな色合いの和メイド服に着替えてホールに向かう。と――。

 

(おや?)

 

 そこで、なんというか去年と比べると向けられている視線の質が明らかに違うことに気づいた。

 物珍しさと微笑ましさが主だったのが去年だけど、今はどちらかと言うと値踏みされているような、それでいてなんとなく得意げなような……。

 ……違和感は拭えないけど、仕事はしないと。

 

「いらっしゃいませ、空いているお好きな席にどうぞ!」

「ありがとう」

 

 案内したのは、三十代くらいだろう壮年の男性だった。この人もなんだかぼくに向ける視線がちょうどそんな感じだった。

 ……はて。

 

「どうしたストライプ、喉に骨でも刺さったような顔して」

「ドーナッツ先輩」

 

 む、努めて表情変えないようにしてたのに読み取られた。普段と違って強張ってるせいか。

 この状態でいるのもお客さんに悪いし、疑問は早めに解消しよう。こういうことなんですけど、と軽めの調子で問いかけると、ドーナッツ先輩は納得したように「おう」と頷いた。

 

「お前の勝ち方な、玄人好みすぎんだよ」

「玄人好み」

 

 なんじゃそれ。

 

「中盤からロンスパかけて半分くれー泥仕合に持ち込んで、最後はギリギリの勝ちだろ? 華やかさとは無縁だわな」

「まあ……」

「そういう泥臭い勝ち方が好きなちょっと目の肥えてる人らがお前見るとそうなる」

「あぁ~……」

 

 だいたい分かった。ぼくの主要なファン層、レースに慣れてちょっと目が肥えた、悪い言い方すると少し面倒くさい大人なんだ……。

 早いうちから注目することができて少し得意になってる、けど危うい勝ち方をするのは事実なので本人を目にして実際のところ実力はどうなのだろう、と思っている……と。

 

「アタシも覚えあるぜ。リムジンと比較されてんだ」

「……なるほど」

 

 ドーナッツ先輩とリムジン先輩は同世代。スリップストリーム走法で際どいながらも勝ちを狙いに行くドーナッツ先輩の戦法は、一見するとやや地味だ。

 対してリムジン先輩は凄まじい加速の末脚に、見た目にも派手な超前傾姿勢、それにあの長身と比較すると確かに玄人好みと言う他無い。

 

「特にお前は今派手に活躍してるスカイやスナイパーが真上にいっからなぁ」

 

 どうやっても「こっち側」だぜ、と親指で自身を指し示しながらニヤリとした笑みを向けてくるドーナッツ先輩。

 ……う……嬉しくないとも言い辛いけどまあそれでもいいですとも言い辛い……!!

 

 






〇アグネスデジタル関連の設定の整理について
 アプリで設定が改めて出たアグネスデジタルですが、本作では育成ウマ娘になるより前に登場させておりますので設定の齟齬が生じております。
 具体的には上下関係に厳しく年上相手には「先輩」で通しているウオッカが呼び捨てにしていることから、少なくとも同級生かまたは年下であることが読み取れる点です。
 エアシャカールと同じ1997年生まれかつテイエムオペラオーの関連キャラということで年上として設定してしまったためですが、とりあえず本作の設定としては「スペちゃんやオペラオーと同学年」かつ「現時点でデビュー前」としております。
 大概乖離してる部分ばかりと言われると返す言葉も無いのですが、ご理解いただければと思います。
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