【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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若草色の外套

 ――サイレンススズカがレース中に骨折。術後の経過は良好だが、復帰時期は未定。

 関係各社の報道で、このニュースはまたたく間に日本中を駆け巡った。

 鮮烈な大逃げで観客を魅了したスズカ先輩の脚に故障が発生したという事実に対する心配と、引退の危機というわけではないということへの安心。一方で、復帰時期が未定であることへの不安……発表された公式情報で感情が乱高下したせいで情緒がグチャグチャに破壊されたファン(デジたんとスペ先輩含む)の姿が日本各地で確認されたが、ひとまず完治すれば十分復帰は可能ということで、トレセン学園では大きな騒ぎにはならなかった。

 スペ先輩がこれまで以上にスズカ先輩にべったりになってしまったのだが、そこはぼくらの関与できることではないので置いておこう。

 

 ともかく、トレセン学園がいつもの様子に戻ってきて、次のレースの対策を本格的に進めるようになってきた11月中頃のことだ。

「ストライプ、勝負服が届いたので試着してみませんか?」

「勝負……服……?」

「ストライプ今一瞬本気で何のことか分からない顔してなかった……?」

「オヌシ、ウマ娘としてそれは……」

「独特な感性なのは把握していましたがここまでとは……」

 

 ――そういえばそんな話があったのを今更ながら思い出した。

 色んなことが起きすぎていたものだから記憶の彼方に消えていたようだ。ウカツ!

 自分専用の勝負服ともなれば、普通のウマ娘は今か今かと到着を待ちわびるものだ。親戚などに勝負服姿の写真を送る伝統があるように、普段何気ない風でいても勝負服となると強いこだわりを見せる子がほとんどだ。

 普通ならもっと、仮に忙しさで忘れていたとしても反応はすこぶる良いのだろう。ぼくみたいに「あ、そっスね」とばかりに素っ気ないことにはならないはずだ。

 と言ってもなぁ……半年近く後まで塩漬けになるしなぁ……。

 理屈は分かってるんだけど。仕立て直しとか時間かかるんだろうし。

 

「とりあえず試着をしてきてください」

「はーい」

 

 部室に戻って見てみると、デザイナーさんから届いた勝負服が分かりやすく置いてあった。

 注文を付けた部分は問題なくデザインとして組み込まれており、あとはデザイナーさんの感性のもとで落とし込まれてブラッシュアップされているようだ。

 

「あれ、ショートパンツじゃないんだ……」

 

 事前に見せてもらった図面だと違ったのだけど、見栄えを重視したのかスカートになってる。まあ下はスパッツだしいいか……とまず下を穿いてみることにした。

 ……うわ、短い。膝上何センチだろうこれ。スペ先輩たちの勝負服見たときも大概同じようなこと考えてたけど……ん? いや制服の時も似たようなものか?

 ケニアの国旗のイメージと伝えていたけど、赤色はここに持ってきたようだ。チェック柄なので目立ちにくいけど。

 

「えーっと……上がこうで……」

 

 上着は灰色のシャツだ。黒の方が見栄えがするんじゃ? と言われたけど、ここは何故か譲ることができなかった。主にほぼ同化しているはずなのに時たま独立して心の中で暴れてくるシマUMAのせいだ。今回は「シマウマの地肌は灰色!!」と強硬に主張されて酒瓶で殴られた幻覚を見た。

 正確には黒に近いグレーだ。ちなみに同じシマシマでも、虎は地肌にそのまま縞模様が浮かんでいる。

 説明書を見ると、面白いことにきっちり着こなすのではなく裾を外に出して少し着崩すように書いてある。その上で、胸とお腹の境目あたりに黄色いクロスベルトを巻いて締める。元々が細身なのに更に締めていいのかと思わないでもないけど、まあ置いとこう。こういうのはこう、強調するものなんだろうし。なんじゃないかな。だよね?

 このクロスベルトには、小さなポーチがいくつか付けられるようになっている。その内のひとつはサバイバルナイフ(模造)を収納することでそれらしい雰囲気が出せるようになっているそうな。他のポーチには小物を詰めてもいいし空のままでもいい。要は雰囲気作りのための小物だ。フクキタル先輩の巨大猫カバン(にゃーさん)のようなものだ。

 あとは若草色のカンガ*1を模した柄の外套を羽織って……。

 

「なるほど?」

 

 狩人、とイメージを伝えていたのだけど、どちらかと言うと近現代的な……フィールドワークをしている冒険家だったり、猟師……軍人的なテイストがあるようにも思える。

 あとはブーツに履き替えるんだけど……いやしかし、がっつりと本格的なブーツだな。これで本当に走れるのか? そう思って脚を通すと――あ、すごい。シューズ履いてるのとそう感覚が変わらない。

