錦の輝き、鈴の凱旋。   作:にゃあたいぷ。

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長らくお待たせしました。
書くのに随分と時間が掛かりました。
労力の割に読みにくかったので、たぶん同じことは二度としないです。


第25話:有マ記念

 12月第4週、中山レース場。有マ記念。

 ウマ娘の三女神も本日を待ち望んでいたのか、快晴の良馬場で絶好のレース日和と相成りました。

 入場者数は過去最高を記録しており、多くの観衆に見守られながらの開催となります。

 パドック会場も例年以上の熱気と賑わいを見せております。

 

 さあ、カーテンの向こう側から最初のウマ娘が姿を現します。

 


▼パドック早見表

1枠 1番11人:スズマッハ

1枠 2番 6人:ニシノライデン

2枠 3番 1人:ミスターシービー

3枠 4番 8人:メジロシートン

3枠 5番 4人:スズカコバン

4枠 6番 2人:シンボリルドルフ

5枠 7番 7人:トウショウペガサス

5枠 8番 9人:サクラガイセン

6枠 9番16人:キョウワサンダー

6枠10番 3人:カツラギエース

7枠11番13人:ダイアナソロン

7枠12番10人:ロンググレイス

7枠13番 5人:デュデナムキング

8枠14番12人:モンテファスト

8枠15番14人:スズパレード

8枠16番15人:ハーディービジョン

 

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◾️1枠1番スズマッハ

 

 1枠1番スズマッハ。本日は12番人気。

 戦績こそ10戦2勝、されど侮るな! 東京優駿では惜しくも2着で破れましたが、最後の直線で見せた最後方から彼の皇帝を追い詰めた猛追劇は今も記憶に新しい! 続くセントライト記念では3着、京都新聞杯でも3着、菊花賞4着と東京優駿から続くクラシック路線4レースを掲示板内に収める安定した結果を残し続ける実力者でもあります!

 決して侮れるウマ娘ではありません!

 追い込み一気の末脚は、この大舞台でも冴え渡るのか!

 鈴風スズマッハ。気合は充分、鋭い双眸が睨み付けるはゴール板か、同期の好敵手か!?

 それとも、まだ見ぬ歴戦のウマ娘か!?

 

 入場時、例年以上の熱気を見せる会場の空気に呑まれたようにも見えましたが、今は持ち直していますね。

 良い状態を保っています。シンボリルドルフが居なければ、ダービーウマ娘になっていたかも知れないウマ娘です。

 もしかしたらがあるかも知れませんよ。

 それにしても、今日の盛り上がりは異様です。

 先ずは、この大歓声によるプレッシャーを退けるところが最初の登竜門になりそうですね。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 耳につけた鈴の飾りが、リンと涼しげな音を鳴らした。

 パドック場に姿を出した時、出迎えてくれた歓声の余りの大きさにビクリと身を震わせる。

 皐月賞の比ではない。菊花賞でも、まだ劣る。東京優駿でも、まだ足りない。

 

 震える体を引き締めて、確と前を睨み付けた。

 こんなところで臆してはいられない。これから戦う相手は今まで以上の難敵だ。

 勝てる見込みは万に一つもない。

 のであれば、万が一にも満たない勝機だけは絶対に逃さない。

 

 シャン、と鈴の音を鳴らした。

 今日の他ウマ娘が発する重圧に比べれば、この程度の観衆は屁でもない。

 私、スズマッハは勝ちに来たのだ。

 

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◾️1枠2番ニシノライデン

 

 神戸新聞杯で2着、京都新聞杯で1着。菊花賞で3着。

 潜在能力は未知数の天真爛漫なウマ娘、夏の死闘を経て有マ記念に殴り込み!

 1枠2番ニシノライデン!

 重賞を一つ含めた12戦4勝、このウマ娘には戦績以上の怖さがある!

 本日は6番人気に推されています!

 

 少し落ち着きがないのが気になりますね。

 この大歓声に臆している訳ではなさそうですが、これがレースにどう響いて来るのか気になるところです。

 それに彼女には斜行癖がありますからね、それもまたきちんと克服できているのか。

 良い意味でも、悪い意味でも、見所の多いウマ娘ですね。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 はえ〜、すっごい! すっごい!

 こんな大観衆に見守られながら走るのは初めてだ。

 ピョンと跳ねながら両手を振って、皆の歓声に応じる。

 私、ちゃんと頑張るからね!

 怖いビゼンニシキの下で必殺走法だって身につけて来た!

