【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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注目を受けるのも悪いものではない

 

 若駒ステークス。リステッド競走*1であるこのレース、リステッドに認定されるほど注目されるに至ったのは、かのレジェンド、ギンシャリボーイが出走したレースだからというのが大きいだろう。

 このレースに勝ったウマ娘は将来の三冠ウマ娘! ……かもしれない。

 なんということはない、過去のレジェンドの実績にあやかったゲン担ぎなのだけど、女子中高生は占いやゲン担ぎやゴロ合わせが大好きだ。注目されないはずもない。

 史実の場合、若駒ステークスが注目されるに至った理由はそれこそ三冠路線で活躍したディープ某などの存在があるのだけど、そこは一旦置いておく。

 ともかく、ぼくもまたこのレースに出走することになったのだけど、京都ジュニアステークスの時とは違って、今回は概ね理想通りの展開で進めることができた。

 

 まず、今回も作戦は前回と同じく逃げ。最初から飛ばし気味に行って前に出る。

 京都ジュニアステークスの時、一緒に走っていた皆はぼくが何をしてくるかという点に警戒しすぎて及び腰になってしまい、結果、まんまと逃げ切りに成功することになった。そのことはレース内容を見ていれば周知のことだろう。それを踏まえた上で、今回はぼくに対して上からフタをするべく前に出てくるウマ娘がいた。

 が。そもそも、こうやって前に出てくる展開こそぼくが前回狙っていたものだから、作戦をそのまま流用できて好都合。被せられたフタごと下から押し上げるように、後ろからつついて煽って時にはわざと前に出て競争心を更に掻き立て――――。

 

『序盤から超ハイペースで繰り広げられた消耗戦! 懸命に差しに行くもあと数歩届かずっ! 一着はサバンナストライプ!』

 

 あとは京都ジュニアステークスで当初想定していた、超ハイペースの潰し合い。スタミナ勝負の消耗戦に持ち込むだけだ。

 そして結果、まんまと今回はそれで勝ちをもぎとれた。

 

『今回は2バ身差をつけた「強い」レース運びでしたね!』

『ハイペースで流れる展開とペースの落ちない走り方が上手く噛み合いましたね。これからの中・長距離路線の注目株になりそうです』

 

 今回改めて思ったが、注目を受けるというのもそう悪いものではないようだ。

 あまり目立つのは良くない――と考えていたが、戦術としては目立つ=自分の戦術が知られている方が、警戒して逆に戦術の幅をある程度「見せたもの」に限定してくれるので、相手を余計にドツボにはめやすい。

 とにかく大事なのは先入観だ。強い! と思ってくれるなら儲けもの。高めに設定してくれたハードルの下をそのままくぐっていけばいい。

 ついでに「こんなことやるわけない」と思ってくれたら最高だ。やるわけないと思ってること全部やろう。むほほほ。

 

 ところで。

 

「あなたもう重賞含め4勝もしてるわけですから、ハンデキャップ競走*2のダイヤモンドステークスだと相当不利になりますね」

「ぐああああああああああああああああ!!」

 

 ぼくの出られるレースの数が少なくなった。

 そりゃあねえ! 世界的な傾向として長距離路線は縮小傾向だけれども! 3000以上のレースが無い!! ダイヤモンドステークス除いたらシニア級重賞は春の天皇賞と阪神大賞典とステイヤーズステークスしか無いじゃん!

 URAは純ステイヤーに厳しくないですか! 割とマジで! そこんところいかがですか!!

 

 ……さて、2月。立春と言いながら大雪が積もったり路面が凍結したり電車が止まったりとなんやかんや寒さが強調されるニュースが相次いでいる頃のこと。

 ぼくらのライバルであるところのメジロマックイーンはここでようやくメイクデビューを果たした。

 

「本当にクラシック逃してどうすんの」

「骨膜炎なのだから仕方ないじゃありませんの!」

 

 ……そして同時に、皐月賞への出走が絶望的になった。教室の皆も何気にこの件に触れるかどうか悩んでいるっぽい。なので、とりあえずぼくらが率先してイジることにした。

 そりゃ中には1月デビューで皐月賞に出てしかも勝つスカイ先輩みたいな事例はあるけど、流石に2月は遅い。中2週でレースに出まくって全部に勝つとかしないとダメじゃないかな……しかもよりにもよって走り過ぎが原因の骨膜炎まで患ってたんだから、今でも走り過ぎは禁物だし。

