【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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権利以前の義務

 

 12月下旬、有記念。このレースで引退及びドリームトロフィーリーグへの移籍を表明していたドーナッツ先輩は、惜しくも2着に終わった。

 これはピークから外れたウマ娘としては悪くない結果ではあったと言えるだろう。引退レースで勝つというのは非常に難しい。ごく稀に普通に勝つオグリ先輩のようなケースもあるけど、あれが一例として適切かと言うとちょっと疑問だ。

 しかし、一番の敗因は最盛期にいるグラス先輩が単純に強すぎたというのが大きいだろう。

 スリップストリームを使って巧く出し抜き、1着をかっさらおうとしたそのタイミングで、更に横からぶち抜いて差し切るなんてもうどう対処すればいいのだろう。

 ともかく、この勝利でグラス先輩の名前は広く一般に知れ渡り、同時に怪物二世の異名もまた広く知られることになった。グラス先輩は静かにキレた。

 

 ともかく、ジャパンカップに勝利したエル先輩に並び、クラシック級で有記念に勝つというのは相当な快挙だ。

 ダービーの同着や菊花賞での世界レコードなどの特徴的な出来事が重なったのもあり、この年のクラシック世代は巷では「黄金世代」などとも呼ばれるようになっているとかいないとか……。

 

「だそうですよキング先輩」

「黄金のように輝かしいキングを讃える権利をあげるわ。私の名前は――くしゅん!」

「キング~! ……こたつ入ったら~?」

「そうさせてもらうわ……今日雪が降るとか言ってた?」

「深夜くらいから降るって言ってましたよ」

「初詣、大丈夫かしら……トレーナーには先に言っておきましょ」

 

 大晦日の夜。ほとんどの寮生が実家に帰省する中、今年も帰ろうに帰れないぼくは去年に引き続きキング先輩たちと一緒に寮で過ごしていた。

 有記念では残念ながら6着に終わってしまったキング先輩だけど、ぼくらの前に姿を見せる時はそのことについて気にした素振りを見せることは無い。内心は……多少ならず気にしてるとは思うんだけど。

 これまで三冠路線で走ってきたキング先輩が、有以降は短距離路線やマイル路線で走っていくことが決まった。三冠路線をひた走っていたキング先輩が、ここで急に路線を変えたということで業界関係者は混乱。ぼくらとしては、それがキング先輩の選択ならと尊重はしているのだけど、それでもやっぱり三冠路線で好走しているのを見ているだけに不安が無いわけではない。

 不安を振り払うように、ぼくはよっこらせと立ち上がって部屋の隅に置いていた鍋を持ってきた。

 

「初詣のお話も出ましたし、そろそろ年越しそばでも食べましょーか」

「いいわね、キングにおソバを配膳する権利をあげるわ!」

「ストライプちゃん、具は? 具は?」

「エビ天乗っけちゃう~?」

「いいね~」

「キングには贅沢に二尾!」

「キングにだけなんてダメよ。皆一緒に贅沢をする権利をあげるわ!」

「「キングー!」」

「……勿論その分は予め買ってきてくれているわよね? ストライプさん?」

「いえーおふこーす」

「やるじゃない!」

 

 発注するものは少し多めな方が何かと便宜を図りやすい。

 ……という事情を抜きにしても、キング先輩がこういうことを言うのは想定できるので先に買っておいたというのもある。先輩何かと詰めが甘いところあるし。

 

 ともかくそんな調子で温かい海老天そばを配膳し、皆で食べてほっと一息ついたタイミングだった。

 

「そういえば、来期からはストライプさんもライバルなのよね」

「ぬ?」

 

 きゅぽんとそばが口の中に抜けていく。

 ライバル――キング先輩とぼくがライバル。

 ……うーん?

 

「路線違くないです?」

「ストライプちゃんはステイヤーだからね~」

「もう! そういう意味じゃないわよ! だいたい、私もそうだけど、ストライプさんだって呼ばれれば有記念に出るでしょう?」

「それは勿論」

「でしょう? だったらいずれ走ることになるからライバルでいいのよ!」

 

 そういう考え方もあるか。なるほど、それなら確かにライバルという解釈でも問題ないかもしれない。

 

「どっちを応援したらいいのかなぁ」

「どちらも応援する権利をあげるわ! どっちが勝っても恨みっこ無し……それがレースの世界だもの」

「キング~……」

「そうね。確かに、ちょっと! ストライプさんの方が長距離の適性は上よ」

「ちょっと?」

「ちょっとかなぁ?」

「ちょっとよ!」

 

 実際ちょっとな気もする。

 というのも、キング先輩は菊花賞では5着で掲示板入り。有だと6着で微妙に外れてはしまったものの、単純に「長距離適性に劣る」と言い難い結果を残している。展開が向けばあるいは――そう思わせるほどの実力があるのは間違いないだろう。

 

「路線変更こそしたけれど、私はいつでも勝つために走っているわ。皆も……私も。見返したいとか、自分の実力を証明したいとか、色々思うことはあるでしょうけれど、根底にあるものは同じでしょう? 勝ちたい、って」

「そですね」

 

 参った。そこのところどうだろう。ぼくは勝ち負けについて頓着が……無いではないけど、必ず一着にならないといけないと思ってるわけじゃない。賞金圏内に入れればそれもまあいいんじゃないかな? くらいの認識が残ってる。

 その辺りの認識の差がいずれ何か関わってくる……こともあるのだろうか。

 キング先輩のまっすぐな目を見ていると、どうしてもそう思わされる。

 

「だからもしぶつかったとしても、遠慮なく競い合いましょう」

「……はい」

 

 ……だから何もしない、なんてことは無いけど。

 勝てるなら勝ちを狙いに行くし全力で策を練る。それが競技者としての礼儀……権利以前の義務だ。

 