 もう絶対に斜行なんてしないもん!

 

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◾️2枠3番ミスターシービー

 

 ファン投票数は歴代1位、人気投票も1位!

 ならば、勿論、着順も1位だ!

 鮮烈ッ! 苛烈ッ! 存在そのものが常識破りのウマ娘の名は、2枠3番ミスターシービー!

 前走のジャパンカップでは2着と破れましたが、それは決して彼女の格を落とすものではありませんでした。

 殿一気の豪脚は未だ健在!

 彼女が走る全てのレースが名レース!

 菊花賞で見せた常識外のロングスパートは、今も鮮明に思い返すことができます!

 さあ、ウマ娘史上に残る名レースをもう一度、見せてくれ!

 戦績は12戦8勝! 内4勝がGⅠレース!

 我らが3冠ウマ娘が地面を揺らして今、中山レース場に馳せ参じるッ!!

 

 纏っている雰囲気が他のウマ娘とは違っていますよ。

 気合の乗りも充分、やはりミスターシービーと云ったところです。

 この大観衆を前にしても欠片も動じていません。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 今日という日を待ち望んでいた。

 過去一番の大喝采は、肌が痺れるような衝撃を伴った。

 秋の天皇賞には勝てたが、ジャパンカップで負けてしまった。

 秋古馬3冠の目が消えて、落胆したファンも多いはずだ。

 それでもなお、いや、前以上の歓声によって出迎えられる。

 勝たねば、と思う。勝ちたい、と願う。

 勝ってやる、と決意を新たにする。

 

 ズン、と地面を踏み締める。

 鍛え上げた強靭な脚力は、背景と共に全てを後塵に拝する。

 私はミスターシービー、日本を代表する3冠ウマ娘。

 今日もまた規格外の意味を教えよう。

 

 

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◾️3枠4番メジロシートン

 

 名門メジロ家からも参戦だ!

 クラシッククラス、3枠4番メジロシートンは8番人気!

 春は善戦に次ぐ善戦に苦しみクラシック路線に乗り遅れましたが、夏から本格化!

 直近では、5戦3勝。オープンクラスに上がってからはアルゼンチン共和国杯を含んだ3戦2勝!

 アルゼンチン共和国杯では、12人のシニアクラスを相手にたった1人で返り討ち!

 戦歴は10戦5勝と今乗りに乗っているウマ娘です!

 

 この観衆を前に動揺を隠せていませんね。

 レースまでに立ち直れば良いのですが、どうでしょうか。

 会場の空気に呑まれていますよ。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 余りにも大きすぎる歓声に身が竦んだ。

 頭の中が真っ白になって、呆然と立ち尽くしてしまった。

 今まで戦って来たレースとはまるで違っている。

 これがGⅠレース、これが日本最高峰のレース。

 指先が震える、唇が震える。全身がガクガクと震え出した。

 駄目だ、何も考える事ができない。

 視界が何も見えない、頭の中に何も入って来ない。

 そんな中で映ったのは、幼い妹達の姿だった。

 それ以外は何も記憶に残っていない。

 でも、私は黙って片腕を上げた。

 拳を握り締めて、ゆっくりと観衆に背を向ける。

 他は何も覚えていない。

 でも、それだけで良かった。

 アルダン。

 マックイーン。

 ライアン。

 パーマー。

 ドーベル。

 彼女達の顔を胸に刻んで、前を見た。

 妹達に格好良いところを見せる。

 それだけの為に私、メジロシートンは走れる。

 

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◾️3枠5番スズカコバン

 

 大阪杯では3着、宝塚記念では2着。

 今年はGⅡレースだけで2着が4回、今年の優勝歴は京都大賞典ただ1つ!

 実力は充分、しかしあと一歩が届かない!

 ファン投票では5位、レース前の人気投票では4番人気!

 21戦5勝、重賞2勝! 今日こそGⅠレースのお立ち台に立つ姿を見せてくれ!

 玄人に根強い人気を誇る3枠5番はスズカコバンだ!

