白銀の竜が蔭に咲く   作:ドリベンタス

12 / 12
連投。最終話です。花竜園の方々、口調とかミスってたらすみません。


Ep. 12「ユミレ」

 

 

 

 花竜園内に併設されているカフェの席で、面接が始まった。つなぎを着た管理人とふわふわ衣装を着た受付を前に、少し緊張気味だ。というか緊張ヤバい。トイレ行っとけば良かった。

 

「君がユミレちゃんだね」

「よ、よろしくです。えーっと……く……くぶ……」

「クヴィチェナ」

「くゔぇ……クヴィち……か、管理人さん」

「うん、もうそれで良いよ……」

「最初は不良さんがカチ込みに来たかと思いました〜 」

「それは言わなくて良いから。電話で話は伺ってるよ。あっ、履歴書受け取るね」

「お写真かわいいですね〜 」

「これ、か、かわいいですか?」

「お写真の話は後にしようか。ユミレちゃんの志望動機は確か……」

「はい。しか、資格もあって、その……えーっと、お花リバイバーと接する経験もあって、それで……」

 

 落ち着け。就職面接は相手に「採用したい」と思わせる言動が重要になる。嘘偽りのない話で、かつ相手の同情を誘う。

 

「……姉の療養も兼ねて、ここでの住み込み就職を希望しています」

「先程お会いしたよ。レアケースだからうちでどこまで快復するかは断言出来ないけど、療養施設として花竜園を利用する事は承認できる。ただ……」

 

 管理人の顔は依然として変わらない明るさを保つが、言葉にはそれなりの責任を感じる重みがあった。

 

「うちには介護士や専門のセラピストが居ないから、宿舎を利用するなら別で雇わなきゃいけなくて、その場合は自己負担にならざるを得ないと思うんだけど……」

「その件については」

 

 一枚の紙を取り出す。

 

「ウチがやります」

「すご〜い お勉強頑張ったんですね〜 」

「総合セラピスト……人とリバイバーの相互関係にも対応してる……」

「取った資格は全て履歴書に書いてあります。宿舎と正規の給料があれば大丈夫です。精一杯働くのでよろしくお願いします」

 

 最後早口になったが、ウチが研修で得た経験を最大限活用出来る機会として受け取ってもらえたはずだ。

 

「なら、問題無さそうだね。それじゃ、準備出来たら早速よろしく!」

「……あ、ありがとうございます!……………え?」

「人手不足なんです〜 」

「あっ!それ大事な書類だから!持ってっちゃダメ〜!」

「いらっしゃいませ〜 お客様何名様ですか〜 おタバコは吸われますか〜 」

「ヨハンナさん!?うちファミレスじゃないですよ!?」

「あら〜リリアちゃんじゃな〜い そっちにいる新人さんにお仕事教えてあげてね〜 」

「了解です!というわけで、お久しぶりですね!ユミレさん!改めて、ようこそ花竜園へ!」

「……………………はい、よろしくお願いします」

 

 前途多難な新人研修が始まった。

 

 

〜〜

 

 

 

 

 リリアから、職場のひと通りの説明を受けた。最後の物置では、奥に放置されていた原付に目が止まる。

 

「原付あるんですね」

「ええ、誰も運転出来ないので埃被ってますけど」

「誰も使わないならウチが使っても大丈夫系ですか?」

「原付運転出来るんですかっ!?」

「まあ、免許ありますし」

「じゃあ、お願いします!営業とか以前より楽になりそうです!」

 

 見たところ、充電可能な電気式原付のようだ。これなら施設の電気をちょいとお借りして走らせる事が出来る。施設のコードを探しに物置を出ようとすると、リリアが話しかけてきた。

 

「ユミレさんは、お姉さんのために花竜園に入ったんですか?」

「えっ?……ま、まあ」

「お姉さんが無事に快復したら、その後はどうするんですか?」

「それは………………もう少しここに居ます。グレイの安全確保のためってのもそうだし、ウチはまだ色々経験しないといけないので」

「ユミレさん自身はどうしたいんですか?」

「えっ、いや、だから色々経験しないと」

「『〜しないといけない』じゃなくて、『〜したい』という気持ちは無いんですか?」

「……………………」

 

 ウチは、何がしたいのだろうか。今はただ、姉の笑顔を取り戻したい。でも、もしそれが叶ったら、その後は?ウチがここで働く理由は潰えてしまうのだろうか?

