脇道のはずが、出すキャラ全員にできるだけ見せ場を作ろうと書いてたらやたら長くなってきたので前後編に分けました。
後編はできるだけ早めにお出しします。
本気と遊びとに関わらず、ウマ娘がレース以外のスポーツに関わる時、身体能力の関係上会場のスケールはどうしても大きくならざるをえない。
基礎体力や瞬発力、持久力の差もあるから一概にこうと断言はできないまでも、スピードだけ見れば2000m競走における人間の世界記録が4分45秒ほどで、時速換算するとおおむね25km/h。ウマ娘はだいたい時速60kmで走れるから、単純計算で2.5倍ほどの速度が出せるわけだ。
で、パワー面。一般論だが、ウマ娘の身体能力は成人男性の約三倍ほどともされている。が、そこんとこどうだろうと思わせるパワーを発揮しているウマ娘は割とそこら中で見られる。ベンチプレスの世界記録は508kg*1。これは強度的な問題で、人間の骨で持ち上げられる限界とも言われる。ただこの記録は、専用の器具を装着していることが前提だ。何も装着していない状態では300kgと少し、程度だとか。
一方、オグリ先輩は500kgをトレーニングでヒョイと持ち上げる。*2ぼくも……無駄に負荷をかけるだけに終わりかねないからやらないけど、まあ普通にできる。ボノ先輩は牧場で突進してきた牛を受け止めた例がある*3し、ファル子先輩が夏合宿の時蹴りで海を割っているのを見たことがある。
これを考慮に入れた上で運動場の広さを定めないといけないのだから、ルールを制定する側は大変だ。
基本的にファン感謝祭では、広大な敷地面積を誇りかつ色々と融通のききやすい練習用のコースを利用してイベントが催される。
広ければ広いほど良いというわけではないけど、ある程度広ければ選手同士が激突したりというリスクは減る。……サッカーみたいに一つのボールを追うことになる場合はそれもちょっと難しいけど、その辺はルールで縛るのが慣例だ。
そういうわけで春のファン感謝祭イン野球。ぼくたちは野球をしにコースにやってきていた。改めて見ても字面がおかしいなこれ。
そして問題はチームだ。
「黄金世代全員揃っとる!!」
「ああっ、ストライプが何らかのトラウマを……」
「いっやー、スペちゃん誘ったらそのままみんな来ちゃってねー」
ハマのテイオーチームことAチーム、このチームの顔ぶれはもう壮観としか言いようのないものだった。
テイオーにスペ先輩、スカイ先輩にキング先輩、グラス先輩、エル先輩、ツルちゃん先輩にスナイパー=サン。ここに堅実な活躍を見せるネイチャと、つい先日ぶっちぎりの1着でデビューを飾れたターボが加わる。現役勢と引退後のスター選手が揃った夢のチームだ。有馬思い出して吐きそう。
「そっちのチームも大概デース!!」
「せやな」
対するチームタテジマ(仮)。タマ先輩とマックイーン、ライアン先輩とぼくは既に決まっていたがそこからの追加メンバーがえげつなかった。
「タマが出るなら私も」とオグリ先輩。それに引っ張られてきてイナリ先輩。更に「オグリさんが出るなら」とヤエノ先輩にチヨ先輩。加えてそこにぼくが誘ったリムジン先輩とドーナッツ先輩が加わる。これもまた途轍も無いチームと言えよう。
ちなみにクリーク先輩はアルダン先輩の付き添いついでに応援の方に回っている。
「冷静になりなさいなストライプ。レースならまだしも、野球ですわよ……」
「言われてみれば!」
――もっとも、それはレースをする上では、という話である。
アスリートとしてのフィジカルならともかく、普段門外漢であるところのぼくらが別の競技にまで適性を発揮できるかと言うとそんなことは無い。勝手が違いすぎるし、普段使い慣れない道具を使うことになるせいで普段通りの身体能力を発揮できるとも限らない。
だからこそ、こういうファン感謝祭における競技が成立してる側面もあるわけで。
「アイツ普段思考ブン回してる反動か知らねーけど、ふとした拍子に
「ハイ……」
はい。
意図的にってわけじゃないけど、ほどよく知能落としていかないと面倒なことが多すぎて何も考えたくなくなるし……楽しむ時は余計なこと考えずに楽しんだりしたいし……。
さて。ともかくお互いに礼をしてベンチに向かう。先攻はこちらだ。
『さて、間もなくプレイボール。実況・解説は私イクノディクタスと』
『ゴールドシップ様でお届けするぜー。ピスピース!』
「あら……誘ったのに来ないと思ったら」
「誘ったんだ……まあ、ぼくとしてもイクノ誘っても来ないなと思ったけど……」
「誘ったんですの……」
残念だけど、実況や解説、アナウンスも花形なので仕方ない。
しかし、そこを言うならマックイーンが誘ってなかったのがちょっと驚きだ。実況をやるという風に伝えていたのだろうか。
「ミークは誘わなかったのかい? お前さんたち、よく一緒にいるじゃねえか」
「ミークはもう先にバドミントンに決まってたみたいで」
「なるほどねぇ」
イナリ先輩に指摘されたミーク以外にも、何人か声をかけたが別の競技に出るなどの理由で断られた。
たとえばハヤヒデ先輩は
『一番、ピーピードーナッツ』
今なにか変なテロップ出なかった?