 

 ミスターシービー世代では、常に実力上位と目されて来たウマ娘です。

 同期のカツラギエースとは違って、高い確率で掲示板内に収まる安定した走りを見せており、実際に順位の上ではカツラギエースに勝る事も多いです。それは同時に上振れも少ないことを意味します。

 とはいえ実力は侮れません。今日こそシルバーコレクターの名を返上して欲しいものです。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 主役になる存在っていうのは、何時だってキラキラと眩く輝いている。

 こいつは他とは違うなっていうのは、初めて顔を合わせた時からは分かるもんで、当時はまだ身の程知らずだった私はミスターシービーにニホンピロウイナー。それにカツラギエースを加えた接点のない三人組を一つにまとめて、これからの時代は私達が牽引するんだと意気込んだ時期もあった。

 最初は私だけが頭一つ飛び抜けていた。

 あの時はまだ、ミスターシービーは常識というものに囚われていた。才能だけで走るニホンピロウイナーも私の敵ではなく、カツラギエースは気持ちだけが先行して空回りするばかりであった。

 まだ粗削りなところの多い仲間達を相手に気持ちよく勝ち続けていたのが私だ。

 慢心する私に、本物を見せ付けたのがマルゼンスキー先輩で、毎日のように追い回されていたのに、気付いた時には肩を並べて、簡単に追い抜いていってしまったのが仲間の三人組であった。

 

 私達の世代は、四強の名で語られる事が多い。

 ミスターシービーは勿論、ニホンピロウイナー。カツラギエース。

 そして私、スズカコバンの四人だ。

 

 とはいえ実績で云えば、私の名は他三人と比べて格落ちしている。

 他三人はGⅠレースを3勝以上しているのに、私は重賞レースに幾つか勝つだけでGⅠレースを獲った事はない。そんな私が四強の一人と認識されるのは、ミスターシービーとカツラギエースの対抗に成り得る存在が私以外に居ない為だ。

 誰かに期待されている訳ではない、ただレースのちょっとした刺激になれば良い程度の存在だ。

 

 貴女には素質がある、とマルゼンスキーが私に云う。

 ミスターシービー、カツラギエースも同じ事を口にした。

 でも、違うんだ。

 確かに私は人並み以上に走る素質はあるかも知れない。

 でも主役に成り得る存在っていうのは、他の奴らとは輝き方が違っている。

 全身から強い光を放って、見る者全てを魅了する。

 

 そういう他とは違う何かを持っている連中が大舞台で勝利する。

 

 あと一歩で勝てない。

 それが何度も続くということは、実際には見た目以上に実力差があるという事だ。

 私と他三人との間には、クレバス程の隔たりがある。

 

「今日こそ期待してるぞ、コバンちゃん!」

「センター、勝ち取れよ!」

「そろそろ真ん中で踊ってるところを見せてくれ!」

 

 そんな言葉を受けて、私は片手を振り上げて応える。

 ファンサービスは大切だ。私のような勝ち切れないウマ娘は、彼らの存在によって支えられている。

 特に引退後とか。

 顔を売る機会が多いと解説席に呼ばれる事も多いし、テレビに呼ばれる機会も増える。

 賢く生きなければ、夢を見ているだけで良い年齢は過ぎた。

 

「……がん……ばって?」

 

 パドックの先頭に近い位置に、ふわふわした髪の幼いウマ娘がしどろもどろに告げる。

 その子を見ると赤くした顔で気不味そうに目を逸らすから、私は小さく微笑んで対応した。

 皆に手を振り、そしてパドック場を後にする。

 

 これでも頑張ってるよ。

 勝ちたいに決まってんじゃん。

 あと一歩が届かない。

 頑張っても、頑張っても、届かない壁がある。

 私には、ずっと、何かが足りていなかった。

 

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◾️4枠6番シンボリルドルフ

 

 このウマ娘には、前口上は必要ない!

 史上初の無敗の3冠ウマ娘! 4枠6番はシンボリルドルフ!

 ファン投票は3位! 人気投票では2番人気!

 ジャパンカップのリベンジなるか!?

 

 これは……少し掛かり気味でしょうか。

 いや、なんというか、何時もよりも、子供っぽい?

 いえ、なんでもありません。

 不適切な発言を申し訳ありませんでした。

 普段とは違う様子、これは吉と出るか、凶と出るか。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 脚が、軽かった。

 ふわりと浮き足立った感覚に、トンと地面を蹴れば何処までも跳んで行けそうだった。

 気分が高揚している、胸の高鳴りを抑え切れない。

 口元は自然を笑みを浮かべており、気を引き締める事ができなかった。

 なんというか、ムズムズする。

 この状態が良いのか、悪いのか、判別が出来ない。

 ただ、分かるのは、楽しみ、という事だ。

 早く走りたくて仕方ない。

 体全身がウズウズしている。

 嗚呼、楽しみだ。

 まるで童心に帰ってしまったかのようだ。

 だから、私をあまり待たせるな。

 走りたくて、走りたくて、仕方ない。

 今日の私は、何かがおかしかった。

 