 

「すみません。少しキツい質問攻めになってしまいました。私が今ここで聞いた事は全部忘れて下さい」

「あっ……いえ、大丈夫です…………」

 

 忘れる事なんて出来なかった。その日は帰宅して飯食って風呂入って寝るまでずっと頭から離れなかった。

 

「それじゃ、おやすみ。ねェちゃん」

 

 マキをベッドに寝かしつけて、ウチも就寝体制に入る。花竜園でも宿舎でも、やる事は山ほどある。考えたい事はあっても、気を抜いてはいられない。明日は8:30に集合して───────。

 

 

 

 

 

 

〜3ヶ月後〜

 

 

 

 

 

「あの、ユミレさん?」

「………………」

「ユミレさん?大丈夫ですか?」

「えっ!?あっ……だ、大丈夫…………」

 

 ヤバい。意識飛んでた。どれくらい意識飛んでた?いつも通り朝はマキを花竜園に連れていって、ちゃんと出勤して、原付で隣町まで行って、帰ってきたらコメットちゃんライブのための舞台装置のセッティングをして…………

 

「今日は休まれた方が……」

 

 シオリの発言で我に返る。

 

「た、たぶん大丈夫です。がんっ、がんばるぞいっ!あははは」

「ユミレさん………………」

 

 ───────もうダメかもしれない。シオリに休憩に入る事を伝えてその場を離れた。こんなんで本当にマキを救えるのだろうか。最近は少しずつご飯を自分で食べれるようになったが、表情の変化はまだ無い。まだウチが折れるわけにはいかないのだが、先が見えない不安はウチの中で日に日に膨張していった。グレイがウチの元に駆け寄ってきた。そういえば、グレイは他のリバイバー達とうまくやっているだろうか?生来のデバフ効果が仇になっていないだろうか?心配事は雪のように降り積もり、重くのしかかっていく。正直、疲れた。

 

「はぁ…………」

 

 大きな溜息が休憩室に響き渡る。眠い。最近睡眠時間削ったのが災いしてるかもしれない。どうしよう……ウチが休むわけにはいかないのに…………。

 

「わっ、潰れてる。お茶飲む?」

 

 誰か入ってきた。顔を見なくても、声と台詞から誰か当てられるようにはなっている。

 

「千枝さん……まだ大丈夫…………です」

「その『です』は『death』の方?」

「サドンデス……いや、左様です…………間違えた。そんな事ないです」

「だいぶお疲れだね……熱は無さそうだし、精神的なものかな。ハニージンジャーティー入れるから、おいで」

 

 そういえば喉渇いてたな。「お言葉に甘えます」と伝えて、カフェテリアに足を運んだ。

 

「お待たせ」

 

 そう言って、テーブルにハニージンジャーティーが運ばれてきた。いただきます、と伝えてから口に運んでいく。豊かな香りと温もりが喉から全身に広がっていくような感覚がした。

 

「あと、こちらは特別サービス」

 

 向かいの席に人影を感じた。顔を上げると、そこには車椅子に座るマキがいた。

 

「え、ねェちゃんっ!?」

 

 疲れている所は見せられない。慌てて体勢を整えようとすると、マキは膝掛けの下から無言でスマホを取り出した。そうか。ごはんが食べられる程動けるなら、スマホに文字を打つ事も出来るのか。何を打ってるのか確かめたくて席を立とうとしたその時、ウチのスマホに通知があった。マキからのSNSメッセージが入っていた。実に約一年三ヶ月越しの通知だった。

 

[ユミレ]

 

 文字入力はゆっくりだった。でもそれは、マキが一生懸命気持ちを込めて、言葉を紡いでいる事に他ならなかった。

 

[今まで、迷惑かけてごめんね]

[それから、おかえり]

[ユミレが無事に帰ってきてくれて、ほんとに嬉しかった]

 

「違う…………迷惑かけたのは、あの日勝手に家出したウチで…………」

 

[ううん。あの日ユミレが言ってた通り、私無理してたみたい]

[動きたくても、気持ちを伝えたくても、なかなか動けなくて]

[でも、ユミレはちゃんと面倒見てくれた]

[色んな資格取っててびっくりしちゃった]

 

「ねェちゃん…………」

 

[研修でいっぱい頑張ったんだね]

