錦の輝き、鈴の凱旋。   作:にゃあたいぷ。

84 / 92
本日、二度目の投稿。


第10話:大江戸五番勝負

 第五回ジャパンカップ。シンボリルドルフを中心に六名の優駿を揃えた盤石の布陣。

 当時、歴代最強と謳われた豪華な面子に全国のウマ娘ファンは、敵は海外だけに在らずと声高らかに叫ぶ。この時ばかりは日本対世界の構図は失われて、六名の優駿達は単騎を以て、他十四名に挑戦する形と相成った。

 しかし主役はシンボリルドルフ、大敵もまたシンボリルドルフ。海外のウマ娘からも注目を浴び、警戒される彼女は大外という不利を抱えて尚、威風堂々と(ターフ)を駆ける。

 誰が言い始めたか、大江戸五番勝負。その一部始終を御覧遊ばせ。

 

 先ずは向かい正面の直線にて、大外から位置を押し上げるシンボリルドルフ。

 他のウマ娘とは桁違いの速度を以て、悠々と走り抜ける彼女に。やあやあ我こそは、と内側より突っかかるウマ娘が一人。

 漆黒の衣服に桜色の装甲を身に纏った悲しみの王子、サクラサニーオー。初のシニア戦、クラシック戦とは段違いのスピード感に困惑し、自分の末脚では通用しない事を直感した彼女は自身を外に振って、早め早めの仕掛けに打って出た。しかし、その時、彼女の脇を通ったのがシンボリルドルフであった。これは不運な事故であった。外に身を持ち出そうとした瞬間、シンボリルドルフの身体が滑り込み、壁となって阻まれて、そのまま第3コーナーに突入してしまった事でバ群の内側に埋もれる結果となった。

 コーナーから内が膨らんで穴が開く事を期待したが、そこはシニア戦。もしくは世界の強豪達、そんな生温い真似を許してくれるはずもなく、高速帯にあるコーナーでは曲がり切るだけで精一杯で抉じ開ける事も叶わない。

 サクラ一門の妹分、サクラバクシンオーの悲鳴が観客席に上がる中でズルズルと後退していくしかなかった。

 一番勝負の決まり手は封殺、シンボリルドルフに軍配が上がる。

 

 続く二番勝負は、函館の鬼。ウインザーノット。

 誰よりも早くに第3コーナーに入った彼女は焦っていた。それもそのはずで思っていたよりも後続を突き放せなかった為だ。流石は国際招待レースと云うべきか、全てのウマ娘がGⅠ級の実力の持ち主。その技量や能力は秋の天皇賞とは比べものにならなかった。この面子を相手に大逃げをぶちかましたカツラギエースが例外であり、競争生命を掛けて、進撃したサクラシンゲキで漸く大逃げ戦法の体裁を整えられる。最終コーナーの終わり、疲労によって脚が縺れた彼女の内をシンボリ、外からシンボリ。二人のシンボリが彼女を抜き去った。

 これにて閉幕、二番勝負もまたシンボリルドルフが白星を掲げる。

 

 三番勝負、唯我独尊を己が信条に掲げるシリウスシンボリ。

 その舞台は残り460メートルから続く全長160メートルの漢坂。二人のシンボリは、ほぼ同時に坂道へと脚を踏み入れた。スタート直後の坂、向かい正面の二度目の坂、そして2000メートル走った後、畳み掛けるように襲い来る三度目の坂。ラストスパートの事もあり、パンパンに張った太腿を振り上げて、腕を振り、高低差2メートル坂道を懸命に駆け上がった。シリウスシンボリはパワーに自信があった。海外でも苦戦しない為、彼女はトレセン学園にあるジム施設で徹底的に己が筋肉を虐め抜いた。それ故に彼女はパワーだけであれば、シンボリルドルフにも勝てる自信を持っていた。海外の芝を想定したパワー走法。己が体重を脚に乗せて、登り昇って駆け上がる姿は正に昇り龍。最後の直線、大きな坂の向こう側から最初に姿を現したのは――額に三日月、シンボリルドルフだ。