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◾️5枠7番トウショウペガサス

 

 続く5枠7番はトウショウペガサス、今は彼女の事を知る者は少ないでしょう。

 彼女は府中ジュニアSを勝ち、続く朝日杯FSではホクトフラッグとのアタマ差の激戦を繰り広げました。

 しかし脚部不安に悩まされ続けて、クラシック路線では掲示板内に入る事もできず、再び脚を悪くしての戦線離脱。シニアクラス一年目ではプレオープン戦で2着になるも、その一戦だけで再び脚部を痛めてしまいます。

 彼女の歴史は、常に脚部との戦いでした。

 二年目のシニアクラスでは、プレオープン戦で善戦するも3着、2着とかつて見た彼女の脚からは程遠いものでした。

 しかし、彼女は帰ってきた!

 プレオープン戦を着実に勝ち抜いて、毎日王冠で4着! 秋の天皇賞で4着!

 そして、ダービー卿Cでは漸く! 漸く、彼女が勝利しました!

 三年ぶりの重賞制覇!

 私達は待っていた! ジュニアクラスの時からのファンも多いぞ!

 あの夢の続きを見せてくれ!

 戦績は重賞二つを含んだ18戦6勝!

 トウショウペガサスは7番人気だ!

 

 実況の方は少し入れ込み気味のようですね。

 気持ちが先行して、掛かってしまったようです。

 何処かで息を入れられれば、良いのですが。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 アズマハンター。

 バンブーアトラス。

 ハギノカムイオー。

 ホリスキー。

 

 あの時、クラシックレースで、

 競い合ったウマ娘は、私が怪我をしている時に皆、居なくなってしまった。

 次は彼女達とまともに戦えるように療養生活に励んだけど、

 皆、私が復帰するよりも先に引退してしまった。

 

 脚の調子は良いとも、悪いとも、どちらとも付かない。

 知っているウマ娘が誰も居ない大一番、あの時は、こんな事になるとは思ってもいなかった。

 正直、有マ記念に出るかどうかも迷った程だ。

 

 世間はミスターシービー世代とシンボリルドルフ世代で盛り上がっていたしね。

 今更、私のようなロートルが出しゃばったところでね、と。

 でも、それは出来なかった。

 有マ記念のファン投票で、私が出走を濁した時に多くの御便りが来た。

 もう一度、見せて欲しい、と。

 私の万全の走りが見てみたい、と。

 本当に、多くの御便りが届いた。

 正直、引退も考えていた。

 でも、これじゃあ辞められない。

 誰かが私の走りを信じてくれている限り、私は走り続ける。

 どれだけボロボロになっても、私は走る。

 私の走りに夢を見るファンが居るのなら、その期待に応えたい。

 

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◾️5枠8番サクラガイセン

 

 西にメジロ家があるならば、東にサクラ一門があり!

 5枠8番サクラガイセン!

 あまりオープン戦には姿を現さないウマ娘ですが、底知れない実力を感じさせます!

 特にこの有マ記念までは怒涛の4連勝!

 プレオープン戦とはいえ、ノリに乗っているウマ娘の一人!

 戦績は16戦7勝、9番人気です。

 

 本格化するまで時間が掛かったウマ娘ですね。

 今年の初めと比べて、まるで別人のような体付きですよ。

 良い走りを見せてくれる気がします。

 戦績以上の実力があるのは、間違いありません。

 掲示板内は固いと思いますよ。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 なんで、重賞レースの初戦が有マ記念なんでしょうか?

 ウマ娘トレーナーのサクラシンゲキに物申したい。

 いやまあ、今までも全て内容も確認せずにガイセンガイセン言って、出走していた私も悪いかも知れない。

 今年だけで私、13戦もしてるんだって。これで14戦目だよ。凄くない?

 通りで何時もレースばっかりしてる気がしてたよ。

 

 いつものノリでガイセンガイセンって言ってたらね。

 なんかおめかしされてね、凄く豪華な勝負服を着せられてね。

 そして、今、大観衆の前に立たされています。

 あまりの雰囲気にスタッフに話を聞くと有マ記念だってさ。

 私、先週まで他人事のようにテレビで話題に上がるのを観てたよ。

 出走する側とは思わなかったよ。

 

 でもまあやる事は何時もと同じ、最初にゴール板を横切って勝利の凱旋すれば良いんだ。

 うん、やる事シンプル。シンプルイズベスト。私、迷わない。

 いや、無理だよ。だって、有マ記念だよ? GⅠレースなんですよ?