 会長とかスペ先輩とかの靴見ててだいぶ疑問が強かったのだけど……ヒールついてたり明らかにレース向きじゃない靴履いてるのにあれだけ走れるのは、そのためにオーダーメイドして更にはそれ専用の特殊な素材なんかを使っているおかげだろう。特殊な作成技術を使ってもいそうだし……時間もお金もかかるわけだ。

 よし、とにかく着替え終わったのだし、サブトレさんたちに見せに行こう。

 

「お待たせしました~」

「うわ胡散臭」

「絶妙に怪しいですね」

「ストーリーの後半で裏切るやつだな。ワタシは詳しいんだ」

「ハハハ毎度コレだよ」

 

 衣装のことよりぼくの第一印象の方が先に来てる。もう慣れたけど。

 せめて似合うか似合わないかを先に判断してほしかった。

 

「ちなみに裏切るというのは?」

「狩人を装って近付くが実は敵国のエージェントなのだ。妙に整った装いのマントの下がその伏線というわけだ。ウカツ!」

「離脱して再登場したら敵国のマントを羽織ってるわけですね」

「うむ」

 

 いえー、とぼくらは軽いノリでハイタッチを交わした。

 スカイ先輩はたまにあるよねそういうの、と納得しているようだが、一方でサブトレさんは珍しく困惑している。

 

「サブトレさんはこういうの、お馴染みじゃありません?」

「ゲームとか漫画とか」

「あまり学生時代から縁もなく……」

 

 確かに疎そうと言えば疎そうなところはある……いや、タキオン先輩の謎の薬を一気飲み(イッキ)するような色々振り切れた人なんだけど。それとは別に生活感が薄いというかあまり俗っぽさが無いというかプライベートが想像できないので普段何してるのかも全然分からない。

 言っちゃなんだけど、特別な趣味があるように見えないし、何かと効率を求めがちだから、休日を送るにしても目的が無いと落ち着かなさそうだ。一日中掃除とか手間のかかる凝った料理とか資格試験の勉強とかしてそう。

 

「学生時代もそういえば友人に『お前つまんねー奴だな』とか『一緒にいると息苦しい』とか言われたことがありましたね……」

「よし! この話やめよう! やめやめ!」

 

 想定外の闇が垣間見えてしまった。

 どうするんだよこの空気。いや半分はぼくのせいでもあるな。よし、トレーニングに戻ろう!!

 

「ところでサブトレさん、勝負服を着たからにはそれなりのトレーニングをするんですよね!」

「あ、はい。そうでしたね。いきなり併走などをするわけにはいきませんので、まずはストレッチなどで体が十分動くかどうかを見てみましょう」

 

 スナイパー=サンとスカイ先輩が露骨にほっとした様子を見せた。

 それからしばらく、体を大きく動かす柔軟などをして、動きに干渉しないことを確認した後、坂路、併走……と順番にやっていって、走りに特に支障が出ないことを実証した。

 というわけで、勝負服についてはリテイクが出ることなくこれで最終稿となった。

 言外にもっとこだわれという旨のことを言われた。

 解せぬ。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 今年の秋のG1戦線は色んな意味で波乱続きだ。

 まずタイキ先輩がスプリンターズステークス*2でまさかの敗北。ここまで一戦を除き無敗で来ただけあってファンに与える衝撃は大きかったが、一着とのタイム差が無いので単に負けたと言うのも憚られる激走ではあった。

 秋華賞はえらい番狂わせが起き、菊花賞はスカイ先輩が大レコード。秋の天皇賞は……言うに及ばず。

 エリザベス女王杯では直前のインタビューで「女帝」エアグルーヴ先輩を超えるとドーベル先輩が宣言。そしてその言葉通り、ドーベル先輩が激戦を制して新たな女王の座についた。……で、その翌週。マイルチャンピオンシップに出走したタイキ先輩がこれに勝利。同一G1の連覇という快挙を果たした。

 特に副会長とタイキ先輩、ドーベル先輩は天皇賞の後は凄まじい気迫で……理由については、言わずもがなというところだろう。タイキ先輩についてはスプリンターズステークスでの敗北があって、あるいは能力的にピークアウトしたのか……とも思われたのだが、そんな素振りも見せないほどの快走だった。

 

 さて。マイルチャンオンシップの翌週といえば、ジャパンカップの開催日だ。

 海外からの招待選手もやってくる、日本最大級の……それこそ有記念と並ぶほどの賞金額を誇るレースだ。当然、ファンからの注目度も高く、ぼくも将来的には――レース名的な意味でも――ぜひとも出走して勝って賞金をいただいてぬはははと……話が逸れた。

