「さぁ、1on1トーナメントもいよいよクライマックス!頂点を奪い合う最後の戦いの、火蓋が切って落とされようとしています!」
歓声が上がる。
「ぶつかるのはこの二人!次世代の天才ホリダー、ロット!」
黄色い歓声や拍手が上がる。
「そして、彗星の如く現れた新星ホリダー、アラモ!」
野太い歓声や拍手が上がる。互いの主なファン層が分かる結果となった。
「我々はついに、歴史的瞬間を目の当たりにするのか!?本気と本気がぶつかり合う最終決戦!今、開幕ですっ!!!」
ロットのガウス(ライデン)が、モリチャのケイラム(ディノス)が、火花を散らして衝突する。その光景を、ウチはカセキアムが一望できるホテルの屋上から眺めていた。
「近くで見てあげねぇのか?」
聞き慣れた声が後ろから聞こえてくる。パールだ。なぜウチがここにいる事が分かった……。
「……人が多いとこ好きじゃない的なやつ」
「まあ、無理にあの観衆に紛れて来いとは言わねぇよ。飲むか?」
差し出してきたのは、スポーツドリンクだった。気が効くぅ。ウチはパールに礼を言って、二人で柵にもたれかかる。
「控室は人少なかったぞ?」
「あぁ、そうかもね」
「それでもここが良いのか?」
「うん、まあ」
「そっか……」
目線の先で、ガウスの起こした雷雲が放電を始めた。ケイラムは背を低くしてガウスに突っ込んでいく。落雷に当たる確率を減らし、ガウスの懐に飛び込む作戦だ。
「ロットもモリチャも強ぇな」
「上↑に同じ」
「小説でしか伝わらない表現じゃねぇか」
「ひひっ」
「話を戻すが、ロットは昔からあんな感じでカセキバトルが強かった。親からもらったブラキオンを大事に育成して、何度もバトルした。俺はそんなロットの背中をずっと見てた」
「どうした急に」
「まあ、聞いてくれや。ロットは大企業の息子として、与えられた全ての資源をカセキバトルに注ぎ込んだ。資金も時間も全部だ。そんな恵まれたアイツが、俺は心底羨ましかったんだ」
劣等感か。兄に対する……いや、兄か?親友なのかもしれない。そもそもウチは、ロットとパールの関係性をまだちゃんと把握してなかったな。いや、別に関係性オタクとかそーゆーのじゃなくって。
「二人は……兄弟みたいだけど実際そうなの?」
「兄弟だな。俺は養子だが」
「ふぅん……………………え?」
「俺とロットは親が違う。離婚とか隠し子とかじゃなくて、俺は完全によその子なんだ」
「なんか、嫌な事聞いちゃった気がする。ごめん」
「寧ろ、これを話しに来たんだ。謝らなくてもいいぜ」
容器の半分くらいのコーラを一気飲みしたパールは、話を続けた。
「俺の両親は、ろくでなしだった。結婚・出産の理由は遊びの延長。養育費はいつかのギャンブルで大当たりした時の金。最初はお互い子育てを興味本位で楽しんでたみたいだが、想像を絶する苦難の連続に、しばらくして母親が折れた。父親は元々子育てにはほとんど関与しない奴で、頭の中は酒とタバコとギャンブルしか無かったと思う。母親もどっか遊び歩いてて、一人で放置される事が増えた。ただ不幸中の幸いだったのは、母方の祖母が同居していた事だ。祖母は優しくて、まだ幼かった俺に色々教えてくれた。飯も作ってくれた。おばあちゃんの飯が、俺の数少ない癒しだったんだ」
「おばあちゃん」って呼んでたのかな。かわいい。
「でも、俺が小4の時、おばあちゃんが亡くなった。当然あのバカ親二人が面倒なんて見てくれるはずもなくて、俺はおばあちゃんから教わった家事の全てを一人でこなしていた。だんだんその生活に嫌気が刺して、俺はその頃から一緒によく遊んでたロットの家に世話になるようになった。しばらくして、学校から帰ってきた時、家には警察がうようよいた。バカ親二人がやべーもんに手ェ出して捕まったらしい。頼れる親戚もいない俺はそのまま孤児院に引き取られる手筈だった。そこで現れたのがロットの両親だ。俺の内情を聞きつけ、俺を養子に迎え入れた。ある程度大きくなった子どもが一人増えたくらい問題ない、と。ほんとすげぇ両親だなって思った。ロットの家に帰ると、いつも美味い飯が食えた。忙しい中で家事をする必要も無くなった。ロットもその両親も、俺を温かく迎え入れてくれたんだ」
