【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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遠慮がちな視線

 

 

 12月のG1戦線、これはホープフルステークスに出ないことを決めた以上、チームとしては有記念以外のレースにはそこまで大きく関わることが無いことになった。

 ……という一方、ぼく個人としては同じジュニア級ということで12月は注目レースが多い。ホープフルステークスは言わずもがな中・長距離の今後を占う大事な一戦だし、朝日杯はアイネス先輩が出走する。そして阪神ジュベナイルフィリーズはと言うと――。

 

『白毛ウマ娘の夢が今ここに! 一着は! バ群の中から抜けてきたハッピーミークッ!』

「ほあああああああ! うおっはあああああ!」

「耳が!」

 

 一番人気、一着ハッピーミーク。

 来年のティアラ路線を占うこの一戦を、ぼくはルームメイトとして友人として寮で全力で応援していた。

 全力過ぎて隣に座っていたテイオーの耳を音で攻撃してしまった。若干申し訳ない。

 

「トラちゃん全力すぎだよ~」

「応援ハッピにうちわにペンライトにぱかプチまである……これどこで買ったんだよ」

「ぱかプチ以外は自作だよ。このまま商品化できないかURAに交渉してる」

「えぇ……」

「ルームメイトなのは分かるけどはしゃぎすぎよ……」

「ごめんなさいママ」

「ママじゃない」

 

 ハッピーミーク。全距離全バ場対応型のスーパーオールラウンダー。

 ぼくのルームメイトで実は学年的にはぼくの一つ上な彼女は、一足早くG1ウマ娘の高みへと到達することになった。これでハシャがずにいられようかというのが個人的な思いだけど、スカーレットに言われたからには少し落ち着くしかない。

 ただこれ、ぼくも大概かかってるけど下手するとURAの方がもっとかかる案件じゃないのかな。世界初の白毛ウマ娘のG1制覇*1なんてオグリ先輩並のアイドルの素質あるよコレ。まあ地方から来たわけでもなく元から中央所属だからその辺りの、言うなれば英雄性というのが不足してるのは否めないけど。

 

「トラちゃんがまたいらんこと考えてそうな顔してるー」

「いらんこととは失礼な」

 

 確かに杞憂かもしれないけど、それはそれとして考えを広げておいていろんなことに対応できるようにしておくのは悪いことじゃないはずだ。

 ……ん? いや、ぼくがやる必要は無いか? そもそもこういうのトレーナーさんの仕事か……? そうか……そうかも……いやその通りだな……。

 どうか桐生院トレーナーは頑張ってほしい。新人なのに即G1ウマ娘を育て上げるという驚異的な実績を残しているわけだから、取材とかその他諸々で大変だろうけど。強く生きてください。

 

 ……と、まあそんなこんなで(主にぼく一人が)阪神ジュベナイルフィリーズの結果に熱狂した翌日のこと。

 スカイ先輩の後について逃げのトレーニングをしていると、客席の方からどことなく遠慮がちな視線を感じた。

 

「んー、ありゃ。フラワーだ」

「ホントですね」

 

 つられて見てみると、そこにはサブトレさんに連れられて来る形でニシノ神……もといニシノフラワーがいた。

 

「スカウトですかね?」

「あ~」

 

 11月の選抜レースが終わって少し。時期的にはこのくらいだろうか。

 ぼくの時はちょっとサブトレさんの行動が早かったので極めて早い時期だったけど、本来、1年生のスカウトとなると標準的なのはこのくらいの時期なのだろう。チームとしてはちょうどスプリント~マイル路線のリムジン先輩が一線を退く――と言ってもチームには所属したままだけど――わけだから、丁度いいのか。

 

「ストライプはそこのところどう思う?」

「ん~、ぼく選抜レース見てないから能力面は何とも言えないですけど」

 

 ぼくは普段、選抜レースになるとだいたい屋台引いてるのでレース内容までは把握していない。

 一応、知識としてデータとして知ってはいるものの、実際の能力と比較したわけではないので具体的に言うわけにいかないというのもある。

 

「フラワーって飛び級してきてますよね?」

「うん」

「本格化を迎えてもまだ体が出来上がってないわけですから、怪我もしやすいと思うんです。じゃあウチはその辺特に注意してるから、相性は良い方かなと」

「にゃるほどー」

 

