【本編完結】ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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逆指名だろうか

 

 

 2月はじめ。バレンタイン商戦もクラシック戦線も激化しつつある中、ぼくらはつい最近勝ち星を上げた同級生と一緒に祝勝会としてケーキバイキングにやってきていた。

 もっとも、人数はそこそこと言ったところだけど。本日の主役はテイオーとカレン、ネイチャたち*1。主催側としてぼくとマックイーンとマヤノ、マーベラスにイクノ、などなど*2。タンホイザたちは用事があるので今日は来られなかった。

 テイオーはデビューから2連勝。カレンはメイクデビューこそ逃したものの、その後連勝をあげている。

 

「おのれ、当てつけかぁ……!」

 

 ……一方、ネイチャは先日の若ステークスでテイオーに先着され2着*3。あいにくと、今回の催しは残念会になってしまった。

 

「うーん、でもネイチャちゃんも惜しかったよ。もうちょっとタイミングが合ってたら、差し切れてたかも!」

「タイミングって何よ」

「えっ? んー……?」

「ストライプさん、言語化できますか?」

「あと3、4歩分くらい我慢してスパートをかけ始めたら、差が広がってテイオーが一瞬気を抜くことがありうるよね。負担は大きいけど、その我慢した分で残った体力振り絞って一瞬の速度を重視すれば、テイオーがゴールするのとほぼ同時に、奇襲気味にゴールして写真判定に持ち込めたかも……って感じ?」

「そんな感じ!」

「さっきの言葉からそこまで翻訳できるのおかしくない!?」

「あとそんな計算がレース中にできるのはあなたくらいのものですわよ」

「マヤできるよ」

「例外を煮詰めたようなちびっこ二人がアタシを追い詰めに来てる……!」

「ちびっこ!?」

「ちびっこ……」

 

 確かにマヤノもぼくも小さいが。オマケにぼくはマヤノより小さいが。

 耳含めたらギリで同じくらいの身長ということでイケるか……? いや、どっちにしてもネイチャの言う「ちびっこ」状態から逃れられないのでは……?

 ……それは置いとこう。ともかく、ぼくは計算でやってるが、感覚でそれができるマヤノは改めて恐ろしい。まだ頭の回転でのみ突出しているからいいけど、身体スペックまで備わったらもう手がつけられないだろう。

 

「まあ、でも、もしそうなってもボクなら勝ってただろうけどね~」

「言うねぇ」

 

 連勝中なおかげというのもあり、元々の気質もあり、ともかくテイオーは得意満面だった。

 大絶賛調子乗り中とも言う。まあ、半分はそう宣言することで自分の逃げ道を塞ぐ意図もありそうだけど……。

 マックイーンはその辺の機微に敏いためか、露骨に溜め息をついている。メジロ家の誇りを頻繁に掲げている自分にも心当たりがあるためだろう。

 

「目標は無敗の三冠だからね! ちょっとやそっとじゃ負けないよ~」

「ステイヤーズステークスでぼくと握手!」

「スプリンターズステークスでカレンとコラボ★」

「うわぁ!? 急に絶対有利な条件で挑もうとするのやめてよ!?」

「自信満々に言うから……」

 

 しかしちょっと待ってほしい。ぼくらは別にテイオーの心を折りたくてこんなことを言っているわけじゃあない。ただ自信満々な相手には挑戦したくなる、ある種ウマ娘らしい本能的な衝動に従っているだけだ。

 それはそれとして、自信があるならということでぼくらの主戦場に招いているだけである。無敵のテイオー様ならこの試練にもきっと打ち勝ってくれようぞ。

 

「でもテイオー、に限った話でもないけどさ。3600走れとは言わないけどそれくらいのスタミナは必須だよ。去年の菊花賞見たでしょ」

「あれは特殊な事例でしょうに……」

「ですが、時期が時期ですから非常に天候は変わりやすいはずです。ただ3000m走るというだけではないスタミナが求められる可能性はあります」

「ふたりはどうやって乗り切っ……あ、いやいいわ。アタシが参考にできるやつじゃないパターンだし」

「そう? ボクは聞いときたいけどなぁ。案外何でもできることかもしんないしねっ」

 

 うんうん、と別のテーブルに座っている子も同じように頷いて返す。軽く首を傾げて考えながらマックイーンと視線を合わせて、何を喋ったらいいかを視線だけで打ち合わせる。

 ……何言えばいいんだコレ?