 タスケテ、ダレカタスケテ。

 

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◾️6枠9番キョウワサンダー

 

 去年の十月から今年の四月までに12戦!

 未勝利で敗北し続けた異例の戦績を持つウマ娘、6枠9番キョウワサンダー!

 走ったレースは19戦! 勝利は、たったの三度のみ!

 13戦目の未勝利戦と15戦目の1勝クラス!

 続くオープン戦では2着! 2勝クラスでは3着!

 格上挑戦のローズSでは、8着!

 1勝クラスでしか勝てない18戦2勝のウマ娘が次に選んだのは、秋華賞!

 ギリギリ滑り込めた14番人気で、第4コーナーから大外一気の末脚大爆発!

 なんとびっくり優勝だ!

 有マ記念でも、その末脚を爆発させる事はできるのか!?

 今回もまた16番人気と人気は振るっていません。

 

 人気は当然です。

 まぐれですよ、あんなの。

 ええ、まぐれです。

 私は言いました。

 桜花賞で1着、オークスで2着。

 サファイアSでは1着で秋華賞トライアルレースのローズSでも3着。

 他のウマ娘とは違って、常に安定した戦績を維持するダイアナソロンが1着になると。

 それが、無名ウマ娘が大外一気であんな末脚を魅せるなんて誰が予想できますか!?

 ネットでお笑い者ですよ!

 私、もうテレビで順位予想するのやめます!

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 ……なんで、私って此処に居るんだろ?

 秋華賞を獲った勢いで有マ記念も行っちゃいますか! みたいなノリで出走登録をして、まあ人気投票足りないから登録だけして笑い話にしようかなって、そんなノリで出走したんだ。実際、人気投票では届いてなかったんだよ。ちゃんと確認してから出走登録してみたんだよ、ちょっとイキッてみたかっただけなんだよ。

 ニホンピロウイナーとハッピープログレス。それにゴールウェイと他にも何人かが出走回避して、なんか通っちゃいました。「ワンチャン狙ってみた!」みたいな感じでテヘペロ感出してたのに、本当に通っちゃった気不味さですよ。

 というか、なんで私にファン投票が集まってるんですかね。

 トレセン学園に所属する2000人の内、20位台だったんですよ。

 悪ふざけで入れないでくださいよ。

 人気投票で16番目の最下位にするなら最初から入れないでよ。

 走らなきゃ駄目? 駄目ですよね。

 あーうん、吐きそう。

 胃が辛い……

 

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◾️6枠10番カツラギエース

 

 大一番でのズッコケ大将!

 秋の天皇賞は嫌な事件でしたね……!

 ある時はGⅡ大将! ある時は特攻隊長! ある時は史上最高峰の名ウマ娘!

 記録に残るし、記憶にも残る!

 気合と根性を胸に抱いた自称インテリ派!

 ジャパンカップの大逃げは衝撃的でした!

 今日を見せるは、どの顔か!?

 ハマるのか、ハマらないか!?

 戦績は3つのGⅠレースを含んだ22戦10勝!

 予想屋泣かせの彼女の名は、6枠10番カツラギエース!!

 我らが愛され大将はファン投票2位の3番人気だッ!!

 

 気合の入り方が他とは違いますね。

 とはいえ、それは彼女にとっては当然のことです。

 問題は、その気合が良い方に転がるか、悪い方に転がるか。

 1番人気に押せない理由が、此処にあります。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 史上最多の大観衆、その歓声を全身に受けて身震いする。

 これだけのウマ娘ファンが一堂に会して、今か今かと俺達のレースを待ち侘びてやがる。

 浮かんだ笑みは如何なる意図があっての事か。

 さあ、目に物を見せてやる。

 今日という日に俺のレースを観に来たウマ娘ファンに幸福を讃えよう!

 拍手喝采の準備をせよ!

 今日を生きよ! 今日を全力で生きる事も出来ない奴に明日は訪れねえ!

 俺様、カツラギエースが今日もまた世界を震撼させてやる!

 

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◾️7枠11番ダイアナソロン

 

 クラシッククラス、ティアラ路線の実力派!

 7枠11番ダイアナソロンは13番人気!

 ティアラ路線では桜花賞1着、オークス2着、秋華賞3着と安定した実績を持つウマ娘です。

 しかし前走のジャパンカップでは、14着と振るわなかった点が今回の人気低迷に繋がってしまったか。

 クラシック路線と比べて、実力不足と見られるティアラ路線。

 その評価を此処で巻き返して欲しい!