 もちろんこれは自分が所属してるチームとしての贔屓目もある。が、実際、基本的にベテルギウスではトレーニング中の負傷というケースがあまり無い。

 レースになると皆何かと無茶するから一概には言えないけど……タキオン先輩もアドバイザーについてくれるだろうし、トレーナーも二人体制。危ないなと思ったり特に見ていないといけないと思ったらマンツーマンでトレーニングを行える。

 ……うん、普通に環境良いんだよ。ぼくも結局それが決め手だったし。リムジン先輩というスプリンターとしての先達もいるから何かと世話も焼いてもらえるだろう。

 

「ま、実際ここ以上の環境ってのがそうそうあるかって話だよねー」

「リギル?」

「ま~……そっちはー……あー……おハナさんがあんまり合いそうじゃなくない?」

「フラワーみたいな子は苦手かもですね。じゃあやっぱウチか」

「でしょ?」

 

 分かってる癖にこういう確認するみたいなことを聞くんだからまったくもう。

 軽く苦笑いしていると、何かこう……いつもより負担が強くなっている感覚がある。いや実際負担大きいな。速いぞ。いやマズい! ついていけそうにない!

 

「スカイ先輩ストップストーップ! レコードペースになってます!」

「あれ、そう? にゃはは★」

「にゃははじゃ……スピード落とせーっ!」

 

 くそっ、このひと知り合いがチームに入るのがほぼ内定したからって露骨にテンション上がってる!

 いやまあ外から見たら微笑ましいしぼくだってデジたんパイセンとああいうのいいよねって話したいんだけど、併走付き合ってる当事者としてはそれどころじゃない!

 えーっと、こういう時こそ最短ルート通って最適な体の動きをする等速ストライドを身に付け……。

 

「できねぇー!!」

 

 やろうと思って即できるものかよ!

 というかコレ軽い罠なんだけど、やってやろうと意識すればするほど逆にできなくなるんだよ等速ストライド。あれは「意図しなくてもできる」のが真骨頂だ。やろうと思ってやってる時点で少なくないロスが生じてる。これは走行時のロスを最小限に抑えることで相対速度を上げるという等速ストライドの理念と根本的に対立するわけだ。

 

「何をやっとるんだお前たち! トレーニングで無茶な動きをするなぁっ!」

「「すみませーん!!」」

 

 流石にタイムを計測していたトレーナーさんには、現状はお見通しだったようだ。

 負けずに上げかけていたギアを緩め、当初走っていた時と同じ程度の速度に戻すことで再度、元の逃げ方講座に移った。

 やっぱり本職逃げは違うなと思わされたけど、これ、やろうと思えばスカイ先輩もぼくと同じことできるんだろうなと感じさせられることになった。

 普通のウマ娘だと、ぼくほどやる意味が薄いんだよね、ああいう煽り走法……。

 

 

・・・≠・・・

 

 

「中等部一年生のニシノフラワーです。みなさん、よろしくおねがいします!」

 

 後日。スカイ先輩や相談を受けたらしいクラスメートの勧めなどもあり、大方の予想通りフラワーはベテルギウスに加入することになった。

 ぺこりと丁寧にお辞儀をするフラワーに、歓迎の言葉と拍手が送られる。

 以前、スカイ先輩の祝勝会に来たこともあって、チームの雰囲気については彼女もよく知っている。驚いたり萎縮したりということは無く――それでも多少気恥ずかしそうに――拍手に対して頭を下げていた。

 

「後輩ができた気分をインタビューしてやろう。感想を述べよ」

「明日から先輩風ビュウビュウ吹かせるのが楽しみってなもんですよむほほほ」

「わかる」

「この気持がわかるなら初めての後輩がぼくなあたりは残念でしたね」

「いや、ノリが合うのは悪くない」

「ほー」

「ムフフ」

 

 スナイパー=サンそんなこと思ってたのか。ちょっと嬉しい。

 

「で、それはそれとして素直なフラワーがやってくるのは?」

「カワイイヤッター!」

「ストライプは可愛げとはあんまり縁がないわな」

「ひっど」

 