 

「生まれて10年ちょっと標高2000m以上の高地で過ごして心肺機能を強化する」

「幼少期から適性を見てそれに合わせてトレーニングをして参りましたからなんとも……」

「本当に参考にならないやつだったよ……」

「どうしようもないわコレ……」

「そうかな? カレン、今の話もうちょっとちゃんと深掘りすれば、トレーニングに活かせると思ったよ?」

 

 流石カレン。本当に賢い。

 要はぼくのやってることは高山トレーニングの延長だし、マックイーンは自分の適性をしっかり見据えてそれに合ったトレーニングをしているということだ。これを個々に合わせて最適化することで、「個人に合った」トレーニングになる。

 マヤノは一見よく分かってなさそうな表情をしているが、これはアレだ。実際には超速理解してるやつ。ぽやーっとしてるように見えて頭はメチャクチャな勢いで回転している。なので多分カレンの言う「もっとちゃんと深掘りすれば」というのを、何も言わずとも極めて自然にやってのけている。

 うまく行けば、それこそ徐々にでも適性を伸ばしていくことは可能だ。1200までの適性だったのが1400まで伸びた……というようなケースもある。

 どうすればいいのか、と軽い悩みを植え付けた形になってしまったが、トレーニングのことはトレーナーさんと相談してもらうしかない。あくまでぼくらがやれる、というかやっていいのは方針を示すまでだろう。

 ……あ、そうだ。トレーニングと言えば。

 

「そういえばテイオー。タキオン先輩がテイオーのこと呼んでたよ」

「うぇぇぇぇぇ!? タキオン!? なんで!?」

「フォームのことで話があるとかで……詳しい内容は聞いてないけど」

「ヤダよー……ストライプが聞いてきてよー……同じチームじゃん……」

「え、そんな嫌?」

「薬の臭いがする」

 

 あ、そういう……。

 普段から予防接種とか採血とか嫌がってるの何度か見てるし、そういう絡みか。

 

「……あと、ぼくはあくまで元同じチームってだけで、今のタキオン先輩の所属は学園だよ」

「そういう問題じゃないよぉ!」

「今後の走りのことに関わってくるんだから、個人的には行くのをオススメするよ。ていうか引っ張ってでも連れてくよ」

「助けてネイチャ」

「いやこれはストライプが正しい。こういう風に言われるってことは、行かなきゃだよマジで。アタシの知ってる病院嫌いだったおっちゃんも、一回大病見過ごして酷い目に遭ったことあるんだから」

 

 一瞬ギクリとしたが、話のネタにできるということは無事なようだ。まあ「だった」って言ってるわけだから、今はある程度病院嫌いも改善されたのだろう。

 この辺はある意味、アスリート全体にも通じることだ。普通の人より遥かに頑丈なせいである程度「自分は大丈夫」という考えでいるひとも多いし、病院嫌いのひともいる。テイオーなんか病院嫌いの典型だ。

 

「……あ、タキオンお医者さんじゃないじゃん!? だったら行かなくっても――」

「お医者さんじゃないなら行けるよね」

「うわぁぁぁ!」

 

 自分で墓穴を掘りおったわ。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

「少しいいだろうか?」

 

 テイオーを、ウオッカとスカーレットを交えて三人がかりでタキオン先輩に引き渡した少し後のこと。ぼくは突然白いふわふわとしか形容のできないウマ娘(ひと)に呼びかけられることになった。

 

「でっか」

 

 思わず声が漏れた。

 目算、身長170cmくらいだろうか? リムジン先輩と比べたら小さいかもしれないが、それは単純に比較対象の問題だ。ぼくの周囲にいるひとと比べると、身長として一番近いのはシャカール先輩だろう。