 

 ティアラ路線は、ウイニングライブに力を入れていますからね。

 その分だけライブの練習に時間を取られてしまって、トレーニングする時間が削られてしまいます。

 レースを重点に置いたクラシック路線のウマ娘と比べて、実力が劣るのは仕方ないかと思われます。

 とはいえティアラ路線による芸能方面の進化は凄いものがあります。

 どちらが良いかは一概には言えませんが、ティアラ路線のライブは一見する価値はあります。

 ちなみに私は断然ヤマノシラギク派です。

 ティアラ路線では振るいませんでしたけど。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 入学時に見た興行中のヤマノシラギクは、理想の御姫様だった。

 その息遣いに魅了され、その仕草に心を奪われた。ウイニングライブでの彼女の立ち振る舞いを見た後では、クラシック路線の歌や踊りは子供騙しにしか感じられなくなってしまった。

 本物を見た私が目指すのは歌って走れるウマ娘で、その為にティアラ路線に参戦した。

 クラシック路線のウマ娘と比べると、歌や踊りに割く時間は多くて、余った時間を全てレースに捧げてもクラシック路線の過酷なトレーニングには追い付けない。

 気付いた時には、もう隔絶とした差が生まれていた。

 それでも私は夢を諦めきれず、だから私は有マ記念への出走を決断する。

 負けるつもりはない。

 負けるつもりはないが……勝つのが難しい事も理解している。

 

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◾️7枠12番ロンググレイス

 

 現女王、ティアラ路線の最強ウマ娘!

 7枠12番ロンググレイスは10番人気!

 去年はローズSから秋華賞を制覇し、エリザベス女王杯をも手中に収めて、GⅢレース中山金杯を制覇した後、次走の大阪杯では2着。京都大賞典2着を経た、秋の天皇賞では3着の結果を残しました。

 そして、少し前のエリザベス女王杯では連覇を果たしたウマ娘です。

 役者は充分! 実力も充分!

 世代対抗戦と聞いて、シニアクラスのティアラ代表として有マ記念に馳せ参じました!

 

 堂々とした立ち振る舞いを見せています。

 気負いはありませんね。

 彼女のライブを見る為にレース場に訪れる人もいる程ですからね。

 こういった歓声には慣れているのでしょう。

 良い勝負をするかも知れませんよ。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 ティアラ路線に参戦した事を私は誇りに思っている。

 クラシック路線が走りで人々を熱狂させるというのなら、私は歌と踊りで人々を歓喜の渦に誘おう。

 天使のような微笑みで見る者を全てを魅了して、甘美な声で聴く者全てを誘惑する。

 とはいえ、クラシック路線特有の全身全霊の勝負が織り成す泥臭いドラマチックなレースにも憧れを持たない訳でもない。

 そういう勝負に憧れて、私はクラシック路線でも走り続けている。

 本職は歌と踊りで、走りは趣味の領域を超えない。

 それでも本気の趣味だと自負している。

 決して、クラシック路線を侮っているつもりもない。

 私は、私なりに走る事について、本気で向き合っているつもりだ。

 全身全霊で走る姿に、全力全開で挑戦する姿に、人々は魅了されるのだ。

 

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◾️7枠13番デュデナムキング

 

 去年の有マ記念では2着のウマ娘、7枠13番デュデナムキング!

 中山記念で1着になった後、春の天皇賞で17着と奮わず、続くオールカマーでは7着と調子が危ぶまれていました。

 しかし前走の秋の天皇賞ではミスターシービーに次ぐ2着となりました。

 人気が高い時は結果を出さず、人気が低い時に結果を出す事からレース前には必ず新聞を読んでいるとまことしやかに囁かれているウマ娘でもあります。事実、前回の有マ記念では12番人気、前走の秋の天皇賞では8番人気。春の天皇賞とオールカマーでは共に2番人気でした。

 今回は5番人気、果たしてどちらに転ぶのか!?

