【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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控え室で正座

 

「正座」

「はい」

 

 レース終了からしばらく。おおよそ脚の熱が取れたところでぼくは控え室で正座させられることになった。

 ……いやね、分かるよ? そりゃあぼく自身あれはマズかったと自己分析できるしこうなることも分かるんだけども。

 勝者の姿か? これが……。

 

「まあ色々言われるのは分かるんですけどぉ……大差つけましたしぃ……」

「大差がなんですか私は無敗三冠ですよ」

 

 マウントが強すぎる。

 この実績に言い返せるの日本で今のとこほとんどいないじゃん……。

 

「ていうかそれ言って大丈夫なんですか?」

「チーム内に留めて漏らさなければ大丈夫です。そもそもこの場にいる子は皆知ってます」

「アタシは無減速クロスステップ(アレ)教えてもらう時にな」

「ちょっと考えりゃ分かンだろ」

 

 えーっと……この場にいるひとが皆知ってるってことは、ドーナッツ先輩とシャカール先輩、スカイ先輩、リムジン先輩にフラッシュ先輩は知ってるわけか。

 逆に今香港にスナイパー=サンの応援に行ってるひとたちが知らないかって言うとそれは無いな……タキオン先輩は当然知ってるだろうし、デジたんパイセンも、何かの拍子にすぐ気付くだろう。少なくとも知らないとは思えない。ただ、フラワーと……あとスナイパー先輩はどうだろう。その辺はちょっと分からない。

 ……いやチームの大半が知ってんなこれ。知らないのぼくだけまであったぞ下手したら。軽く疎外感を感じる。単に伝える必要が無かっただけなんだろうけど。

 

「問題は記録ではなくレースの質です。押しも押されぬG1ウマ娘のあなたがそのザマでは後に続くウマ娘にも良くありません」

「続くひといます?」

「続こうにもコイツと同じような能力あるウマ娘滅多にいねーだろ」

「いないわけじゃないでしょう、同じ縞毛なら。これだけ先達が活躍すれば自分もという子は必ず増えます」

「やけに目がギラギラしてますよスカイ先輩」

「これはスカウトする気満々なヤツだねぇ……」

 

 まあ、トレーナー自体スカウトも含めて仕事だという話でもある。

 サブトレさんも何人もスカウトして、スカウトを受けたウマ娘がG1で勝利するなど実績を残してる以上目は確かだ。 何事に関しても自分基準でものを語りがちという致命的な欠点こそあるけど、そのあたりも含めて現在進行形でトレーナーさんに矯正を受けてる最中だ。あと2、3年もすれば一人前……になれるだろうかと、トレーナーさん自身は不安視していたけど。

 なんというか典型的な勉強「は」できるタイプっぽいんだよねサブトレさん。勉強ができる代わりに、他の何かこう……対人能力を投げ捨ててきたというか……改善しつつはあるんだろうけど……。

 

「ともかく、あの出遅れは論外です。自覚はあると思いますが……」

「……まあ、はい……考え事しすぎてました」

「珍しいねー、ストライプ、こういう時切り替え早いじゃん」

「普段はそうですけどね」

「何だ? いっちょ前に負けたこと気にしてやがったか?」

「はい」

「お、おう……意外と素直に言うじゃねーかオメー……」

 

 なんだか勘違いされがちだけど、ぼくは別に嘘をついたり捻くれたことを言うのが好きというわけじゃない。単にその必要があるからブラフと隠し事、明かすべき情報とそうでない情報とを選別して高効率を求めているだけだ。それこそ必要なら素直なことを言うのも別に躊躇いはしない。

 はず。

 

「素直ついでにもひとつ聞きてーんだけどよ、お前今日の走りの方がイキイキしてたけど、差しの方が向いてるとかねーの?」

「ありゃ差しってより捲りじゃねェか」

「うっせ」

「んー……まあやりやすいというか性に合ってるのは差したり捲ったりする方なんですけど」

「ですけど?」

「差せないんですよね残念ながら」

 

 これまでマトモに差すことができたのは、シードリングカップでの一回きりだ。それだってスカーレットやアイネス先輩の気質を利用した奇襲であって戦術として確立できてるわけじゃない。どんなに加速に優れていても最高速で劣るという問題は依然つきまとう。

 限界を超えるために固定観念は捨てないといけないが、それはそれとして現実は直視する必要がある。我ながら難しい話だ。

 

「競争相手全員、とまで言わずとも注意すべき相手が逃げや先行型の脚質であれば、差すことも戦術の内ですが……今のところ、ストライプの出走しているG1級のレースにはメジロライアンが出走していることが多いので、どうしても逃げで前残りを狙わなければなりません」

「油断を狙うだけなら差すのでもいいんですけどねぇ」

 

 そうするとどうしても差しウマ娘との追い比べになってしまい、最終直線での切れ味勝負ということになりやすい。

 ここまで逃げを主体としてきたのはそもそもライアン先輩の差し脚を最大限警戒しているからこそ、という側面もある。同じ土俵に立って瞬発力勝負となったら、最高速が遥かに劣る今のぼくでは勝ち目が薄いんだもの。

 

「そこまで自覚しておきながら……」

「いやホントすみませんって……」

 