 それにしたって全体的なボリュームがエグい。ぼくからすると、見上げるしかない状態な上にちょうど頭の位置にご立派なものが来る形になってしまう。髪の量と体格の良さも相まって、凄まじい威圧感だ。

 

「――誰の頭がでかいと!?」

「誰もそんなこと言っとりませんが」

 

 と、その発言のおかげでぼくはようやくその人物が何物なのかを把握した。一瞬何者かと思ったけど、ビワハヤヒデ――年齢的には先輩*4――じゃないか。

 まあいいか。突然何の用事だろう。

 

「んん゛っ…………突然すまない。私はビワハヤヒデという」

「これはどうもご丁寧に。サバンナストライプです」

「よろしく頼む。……さて、単刀直入に用件を伝えた方がいいだろうね。君のチームのトレーナーに紹介を頼みたいのだが……」

「え、うちです?」

 

 急にどうしたのだろうと思わないでもないが、ぼくが知る限り「ビワハヤヒデ」というウマ娘は、データ重視な上に、ある程度ウマ娘の自由にやらせる気質のあるうちのチームとの相性は良い。逆指名だろうか? いや、だとしてもチーフトレーナーが一線を退くのを発表している時期だ。もっと別の理由があると考えるべきだろうか。

 

「構いませんけど、どういう用件ですか?」

「本格化の時期についてどれだけの個人差があるのかと――少し、友人のことについての相談をね」

「わかりました。取り次ぎますね」

 

 どういう状況なのかを判断するのは難しいが、どういう状況であるにせよ判断を下すのはトレーナーさんたちの仕事だ。

 わざわざぼくを訪ねてきたのは……まあ、単純に他のひとを窓口代わりに訪ねてみることが難しかったという事情もあるかもしれない。スカイ先輩はなかなか捕まりそうにないし、スナイパー=サンは根がシャイなので人前に姿を現すことが苦手。シャカール先輩たちは……間違いなく面倒見の良いひとたちなんだけど、それぞれ人付き合いの仕方に微妙に癖があり、特に一見常識人であるフラッシュ先輩はスケジュール管理が非常に厳格で、行動パターンを知っていなければなかなか捕まえられないウマ娘のひとりだ。

 まあそういう点、ある意味ではぼくはチームの窓口役としてうってつけなのかもしれない、なんてトレーナーさんたちに連絡を入れながらふと感じた。

 

 トレーナーさんたちに連絡が通じたのは数分後のことだった。

 そのまま流れでハヤヒデ先輩を連れて部室に向かうと、渋い顔をしているサブトレさんと、対照的に朗らかな表情のトレーナーさんが目に入った。

 

「大変だろう、チーフトレーナー」

「本当にまったくその通りなのであと一年長くやる気は……! っ、と……ストライプ? と、そちらは、連絡にあった?」

「はい。トレーナーさんたちに用事があるそうなので連れてきました」

「ふむ」

 

 少し椅子に深く腰掛けたトレーナーさんの目が、どことなく値踏みするものに変わった。

 これもある種、トレーナーとしての職業病だろうか。知らないウマ娘を見るとどんな才能があるか見ようとする、みたいな。

 

「お初にお目にかかります。私はビワハヤヒデ。本日は、お二人にいくつか質問させていただきたく思い、参りました」

 

 軽い挨拶から入り、まず問いかけたのは「自分を含め、今の年齢で本格化を迎えていないウマ娘がいるのだが、どの程度個人差があるか。また、学園への在籍は問題ないのか」という点だった。

 こちらはまあ、軽いジャブのようなものだ。トレーナーさんたちは過去の事例を交えながら、トレセン学園の英語名に大学(College)の名が含まれている歴史などを踏まえて軽く回答してのけた。遅ければ成人間際にということもありうるとのことだった。

 これに関しては先輩も回答を予測していたらしく、でしょうね、とすんなり納得を見せていた。友人たちが不安がっていたというのが本旨らしく、ハヤヒデ先輩はほとんど気にしていないようだ。