「さ、その前に……今年の大晦日も地味~に過ごしている後輩がいるみたいよ」

「ありゃ~」

「そりゃいますよねぇ」

 

 毎年相当数のウマ娘が入学してくるトレセン学園。実家と折り合いが悪かったり、ぼくのように金銭的事情で国に帰れないという子は一定数いる。

 大半のウマ娘が年末年始で実家に帰省していることから、そういう子は得てしてキング先輩の言うように「地味に過ごす」ことになる。

 

「一流の大晦日を過ごす権利をあげに行くわよ!」

「「「はーい」」」

 

 ……というのを見過ごすキング先輩ではないのだった。

 もちろんその人による部分があるが、年頃の少女がこの寒い時期に、一人ないしは二人で部屋にいて人恋しくないわけがない。多分キング先輩がその辺一番よく分かってる。

 なのでぼくたちもそのへんを汲んで、寮に残っているウマ娘に声をかけにいくのだった。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 1月。トゥインクルシリーズは基本的に学生が出走するレースということもあり、例年冬休み途中の平日5日、ないしは6日からシーズンが始まる。

 残念ながらぼくが出走して実力を発揮できるレースは上旬には無いため見送ることになっているが、それ以降のレースは中距離以上のものがそれなりに揃っている。

 が。

 

「どうして梅花賞*1に出られないんですか……!!」

「梅花賞が1勝クラスでお前はとっくに三連勝しとるからだ」

「ちくしょおおおおおおおおお!」

「ストライプがまた荒れておるぞ」

「1ハロン長いだけなのにね……」

 

 1月上旬の練習開始日。ぼくは思わず叫んでいた。

 なんということだ。2000m超えのレースがだいたい1勝クラスで出場権が無いなんて。

 2400のゆりかもめ賞も2月にあるんだぞ……そっちも出走できないっていうのか……なんということだ。

 

「よっぽどのことが無い限り、ここまで勝っとる分でも皐月賞への出走は問題無いだろうが万全には万全を期しておきたい……というのは分かるな?」

「3月は若葉ステークス*2に出ようって話ですよねー……」

「不満そうだな」

「2月のダイヤモンドステークス*3にねじこめません?」

「真顔でとんでもない無法を言うな」

 

 今からでも混合戦にならないかなあ……ダイヤモンドステークス……。

 ほら、ステイヤーズステークスも世代混合戦だし……無理かな……無理か……。

 

「ストライプさんって、そんなに長距離が好きなんですか?」

 

 そうして1月に若駒ステークス、2月はすみれステークス*4、3月に若葉ステークス――可能なら4月に皐月賞。

 ということで出走予定が決まったところで、フラワーから疑問が飛んできた。

 ……言われてみれば今日のトレーニングが始まってから、長距離出してくれと言ってる姿しか見せてないな?

 

「ううん、自分の実力が一番発揮できるからで好きとはちょっと違うかな」

「そうなんですか?」

「ありゃ? じゃあストライプが好きな距離って?」

1600(マイル)?」

「ワッザ?」

「うわ、意外なところ」

 

 これは単純にJWCの距離であり、ぼく自身がなんとなく見てて好きな距離でもある。

 短距離のスピード感と中距離の駆け引き、その双方を併せ持っているのがマイルだ。

 勿論、自分が走るとなると色んな意味で難しいのだけど。最速でそれこそ1分31秒ほどでゴールするマイルだとどうしても最高速が足りない。

 

「適性なんて知ったこっちゃない! なんて言えたらカッコよかったんですけど」

「いやオヌシはかなり適性広いだろう」

「東京大賞典3000mに戻してくれないかな……」

「シラフでとんでもない無茶苦茶言うよね」

JDD(ジャパンダートダービー)もダービーと同じ2400でやってほしいですし」

「スゴイヨタモノ」

「ストライプさんはダートも走れるんですか?」

「いけるよー。ただ、日本のレースだと距離がね……」

 

 日本のダートレースにおける最長距離は大井レース場における2600mの金盃だ。

 ただ、南関東所属ウマ娘じゃないと出走資格無かった気がする。中央所属でも出走できるのは、川崎記念とか? ただ、どれにしろあまり優先する理由がないんだよね……。

 

「フラワーはあんまりストライプのことは参考にしない方がいいよ~」

「ええっ、でもそんな……」

「いや本当にぼくのことは参考にしない方がいいのはそうだよ……長距離得意なのは体質の問題が大きいし……」

 

 ……なるほど、フラワーは距離適性のこととか、少し気になってたのかな。

 しかしこればっかりは何とも言えない。ぼく、全然路線違うし。

 トレーナーさんたちやスカイ先輩ともよく話し合って、自分に合った道を見つけてもらいたいなぁ。

 

*1
クラシック級中京6日目の芝2200m競走。クラシック級のこの時期には数少ない2000m超のレース。

*2
2022年現在皐月賞トライアルとなっているレース。阪神レース場芝2000m。

*3
シニア級G3。東京レース場芝3400m競走。

*4
阪神芝2200mオープン戦。




○作中設定等の解説&お知らせ
・お知らせ
 レースについてはG1及び作中で重要なレース以外は話のテンポアップのために芙蓉ステークスと同程度までカットする予定です。ご了承ください。

・キングヘイローの取り巻きーズの年齢について
 キングヘイローの育成シナリオにて「後輩」と明言されているので、前年時点で中等部2年のキングへイローの後輩=ストライプと同学年ということで設定しています。

・ニシノフラワーの飛び級設定について
 SSR賢さサポートカードで飛び級の設定が復活していることを確認したため、本作でも飛び級をしているということで確定しております。

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