 多少、まあ……こう……うーん……自分自身のことながら全く問題が無いとは口が裂けても言えないけれども。

 ……営業スマイルはできるんだぞ! 愛嬌バッチリ……いや自分でも自分のことで嘘言うのはあんま好きじゃないな……。

 シャカール先輩の言う通りあんまり縁がないのは、まあ……そうだね……それでもそこそこはあるんじゃないすかね。うん……。

 

「ところで質問いいです? フラワーのデビュー時期ってどのくらいになります?」

 

 おっ、いいぞスカイ先輩。その調子でどうか話題を逸らしていただきたい。

 

「今の時点だとはっきりとは言えんな。飛び級をしてきてるから、その分体作りをしっかりしなければ怪我が心配でな」

「来年すぐというのは難しいでしょうね。上手く行けば再来年か……」

「そうすると本格化終わったりしません?」

「個人差があるが……現状はまだ伸びていく時期だ。よほどのことが無ければ数年は維持できるはず。もしもピークが早く訪れれば、その時は改めて相談の上考えよう」

 

 親御さんから娘を預かっている身だから気をつけなければならんのだ、とトレーナーさんは複雑そうな表情で締めくくった。

 そうですよね。平均時速50km以上で走るトレセン学園のウマ娘は、常に怪我と隣合わせで生活している。もっとも、命の危険に繋がるのはよっぽど勢いよく転倒した、とかでもないとなかなか無いけど……実際にあった事故ではあるし、命は助かっても後の生活に影響を及ぼすような怪我を負うことはありうる。スズカ先輩も一歩間違えれば歩行能力に影響が出ているところだった。

 細心の注意を払って、それでもなおレースになればその競争心のせいで派手に骨折するような……リムジン先輩みたいな例もあるんだ。幸い、今のトゥインクルシリーズ現役組のぼくやスカイ先輩、スナイパー先輩などは今の所怪我しないでいられてるけど、将来的にどうなるかは分からない。

 かと言ってじっくりやりすぎれば本格化の時期を逃して競技者として花開く前に終わってしまう。そのあたりの調整をどうすればいいか……指導者であり教育者としての側面もあるトレーナーとしては、頭の痛い問題だろう。

 

「まあまあ、今すぐどうこうできない問題は一旦置いときましょう。今日は歓迎会ってことで色々作ってきたので、まずはそっちから行きましょう」

「作った? これ、店のオードブルとかじゃなかったのか?」

「まあ広義で言えば店のオードブルですかね……?」

 

 普段、屋台を引いて飲食業を営んでいるぼくが、部費から徴収してオードブルを作ってきたのだからそれは「お店の料理」と言えなくもないかもしれない。

 

「これ領収書です」

「随分安く抑えたようだが大丈夫なのかこれは……?」

「悪いものは入ってませんよ」

「ならいいが……」

「あっ、何でもケニアの味になる魔法の粉(ロイコ)は入れました」

「それについて何か言う気は無い」

 

 伝手を駆使した結果だ。加工するにあたって多少ワケ有り品を安く譲ってもらうようなことはあるけど、悪いものは入ってない。

 それにしてもすっかり大人数用の料理の手際が良くなってきた。ぼく個人は経営の方向に進みたいからこのスキルがどれほど意味を持つかというのはわからないけど。

 

「あの、こんなにたくさん……私、お手伝いとか……」

「いーのいーの、フラワーは座っててー」

「パーティは主催者(ホスト)にお任せするのがマナー、デス」

 

 大皿を次々部室に運び込む中で立ち上がりかけるフラワーだが、そう言われるとどこか居心地悪そうに再び座った。

 真面目な子だから、こういうのを見るとどうにも手伝わなきゃという気持ちの方が先行するのかもしれない。うーん……何か良い手は……。

 

「手持ち無沙汰なようですから、私と一緒にジュースを取りに行きましょうか」

「あ、はい!」

 

 お、サブトレさんナイスタイミング。これならやることができて気が紛れる。

 このチームに所属してきたウマ娘の中ではなかなか珍しいタイプだ。良い子なのはそうなんだけど、良い子で真面目すぎる。もう少し気の抜き方を覚えてもらうともっと良さそうなんだけど……。

 

(……まあ、今言うことでもないか)

 

 その辺のことは後々にしよう。トレーナーさんたちも考えてくれてるはず。

 今はとりあえず歓迎会。で、問題が見えてきたらその都度解決に走るとしよう。

 

 

*1
史実は2020年のソダシ。

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