 

 流石に有マ記念ともなれば、実力のあるウマ娘が揃っていますね。

 しかし今回は例年よりもレベルが高いですよ。

 彼女もまた歴戦のウマ娘、期待をして行きたいですね。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 新聞なんて読んだことはないですよ。

 何時も全力で走るけど、それが偶々結果の出たレースで人気が低いというだけの話だ。

 それをジンクスのように語られると、ちょっとなんだかなっていう感じだ。

 でもまあ、私は全力で走るだけだ。

 去年は17戦。その過酷なスケジュールが祟ってか、今年は脚部不安に悩まされて今回を含めた5戦のみだ。

 折角、調子が出てきたところだったんだけどな。

 決してカツラギエースやミスターシービーに素質という点で負けているとは思っていない。

 勿論、リードホーユーにもだ。

 

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◾️8枠14番モンテファスト

 

 今年の春の天皇賞覇者! 8枠14番モンテファスト!

 春の天皇賞の姉妹制覇は歴史的偉業!

 嘗て愚妹と呼ばれ続けた妹は、姉を超えることは出来るのか!?

 27戦8勝! 主な優勝歴は目黒記念と春の天皇賞!

 11番人気です!

 

 ……頑張って欲しいですね。

 近頃は結果が奮いませんが、長年の努力に裏打ちされた実力は決して侮れるものではありません。

 解説として、このコメントは間違っているのでしょうが……

 ええ、本当に。頑張って欲しいです。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 パドック場に向かう途中で顔だけは知っているウマ娘とすれ違った。

 確か、彼女はスズパレードという名前だったか。どうだったか。

 まあ気にする必要もないか、と思って、脇を通り過ぎようとした時の事だ。

 

「……貴女には、心が折れた経験はないのですか?」

 

 恐る恐る、といった声色で問い掛けてきた。

 どうして、私に、そのような質問をするのか分からない。

 でも、心当たりがあるとすれば、姉の事か。

 

 今からレースをする相手にする質問じゃない事に微かな苛立ちを覚えつつも、端的に答える。

 

「何度だって、折れてるよ」

 

 偉大過ぎる姉の側に居続けて、

 比較され続けて、

 走っても走っても勝てない日々が続いて、

 何処に走っているかも分からず、

 何の為に走るのかも分からなくなって、

 それでも挫けずに走り続けた私が手にしたものは、

 姉と同じ春の盾だった。

 

「私からすれば、貴女も才能に恵まれているから」

 

 私は、この舞台に立つ為に四年間の歳月を必要とした。

 脚部不安にも苦しめられた。

 重賞の舞台に立つだけで三年間の歳月が必要だった。

 それを半分以下の年月で立つ事ができた彼女は、余りにも恵まれ過ぎている。

 オープンクラスに上がるまでにかかったレース数は16戦。

 重賞勝利を得るまでにかかったレース数は21戦。

 春の天皇賞を獲るまでかかったレース数は24戦。

 その数値は私の卑屈な自尊心だ。

 姉と同じ頂きに辿り着いた時、この胸に湧いた感情は歓喜ではなかった。

 どうだ、見たか。と今まで私を見下してきた者達への復讐心だった。

 称賛を素直に受け取れず、それまでの旅路を美化する周囲に反吐が出る。

 拗れに拗れた感情は、姉にも向けられた。

 私が歩んだ道のりは姉と同じものではない。

 これは、これだけは、私だけのものだ。

 ちっぽけな宝箱に収めた、ちんけな宝物。

 

 人は一人では生きられないと云う。

 確かにその通りだ。誰もが知らずの内に支えられている。

 その上であえて云いたい。

 罵倒されて、莫迦にされて、誰からも期待されず、たった一人でも走り続けた。

 差し伸べられた手もあった。

 でも、同情心からの手助けは真っ平御免だ。

 私は、私自身でも疑心暗鬼になりながら駆け続けた。

 手の平返しが気持ち悪くて仕方ない。

 

 春の天皇賞は、私一人の勝利だ。

 文字通りの一人勝ち。

 それは誇りでもあって、同時に自己嫌悪の対象でもあった。

 

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◾️8枠15番スズパレード

 

 今年のクラシック路線を陰ながら支えた功労者!

 共同通信杯から東京優駿まで続く4連戦を掲示板内に収めた実力は本物!

 ラジオNIKKEI杯では重賞勝利を飾り、シニアクラスの混じる福島記念でも遺憾なく実力を発揮しました!

 8枠15番はスズパレードは14番人気!

 先行からの直線の粘りに定評があります!