 ダービーも厳しいだろうなコレ……。

 

「もう割り切っていますわ。確かに残念ですが、私の目標は天皇賞。まずは春の天皇賞に臨むため、菊花賞への調整を完璧にするつもりです」

「どれ」

「お腹をつまもうとしないでくださいまし!!」

「ボク知ってるよマックイーン、メイクデビューで勝ったの嬉しくて食べ過ぎちゃったの~」

「ぼくも知ってるよマックイーン、パーマー先輩が怪我した時はヤケ食いしたし完治してリハビリ始まった時も嬉しくて食べ過ぎちゃったの」

「くぅうっ!」

 

 テイオーと二人してマックイーンの席の周りをくるくる回りながら両手の人差し指でつんつんする。

 変な儀式か何かかと思ったのかマーベラスとマヤノまで加わって異様な絵面になったりしたが、このクラスしょっちゅう変なことしてるものだからあまり気にするひとはいなかった。

 

 ところで、スピカのトレーナーさんは要所要所でアドバイスこそするし、それがウマ娘のためになることなら手間も協力も惜しまない人だ……が、トレーニングや生活面についてはやや放任主義のケがある。見方によってはそれだけ皆のことを信じていると言えるんだけど、スペ先輩の太め残りの件もどうやら気付いて放置していたらしいので、「失敗を経験して成長してもらう」という意図をもってあえて少し放任しているフシもある。

 教育方針は人それぞれ、チームそれぞれで違うのでこれが正解というものは無い。無いけど、合うか合わないかはある。スズカ先輩やスペ先輩の躍進っぷりを見る限り、あのひとたちにとってはよく適していたのだろうというのは間違いない。

 実際マックイーンも食べすぎはこれで懲りただろう。懲りたよね?

 

「ところで!」

「露骨に話題変えてるよ」

「露骨に話題変えたね」

「……そういう風におっしゃるストライプは既に皐月賞の有力候補に挙げられていますわね」

「そうは言っても本当に出走するものだろうか?」

「という揺さぶりでしょう?」

「バレたか」

 

 ワハハ。

 ま、実際そうだよね。ここまでで散々中距離戦出ておいて皐月賞だけ出ないなんて普通ありえない。いくら突飛なことをして他のひとを罠にはめようとしてはいても、それは結局勝つためであって「出ない」という選択肢は最初から無いのだ。

 

「まあ初めての大舞台だし? 落ち着いてラク~に走ることを優先させてもらおうかなーって思ってるよ」

「そうやって煙に巻くようなこと言うから性格が悪いとか言われるんだよ?」

「ライアンがこの場にいなくて良かったですわね。絶対に混乱させられるでしょうから……」

「えへっ」

 

 ライアン先輩、素直なひとだからなぁ……。

 変なこと言ったら信じてしまいそうだし、実は前から割と発言には気を遣っている。ぼくの性格知ってるテイオーたちなら、冗談で済むんだけどね……。

 

 

・・・≠・・・

 

 

 2月のイベントといえば。そう聞くと、多くの人が挙げるのがバレンタインだろう。

 友チョコや、トレーナーさんや教官さんたちへの文字通りの義理チョコだったり、まあ色々と……色々と需要が大きい。

 なので去年に引き続きチョコレートを仕入れて売りに出す予定なのだけど、それとはまた別に大きめのイベントがある。節分だ。

 ――が。

 

「豆はダメかぁ……」

 

 思ったより、だいぶ大豆が余った。

 ぼくは部屋で、大豆の袋の入ったダンボールを前にして軽くため息をついた。

 しかし考えてみれば、当たり前といえば当たり前だったかもしれない。大豆を食べるイベントといえばそうなんだけど食べる量自体はごく少量だし、大半は撒く……とは言うが、最近は衛生上の問題もあるし単純にもったいないこともあって、袋に入れたまま投げて後で食べるような流れになっている。

 で、その上で考えても大豆自体、そんなに消費量は多くない。

 なのでダダ余りだ。商売も時の運と言えばその通りなのだけど、いざこうして現実に直面するとそれはそれで軽いショックだ。

 そもそも日常的に大豆を食べる機会があまり無いと言えばそうだけど。

 

「ぽり……ぽり……」

「それ美味しい……?」

「癖になる……」

 