 我ながらあれは無かったとは思います本当に。

 

 それから結局、ウイニングライブに影響を残さない程度に脚を痺れさせられることになった。

 サブトレさんこそ一度も出遅れなかったんですかー! と苦し紛れの軽いジャブで反撃したら、マジで一度も出遅れしたことが無かったことが判明した。

 ぼくらはドン引きした。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 12月中旬、有記念を目前に控えたこの日は公開枠順抽選会、及びそれに伴う記者会見が都心部のホテルにて行われることとなった。

 例年の抽選会に倣い、ぼくたちも勝負服でホテルに訪れた。当然と言うべきか、大きなハプニングなどは起きず、まずは粛々と枠順の抽選を終えた――のだが。

 

「………………」

「………………」

 

 ぼくとミークは、出走表を見て固まるハメになった。

 周りから見たら何を企んでいるのだろうと思っていることだろうが、正直何も考えてない。そんなことよりも頭痛薬が欲しい。

 

 2枠3番、スペシャルウィーク。

 2枠4番、メジロドーベル。

 3枠5番、メジロライアン。

 3枠6番、キンイロリョテイ。

 4枠7番、グラスワンダー。

 4枠8番、サバンナストライプ。

 5枠9番、キングヘイロー。

 5枠10番、ツルマルツヨシ。

 6枠11番、セイウンスカイ。

 6枠12番、ハッピーミーク。

 7枠13番、メジロブライト。

 7枠14番、マチカネフクキタル。

 

 挙げた面々以外もG1やG2を複数勝利している。これだけの役者が揃うのは、異例と言っても過言でないほどのオールスター具合である。

 なお、怪我や体調不良が重ならなければ、ここにアイネス先輩とマックイーン、エル先輩が加わることになり、予定が合えばスナイパー=サン。投票がもっと集まっていればパーマー先輩……のどちらかが加わっていた可能性まである。

 キング先輩は短距離・マイル路線に転向したのでは?*1 とか、ドーベル先輩もそろそろ引退のはずだったのでは?*2 とか色々言いたいことはある*3が、ツッコむのは一旦よそう。

 どちらにせよはっきりしているのは、現時点で既に地獄のようなレースになるのが確定していることだ。

 例えばドーベル先輩も上がりが近いし距離適性もそこまで合ってるわけじゃない……って言ったって、それまでに鍛えた基礎能力は疑いようも無く高いし、キング先輩なんか短めの距離に転向したって言っても、皐月賞で2着、スカイ先輩が引っ掻き回したあの菊花賞でも5着で掲示板入りしてて、実際の距離適性がよく分からないと言われる筆頭だ。去年の有で沈んだって言っても6着なら大したものだし、他の面々に関してはもう……説明するまでもないレベルの高さだし……。 

 

「――無論、前年よりも上。宝塚記念よりも更に上。より研ぎ澄ました走りをお見せすることを誓います」

「ありがとうございました」

 

 ……と、色々悩んでいるうちにグラス先輩へのインタビューが終わったようだ。枠番的に次のインタビューはぼくの番ということになる。

 

「続いてサバンナストライプさん、今回の有記念に対する意気込みはいかがでしょう?」

「素晴らしい活躍をされている先輩方ばかりで気後れしてますので、今回は胸を借りるつもりで走ります」

「…………」

「…………」

 

 すごい目で見られてる!

 みんな絶対「こいつ絶対こんなこと思ってないぞ」みたいなこと考えてるよコレ!

 今日のぼくいつも以上に素直なんですけど! こればっかりはまじりっけなしの本音なんですけど!

 

「日頃の行いだねぇ」

「人の心を読まないでください」

 

 にゃはは、とからかうように笑いかけてくるスカイ先輩だが、実際のとこそんな信じてないっぽいのが見て取れる。同じチームなのに信用度低すぎてウケる。

 いや、疑ってるようだけどマジで何もできないのが実情だ。ぼくの基本戦術は、データや経験則、知識から「強い」ウマ娘を封殺するための作戦を立てるのが主体となる。結果論として他のウマ娘も作戦にハメることになるのはよくあることだけど、全員を罠にかけることは根本的に不可能だ。あえてひとつ「全員を罠にかける」ことに成功した事例があるとすれば、戦略レベルでアレコレいじくり回して半年以上かけて準備した皐月賞くらいのものだ。

 では今回の出走者はどうか。見ての通り全員が超一流である。そして見事なまでに逃げ、先行、差し、追い込みと脚質がバラけていて、ひとつ対策を打つと別のひとがフリーになってしまって対策が対策の意味を為さない状態に陥っている。

 これガチで万策尽きましたわ♡

 

「…………今回は何も企んでませんよ?」

「嘘ね」

「うっそだぁ」

「それは無い」

「ありえませんね」

「ストライプさん! 嘘はダメです!」

「ちっくしょう誰も信用してくれねえ」

 

 ――地獄の有記念が幕を開ける。

 

 

*1
史実1999年ではスプリンターズステークスが12月開催だったため有馬記念に出走できていない。

*2
史実では1999年エリザベス女王杯で引退。

*3
マチカネフクキタル及びセイウンスカイは史実1999年時点では怪我のため出走できていないが本作では特に怪我をしていない。

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