「よぉし。にひひ、スパッと三振にしちゃうもんねっ」
「おうおう、できるもんならやってみろや!」
さて、ピッチャーはテイオー。エースで四番という最も目立つポジションを所望したそうな。
第一球。振りかぶって――投げた。
「ボール!」
「あれ?」
『一球目外してボール。出だしは様子見でしょうか』
『あれ外したんじゃなくて外れてねーか?』
「どうしたんですかテイオーさん!?」
急に難しい顔になるテイオーと、対して
フフフ、自信家のテイオーも流石に理解したようだな。
「……ストライクゾーン狭っ!?」
「フハハハ今頃気付いたかァ!」
ドーナッツ先輩の身長は大概小さいと言われるぼくよりも更に小さい。タマ先輩>ぼく>ドーナッツ先輩というくらい小さい。
一般的に、ストライクゾーンはバットを構えた時の姿勢で決められる。無理矢理体を屈めて構えたりしたら、審判の裁量で元々のストライクゾーンとして判定されるものの、ドーナッツ先輩は素であの身長だ。正確にストライクゾーンを判定するなら、下手をすると一般女性の半分ほどになるのではないだろうか。
これがプロの選手なら低めに集めてストライクを取れるのかもしれないが、ぼくらは皆たまに暇な時にやる程度。狙ったコースに入れることに意識を向ければ球威やスピードは相当落ちて絶好球になってしまうことだろう。
結果は、案の定フォアボール。この出塁率の高さがドーナッツ先輩が一番に選ばれた理由だった。
姑息コールに高笑いで応えてるあのひと……。
『二番、タマモクロス』
「ほなひとつやらしてもらうで」
そう言うと、タマ先輩はバットをスッと上に持ち上げ、ある地点を指し示した。
それは……。
『これは予告――ファールです』
「何で!?」
『いや違うぜ……よく見ろ。完ッ全にアタシを指し示してやがる』
「もっと何で!?」
「おどりゃゴルシィ! ウチは借り物競争の恨み忘れてへんぞ!!」
『おおっと、こいつは場外乱闘発生かぁ!? 必要とあらばグランサイファー*4やパルペプラ*5を渡り歩いた*6アタシの戦闘力が文字通り火を吹くぜ!』
『胡乱なことを言っておりますが試合は続行します』
なんだか今聞き捨てならないことを言ってる気がするんだけど?
三女神様これスルーして大丈夫なやつ?*7
というかイクノこれで即続行の判断下せるの敏腕すぎない?
「チヨ先輩」
「なんですか?」
「これ完全にぼくらのが悪者じゃありません?」
「……『ターフに善悪の境無し』です!」
さて。
「ストライク! バッターアウッ!」
「ぬあああああああ!!」
『おい何やってんだー!!』
さっきよりもストライクゾーンが広がった結果、比較して入れやすくなり普通にアウトを取られてしまった。
当のゴルシ先輩から野次が飛ぶあたり、ある意味オチがついてオイシい状況ではあるのだが。
『三番、オグリキャップ』
オグリ先輩が打席についたところで、観客席から大きな歓声が上がった。
流石オグリ先輩。引退後もドリームトロフィーで活躍してるおかげで、人気は未だ衰え知らずだ。というか、人気が完全に定着してると表現した方がいいかもしれない。
「ここはタマの分まで私が頑張ろう」
「タマモクロスさんの分まで……ということは、二番の役割として送りバントを――」
「いや、ここは普通にヒッティングで」
「ストライプ、何で?」
「細かいこと考えるより思う通りに楽しんでくれた方がオグリ先輩には適してますから」
あと、そもそも観客の皆さんはガチガチの戦術のやり取りを見に来てるわけじゃない。そういうのはプロ野球の領分だ。
送りバント自体が難しいのもある。下手に構えただけでは勢いを殺しきれずにゲッツーコースに行くだろうし、何より当てるのが難しい。だったら普通に打つ方がいいのは間違いない。
――で、結論から言うと、オグリ先輩は難なく理想的なライナー性のセンター返しを見せた。
これでワンアウト一、三塁。得点圏に送ったところで、次のバッターは四番、こちらの主砲だ。
そこはかとなく感じる不安感は胸に押し込めておく。
「よろしくお願いします――押忍ッ!!」
「気合入ってますね~」
ああ、いけない。スカイ先輩に気合の入り過ぎを気取られてる。
生真面目なのが……悪い方向に働いているとは言わないけど、これはどうなるか分からないな。
一球目、二球目はタイミングを合わせるために空振りと見逃しでストライク。そして三球目で構えを取ったところで――。