ええ話やなぁと聞いていたが、パールの表情はまだ曇ったままだ。それが気になって耳を傾けていると……。
「幸せだった。でもすぐに気付いた。ロットも両親も、『幸せな家族を演じてる』って事に」
「……!?」
「喧嘩や争いも起きない。互いが互いに譲り合い、決して我儘を主張しない。ロットはいつも敬語口調だが、それは両親の影響だ。あの家族は、家の中でさえも、敬語で接するんだ。客観的に見れば恵まれた幸せな家庭だった。でも、それは決して『楽な生活』じゃない。両親がそれぞれ一人になった時に見せる疲れ切った表情が、頭から離れなかった。自由気ままに生きてたバカ親二人を見てきた俺にとって、その家庭は余計異質に感じた。ある日俺は思い切って、ロットの母親にそれを打ち明けたんだ。そしたら、何て返ってきたと思う?」
「…………家族の幸せのため」
「そう。家族が幸せになるなら、というたったそれだけのために、両親二人とも身を粉にして演じるんだ。自分の幸せなんか微塵も考えてない。身の毛もよだつほど献身的で、ある意味独善的だった。ロットはそんな両親の事を理解していて、それでも合わせるように接してた。俺からすれば、バカ親二人とこの親二人。どっちが本当に幸せな家庭だったかなんて分かりゃしねぇ」
「………………」
「まあでも、一つ言える事がある。多少無理してても、家族という関係が続かなきゃ意味が無いって事だ。無理をし過ぎたらそれはそれで崩れる。だから、上手いこと調整していかなきゃいけない。調整を忘れた奴には、意地でもその必要性を分からせてやらないといつまで経っても気付かない。家族は自由であるべきか完璧であるべきか。いや、違う。崩れない事が家族のあるべき姿なんだ。と、俺個人の意見を喋ったわけだが……」
「………………………………」
「銀髪……いや、ユミレ。その涙は、家族の前まで取っとけよ」
差し出されたハンカチで溢れる滴を拭き取る。家族の幸せのためと無理をしてきたのは、ウチの両親も姉も同じだ。ウチはそんな必死で頑張ってた家族とまともに話もせず、背を向けてしまった。まだ何も知らない弟を一人残して。今更ながら、自らの犯した怠慢の罪に苛まれる事となった。忙しない中でも一歩ずつ進んでいく毎日で、ふと考えないようにしていた家族との確執。研修が終わって帰る頃には、しっかり話し合っておかねば。ウチはしばらくの間、パールと目を合わせる事もなく、深く考え込んでいた。
〜A view of MoLicha〜
「圧倒的な耐久力のガウスに、あらゆる攻撃を回避し続けるケイラム!両者一歩も譲らない!これが、これこそが頂上決戦だッ!!!」
回避し続けてるというより、遠方への攻撃なら相手の懐に潜り込み、近接攻撃であれば距離を取るというただそれだけを繰り返しているに過ぎない。実際掠ったダメージだけでもこれまでの対戦相手とは比べ物にならないくらい痛い。遠方攻撃で生まれる隙を狙って威力の高い攻撃を当て続けたが、それでもガウスが倒れる気配は無い。まさに耐久力の頂点に立つ存在だ。こちらの消耗が先か、向こうが倒れるのが先か。長期戦に持ち込まれた……。
「……見せるよ、ケイラム」
「来ますか!」
皆に秘密にしていた、ケイラムの真の姿を見せる時だ。準決勝の際にケイラムから一瞬感じた破壊的なエネルギーを後に分析してみたところ、ケイラムが特殊個体である事が判明した。しかし、星座や花といった特定のモチーフがあるわけではなく、ステータスや外見に多少の違いが現れる。パークの人達は「変異個体」と呼ぶそうだ。
ケイラムが変身を遂げる。光の中から出現したのは、元のケイラムとは似ても似つかぬ姿。水辺に棲む鳥のような嘴に、腕に生えた飾り羽。背中は隆起し、全体的に頑強な体つきをしている。スピードよりもパワーに特化している理由がよく分かる。これがケイラムの「トゥルーフォーム」だ。
「これは……予想以上ですね。不思議な形をしている」
「元の恐竜の特徴に近いかもしれないんだってさ」
「なるほど。ますます楽しくなってきました!!」
