10月始め。ぼくらのもとにマックイーン2着というニュースがやってきた。
今回は残念だったね、と寮で多少なりとも慰めの言葉をかけようとしたところ、ニュースを耳にした瞬間にテイオーとゴルシパイセンがタンバリンとカスタネットを持って煽り舞い散らしに行ったのは言うまでもない。
「あれ? 普段ならストライプも煽りに行くと思ったんだけど」
「ん? んー」
「何だよノリ悪ィなぁ」
「ノリで他人を煽るのやめていただけます!?」
いや、まあ……そういう気分じゃないっていうか……そういうことできる立場じゃないっていうか……。
「はあ……確かに、まるでストライプの戦法でも真似たような走りをしてくる方に負けた直後ですから、当のストライプに煽られでもしたら冷静でいられないでしょうしありがたいですけれど……」
「あ。そういやマックイーンに勝ったヤツ、オマエの店で見たことあんぞ」
「うっ」
「なんですって?」
ぼくは思い切り目を逸らした。
……まあ、うん、その通りなんだけど。
「詳しく、話を聞かせていただけます? 私は今冷静さを欠こうとしていますわ」
「そんなに複雑な話じゃなくって、マックイーンに勝ったあのひと、ぼくの経営してる店でバイトしてる先輩で……」
「ええ」
「最近勝てないって言うからじゃあコレコレこうしたらいいんじゃないですかーってアドバイスしたらその通りに」
「貴方、私のサポートをしたかと思えばそういう方面でアドバイスを送ってみたりどちらの味方なんですの……」
「敵味方って問題じゃないよ。マックイーンは友達でそれはそれ。先輩は雇用主ってことでこれはこれ。レース中のアレコレには流石にぼくも関与できないし、結果がどうなるにしてもそれは当人のことでしょ?」
「それは……まあ……そうですわね」
「ストライプってその辺割り切りシビアだよねー」
「シビアっていうか、競技者としての勝ち負けと人としての好き嫌いは別物でしょ。ライバルだからって日頃からバチバチにやりあわないといけないわけでもなし……」
まずぼく自身マックイーンと親しくはあるけど、他の場所での交友関係が無いってわけじゃない。当然チームのアレコレもあるし、会社を興した以上そちらの雇用関係だってある。単純な雇用関係のみならず、もうちょっと踏み込んで話をすることだってある。だからどっちの味方とも言えない。しいて言えばどっちにも勝ってほしいと思ってる。
レースはあくまで個人競技だ。ポテンシャルを出し切れるように支えることはできるけど、やれるのはそこまで。今の彼女たちにできるベストを尽くしてほしいから求めには応じたけど。一応これでも責任は感じてるから煽ることはやめとこうと判断したわけだ。
「つーかマックちゃんが油断しなきゃ差し切れてたって話じゃねーかよ」
「ぐうぅっ」
「先輩も油断を誘ったわけじゃないと思うけど、いい具合の位置取りされた時点で……ですね」
「で、コレってマックイーン菊花賞出られないってことだよね?」
「んー……ここまで連対率高いし、賞金は積んでるんだよね。ひとりでも回避したら出走できるとは思うけど」
さて、ここに来てせっかくのG1を出走回避とかするかな。
そこに関してはあんまり期待とかするようなことではないんだけど……。
・・・≠・・・
「和メイド服着てるフラワーはすっごいかわいいんですけどちょっと犯罪的じゃないです?」
「鏡見ろ」
聖蹄祭当日。バックヤードでふとした拍子にそんな疑問を投げかけると、シャカール先輩に一発で切って捨てられた。
……はて。10歳そこらのフラワーに和メイドコスをさせる、というシチュエーション自体が、どうにもちょっと背徳的な……と思ったのだが、何か思い違いでもあっただろうか。
「でもフラワーの年齢を考えると」
「10歳児の平均身長未満のてめェが言えるこっちゃないっつー話なんだが!?」
「……おお!?」
言われてみればそうだな?
……言われてみればそうだな!?
