破面娘のいる非日常   作:塩レモン

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2 掴んだ力

 

 

 

二度あることは三度あるとよく言うが、これは酷いと思う。

 

兄に助けられたあの時から強くなりたいと思うようになり、とりあえず筋トレを始めてみたのだが、ランニングの途中にまた突然化け物、虚に襲われてしまったのだ。

 

最近なんとなく気配、霊圧ってやつを感じ取れるようになったお陰で頭上から襲いかかってきた虚の不意打ちはなんとか躱すことができたのだが、奇声を発しながら伸びてくる無数の触手に捕まってしまい、今まさに食われそうになってしまっている。

 

こんな時に限って未来視は発動してくれないとは、目ん玉の癖に主人が大切ではないのか。

 

 

首にはスンスンが巻き付いている。ギュウギュウに苦しいくらいに引っ付いていて逃すこともできないが、そんな必死に俺と一緒にいてくれることに嬉しいと思っちまってる俺はとんだクソ野郎だな。

 

 

触手から放され、ゆっくりと虚の大口へと落ちていき、バクンと食われる。霊的な存在のくせに若干臭いし、グニョグニョしていて最悪の空間だった。

 

 

『おいおい、諦めるのか?』

 

 

身動きが取れず、このまま死ぬんだろうなと、嫌に冷静になっていた時にそれは聞こえた。

 

若い男の呆れた声が頭に響き、そのまま友達のように気安く語りかけてくる。

 

『まぁ、俺も人のことは言えないんだが…お前はまだ生きている。まだ踏ん張れる筈だぜ』

 

「いや、誰だよあんた…」

 

『あー俺は…って呑気に自己紹介してる暇はねぇぞ。このままだとお前、魂魄ごと溶かされて消えちまうぜ?』

 

「いや、どうにかできるならしてるっての…俺はちょっと幽霊が見えて、ちょっぴり未来が見えるどこにでもいる美少年なんだよ」

 

『はっ、だから踏ん張れっての。俺が力を貸してやる』

 

「力…?」

 

『ああ。俺の魂だ。身体は朽ち果てようとも、俺の魂は、心は死んじゃいないってことをこのクソ野郎に思い知らせてやってくれねぇか』

 

身体が暖かな何かに包まれ、息苦しかった呼吸が僅かに楽になり、拳に力が込められていく。

 

『それに、その虚。お前にとって大切なんじゃねぇのか。人を助ける虚なんて聞いたことねぇが…いい心意気だ。俺は認めるぜ』

 

「スンスン…」

 

真っ暗だった視界が開ける。

 

眩い光が声の主を照らし出す。兄と父に似ている、どこか安心感を覚える青年が笑みを浮かべてそこにいた。

 

『さぁ!叫べ!俺たちの心は誰だろうと奪えるものじゃあない!お前の魂を響かせろ!!』

 

そうだ。俺はまだ死ねない。…美少女となったスンスンとデートして、ハーレム作るその日まで死ぬわけにはいかないんだぁぁぁ!

 

『ぶははははっ!最高の心だな!くくく、さぁ、踏ん張ったならもうそこにある筈だ。力を取れ。拳を握れ。その名を叫べ!』

 

力を込めた手が何かを握りしめた。頭にイメージが浮かび、霊圧がより鮮明に強く感じられていく。

 

握ったそれに力を込め、浮かび上がったその名を共に叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「水天逆巻け」』

 

 

 

 

 

 

『「捩花(ねじばな)!!!!」』

 

 

 

 

握りしめた長槍を天へと翳した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

『ギッッゲェェェッ!!?』

 

気色の悪い空間を手にした槍で突き破り、外へと脱出した。虚の悲鳴が酷く耳障りだ。

 

先ほどまでの息苦しさも無くなり、こんな訳も分からない状況だと言うのに頭は落ち着いていた。

 

『ガッ…ギャァァァ!』

 

奇声を上げながら襲いかかってくる虚を俺は槍を構えて迎え撃つ。

 

槍なんて振るったことあるわけないが、未来を見せる目のおかげで虚の攻撃は全て躱わすことができ、その隙をついてがむしゃらに槍の先端の刃で虚の身体を切り裂いた。

 

「ザマァみろアホ面っ!」

 

『ガァッ!!』「痛いぃぃっ!」

 

ボコリと虚の肩からもう一つの顔が浮き出し別々に声を上げる。

 

「僕たちの力がっ!」『ヨクモ奪ッタナ!!』「喰い殺してやるっ!」

 

虚がドタドタとこちらへと突進してくるが、全く恐怖は感じなかった。

 

「今まで好き勝手奪ってきた奴がふざけたこと言ってんじゃねぇ!」

 

怒りのままに槍を突き出し虚の突進を受け止める。目一杯踏ん張り、より鮮明に感じ取れるようになった霊力を思いっきり放出した。

 

「うおおおおおっ!!」

 

『ギッッ!ギャァァァ!!』「ぐぁぁぁぁっ!」

 

突き出した三叉槍は激しい流水を生み出し、虚の身体を内側から貫き、振り下ろした刃先から飛んだ水の斬撃は虚の体を真っ二つにした。

 

「すげぇ…」

 

『はっはっは。やるじゃねぇか。俺もスカッとしたぜ」

 

「なぁ、やっぱりこれって死神の力なのか?」

 

『ん?なんだ知ってるのか?』

 

「まぁ、ちょっとね」

 

これは兄から感じた力と同じものだ。服装も同じ黒装束になってるし、俺は槍で兄は馬鹿でかい刀だったが。

 

『本当は現世のやつに死神の力を与えるなんてのは違反も違反なんだが、まぁ俺は死んでるみたいなもんだしかまわねぇだろ』

 

「え?」

 

『ん…?…あっーと、そろそろ限界か…。じゃあな。俺が消えても、その力は消えない。もうお前のものだからな』

 

「待って。最後に名前だけでも教えてよ。命の恩人だからさ。心に刻んで、一生覚えておくよ」

 

『…海燕だ。はは、やっぱ覚えてもらうってのは良いもんだな。じゃ、お前の心から見守っとくぜ』

 

その言葉を最後に男の気配は完全に消え去った。長槍を握りめしると、朧げな自分のものではない記憶が脳内を巡る。さっきの男の人、海燕さんの記憶だろうか…勝手に覗いちゃ悪いだろう。ブンブンと頭を振り、記憶を消してから服の内側に入っていたスンスンを抱きしめて霊力を送り込む。

 

虚であるスンスンは霊力を送り込むことで怪我を回復できるようだ。最初に出会った時も俺は無意識のうちにスンスンに霊力を渡していたのだろう。

 

「うっ、おお?」

 

グラリ、と体が揺れ、そのまま倒れ伏す。貧血の10倍ぐらい辛い気持ち悪さに俺の意識はそのまま暗闇へと落ちていく。

 

最後に見た景色はこちらを面白そうに見下ろす帽子を被った胡散臭い男だった。

 

 

 

 





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