[色んなこと経験して、色んな人と出会って、強くなったんだね]

 

 ウチの脳裏に、家出をしたあの日から今までの記憶が鮮明に蘇る。モリチャと研修に参加して、新しい友達が出来て、カセキを掘って、グレイと出会って、初めてのバトルで負けて、塞ぎ込んで、モリチャと喧嘩して、捻くれて、自分を見つめ直して、モリチャを助けて、仲直りして、友達に励まされて、優勝したモリチャをお祝いして、資格を取って、モリチャ達や先生に別れを告げて、姉の変化にショックを受けて、持てるもの全て使って姉のために頑張って─────。

 

「……………………くっ…………ううっ…………」

 

[ほんとによく頑張ったね]

 

「うっ………………うああ……………………」

 

 早くも次のメッセージが来た。だが、視界がぼやけてよく見えない。鼻水を啜る音も思わず漏らした声も、今のウチには聞こえない。

 

[ユミレが一生懸命頑張ってくれたから、だいぶ動けるようになったよ]

[グレイちゃんも良い子だね。私が早く治さなきゃって焦ってた時は落ち着かせてくれた]

[だから、もう大丈夫だよ]

 

「ううっ………………ねェちゃん……………………!」

 

[ユミレは、自分で見つけた『ユミレらしさ』を貫けば良いんだよ]

[顔、上げて]

 

 メッセージの指示通り、ゆっくりと顔を上げた。溢れ出した涙が頬を伝う。垂れ下がった銀の前髪の隙間から、

 

 

 

 

 

 

 

はっきりと、

 

 

 

 

 

 

 

マキの静かに微笑む顔が見えた。

 

 

「ユミレ……………ありがと…………………!」

「ねェちゃんっ!!ねェちゃんっ!!!」

 

 持っていたスマホは落としてしまった。ウチが席を立ったのを見計らって、千枝は車椅子の向きを変えてくれた。ウチはそのままマキに抱きついた。マキは、子どもみたいに泣き叫ぶウチを優しく抱き返してくれた。そして、ウチは思い出した。研修から帰ってきたら、たとえどんなに怒られても、どんなに呆れられても。研修で得たたくさんの思い出を、一番に、マキに語りたかった事を。ウチが皆のおかげで、「自分らしさ」を見つけて強くなった事を。擦り減る程じゃなくて良い。自分の信念のために本気になれればそれで良い。マキは、必死に頑張るウチではなく、「ウチらしく」いるウチを認めてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏が来た。花竜園は夏休みイベントで連日大盛り上がり。スタッフ全員(?)が汗水垂らして、今日も彩り豊かな華を咲かせていく。

 

 そんな中、ウチは施設の裏口付近でスマホを弄っていた。モリチャからのメッセージを確認していると、どこかから迷い込んできたのか、男の子が近寄ってきた。

 

「おねえちゃん、サボってるの?」

 

 なんて生意気なガキだ。だが、気になった事を躊躇いなく他人に尋ねる事が出来たその度胸は認めようか。

 

「まあ、サボる事も時には必要なんだよ」

「でも、パパもママもいつもがんばってはたらいてるよ?」

「頑張ってるだけだと疲れちゃうからねぇ。パパとママだって、仕事お休みの日はアンタと遊んでくれるでしょ?」

「うん!きょうもそれできたよっ!」

「でしょ?『頑張ったら休む』、これは全人類の必修科目」

「ひっしゅうかもくってなに?」

「忘れちゃいけない事」

「ふぅ〜ん」

 

 その時、裏口の方からユミレを呼ぶ声が聞こえた。どうやらヘルプが必要らしい。顔を上げると、遠くから夫婦が近づいて来るのを確認した。

 

「おねえちゃん、『ユミレ』ってゆーの?」

「そだけど」

「じゃあ、『ひっしゅうかもく』がんばってね!ユミレおねえちゃんっ!」

「うん。アンタもね」

 

 男の子は両親の元へ元気良く駆け抜けていった。ガキもたまには良いこと言うじゃん。「ユミレおねえちゃん」は、ニヤニヤしてる事に気付くこともなく、裏口の扉を開けて灰色の空間へ戻る。彩り豊かなたくさんの思い出で飾られた、ユミレだけの灰色≪グレイ≫へ───────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございました。皆様の感想ツイのおかげで何とか完走しました。

次書くなら、残すはあと楽器篇ですかね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。