 シンボリルドルフはスピードでは、サクラユタカオーに劣る。パワーでは、シリウスシンボリに劣る。特化型のスペシャリスト達の得意分野が相手では敵わない。しかし、これはレースである。末脚だけでは勝てない、体力だけでは勝てない。精神だけでは勝てない。どれかひとつだけを突出させて勝てるのは、己が人生の全てをそこに捧げてしまうような規格外のウマ娘だけである。邪道である。真に強いウマ娘とは、心技体の全てを兼ね備えたパーフェクトホースの事を云うのだ。故にシンボリルドルフには絶対がある、故にシンボリルドルフに死角なし。

 レースとは、速さを競う競技に在らず、力比べに在らず。特に王道路線は、強さを競う競技である。

 三番勝負もまたシンボリルドルフの勝利になる。

 

 続く四番勝負、皇帝に挑むは直線一気に全てを賭けた愚直なウマ娘。

 頭頂部より縦に落ちる流星は、一等星。そのスピードは一級品、レコードタイムを幾つも打ち立てた生粋の実力派。誰が言った、彼女がフロックであると。錦が告げる、あいつが運で負けるはずがないだろう。何度でも繰り返す、シンボリルドルフには絶対がある。故に彼女に勝てるウマ娘とは、すべからず堅実なる実力を持ったウマ娘に限られる。

 ダート上がりの超一流が駆け上がる、坂を登りきって追い上げる。日本の頂点に物申す。ギャロップダイナが名乗りを上げる。

 いざ! いざ! 勝負の行方は最後の300メートルに委ねられた。その差は1バ身!

 

 

 確かに私は秋の天皇賞に勝てた。

 しかし、それで本当に日本の頂点に立てたと云えるのか。

 遥か高みに君臨する憧れの人に勝つことはできた。

 でも、だからといって私があなたを尊敬する気持ちに変化はない。

 私が貴女に惚れたのは、貴女のその在り方にある。

 

 貴女は生まれながらの英雄だった。

 初めて見たのは選抜戦、その時から皇帝の風格を備えていた。

 貴女は何時だって、遥か高み、その先を見つめていた。

 

 その過程で土に塗れる事もあった、泥を啜る事だってあった。

 多くの苦難があった。皐月賞から東京優駿、錦の好敵手を失った後、有マ記念までの道のりは苦難に満ち満ちていた。

 しかし貴女の皇帝としての風格は、欠片の陰りも感じたことはない。

 何故なら貴女の皇帝としての在り方は、座して待つ事にない。貴女は王者であると同時に、挑戦者でも在り続けた。

 負けることはあった、実力差を見せ付けられる事もあった。

 実力で劣っている事だってあった。

 それでも貴女は挫けない。否、挫けたとしても心の芯が折れることはない。

 皇帝とは実績の事を云うのではない。皇帝と呼ばれる貴女だから好きになったんじゃない。

 私が惚れたのは、どうしようもなく好きで堪らなくなったのは――――

 

 ――貴女が皇帝と呼ばれるに至る、その在り方なんだッ!!

 

 行くぞ、私! 頑張れ、私!

 届け、この想い! 応えるんだ、私の末脚!

 さあ私のリスペクトはこれからだ!

 

 私の得意距離はマイル、でも、そんな事は関係ない!

 脚はパンパンに張っている!

 ……でも! 私は! 坂を昇り切った残り300メートル、絶対に届かせてみせるッ!!

 

 貴女と同じ舞台に立てた。

 貴女が居たから、私は此処まで頑張れた。この場に立つことが出来ている!

 貴女と競い合える今、この一瞬の幸せを噛み締めるんだぁっ!!

 これが、私の、精一杯の……!

 

「恩返しです!!」

 

 

 残り1バ身の差、フロックと呼ばれたウマ娘が鹿毛色の尾を靡かせて最後の直線を突っ走る。

 その姿を見て、もう誰も、彼女の事を運だけのウマ娘と認識する者は居なかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。