三年間毎年やってたけど、初年度にウオッカに指摘されて以降自分のことを省みることがあまり無かった分忘れてた。
「つまりぼくは合法ロリ枠……?」
「違法だバカ」
違法か。
14歳は違法だわ。
錯乱してんのかぼくは。
「つーか現実逃避してねェでとっとと表行け」
「シャカール先輩もですよ」
「あ゛ー……」
今年、シャカール先輩は去年までとは異なり和メイド姿だった。
原因はファインモーション殿下だ。「和風のメイドさんを? シャカールが? 見てみたいな~」という鶴の一声で決定してしまった。
なので去年までのそれとは異なりシャカール先輩は――本人曰く「オレには似合わねェだろ」という――フリフリ姿だ。気持ちは、まあ分からないではない。
「ンだこのロジカルじゃねェ格好……」
「恥ずかしいって気持ち毎回『ロジカルじゃねェ』って言葉で表すの、アレ正確に意図汲めなくて配慮できないからやめた方がいいですよ」
「母親みたいなこと言ってんじゃねェ!」
「ははは」
「てめェこそ一気にファン増えたからって逃げようとするんじゃねえぞ……」
「……ははは」
一方、ぼくは急激に増えたファンへの対応に苦慮していた。
夏合宿の時はまだ良かったけど、一般公開となった聖蹄祭になると想定してたより大幅に多いファンを迎えることになった。
去年の聖蹄祭もあってぼくの自分自身に対する認識というのは、戦法も見た目も基本「ニッチ受けするウマ娘」である。それでもG1を勝ったこともあって、多少ならず一般の人気を得たということも把握はしてた……のだけど、基本的にファンの姿はレース場で見ることになるし、どの人が誰のファンかなんて判別できないし、実態がどうかというのはよくわからなかった。
そしていざ開場してみるとなだれ込んでくる人の山。いきなりこんなに人が来るものかとビビったぼくは、一度バックヤードに駆け込んでしまっていた。
いや、うん……良くないことはわかってるんだけども……。
「ここまで増えますぅ……?」
「増えるんだよ。お前単にG1勝ったってだけじゃねェんだぞ。クラシック三冠の一角取った上でダートG1勝つようなウマ娘なんざ史上初だぞ」
「……おぉ?」
……そうか、「winning the soul」と「UNLIMITED IMPACT」の両方でセンター取ったひと今のところいないのか!*1
「単純に中央で縞毛のデビューが初な上に縞毛のG1獲得が初、この上また史上初が増えたらファンも増えるに決まってンだろ」
「そんな相乗効果が……」
言われて考えてみればそりゃ一回見に行ってみようとはなるわ。
なるほどよし、ファンサする気力湧いてきた。客商売ならともかくファンサとなると何すればいいかろくすっぽ分かんないけど!
ぼくはシャカール先輩の手を掴んだ。
「それじゃあ行きますか」
「オイ何だこの手は」
「いや、ぼくも表に出るんですからシャカール先輩も行きましょうよ」
「お前普段そんな強引なことするヤツじゃ……待て、まさかファインの差し金か!?」
「……身近な方からお願いされたとだけ」
「お前が身近な『方』なんて言い方すんのファインしかいねェだろ!」
「まあまあまあ! まあまあまあまあ!」
「クッソこいつ力超強ェ!」
殿下からのお願いだからどう、というのが――無いと言ってしまうと嘘になるのでまあちょっと一旦置いとくけども。
それを抜いても、せっかくの聖蹄祭なのだから友人と一緒にある程度ノリに任せて楽しまないと損というものだ。いつもと違う格好を見に来たというのに、一向に出てこないじゃあちらも楽しめないだろう。
あと基本、先輩後輩同期問わず「お願い♪」とか言われたらぼくはあんまり断れないタチだ。
その後、ぼくは大勢のファンに押しつぶされかけながらなんとか接客をこなした。
シャカール先輩はと言うと……ファイン先輩にベタ褒めされて悪態をついていた。褒められたことそのものは嬉しいのかもしれないけど、やはりああいう服は似合わないと判断しているのかもしれない。ギャップがあってお客さんとしても面白いと思うんだけどなぁ。
――他方。菊花賞に関しては出走者がひとりトレーニング中の怪我で出走を断念。素直に喜ぶわけにはいかないけど、マックイーンは無事(?)出走が叶った。
それはそれとしてゴルシ先輩にしばらくこれをネタにされることになるだろうことは言うまでもない。