錦の輝き、鈴の凱旋。   作:にゃあたいぷ。

89 / 92
今回よりウマ娘の名前に不備があった為、過去に遡っての変更があります。
変更点:メリーナイス→メリービューティー


第15話:合間の話③

「大阪杯以降、全然良いとこなぁ~い!」

 

 ぶぅぶぅと不貞腐れるのは鹿毛色のウマ娘、ステートジャガー。シンボリルドルフと同じ年に産まれた彼女は地方の大井トレセン学園から笠松トレセン学園に転校した後、田舎よりも都会が良いと関東の中央トレセン学園に転校した経歴を持っている。

 

「おかしい……大阪杯までは良かったはずなのに……」

 

 彼女は大阪杯以降は結果を上げられていなかった。良くて勝ち負けと辛酸を舐め続けており、今日も今日とて鬱憤を晴らすかのようにエナジードリンクを胃に流し込んだ。

 

「あ、あまり飲み過ぎないでね?」

 

 そんな彼女を気遣うのは気遣うのは、スーツ服姿の人間の女性だ。

 単身、地方から来たステートジャガーには中央トレセン学園に伝手がなかった。チームに所属する事もせず、その辺を歩いていた適当なトレーナーを捕まえて、自分の走りを見せることで自分の担当にした経緯がある。しかし、彼女が捕まえたトレーナーは、お世辞にも腕が良いとは言えなかった。人並み以上には勉学はできる、人柄も善良と云える。しかし彼女はウマ娘のトレーナーとしての資質には恵まれておらず、引っ込み思案な性格に加えて、とりあえず体調管理と型に嵌った無難なトレーニングスケジュールを組むことしか出来なかった。

 そういう訳でステートジャガーもトレーナーの事を頼りにしておらず、トレーニング方針は自分で決めて、彼女には雑務を任せるという小間使いのような扱いを強いていた。

 

「……ジャパンカップ以降、地方出身のウマ娘といえばロッキータイガー! 豹よりも虎! ロッキーも強いのは認めるけど、戦績はむしろ私の方が上だかんなー! ギャロップダイナのようなポッと出のフロックとは違うんだよ、フロックとは!」

 

 ぎゃあぎゃあと喚くステートジャガーにトレーナーは溜息を零す。

 このままで本当に良いのだろうか? トレーナーとして、ほとんど役に立てていない事に彼女は心を痛めていた。ステートジャガーの担当になるまで、担当したウマ娘をオープン戦まで勝ち上がらせた経験は一度もない。その為、ウマ娘からも人気はなくて、スカウトしても手を取ってくれない事がほとんどだった。ステートジャガーを増長させてしまっているが、現状、ステートジャガーの方が他のトレーナーに乗り換えても良いのに、情で見捨てず、彼女の事を使い続けていると言っても良い有様である。

 どうにかステートジャガーの為になりたい。しかし彼女にはトレーナーとしての才能がなかった。

 ステートジャガーに足りないものは何か、伸ばすべきものは何か。それすらも彼女には分からないのだ。

 有マ記念まで、あと少し。もう、恥を気にする状況ではなかった。

 

 

 12月第1週、中山レース場にて。

 サクラユタカオーは自分の遥か先を走るシニアクラスのウマ娘に完敗を喫していた。

 頬から顎に垂れる汗を拭い取り、悔しさに下唇を噛んだ。膝に着いた手の震えが怒りで止まらない。決して油断をしていた訳じゃない、手を抜いたつもりはない。しかし何処かで侮っていた。シンボリルドルフ世代で注目すべきはシンボリルドルフだけだと何処かで決めつけていた。ステートジャガーやロッキータイガーといった地方出身のウマ娘は居るが、しかし、シンボリルドルフ世代で他に活躍するウマ娘はハーディービジョンかニシノライデンくらいなものであり、とてもじゃないが彼女はGⅠ級の実力を持っていなかったはずなのだ。