 一方でミークは、さっきからしばらく大豆をひと粒ずつ口に運んでいた。

 正直ちょっとわかる。

 でもしばらく食べたら急に飽きて余るんだよねこういうの。

 ……さてどうしよう。 仕入れた以上売らないわけにはいかない。かと言ってこのままだと売れない。となれば……。

 

「まあ、ともかく加工しよう」

「おー」

 

 ともあれ。

 大豆は加工を前提とした食品と言ってもそう過言じゃない。と言っても、ご家庭でできるのは加熱したり調味したりが主だけど……やろうと思えば豆乳も作れる。

 やり方は簡単だ。水に浸しておいた大豆をフードプロセッサーで細かくなるまで砕いたら、しばらく煮る。それが終わったらさらし布を使って絞って濾せばいい。濾した後の大豆はおからになる。基本的には煮物にするのが美味しいけど、作りようによっては色んな応用法がある。クッキーとか、ドーナツとか。どれも比較的カロリーが低いので、トレセン学園の生徒には人気……のはず。皆基本的に低カロリーに食いつきやすいからなあ……。

 

「そういえば……」

「どうかした?」

「起業をするとか……しないとか……」

「あ、もうしたよ」

「早い」

 

 起業するということ自体はそこまで難しいことではない。というより正確には「会社設立」ということ自体が難しいことじゃない、というのが正確か。資金調達して登記すればいいんだから。

 逆に、現状はそれだけだ。社屋ナシ、社員ナシ。お金だけアリ。そんな感じ。都内でオフィスを探すのも今はちょっと難しいし……考えが無いわけじゃないんだけど。

 

「そもそも起業はスタートラインなんだよ。利益を上げて、レースを作るまでがゴール」

「ジャパンワールドカップ……それ、結局どういうレースを……?」

「うーん……最初は、トゥインクルシリーズのどこかにレースをねじ込みたかったんだけど、『あ、何か違う』って思っちゃって」

「?」

 

 ケニアにいる時にはあまり情報の入る機会が少なかったドリームトロフィーのことを知ったからだろうか。レースを開催する場にこだわりが無いなら、ドリームトロフィーでの開催も視野に入るんじゃないかと、少し前に思った。

 トゥインクルシリーズはあくまで本格化を維持できている数年間で行われる世代最強を決める場。ドリームトロフィーは、本格化を終えて競走能力が低下しているものの、年齢的な老化を差し引けばより広い世代が同じ条件で競うことができる場だ。

 世界最強を決めるという趣旨を考えるとトゥインクルシリーズでの開催が適切なのかもしれないが、より広く……それこそ世代の垣根なく人を集めるならドリームトロフィーの方が向いている。

 

「……ドリームトロフィーなら、引退した先輩たちとも競えるだろうし。そっちかなって」

 

 あとこれはぼくの個人的な欲も含まれている。

 やっぱりジャパンワールドカップなら、皆と競ってナンボでしょというか……当初は、この世代はぼくしかいないものだと思ってたからそういう欲を出すまでいかなかったけど、やっぱりやれるなら本気で競いたい。

 ……興行メインだから、ある程度ルールに関しても自由がきく可能性だってある。だから、現役選手との交流戦なんかも……とか。

 何なら引退したウマ娘という枠組みで、チョクセンバンチョーやギンシャリボーイとも……なんて。

 ……そこまで望むのは流石に難しいか、うん。

 

*1
重賞に次いで国際的に格式が高いと認定されたOP戦。準重賞とも称される。

*2
獲得賞金額次第で重量のハンデが課せられるレース。賞金が多ければ多いほど負担重量が増えるため、強いウマ娘ほど勝ち辛くなる。






○ネイチャなどのカノープス組の年齢について
 現在本作ではナイスネイチャをトウカイテイオーたちと同じ学年に設定しておりますが、マチカネタンホイザの実装にあたって再度ストーリーを読み返したところ、両名がスペシャルウィークたちと同学年であることを確認しました。
 本作では初期にあとがきで述べた通り、アニメとアプリの設定を混ぜて使用しているため、アプリと設定が違う部分が多々ございます。現在、ネイチャはテイオーと同学年に設定しておりますので、タンホイザ等のキャラもこちらに合わせる予定にしております。「本作ではこういう設定」ということで、予めご了承ください。

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