楽しんでいただけると幸いです。
俺が雪ノ下と付き合ってから少しの時間が経ち、俺たち奉仕部含め2年生のほぼ全員が3年生になり、進路を本格的に考えなければいけなくなってしまった。多分浪人生はいないんじゃない?いや、浪人生はいない(確信)
なぜなら戸部ですら3年生になっているから。てか、おかしくない?なんで葉山グループ全員いるの?クラス替えしたよね?
この怒りをどこにぶつけようかと考えていると、葉山グループの方から視線を感じたためバレないように机に突っ伏した格好になり、チラチラと横を見る。
なぜ視線を感じれるかって?それは俺がプロフェッショナルなボッチだからである。カッコよかったな。もう一回言っていい?それは俺が(以下略
ふざけた思考は一度捨て置き、今一度葉山グループへと、目を向ける。獄炎の女王こと三浦は愛も変わらず高速な指捌きでスマホをしながら、チラチラとこちらの方を見ていた。
恐ろしく早い指捌き俺じゃなきゃ見逃しちゃうね!!
みんなの葉山隼人もこちらを見ながらクラスの奴らと話をしていた。だが、2人とも俺を見ていたわけではないようで、その視線は俺の左後方へと向かっていた。
「ヒッキー!」
大きい声ではあるが、うるさいとは感じない優しい声音。俺のことをこう呼ぶのはただ1人。
「一緒に、行かない?」
振り向くとそこには、首を傾けてこちらを見る、由比ヶ浜結衣がそこにいた。
てか、俺見てたんじゃねえのかよ。恥ずかし。
Q.一緒にどこ行くの?
A.遠足という名の拷問。
総武高校は今年で創立10周年らしく、創立記念といいますか、なんといいますか、ええ、そんな感じです。
高校生にもなって遠足とか、まじなくない?ちょーだるいんですけど。などと考えていると
「ヒッキー無視しないでよ!」
由比ヶ浜の声によって現実に引き戻される。
「悪い悪い。一緒にってお前三浦達はいいのかよ」
今回の遠足もとい創立記念行事では4人の班になって行動するらしい。
つまりぼっちにとってはなんとも厳しいイベントであり、当時は雨が降り中止になってほしいため、てるてる坊主を逆さにして吊し上げるまである。
そんなのはさておき、由比ヶ浜はカースト層における最上位の人間であることを全員が知っている。しかも獄炎の女王三浦様のグループの一員であるため、一緒に行くことはないと思ったのだが。
「今回4人でしょ。由美子が隼人くんと姫菜と、とべっちと行くみたいで、私あぶれちゃったの。だからヒッキーどうかなーって。」
少し頬を染め恥ずかしそうにしながら俺を誘う由比ヶ浜。まあ俺は凶悪な一部分に目線を誘われそうだが。
その羞恥は、あぶれた事に対してなのか、それとも俺という人間を誘うことへのものなのかは分からない。奉仕部の部員として、短くない間由比ヶ浜結衣という人間に触れてきたが、分からないことが多いのだと痛感させられる。その事実が歯痒く感じた。
さっきも言ったが由比ヶ浜はカースト最上位の人間だ、俺のようなカーストの最下層。いや、そのカーストの外に存在するような人間と一緒に遠足に行けばどのような悪口を言われるのか分かったものではない。
「いやお前、俺と一緒にいるとあれだぞ。色々言われるかもだぞ。キモいとか、臭いとか、陰湿だとか、キモいとか、あとキモいとか」
「すごい言われようだ!?」
でもね、と由比ヶ浜は続けて口を開く。
「周りがどうとか関係ないよ。私はヒッキーと行きたい。他の人がどう思うかなんてどうでもいいんだ。だからヒッキー、一緒にいこ?」
真っ直ぐ。良くも悪くも真っ直ぐな視線とその言葉に、俺は思わず息を呑む。
1年一緒にいただけでは分からないことが多いのは当たり前で、たった一年関わっただけで、その人間の全てを分かろうだなんて烏滸がましい。家族だって分からないことがあるのに、他人がその人間を完璧に理解しようだなんて、無理なのは分かっている。しかし、この真っ直ぐな視線と、誰よりも優しい、由比ヶ浜結衣という少女の本質はこの1年で、理解したいた。いや、理解させられた。
そんな真っ直ぐな少女に、俺は少しの間言葉を紡ぐことができなかった。
「由比ヶ浜さん。僕も一緒だけどいいかな?」
そんな俺を見かねてか、マイラブリーエンジェル戸塚が声をかける。
部活に行く準備を終えたのか動きやすいテニスウェアに着替えている戸塚を見てると、こうふ...なんとも形容し難い気持ちを抱いてしまう。
などと1人ごちに唸っていると、由比ヶ浜からヒッキー?と声がかかる。
「戸塚がいいなら構わないぞ」
やった!!と喜ぶ由比ヶ浜、よろしくね。と笑顔の戸塚。
最後の言葉は自分で思っていたよりもすんなりと口に出せた気がした。
***
「それで、あと1人は?」
喜ぶ2人を尻目に、俺は2人へ問いかける。今回は4人グループを作らなければならない。クラスの人数は28人なのを考えると、余りが出ることも許されない状況だ。
「あ、もう1人はもう決まってるよ。サキサキに声かけといた。」
意外!超意外!超絶ブラコンシスコンお姉ちゃんがOKするとは。というかまた同じクラスなのか。クラス替えしてもほとんど変わってねえじゃねえか。
噂のサキサキの席のほうを覗くと顔を若干赤くしたサキサキがこちらに近づいてくる。
所々着崩した制服にすらりと伸びる長い足。改めて見るとスタイルいいなこいつ。
「その、よ、よろしく」
少し震えた声でそう言った川崎。そんな川崎に俺が返す言葉はもう決まっていた。
「こっちこそよろしくな。サキサキ」
「な!?あ、あんたねえ!」
さらに声を上擦らせ、顔を赤くした川崎。ムスーと頬を膨らませる由比ヶ浜。あははと困ったように笑う戸塚。
クラス替えも悪くないなと、俺らしくない思考になっていく自分に笑みが溢れそうになる。
10年前、総武高校に植えられた桜の木が春の訪れを感じさせるように花びらを散らす。少しの陽気を取り混んだ春の風が、俺達の髪を撫でるように通り過ぎて行った。
「あら比企谷くん。あなたのような人が女の子と楽しくお喋りかしら?」
ドアの外から聞こえる声に。春の暖かさが消え、極寒が訪れた。
ありがとうございました。