ロットの興奮に呼応するように、ガウスが吼える。ケイラムが身構えた瞬間、ガウスが地面に前足を勢いよく叩きつけ、地面が突如隆起した。ケイラムは高く突き飛ばされつつも、体勢を立て直し、隆起した山を下ってガウスに突っ込んでいく。
「ケイラム、随分とKP溜めてますよね」
「……まさか!?」
「本気なので使わせてもらいます!!」
ガウスが光を纏って咆哮を上げると、ケイラムとガウスの両者のKPが平均化された。「力のてんびん」だ。
「相手の大技を防ぐと共に、こちらの必殺の準備を整える。これがガウスの戦法です!ぶちかまして下さいッ!!!」
ガウスは発電によって生じた電流を頭部に集中させる。ケイラムはなおもガウスに向かい続けている。ケイラムのスピードからすると、この距離で回避するのは至難の技だ。
「『ライデンボルト』が来るッ!!!」
実況が叫んだその時、ガウスの口からビームが発射される。ビームは隆起した山を貫通し、頂上より下三分の一を吹き飛ばした。
「これは決まったかぁ!?」
土煙の中、蠢く姿は無い。でも、感じる。まだ、ケイラムとのパスは繋がっている────!!!
崩れかけた山の斜面を勢いよく蹴り出し、土煙の中からケイラムが現れた。
「なっ、あの攻撃を躱したんですかっ!?」
「違うよ、ロット。ガウスが外したの」
「外した……『いかり』!?変身前に仕掛けてたという事ですか……!!」
そう。変身前にガウスの懐に忍び込んで当てた攻撃は、手数を簡略化しているが状態異常「いかり」を付与するチーム技だ。ダメージが無い事をガウスの異常な耐久力で、「いかり」を常に冷静さを失わないガウスの性格で誤魔化したのだ。そして、変身後に一度技をまともに食らって、体力をギリギリまで削った。ここからは賭けだ。ガウスの「ライデンボルト」が「いかり」の効果で外れれば、その隙に、ケイラム固有の攻撃力にラストパワーを加えた最強の攻撃を放てる────!!!
「とどめだァァァァァァァ!!!!!!」
ケイラムは空中で回転をかけ、鋭利な斬撃を纏った旋風を巻き起こす。至近距離にいたガウスの身体を無数の斬撃が襲い掛かった。
「ガウスの個性を利用してケイラムの大技が決まったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ガウス倒れた!!!起き上がらない!!!これは決着だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!勝者!!!アラm……え?あっ、はい!モリチャ選手です!!!!!!」
観客席からは割れるような拍手喝采と歓声が飛び交った。アタシは、生まれて初めてカセキホリダー大会の歴史に名を刻んだ。この中には居ないんだろうけど、アタシの活躍を一番見てほしい銀髪の不良少女は、どこかでこの栄光を見てくれているはずだ。
「参りました。モリチャさん」
「こっちこそ、楽しかったよ!ロット!」
ロットと熱い握手を交わした。汗を流した。頑張ったケイラムにご褒美のキスをした。夢のような時間。夢のような日々。でもアタシの冒険はまだここからだ。次のステップに、アタシはロットと、パールと、そして親愛なるユミレと踏み出す。それぞれ見ているものは違っても、歩む道が違っても、アタシ達は永遠のライバルだから!!!
〜〜A view of Humile〜〜
「うおおおおおおおスッゲェ!!!ロットだけじゃなくて俺らも完全に騙された!!!」
「………………」
モリチャが勝った。遠くからでも分かった。歓声の中から、モリチャがウチの名前を呼ぶ声が聞こえた気がして、溜め込んだ涙も消えてしまった。
「そこでニヤニヤしてねぇで、直接祝いに言ってやろうぜッ!!!」
「に、ニヤニヤって……もっとマシなワードチョイス無かったんかいっ!!」
駆け出していくパールはウチの言葉なんか聞いちゃいない。でも、今はモリチャに会いたい。会って一緒に喜びたい。目標に向かって本気で頑張る中、本気をなかなか受け入れられなかったウチの事も信じてくれた、大好きな親友。そんな彼女の元へ、ウチは力強く一歩を踏み出した。
次回、Ep. 11「帰る場所」