 同期のシリウスシンボリよりも遥かに弱い、ミホシンザンは比べるまでもない。良くて重賞、彼女、スズパレードの実力はその程度だったはずなのだ。

 

 距離は1600メートルだった。決して苦手な距離じゃない。

 東京優駿や菊花賞の方といった2000メートルを超える距離の方が遥かに厳しかった。

 スピードだけなら今、トゥインクル・シリーズに出走している全てのウマ娘に負ける気がしない。

 それでも、それなのに、スズパレードは自分を上回った。

 

 ダービー卿CT、芝1600メートル。

 シニアクラスの強さを痛感させられるレースだった、洗礼と言い換えても良い。

 まるで太刀打ちできなかった。

 

 

 チームハマルからは二人のウマ娘が有マ記念に出走する。

 今年の皐月賞ウマ娘であり、サクラ一門のエースであるサクラユタカオー。そして重賞八戦を含む全十戦の戦歴で複勝率八割を誇る実力派ウマ娘ことサクラサニーオー。共にファン人気投票で十六位内に入っており、有マ記念の出走は確定している。

 しかし楽観視できる状況にはなく、気を吐いて、来るべく激戦に備えたトレーニングに励んでいた。

 

 サクラシンゲキこと日高あぶみは「シンゲキ! シンゲキ!」と檄を飛ばしながら担当するウマ娘達がトラックコースを走る様子を入念に観察する。

 有マ記念は厳しい戦いになる。サクラユタカオーは、走れない訳じゃないが得意距離から外れており、サクラサニーオーは実力が不足している。シリウスシンボリ、ミホシンザン、サクラユタカオーの三人は格が違っており、時代が時代であれば、シリウスシンボリとミホシンザンは三冠を取ることもできた器だ。サクラユタカオーは1800から2000メートルと距離は限定されているが、彼女もまたドリームトロフィー・リーグに通用する器である。

 それに比べるとサクラサニーオーは一枚も二枚も格が落ちると言わざるを得ない。

 

 しかし何が起きるのか分からないのがレースである。

 紛れを起こさないのがシンボリルドルフの戦法ではあるが、それでもギャロップダイナの例がある。

 彼女は実力の不足分を、運で補った。レースの流れが彼女に味方した。

 勝負は最後まで諦めるな。勝機がなければ、自分で作るのがシンゲキ流だ。

 サクラバクシンオーを助手にエールを送らせる。

 

 バクシン、バクシン! という声と共に最後の直線に向けて、サクラ一門が速度を上げる。

 そこにサクラロータリーの姿はなかった。

 

 

「ったりぃ……」

 

 トラックコースの脇でタオルで汗を拭き取る鹿毛色のウマ娘、その名はサクラロータリー。

 彼女はサクラを冠するウマ娘の一人ではあったが、チームハマルに所属するウマ娘ではなかった。

 

 何時でも何処でも全力疾走なんて今時古い。

 必要最低限の労力で最大限の効率を、レースだって本気を出す必要はない。

 大差で勝っても同じ1勝、それなら僅差で勝った方が遥かに良い。

 

 何処まで行っても効率志向にある彼女は、トレーニングが嫌いだった。

 身体を痛めつけることに意味はない。身体を鍛え上げる事ができれば、どれだけ楽しくやっても構わないのだ。走らないと体力が付かないので走るけども、それは勝つ為に必要なことだからやっているだけの話である。短い時間で効率的なトレーニング、それと並行して、何時でも何処でも出来るトレーニング。常在戦場の心持ちで、日常の全てをレースに繋げるバカを彼女は知っていた。

 それは意外にも古風なウマ娘であり、彼女が唯一、慕っているウマ娘でもある。

 

 近頃、トレーニングに付き合ってくれないので不服気味。

 

「でも、調子は上がって来ている。これなら朝日杯も狙えたと思うんだがな?」

 

 パリッとしたスーツを着た女性がストップウォッチを片手に語り掛ける。

 彼女は私が所属するチームアルビレオのトレーナーだ。チームアルビレオは、ドリームトロフィー・リーグに出走するウマ娘を4名も輩出した実績を持つ伝説的なトレーナーが立ち上げたチームだ。内3名は既に引退してしまっているが、トウショウボーイは未だにドリームトロフィー・リーグで戦い続けている。