 

 今年のクラシック路線は彼女の名前をなしには語れません。

 ラジオNIKKEI杯ではクラシック路線を直走るウマ娘達のレベルの高さを実証し、福島記念でも今年のクラシッククラスのウマ娘がシニアクラスのウマ娘に見劣りしないことを証明いたしました。

 今年はレベルが低い? とんでもない。

 シニアクラスのウマ娘とバリバリに張り合える彼女が掲示板内にしか入れないのが、今年のクラシックレースなのです。

 少し元気がないのが気になりますが、私が期待しているウマ娘の一人です。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 自分の手を、開いて、握り締める。

 ゆっくりと顔を上げると今まで見た事もないような大観衆が私に向けて歓声を送った。

 決して、人気が高い訳ではないのに、これだけのファンが私に期待をしている。

 瞼を閉じる、思い浮かべるのはビゼンニシキの背中だった。

 私は何時も彼女の後ろを追いかけている。

 そして、きっと、これからも延々に追い続けるのだろうと思った。

 尊敬している。憧れている。

 何時か彼女の隣を走ることを夢見て、走り続けていた。

 彼女の背中を追いかけるだけで、全てが事足りていた。

 これから、私は、何処に向かって、走れば良いのだろうか。

 私では彼女のように走れない。

 それでも、これからも、走り続けなくてはならない。

 私は不器用だから、踠いて、足掻いて、苦しんで、そうして走り続けるのだと思った。

 とりあえず、先ずは一戦。

 このレースを足掻く事から始めてみたいと思います。

 

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◾️8枠16番ハーディービジョン

 

 最後はこのウマ娘! 当代三強の一角!

 先月のマイルCSは記憶に新しい! しかし1800メートル以上のレースは今日が初めて!

 7戦3勝! 生粋のマイラーと目されてきた彼女の脚に距離の壁はあるのか!?

 ミスターシービー、スズマッハに続く殿一気の3番手!

 8枠16番ハーディービジョン!

 人気は15番目とやや不満の御様子!

 

 彼女の素質は今日の面子の中でも上位にありますよ。

 特にミスターシービーを彷彿とさせる末脚は、あのシンボリルドルフを以てしても勝るとも劣りません。

 クラシックレースでの二人の衝突を見てみたかったですね。

 ビゼンニシキを含めた三強対決も見てみたかった。

 ……とはいえ、やはり気になるのは距離の壁ですね。

 彼女は上位に食い込む可能性も、最下位に落ちる可能性もあります。

 今回のレースで最も読みにくいウマ娘の一人でしょう。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 随分と出遅れてしまったな、と思う。

 シンボリルドルフは言わずもがな、ビゼンニシキの活躍は今もファンの記憶に根強く残っている。

 それに比べて、私は、まだ何も為していない。

 三強とは名ばかりで実際には一強、ビゼンニシキに配慮しても二強が良いところだ。

 ビゼンニシキには距離の壁があった。

 しかし私は距離の壁はない。

 私が短い距離を走るのは怪我の影響を考慮しての話であり、決してマイラーという訳ではない。

 ビゼンニシキでは辿り着けなかった。

 しかし私なら目指すことのできる頂きだ。

 目指すは何時だって頂点。

 3冠ウマ娘なんて関係ない。

 有マ記念は私が貰ってやる。

 

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 パドックも終わりまして、各ウマ娘がコース場に移動を開始します。

 全てのウマ娘を一通り見て、如何でしたでしょうか?

 

 やはり、今年は全体的にレベルが高いですよ。

 ミスターシービー、シンボリルドルフ、カツラギエースの三つ巴になるかと思いましたが……

 もしかしたら、と思わせるウマ娘が多数出走していますね。

 正直、今ではレース展開が予想できません。

 もしかするとTTG以来、レベルの高いレースを期待できるかも知れません。

 

 はい、ありがとうございます。

 それでは各ウマ娘のコース場での準備運動を見ながら改めて振り返ってみましょう。

 今から発走が楽しみで仕方ありません。

 

 

 

 




余談ですがアンケートで順位は変わらないので、その辺りは安心して投票してください。

複勝のみ(3着以内)

  • 1枠1番11人スズマッハ
  • 1枠2番6人ニシノライデン
  • 2枠3番1人ミスターシービー
  • 3枠4番8人メジロシートン
  • 3枠5番4人スズカコバン
  • 4枠6番2人シンボリルドルフ
  • 5枠7番7人トウショウペガサス
  • 5枠8番9人サクラガイセン
  • 6枠9番16人キョウワサンダー
  • 6枠10番3人カツラギエース
  • 7枠11番13人ダイアナソロン
  • 7枠12番10人ロンググレイス
  • 7枠13番5人デュデナムキング
  • 8枠14番12人モンテファスト
  • 8枠15番14人スズパレード
  • 8枠16番15人ハーディービジョン

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