 一般常識をある程度深掘りした程度の問題なので、「専門家に聞いた」という体裁が一番大事なのだろう。焦り始めた同級生や()()たちに説明するのに、本職のトレーナーに聞いたという前置きをするだけで一気に信憑性は高まる。

 本題は、むしろ後半だ。

 

「私の友人に、食が細く体格に不安があるウマ娘がいます。栄養学やトレーニング方法など、何か指針になるものを教えてはいただけないでしょうか?」

 

 その切実とも言える訴えに、トレーナーさんは少しばかり困ったような表情を見せた。

 

「言いたいことは分かるが、その友人の普段の食生活やトレーニング、食事量がデータとして分からん以上こちらから『こうだ』と示すのは難しい。まず、一週間分ほどデータをまとめてきてはくれんか?」

「逆に言えば、それさえあれば……?」

「断言はできんが、方向性は持たせられるだろう」

「そうですか。それだけでも十分です。ありがとうございます」

 

 丁寧に頭を下げるハヤヒデ先輩。もっ。と髪が追随していくのを見つつ、ふと思った。

 うちのチーム、ぼく含め体格で不安があるのにG1獲ってるウマ娘ふたりもいるんだけど。

 サブトレさんも同じことを考えたのか、苦笑しながらこちらに視線を寄越していた。

 

「そう焦らなくとも大丈夫ですよ。ベテルギウスに訪ねてきてくれたということは、このチームの戦績もご存知ということでしょう? ドーナッツや、それこそそこにいるストライプも、体格に恵まれなくともG1戦線で結果を残しています」

「なんならうちのチームでしばらく見るということはできません?」

「…………いや……それは……」

 

 今度はハヤヒデ先輩が渋面を作る番だった。そんな表情なる? と思うが……なるんだろう。多分……。

 少し考えて結論が出たのか、眼鏡を光らせながら先輩は手を前に出した。

 

「……友人付き合いをすることに問題は無いが、チームという枠組みに、こういう形で入れるというのはタイシン……その例の友人には向いていないと思う。せっかくの申し出だが、すまない」

「いえ、ちょっと言ってみただけなので……」

 

 ……ぶっちゃけ、ぼくの知る限りだとハヤヒデ先輩がそう評するのも頷ける。

 結構気難しいひとだろうし、専属で公私に渡って綿密なサポートができるトレーナーを探すのがベストだろう。一概に必ずしもそうだと断言するのは難しいけど……。

 

「ビワハヤヒデ自身はどうだ? うちのチームに入ってみる気は無いか?」

「……私ですか?」

 

 驚くことに、ここで動いたのはトレーナーさんだった。

 ここ数分のやり取りで何か感じ取ったのだろうか。その瞳は普段のトレーニング中に見せる程度の鋭さがある。

 

「なにぶん急な話ですし、私も今日は友人のことを相談しに来ただけです。少し考えさせてください」

「構わんよ。こっちも急な話で悪かった」

「いえ。それに――スカウトなら、どうか選抜レースでお願いします。私もそれに相応しいレースを見せましょう」

 

 丁寧な礼をして話を終えたハヤヒデ先輩を見送る。

 先輩の足音が遠くに行った頃合いを見計らうようにして、トレーナーさんの口元がニヤリと軽く持ち上がった。

 

「利紗、ありゃあ優秀な子だぞ」

「それは分かりますが少し自重してください」

「分かるんですか」

「それはまあ分かりますよ」

 

 ……トレーナーってこの短時間で、それも走ってすらないウマ娘の実力を見極めることができないとなれないもんなんだろうか?*5

 

 

*1
モブウマ娘含む

*2
モブウマ娘含む

*3
史実は3着。

*4
アプリ版では推定オグリキャップの下の学年、かつゴールドシチーより上の学年と推測される。

*5
父:長年の経験から来る洞察力/娘:直感。必ずしもできないとトレーナーになれないわけではない。





○BNWの年齢・学年
 本作では便宜的にストライプの二学年上(黄金世代の一学年上)という設定としておりますが、あくまで独自設定です。アニメ・アプリでの描写とは異なりますのでご了承下さい。

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