 しかし彼女は、トレセン学園に所属する多くのトレーナーがそうであるように、少数のウマ娘を担当とするタイプのトレーナーであった。

 そして今のトゥインクル・シリーズで彼女が担当するウマ娘はサクラロータリー、一人だけだった。

 

 その目利きに見合う実力をサクラロータリーは示した。

 デビュー戦では、4分の3バ身差。続く、りんどう賞ではメリービューティー相手にアタマ差。府中ジュニアSではレコードタイムのアタマ差。彼女は実力を出し惜しみしている訳じゃない、必要じゃないから出さないだけなのだ。それが必要とされるのであれば、レコードタイムだって出してやる絶対の自信がサクラロータリーにはあった。

 彼女は確かに練習嫌いだ。しかし彼女が好まないのは根性や気合に頼った特訓であり、最先端の効率的なトレーニングはむしろ望むところだ。

 

 それ故に効率だけを追い求める彼女は、りんどう賞で下したメリービューティーが本命とされる朝日杯FSに価値を見出せない。

 

「クラシック3冠を視野に入れるんなら少しでも長い距離に慣れる必要があんだよ。ホープフルと皐月賞は同じ中山で同じ距離だ。府中とりんどう賞で東京レース場の練習もできた。後は菊花賞だが、あんまり先を見据えすぎるのも効率がよくねえ。とりあえず私の目標はクラシック3冠だ。来年、ルドルフが日本に居ないのが残念で仕方ねぇよ。月見里さん」

 

 チームアルビレオのトレーナー、月見里(やまなし)夜見子(よみこ)は笑みを深める。

 

「ホクトヘリオスは重賞二連勝中だが?」

「あいつはどう見てもマイラーじゃねえか、私の敵じゃねえよ。皐月賞でかち合うかも知れねえが、NHKマイルCの方面に進むだろうしな。マティリアルとも戦ったが、あいつも問題ねえ。2000メートル以上の距離では結果を出せねえよ」

「サクラスターオーもいる。精々、足元を掬われるなよ」

「わぁってるよ。今んとこ私の対抗になり得るのは、そいつだけだしな」

 

 それでも負けるとは思わない。サクラロータリーは不敵に笑って、宣言する。

 

「あのシンザンを抜かした皇帝様の記録、私が更に塗り替えてやるよ」

 

 楽しみにしときな、と彼女が言えば、期待しているよ、と月見里は微笑み返す。

 今年、中央でデビューしたウマ娘の中では、彼女が最も高い実力を持っていることは誰の目から見ても明らかであった。

 惜しむらくは、地方のウマ娘と来年デビュー予定のウマ娘が、そこに含まれていない事である。

 

 そして、星の名を持つウマ娘も今はまだ、その本領を発揮していなかった。




次回はニシノライデン。
マティリアル、メリービューティー、ゴールドシチー。
辺りにも触れるかも知れません。

▼個人
トレーナー:久瀬(くぜ)智子(ともこ)
担当ウマ娘:
 ステートジャガー:オープン級(シニア1年目)

▼チームハマル
トレーナー:日高(ひだか)あぶみ(サクラシンゲキ)
応援隊長:サクラバクシンオー
所属ウマ娘:
 サクラショウリ:ドリームトロフィー・リーグ所属
 サクラガイセン:オープン級(シニア2年目)
 サクラユタカオー:オープン級(クラシック)
 サクラサニーオー:オープン級(クラシック)
 サクラスターオー:1勝級(ジュニアB組)
 サクラチヨノオー:デビュー前(ジュニアA組)

▼チームアルビレオ
トレーナー:月見里(やまなし)夜見子(よみこ)
所属ウマ娘:
 トウショウボーイ:ドリームトロフィー・リーグ所属
 サクラロータリー:オープン級(ジュニアB組)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。