「おや、子供さんも来てるんですね」
「ん――――あっ」
あ、やっべ。
ヤエノ先輩は可愛く小さく、庇護欲を掻き立てられるものに対して非常に弱い。それでパワーを発揮するケースもあるけど、多くは力み気味で適切な力加減を保つことができてない。結論から言うと、力みすぎによる空振りだ。
「ささやき戦術とは……!」
「まあスカイ先輩ならやるか……」
多分ぼくでもやる。通じるかどうかは度外視して。その方が面白いから。
それにしたって、通じる相手を見定める手腕は流石だ。
「あっちがやると思うなら先言っといてや、っていうのは野暮か?」
「先にやると言われて対処できます?」
「アカン、ドツボにハマるやつや……」
言っても言わなくても、知ってても知らなくてもハメてくるのがスカイ先輩の怖いところだ。
いや、そこはそうなるように仕向けている、と言うべきなのだろうけど。ぼくも度々参考にさせてもらってる。
これでツーアウト。
『続いて五番、ハリウッドリムジン』
「よろしくお願いしマス」
しかし、元から分かっていたことだけど、デカい。ドーナッツ先輩と比べると更にその辺がわかりやすく浮き彫りになる。
それは同時にストライクゾーンが、下手をするとドーナッツ先輩と比較すると倍ほどの大きさになっているということでもあり……五番になったのも、それらを原因とする多少の不安定さからだ。
しかし、パワーだけを見れば間違いなくチームトップ。ヤエノ先輩と方向性こそ違うが、当たれば飛ぶ主砲には間違いない。
「そういえばストライプ、オグリさんの時も思いましたが、あなた指示とかしませんの?」
「監督でもないんだししないよ。というかマックイーン、ぼくのこと過大評価しすぎじゃない? 野球は専門外だよ……」
「てっきりあたしはそういう知識も仕入れてるもんだと思ったんだけどねぇ……」
仕入れてると言ってもせいぜい漫画知識だ。普通にテレビ中継とかで試合見てる人の方が遥かに詳しいと思う。
アドバイスできることがあるとすれば、何だろう。作戦の仕掛け時とか、虚の突き方とかだろうか。
試合の方は――まず一球目、ボール。球威は良いが、厳し目のコースを突きすぎだ。二球目もボール。
これはストライクゾーンに入れたくても入れられない――言葉だけだとドーナッツ先輩と同じだが、ニュアンスはかなり違う。物理的にストライクゾーンに入らないのがドーナッツ先輩。リムジン先輩のそれは、フィジカルが図抜けているため「ストライクゾーンに入れると打たれそう」という心理的な圧迫感が原因だ。
テイオーが不満顔なのを見るに、際どいコースを指示してるのはスカイ先輩かな。タマ先輩に目配せすると、スッとリムジン先輩にサインを送った。
「なんですか? 今の」
「そろそろ甘いコース入りそうなので」
「なんなんですか、その読みは……」
「あ、本当に甘いコースに」
『打ったぁぁぁ!! ここで痛恨の直撃ィ! こりゃあデカいぞぉ!』
「……指示できてるじゃありませんの!?」
そう言っても多分このくらいはマックイーンでも予測できる。一回既にフォアボールを出している現状、テイオーは何度もフォアボールを出すことは避けたいはず。スカイ先輩が大局を見て際どいコースを要求しても、「そろそろストライクを入れたい」という気持ちが勝って、指示に対して首を横に振ってしまうわけだ。
大きい、が、ホームラン……は無さそうだ。だいたい外野ギリギリ、ライト深い位置。ターボが全力疾走で追っている。
「うりゃああああああああああ!!」
「ターボさん、こっちに投げなさい!」
「わぁかったぁ!!」
『中継――できてなぁい! あらぬ方向に大暴投ッ!』
「ちょっとぉぉぉ!!」
中継としてセカンドのキング先輩に投げてもらおうという指示は的確だったが、応じられるかは別問題だ。狙ったところにものを投げるというのは相当難しいことで、何ならターボじゃなくても同じことが起きることは十分ありうる。
――が、今回のそれは更に想定と違った。暴投だと思って速度を上げたリムジン先輩を追い越すようにして、ターボの投げた球は吸い込まれるようにしてサードのエル先輩のグローブに収まったのだった。
ウマ娘の筋力は桁外れだ。暴投でもその速度は相当なものだった。
「ケ!?」
「……Ah……アー……」
走り出したウマ娘は簡単に止まれない。下がりきれずにリムジン先輩はそのままエル先輩にタッチされアウト。まさかの珍事に、会場は大いに盛り上がることとなった。