 ともかく、ジャパンカップは世界の強豪が出るということもあって多くのウマ娘にとって憧れのレースなのは間違いない。

 もっともぼくはその前日に京都にいて当日応援に行けるかさえ分からないのだが。

 

(レース選択ミスだったかな……いや応援に行く行かないで出るレース決めるわけにもいかないけど)

 

 例年、京都ジュニアステークスはジャパンカップの前日開催だ。

 ウイニングライブは夜、それこそ寮の門限近くまでやってることもある*3ので、関東近縁での開催じゃなければ外泊許可を貰って翌日に帰る、というような流れが一般的だ。無理に強硬策で帰ろうとすると疲れが溜まって怪我に繋がりかねないし、いくらトレーナーという保護者がいるとは言っても、それだけ遅い時間に出歩くのはやっぱり避けたほうがいいというのもある。

 関西での開催だと、全日程を終えたら急いで帰ったとしても12時回るんじゃないだろうか。

 

「今日は表情が硬いですね」

 

 コースに向かう地下バ道の中。ふと、唯一こちらについてきてくれたサブトレさんがそんなことを聞いてきた。

 

「いや……明日どうしようって」

「せめて重賞の舞台を前に緊張してたくらいのことを言ってください……」

「緊張はしてますよ。表に出す理由が無いだけで」

 

 レースはいつも緊張の連続だ。作戦にハマってくれなかったら当然負けだし、ハマってくれても結局そのまま実力でブッ千切られると負けだ。

 なんとか今は勝ち続けられているけど、負けてしまったらと思うとやっぱり怖い。だから当然緊張はする。表に出して相手に知られた時、勝敗に直接関わってくるから可能な限り緊張していると言ったり表情に出したりはしないだけで。

 

「今日はメジロ家の……メジロパーマーが出走すると思ったのですが。警戒などは?」

 

 メジロパーマー。メジロ家に所属するウマ娘のひとりで、逃げウマ娘としても知られる先輩だ。

 前走となる萩ステークスでは調子を落として9着だったものの、メイクデビューで2着、未勝利戦ではもう一度2着……その後勝ち上がりに成功し、その次のOP戦でも勝利。今回の人気こそ低迷してはいるものの、侮れない相手であることは間違いない。

 

「パターンはいくつか考えてますけど、出方次第としか。ただ……今回はちょっと普段と違う方針で行こうかなと。せっかく逃げウマ娘相手ですし」

 

 相手にとって不足はないというかいっそぼくの方が萎縮しそうになるくらいの相手だけど、今気にしても仕方ない。

 今回は勉強させてもらうつもりで……それでも勝つつもりで当たろう。

 

*1
ケニアで広く知られる一枚布。民族衣装よりも風呂敷など布として用いられることが多かった。衣服として着用されるようになったのは19世紀以降。

*2
1998年当時のスプリンターズカップは12月開催だが本作のレーススケジュールはアプリウマ娘準拠のため10月上旬開催。

*3
アニメ1期1話でスペシャルウィークがウィニングライブの後に寮に行くと締め出されたため。






○覇王世代について
 いつもご感想、評価等ありがとうございます。テイエムオペラオー及び作中時系列について感想で言及されておりましたので後書きにてお返事とさせていただきます。
 テイエムオペラオーと言えば世紀末覇王の二つ名が表すとおり、2000年のグランドスラムの偉業が挙げられます。が、これがアニメで行われたとする場合、オペラオーは春の天皇賞を二連覇しているため、「マックイーンが天皇賞を連覇するかどうか」という話を成立させるためにはアニメ2期の前に2年の空白期間を設けなければならなくなります。
 以前取ったアンケートに基づいて本作は90年クラシック世代をメインとして描くこととしております。先述の通りになってデビューが遅れると話としても冗長な展開が続くことになってしまうため、本作は1期12話のJC後から2期1話に直行してテイオーが中学3年時点でデビューする時系列を採用しております。
 このため、オペラオー及びその世代の主要人物について、登場させたいのはやまやまなのですが現状どうしても「登場させることができない」という状況になっております。ファンの皆様には大変申し訳ありません。
 余談ですが、2年の空白期間を採用した場合、アニメ2期1話、クラシック時点でのテイオーが最低でも高等部の3年になっていることになり、1期時点で三冠を取っているナリタブライアンの姉であるビワハヤヒデなどは、デビュー時どれだけ若く見積もっても22歳以上になってしまったりします。
なお本作のデジたんの年齢については触れないでください。多分本格化来てないか気合で維持してるのだと思います。
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